作品タイトル不明
472話:魔法使いの封じ方2
「相手に力押しされると、対策難しいね」
僕は思わずぼやく。
ハリオラータは力押しで、犯罪者ギルドの他もそうだ。
けど他のサイポール組やファーキン組は、国の圧力が効いた。
なのにハリオラータはそれが効かない。
個が強すぎるんだ。
画一的な対処もできない個性の強さも、五感に影響するマギナの体質も厄介だった。
「アズくん、足元気をつけてください」
ウェアレルがあえて注意するのは、僕が学生としているから。
その上で収容施設の階段を、初めて地下に降りるという建前のためだろう。
「すごい数での見張りですね、先生」
「学生の安全を考慮していますから。また操るには人数に上限があるそうです」
地下にも会談にも周りに目を光らせ、威圧感を醸す塀がいる。
学生を守るって言うのも嘘じゃないだろうけど、この威圧感の理由は、言い訳のできない失態の上、外部勢力に助けられたからだろう。
いつかの近衛を思い出すけど、僕は何も知らない学生のふりで頷いておいた。
ちなみにウェアレルが脱走を阻止する際に学園にいた理由は、たまたまということにしてある。
三人で飲みに行く途中、ウェアレルが学園に忘れ物をして取りに行く。
それで異変に気づいて、駆けつけました。
なんて言い訳したけど、匂い対策でなんか疑われたそうだ。
それも学生のアズロスは知らないこと。
「それでは、こちらが臭い攻撃用に作った抽出液です」
僕は施設警備の偉い人の前で、ウェアレルに付き添われて壺を提出。
中身は言ったとおり、激臭のする液体で、以前クトルにかけたやつの元だ。
警備の偉い人は、一度唾を呑んで蓋を開ける。
途端にむわっと広がる便臭。
「う、く…………!? これは、本当に植物からの抽出液なのか?」
「はい、元からそうした臭いを持つ植物から抽出して、さらに匂いを強めるために、低温でじっくりことこと煮詰めました」
「うむ、まぁ、これは効くな」
偉い人の言葉に、居合わせた警備の兵たちも苦渋の顔。
まぁ、なんに使うかと言えば、この人たちの気つけだ。
マギナの魔力に当てられた者には、これを嗅がせて正気に戻す。
「本能的に忌避する臭いだからこそ、理性や感情も一緒くたに刺激するはずです」
「そうだな、そう思う。何よりこれを嗅がなければいけないと周知すれば、少しは理性を強く持つだろう。その上で、本物ではない植物だからな、うん」
偉い人が自分に言い聞かせるように頷く。
他にもいいところは、これ口に入っても全くの無害って点だ。
アンモニア持ってきたら、扱いと保管が大変な危険物だし素手で触れない。
けどこの煮汁なら臭いだけで害はないし、気軽に逃げた時には投げつけられる。
「それと、こちらは抽出に時間と手間がかかるため多くはありませんが。先生方が使ったハッカ油です」
それも匂った偉い人はすごく苦い顔になるくらい、ハッカが苦手らしい。
他の警備の兵からはおおむね好評、壺に比べてだけど。
今回アズロスで来たのはこうして錬金術も役立つよってアピールするため。
まぁ、偉い人にはあまりいい印象はつかなかっただろうけどね。
「それでは、実験を始めよう」
「はい」
偉い人とウェアレルが同伴で、この匂いで対処できるかの実験をする。
僕は製作者として同行が許可された。
学生だけど、ハリオラータ側から警戒されてるってことで、全くの部外者じゃないなんて言い訳でね。
「参考までに、淀みの魔法使いと普通の魔法使いでどう違う?」
「感覚なのでなんとも。強風の日の風は、普段の風とどう違うと聞かれても、強く吹くとしか答えられないようなものです」
偉い人にこう聞かれる可能性はあったから、適当に煙に巻く。
セフィラも僕を基準に多いか少ないか、対処可能か不可能かを考えて言ってるそうだし。
淀みの魔法使いの魔力の流れが独特って言うのも、僕に比べての話だ。
僕は直接マギナが見えない小部屋に入り、囚われたマギナの声だけを聞く。
「あら、始めてきた時に会った方々?」
姿は見えてないはずなのに、早々にばれた。
しまったな、マギナは魔力で人数を識別できるうえに、視認の必要はないんだ。
けど、どうやらウェアレルがいることで、周囲は気にしてない。
マギナと会った時に複数だったことと、僕というか、セフィラが観測されてるなんて知らないし、想像もできないからだろう。
マギナも姿を現さない相手に、そこまで興味を持っているわけではないようだ。
