作品タイトル不明
486話:冬に向けて1
冬を前にレーヴァンが現れ、学園のほうでも冬を見越して準備が始まってた。
冬の行事、マーケットだ。
「去年けっこう普通にできた。だから今年は準備早めにやって、少しくらい錬金術科をアピールしたい」
教員室でそう言ったヴラディル先生は、僕に欠席の間の課題を渡しながら話す。
「で、アズはハリオラータ関係で呼び出し決定してるから、全体の取りまとめをやってくれ」
「それ、逆に時間必要になりません?」
つまるところマネジメントじゃない?
そしてハリオラータ関係での呼び出しは、役人たちの対応という形だ。
非公式だけど、ソティリオスと一緒に最初の襲撃を受けてる。
そして魔法学科の研究棟での事件、さらに収穫祭でのカティの暴走。
アズとして三回もハリオラータと直接顔を合わせてる学生なんて僕だけだった。
「監督役はキリルに頼んだ。だからその補佐だな。あまり負担にならないように配慮はするだろうし、役人相手だからお前も必要な時には抜けてくれ」
「僕としては普通にマーケットの準備みんなとやりたいですよ」
本心から言ったら苦笑いされた。
うん、役人の貴族相手に一介の教師が何か言えるわけないもんね。
表向きはハリオラータから三回も襲撃されて生き延びて、実物を知ってるから聞き取りがしたいって話になってる。
その上で、各部署ごとに実際のところ聞きたいってことでたらい回しにされることが決定してるって言うのが、ヴラディル先生が受け取ってるはずの情報だ。
ハリオラータの幹部捕縛はそれだけ大変なことだから、学園側も協力する学生には配慮をと王城からお達しが出てるんだとか。
(あくまで表向きだけどね)
(実体は主人のほうが指示を出す側になります)
セフィラに言われなくてもわかってるよ。
なんというか、ハリオラータの幹部が大人しくして終わりじゃなかったんだよ。
僕、というかセフィラの質問答えてるんだけど、それがとんでもなく学術的価値あるってことで学者たちが我も我もと質問したいって集まってるんだ。
けどハリオラータは僕以外にはまともに受け答えしないんだとか。
そのせいでルキウサリア側から緩衝材扱いで呼び出されてる。
けっこう勝手を通した分、僕も断りにくい。
ここでルキウサリア側から父に告げ口でもされたらもっと怒られるし心配される。
あと、僕なしで対処してもらうために、今の内にハリオラータにも慣れてもらわないといけないし。
緩衝材は必要なんだよね。
「あ、そうだ。イールとニール覚えてるか? あいつらが、アズに教えられたハリオラータの術式について確認したいことがあるとか言ってたんだが」
「時間ないですって。そこは本人たち捕まえてるじゃないですか」
「それが学園より王城の学者、貴族で伝手のある学者が優先でな」
どうやら平民のユキヒョウ先生たちは近づけずにいるらしい。
けど僕も今受け取った課題を振って余裕がないことを示すと、ヴラディル先生もそれはわかってて頷いた。
「だよな。じゃ、あいつらには下手に邪魔しないよう言っとく。ウィーの奴も学生の邪魔するなって止めてたし」
「学生思いで助かります」
「いやぁ、あいつの場合学生に魔法どうこうよりも、錬金術やらせて錬金術の成果を残させたいだけだろ」
うーん、否定できない。
だってそれ、僕の方針だし。
「ま、ともかく準備はもう始めてる。詳しいことはキリルに聞いてくれ。あと、ロクンが必要な物品の調達を担ってるんだが、ネクロン先生巻き込もうとして失敗したらしくてな。ウィレンがアズはもっと上手くやってたと漏らしてたせいで、話を聞きたいそうだ」
「…………貴族方と話してる時も、あれもこれもって最初の話から要望が増えて行くんですよねぇ」
「あー、悪い。こっちも試験や入試の準備で手が回らなくてな。もちろんアズの任意でさばいてくれ」
先生には先生の都合があるから、色々学生で済ませておいてくれって話になる。
僕に持ちかけられる話は、僕のほうで処理するしかないようだ。
少なくとも、勉強が遅れないように、僕のために課題作って出してくれてるしね。
「お気遣いありがとうございます」
そう言って僕は教員室を後にした。
もう面倒だから、その足でキリル先輩を尋ねて就活生の教室へ向かう。
「失礼します、キリル先輩はいますか? あ、ロクン先輩はご自分でどうぞ」
僕の姿に立ち上がった羽毛竜人の先輩には、片手を突き出してお断りする。
「くそー、すでにヴィー先生から何か言われたな?」
