軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49話:環境の変化4

今日は本館こと宮殿の中央棟へ行く日。

去年、妃殿下が軟化というか、そもそも同情的な性格らしいことが発覚。

実家のルカイオス公爵家からは皇帝の妃になるならば冷徹にと圧が定期的にかけられ、また帝位を争う相手である僕から息子を守るべきだとさらに圧があったのだとか。

(周囲をルカイオス公爵の息のかかった者で固められて、僕を一方的に悪者にする情報しか聞かされてなかったのはテリーと同じ、か。双子はまだ幼いからそういうことは言われずに済んでいたんだろうな)

僕に対して見る目がからかった妃殿下だけど、誤魔化しようのない冷遇を見て罪悪感に襲われ滂沱。

しかも僕と会話するごとにそれが増したとか、ちょっと漏れ聞いた。

卵型の蓋つき高坏みたいなのが菓子入れだと知らなかったり、母の姿絵一つも持ってなかったり。

妃殿下が考える最低限の貴族的生活さえしていないと判明するたび、泣かれるのにはちょっと困ってる。

「いらっしゃい、アーシャ。歩いて疲れたでしょう。陛下もすぐにいらっしゃるから、まぁ、あなたたち」

出迎えてくれた妃殿下が言い切る前に、その横を四つになったフェルとワーネルが走り抜ける。

僕は二人が転ばないよう両腕を広げて受け止めた。

「アーシャ兄上、いらっしゃい!」

「アーシャ兄上、今日は何見せてくれる?」

「やぁ、元気そうだね。けれど、せっかく会えたのに怪我をして時間をロスするのは惜しいよ。早く会いたいと思ってくれるなら、僕より先に座って待っていてくれればいい」

「「はーい」」

無邪気に懐いてくれる双子にちょっと涙腺が刺激される。

一度は大泣きさせたのに、キラキラの笑顔で大歓迎してくれるなんて。

聞けば、フェルはあの日吐いて落ち着いたら苦しくないことに気づいて、僕が助けたことは理解してくれたそうだ。

ワーネルもフェルの様子が軽症であることに気づいて、僕の言いつけ守ろうと頑張った。

そのため、この幼く可愛い弟たちの間で僕はヒーロー扱いなのです。

だから月二回の面会を心待ちにしてる僕なのだ。

さらには父と二人きりで会うのも継続してくれている。

それ以外に弟たちが自主的に時折やってくることもあり、本当にこの一年は充実していた。

「僕も錬金術師なるの。けど先生いないから、兄上が先生になってね」

フェルが僕と手を繋いで椅子に向かいながら、上機嫌にそんな嬉しいことを言ってくれる。

錬金術の知識で助けたと知って以来お熱なのだ。

僕もいい気になってエンタメ感覚で色々みせたせいもあるかな?