「まぁ、匂い? やだわ、臭い…………。こちらはいい匂いね」
マギナが泣きそうな声で文句を言う。
その上で甘い匂いが強く香った。
慌ててマギナと顔を合わせてる魔法使いが、換気のために風を操る。
そしてハッカ油は好評らしく、偉い人は眉を顰めてた。
無言のまま実験を終えて、僕たちは最初の部屋に戻るとようやく口を開く。
「不快感で匂いが強くなってました。でしたら、マギナが喜ぶ匂いでマスキングをすべきでしょう。そうなるとことは簡単で、香水を振るだけでいいはずです」
僕は対策を助言するだけで、採用かどうかは聞ける立場にない。
まぁ、実際のところは皇子として問い合わせればいいんだけどね。
「では次。今度は大人しくない相手だ。厳重に拘束はしているが騒いで刺激しないように」
「えぇ、実際に見てますから覚悟はできてます」
カティとは顔を合わせての様子見だ。
そうしておかないといけない理由は、こっちを認識してもらう必要があるから。
「あ!」
会いに行くとすぐさま跳びかかろうとした。
けどカティはいくつもの鎖に繋がれた上で、制圧用の武器を持った兵が止める。
建前は、学生が傷つけられるという前例を作るのは、学園の損害ってことで厳重に。
ちょっと過剰な数が守りについてるけど、それだけカティも暴れた結果だ。
「あたしの眼帯返せ!」
「その誤解を解きに来ました。僕のことは覚えてますね? というか、顔を合わせてすぐに反応してたので、僕が淀みの魔法使いを見分けられることを知ってた、ということで合ってますか?」
「うん、まぁね。で、返すの?」
普通に話しかけたら、ちょっと警戒してるけど答える。
森で会った時も最初の内は普通に話してた。
つまり錬金術科のアズロスは厄介と警戒はしても、排除を狙うほどではない相手か。
「残念ながら、僕や僕の友人たちの手にはもうないんです」
「失くしたの!?」
「いいえ、国に持っていかれました。なので、今後眼帯を探す際には、僕たちの所へ来られてもお答えできることは何もありませんので、悪しからず」
両手を開いて見せてお願いする、いや、本当に来ないでほしい。
地下から逃げ出した後に、セフィラが心の中で考えてること読んで警告してきたんだ。
どうも、カティは眼帯を取り戻すため、僕たち錬金術科の所へ行く気でいたという。
ちょっと考えれば暴走の引き金になった眼帯なんて、個人に持たせておくわけがない。
けどそんなこと考えられないほどの執着なのか、それともそもそもそんなにものを考えないタイプなのか。
「…………何?」
「いえ、白っぽい布なので、もっと黒いものにしたらどうかと思って」
「じゃあ、ちょうだい。それと空気通らない密な生地がいい」
「えぇ?」
眼帯がないってことで不機嫌そうに舌打ちしてたカティに、なんか普通にお願いされた。
白っぽい布に小花柄が散る布が、ちょっとファンキーな見た目に合わないと思っただけなのに。
困って偉い人見たら、そのまま話せと身振りで促される。
(なんで?)
(落ち着いて話しているのが珍しいようです)
どうやらこうして会話が成立しているのが珍しいらしい。
言われて見れば、僕に対しては普通なのに、他の兵たちには威嚇で睨むこともある。
その睨みに、ウェアレルも入るというか、僕以外の大人の男性たちが対象か。
「もしかして、大きな男性嫌いですか? 女性ですし、警備は女性にしてもらうようお願いしてみましょうか」
「え、ほんと?」
僕の紳士的な提案に、思いのほか明るい声が返る。
それには偉い人も驚きを見せ、考えるようだ。
「そしたら、僕みたいに普通に話してくれます? 喉枯れぎみみたいですし、叫ぶようなことはないほうがいいでしょう?」
「そうそう、近よんなって言ってもこれだからさ。喉痛くって」
相手にも利があるって感じで言ってみると素直に応じる。
うん、抵抗が激しくて全然聴取もできないって話だったはず。
厳重警戒の割に、最初に血走った目で掴みかかられそうになった以外に害がない。
「えーと、では、改めてすみませんでした。返せはしませんが、奪ってしまった眼帯の代わりに黒い布地をこちらの方にお渡しします」
「ふーん、ふーん」
偉い人を指して言えば、なんか言いたそうだけど、カティは暴れる様子もなく僕の申し出を受け入れる。
そのせいか、帰る時には偉い人が聴取に協力してくれと言ってきたのだった。