「ハリオラータのことで巻き込まれた結果、アズ一人で役人の対応受け持つことになった、で合ってるか?」
キリル先輩が手招きながら僕の状況を確認した。
「概ね。実は学外でも一度遭遇していたことと、ハリオラータの魔力の性質がわかることで、その辺りも研究材料として目をつけられました」
たらい回しにされるっていう言い訳の根拠にした誤魔化しを重ねると、聞いてエルフのウルフ先輩が頷く。
「そう言えば、イルメがハリオラータの魔力はうるさいって言ってたな。そう言う感じ?」
どうやらイルメも魔力を音で感知するタイプだったらしい。
これは今後、魔法や魔力を音として認識するアルタと比較ができそうだ。
「マーケットに関してキリル先輩の補佐的なことをするように言われました。すでに準備も始まっているそうですが、どうなっているかを確認させてください」
僕が用件を告げると、キリル先輩も察してたようで紙を取り出す。
そこには箇条書きでマーケットに関しての覚書が書かれていた。
「去年好評で、飲食物と投光器はやることが決まってる。だが他にもやりたいというのと、別の学科から展示をしてほしいという要望が来ててな」
「え、要望? そんなことあるんですか?」
驚いたら、ワンダ先輩とトリエラ先輩がぐいぐい来た。
「あなたが設計した舞台の音響について、音楽科からでしてよ。レポート一つでは賄えないとのことです」
「去年も錬金術を説明する展示してたでしょ? あんな風に音響についてやってほしいって言われてるの」
僕がいない内になんか進んでたらしい。
そこにステファノ先輩が絵の具を作ってるらしく、ネッチネッチと音を立てて何かを練りながら会話に入って来る。
「けど去年と同じじゃつまらないしー。新しいことやりたいし、面白いことやりたいしー」
そんなこと言いながら、また新しく投光器で上映する物語を描く気満々のようだ。
キリル先輩もわかってて、うるさそうに手を振って同級生を追い払う。
「また前回のようにできる奴らで割り振って同時進行しようと思う。ただそうなるとやはり去年と似たようなことにもなりそうでな」
「安定して成果が出せるものを放棄する必要もないですし、他学科からの要望というのも無視しないほうがいいでしょう。そう考えると、去年でだいたいの流れはわかっているんですから、一つ新しいものをしてもいいとは思います」
「いや、投光器の絵に使う素材の選び直しを今アズの学年がやってる。飲食についても、去年のままというのもな。トリエラがいる内に挑戦をして損はないだろう」
「そうですね。では今後を考えて、少しずつ刷新して行ける形を作るのはどうでしょう。今年はフィルムの素材だけを変える。飲食に関しては飲料に関してだけ変える。展示は内容が違うのですべて変える必要がありますが、対処は変わりません。そこに一つ必ず新規を交える。この四つをその年の錬金術科の特性で振りわけるたたき台にしては?」
つまり四つのグループでできるように、今回雛形を作るんだ。
最悪三つのグループでもマーケット参加はできる最低限は確保する。
その上で個人の特技に依存してる現状から、少しずつその時々に合わせて調整できるように整える。
「今後、か。確かにそうだな。一昨年までのマーケットのように戻すわけにもいかない」
「まぁ、新規は必ずしも必要ではないですから。そうですね、やりたいという人たちがいるなら、プレゼンさせてみては? その中で一番現実的なものを選んで…………」
「「はい!」」
話してたらワンダ先輩とオレスが手を挙げた。
オレス、なんかずっと黙ってたのに。
まぁ、どっちにしても今は却下だ。
「他の学生にも周知して、募った上でプレゼンしてもらいますから」
「他の…………」
ワンダ先輩が何やら考える様子で呟く。
オレスは勢い削がれてまた黙った。
できればオレスは器用だから絵のほう行ってほしいんだけどな。
そんなことしながら、就活生の教室でキリル先輩と話し合いをした。
大まかに決まったところで、僕は自分の教室に戻る。
けど、教室の前で腕を掴まれた。
「ようやく捕まえたぞ」
「あ…………ソー」
すごい怒ってるソティリオスに。
うん、理由は察して余りあるかなぁ。
「説明してもらおうか?」
「いやぁ、僕にも守秘義務がぁ」
言い訳するけど放してくれないし、気づいて廊下に顔出したクラスメイトも呆れ顔で止めてくれる様子はない。
そのなんか、僕がまたやらかしたんだろうなって目は、やめてほしいなー!