軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

480話:人質志願5

クトルとバッソを他の人が巻き添えにならない所へおびき出した。

お茶してたのは僕が暇だったのと、なんとなく格好つけだ。

あと、釣り出すまでに暇して騒ぐカティに、残ったらお菓子あげるって言ったから。

まぁ、そのお菓子を魔法であっちこっち飛ばして様子見するとは思わなかった。

クトルは僕が人質を取って要求する内容を聞きながら、四人のハリオラータ周辺になんの罠もないことをお菓子を飛ばして確認したんだ。

「…………考えたのはイムか、アルタか?」

「そこのバッソという人もらしいよ」

クトルはすぐに、ことの真相を理解した。

するとバッソが盛大に顔を顰める。

「そんな奴、引き込むとは聞いてないぞ」

「僕は巻き込まれたんだ。ハリオラータ四人を生け捕りにしてしまったからね」

生け捕りはただ殺すよりも難しい。

前世でも害獣への対応で苦慮するニュースは見てた。

周囲の安全確保は大前提だけど、射殺して死体を処理したほうが早い。

何日も罠を設置して移動方向を調べて、なんてしてるだけ時間がかかるし、次の被害が出ることを思えば、残念だけど始末をしたほうが憂いは少ない。

それはこっちの世界でもそうで、さらには銃刀法なんてないし魔法はあるしで、もっと即物的だ。

ルキウサリア側からも、わざわざ生け捕りにした理由があるんだろうなんて邪推されてた。

そんな難しい生け捕りを成功させたけど、もちろん僕の手柄じゃない。

けど偉い人って従う人の功績そのまま吸い上げるのが普通だから、側近がやったことは僕がやったことになる。

あとセフィラは僕の指示にしか従わないから、知ってるみんなの中でも僕がやった認定だ。

本当、前世の倫理観のまま行動しただけで、深い意味なんてなかったんだけどなぁ。

「それに言ったはずだ。僕を殺すことはできないと」

僕はハリオラータの頭目クトルを屈服させるための奥の手を出す。

首直で狙ってきたからね。

席につかせたからには、時間かけるだけ無駄だと悟った。

軽く指を鳴らした瞬間、周囲がほの暗くなる。

雲が出たわけじゃなく、魔法で周辺の光を曲げさせたんだ。

そして現れるのは、光の大樹。

セフィラだ。

(屋敷の外の人たちに見えてない?)

(郊外であるため、防衛目的で築かれた壁は高く、目視できません)

内部に人を排除したのは守りについての理由もあるけど、セフィラを脅しに使うことも視野に入れてたから。

何せハリオラータたちはそれぞれに特殊な魔力や感知の力を持ってる。

だったらもう、見えない誰かを隠すことのほうが難しい。

あと、普通にセフィラっていう実体のない存在がどんなふうに魔力扱ってるか、何処から魔力生み出してるかも正直知りたい。

ハリオラータなら、僕とは違うアプローチできそうなんだよね。

そういうことを聞くんだったら、もう抑止力として見せるほうがいいと思ったんだ。

そんな僕の目論見は当たり、ヨトシペも一緒になってセフィラを見上げて総毛立ってた。

「ふぁー」

「ヨトシペ、警護に集中してください」

ウェアレルが口開きっぱなしのヨトシペに注意してる。

けどそれは心配なさそうだ。

だってハリオラータも六人とも口開けてセフィラ見てるし、僕の存在忘れてる。

「その様子だと、ハリオラータと言っても精霊には詳しくなさそうだね」

「精霊…………」

クトルは呆然としてたけど、僕の言葉を拾って考える様子を見せた。

ただ他のハリオラータが戻ってこない。

見るとなんか様子がおかしくなってた。

「綺麗…………」

「素敵な香り…………」

何故かカティは泣いてるし、マギナは頬を紅潮させてうっとりしてる。

「なんて清廉な音」

「うむ」

アルタは耳が赤いし、イムはちらちら降ってる金色の光を一生懸命手に集めてる。

で、バッソはぼうっとしてるだけだけど、クトルが意識を引き戻した。

「バッソが言葉を失うほどか?」

「言葉もないとはこのことか」

このバッソは、声に魔力を乗せるんだそうだ。

だから言葉にすると魔力が乗って、呪文でなくても何かしらの効果が出るという。

けど、セフィラに対しては何も言えないみたい。

(うーん? これはどういう状態?)