「火を使うし、フェルがやるにはまだ早いね。それに今から先生は増えていくんだ。まずは趣味から始めたほうがいいと僕は思う」

「僕ね、僕ね! 強くなるの! フェルも兄さまも守れるようになる!」

ワーネルも負けじと元気に小さな手を突きあげた。

こっちはこっちでテリーが剣術をやる姿に感銘を受けたんだとか。

もう片方の僕と繋いだ手まで振って、ワーネルはどうやって戦うかを示し始めた。

椅子に座っても左右から元気に話しかけてくれる。

僕は忙しいけど嬉しく対応をしていた。

すると視線を感じて首を巡らせる。

目を向ければ通されたサロンと次の間を繋ぐ出入り口に、テリーがいた。

「テリー、会えて嬉しいよ。変わりはない?」

「うん、あ、はい。兄上もお変わりなく」

気づいたことでパッと笑顔になってくれるんだけど、すぐにお兄さんぶって言い直す。

六歳で偉いなぁ。

テリーも双子のお手本にならないとね。

僕たち帝室の人間は誰も和やかに笑い合っている。

ただ壁際の侍女や侍従たちが僕の動きを警戒を持って見てることはわかっていた。

さすがに戦場カメラマンの真似もしてないし、ルカイオス公爵側には僕が鈍い皇子だとはもう誤魔化せていない。

馬鹿じゃないとわかったなら、こんな状況で悪いことするはずもないと理解してほしいところだけどね。

それこそ疑心暗鬼を生ずなんだろう。

疑う限りは僕が鬼か悪魔の擬態にでも見えるらしい。

「すまない、遅れたかな?」

「陛下、僕も今着いたところです」

父の入室に立って出迎えると、フェルとワーネルも倣い、テリーも座ったばかりなのに立ち上がる。

妃殿下はごく自然な動作で陛下の座る場所を案内していた。

同時に妃殿下の侍女が乳母車を運んで来る。

そこにはまだ去年生まれたばかりの妹が横たわっていた。

どうやらお昼寝中らしく、丸々した頬の上に閉じた瞼にまつ毛が並んでいるのが良く見える。

父に手招かれ、僕も乳母車の側に寄った。

妹は金髪で、目の色も金だと聞いてる。

下手に部屋から出すとむずがってひきつけを起こすほど気難しいそうで、今日はようやく会えたんだ。

「「はぁ…………」」

父とため息が重なる。

お互い顔を見合わせると、皇帝と呼べないやに下がった顔をしていた。

きっと僕も同じだろうけど。

「かーいいね」

「うん、かーい」

声を潜めて起こさないようにフェルとワーネルも妹を可愛いと言い合う。

テリーは何故か家族相手に人見知りを発症して、距離を取っていた。

僕と双子や父が一緒にいると一歩引いてしまうのは、まだ僕という今まで関わりのなかった存在がいることに慣れないせいだろうか。

「テリーもほら、すぐ大きくなるから今だけだよ」

「うん、知ってる」

そう言いつつも、僕の呼びかけに応じて来る。

そして知ってるのは双子のことだろうな、羨ましいけど微笑ましい気持ちにもなる。

そうして妹を囲んで、男ばかり五人でこそこそ話を続けた。

ただ頃合いを見て、妹は別室でゆっくりお休みに戻る。

子供は寝るのが仕事だから、名残惜しいけどしょうがない。

そして僕たちは家族でお茶会だ。

室内の侍従や宮中警護は室外へだし、側近のおかっぱ一人と給仕の侍女が一人残るだけとなる。

どちらも比較的僕を睨まない人選。

「今日は水を使った実験をやるよ」

「「わーい」」

双子は素直に期待の声を上げ、テリーは大人しいけど表情がワクワクしている。

「これは錬金術で作った水を凍らせる薬。これを、この水に注いで。触らないで中を見て」

「凍ってないよ? 失敗?」

部屋から持ってきた試験管を横から見て、テリーが変化がないことを指摘した。

欲しい言葉を貰い、僕はあえて薄めておいた薬を混ぜた水をお皿の上に注ぐ。

すると凍りかけていたけれど、液体という分子の配列がバラバラ状態だった水は、お皿に落ちる衝撃で分子が並び直し固体に、つまり氷へと落ちる先から変化していく。

「「わぁ!」」

「まぁ、不思議。水を使う魔法使いでもこんなことはできるとは聞いたことがありません」

子供を楽しませる実験だけど、妃殿下も理屈がわかってないから不思議がる。

やっぱり理科知識がないようだ。

「さて、次はコインの上に水を垂らすよ。どうなると思う?」

「零れる」

「ぬれるー」

「水おちる?」

「だが、今までのことを思えばそうはならないんだろうな」

陛下、メタ読みやめてください。

僕は跳ねないよう慎重に棒を伝わせてコインの上に水を置いた。

すると表面張力で盛り上がるギリギリで零れない。

こんな簡単なことでも拍手を受けると手品をしてる気分になる。

これくらいなら錬金術をしてるからって警戒もされない。

「どうして?」

「なんで?」

「わからない」

双子は素直なんだけど、テリーは悔しそうだ。

ただ弟三人に囲まれ悪い気はしない。

もちろん僕もただ無意味に実験してるわけじゃないけどね。

「これは水というものの性質でね。次は勝手に動く水を見せるよ。この器具はガラスの器の中に細く長いガラスのストローが入っていて、器の下に貫通してる。もちろん器に水を入れても、ストローの上に水が届かなければ漏れない。けど、ここにストローを覆うガラスの筒を入れると…………」

水は一気に水かさを減らしてストローの中に吸い込まれて排出される。

内と外の水圧がなんて難しい説明はいらないけど、ゆくゆくはサイフォンの原理からコーヒーメーカーまでこの実験を繋げていくつもりだ。

そうすれば無駄なことしてるって歳費を削られないんじゃないかなと思ってる。