(特殊な五感から受ける刺激により、極度の興奮状態です。イルメに似た反応であると提言)

そこで精霊の声が聞こえるエルフのイルメか。

ってなると、もしかして精霊の声って魔力関係するの?

それとも彼らが魔力関係だと思ってるのが、また別口の能力?

研究されてる割に、魔法って実用一辺倒なんだよね。

個人の体質とか、そもそも魔力って、なんてお金にならない研究はマイナーなんだ。

(というか、五感でセフィラを感じられる人に、何か影響あるが精霊って存在なんじゃ?)

(非該当者が三名ほど)

僕の双子の弟とヒノヒメ先輩か。

けどそこは五感じゃなくて思考なんだよね。

しかも体の実感がないせいか、他人の思考だっていう自覚さえない。

うん、そこはまた今度にしよう。

今は目の前のクトルだ。

いい感じに他は逃げるとか攻撃するとか忘れてるし、そんな状態じゃクトルも動けない。

「さて、取引を受ける気は?」

「あんたの下につけって?」

「いや? 正直君たちみたいな人は知識だけくれればいい。下につくのは迷惑だ。けどそのままだと誰も引き取ってくれない。だから、君には矯正をかけさせてもらう」

クトルは自分だけが危険視されてる理由に眉を上げた。

「僕からすると、君の執着は理解ができない。そもそも矛盾してる。だからそんなになるんだ。だったら、矯正して満たせる条件をつければいい」

「簡単に言ってくれるな」

滲む怒りは、順当だろう。

本人としてもどうしようもないだろうし、今さら言われなくてもってところかな。

「そう、その気があるなら少しは人間性というものはあるんだと認めよう。その上で言わせてもらえば、そもそも君の家族はハリオラータじゃない」

言った途端また顎下で衝撃の余波を感じる。

けどセフィラが防いでるし、二回も失敗してるなら確実に魔法の実力はクトルが劣るんだろう。

「君と同じ血が流れて、同じ環境で育ち、同じ常識で物事を考えられる…………」

上げる度にめっちゃ魔法が飛んでくる。

けっこうな勢いなせいか、もうテーブルは大破してた。

「そんなのこの世に、もう一人しかいないじゃないか」

言った途端、クトルの攻撃が止まる。

「クトル、君自身だ。家族を殺したいなら、自分を殺せ」

「何を言ってる?」

バッソのほうが訝しげに、危機感を孕んで聞いた。

「そもそも二律背反だ。家族が欲しいのに心中したい。だったら、クトルの中にはクトルが二人いる。家族が欲しいほうと、心中したいほう。だったらお互いで殺し合えばいい」

「何を言っている?」

今度は怒った様子のバッソが攻撃してきたけど、僕は無視してクトルに言い聞かせる。

「簡単な精神の抑圧方法だ。君がいる。全く別の願いを持つ君が内側には二人いる。殺せ。もう一人の自分を。ただ手にナイフを持って刺すだけでいい」

「…………なしじゃないな」

けっこうアレなこと言ってるんだけど、クトルがすぐに真剣に呟く。

けど聞く耳持つなら押し通させてもらおう。

「本当に死んだ? その程度で君は死ぬの? 殺されるのだって君だ。本気でやらないと殺せるわけがないでしょ?」

言った途端、空気が軋んだ。

クトルが暴走状態に近いものになった。

けど、魔法として発散されることはない。

自分の内側で、魔力で手押し相撲してるような状態だと思う。

「おい! どうするつもりだ!? 本人がしてるんだから本当は勝負なんてつかないぞ!」

「そうだね、つくなら、利き手が勝つ」

慌てるバッソに僕はじっと様子を見る。

ようはクトルにとって、家族か心中か、どっちに比重があるかで結果は変わるだろう。

ふと、空気がほどけるように、膨らんでいた魔力が掻き消える。

魔法として消費されないけど、そうとうな魔力を失ったはずだ。

けど、カティほど辺りを荒らすようなことはないし、消耗した様子もない。

「…………すごい、静かだ」

呟きは言葉どおり静かで、僕を見るクトルの目には妙な笑いも危うさもない。

憑き物が落ちたっていうのは、こういう時に使う表現なんだろう。

「何をすればいい?」

クトルは自ら、とても従順にそう聞いて来たのだった。