作品タイトル不明
閑話93:オレス
突然収穫祭が中止された。
どころか、畑で後輩と次のダンジョンへの移動を相談をしている時、森の上空に突き抜ける魔法がほとばしった。
魔法がほとんど使えない俺でも、魔力が放出される様子が感じられた異常事態。
ともかく避難誘導に従って、新入生四人を連れて離れたが。
「まさか、お前たちが巻き込まれてるとはな」
俺は二つ下の後輩の教室で、話を聞いて呆れ半分に言った。
新入生四人も、昨日は避難したまま合流できなかった奴らが気になって、俺と一緒に話を聞きに来てる。
「オレス先輩、ハリオラータって、何?」
「確か以前も盗みに入ったと聞いたのである」
麦藁のような髪のポーに、竜人のアシュルが応じた。
どちらもルキウサリア育ちだが、学園都市とは縁がないとか。
黙って付き従う様子のクーラは南の竜人の国から入学したから、帝都で暴れてた犯罪者集団なんて知らないだろう。
「犯罪する魔法使いの集団って、ラト先輩に聞いた」
どうやら同郷のタッドは知ってるようだ。
まぁ、基本的にハリオラータが現れるのはルキウサリアや帝都と言った大きな街があるところで、俺たちの故郷ヨウィーラン王国に出たって話はない。
俺と同じでこっちに来てから聞いたんだろう。
「魔法に関する非合法な商品の売買や、魔法を使った暗殺なんかもするんだそうだ」
俺が教えると、エルフのイルメが机に向かってペンを動かしながら応じた。
「あら、犯罪内容も知られるほど有名なのね」
「あれだけ派手に暴れるんだったら、知ってるだろ」
獣人のネヴロフが、昨日遭遇したというハリオラータの暴れ具合を話す。
入学したときは小さかったのに、今の新入生もこいつみたいにでかくなると、ちょっと嫌だな、年長者として…………。
「俺も聞いたことあるし、帝都出身のアズもそうだろ。帝都では有名だった」
エフィ、こいつは有名な国出身で、帝都で育って、魔法学科に入れるくらいの才能があって、なんでか負けたからって錬金術を学びたいとかで入って来てきた。
正直、苦手だ。
なんだそのやる気と行動力と自信。
俺だったらめっちゃ魔法学科の隅で卒業を待つぞ。
錬金術が巷で言われるほどひどいとは思わないけど、やっぱり魔法なんて派手で目立つ力持ってるのに負けるとか、恥ずかしすぎるだろ。
「そのアズ先輩は? 姿が見えないようですが」
クーラが言うように、アズだけが教室にいない。
けどこれは珍しくないことだ。
あいつは現状長男の割に、継承できないとかで家の問題があり忙しいらしい。
「ともかく、そのハリオラータに追われて、先生たちに助けられて、その後は?」
俺が先を促すと、海人のウー・ヤーが本を捲りながら答えた。
「自分たちは避難させられ、押さえ込んだ以上のことは知らないな」
「収穫祭は中止だけど被害なしってことは聞いてますよ」
猫の獣人のラトラスため息ついて言う。
「俺たち聞き取りとかで学園に戻るの遅くて。昨日収穫したものの売却もまだだし」
「あの騒ぎの中、落とさなかっただけましだけど、めっちゃ傷できたよなぁ」
ネヴロフもがっくりした。
聞けば、根茎と花でどちらも希少なものを採集していたらしい。
大した時間もなくあの騒ぎだったのに、良く見つけたもんだ。
エフィがメモを整理しながらイルメに言う。
「アズが恩を売りたい教師がいるなら直接売り込みに行けと言っていたが」
「正直魔法学科に良い印象はないのよね」
ウー・ヤーはメモを作ると、別の本へ手を伸ばした。
「だが、売って金にしないと分配もできないだろう」
「こっちは昨日の内に換金したが、大したものは取れてないぞ」
足を運んだ理由にはそれもあって、俺はこっちの不調を伝えた。
そもそも新入生を手伝う約束で、後から森のダンジョンで落ち合う予定だったんだ。
ただその前にハリオラータが暴れて、収穫祭自体が中止。
実家をあまり頼れない俺もそうだが、ポーやタッドも学費がきつい。
今回はその補填のための活動でもあったんだがな。
「アズから高く売るために付加価値つけろって言われてるから、今そのためにやってんだ」
ネヴロフが言うとポーが興味を示した。
「アズ先輩今度は何をするの?」
確かにあいつはいつも思いもよらないことをする。
あんな風にポンポンなんでも答えられたら先輩としてかっこいいんだろうが。
キリルに散々今回は聞かれるまで喋るなって言われて黙ってるんだが、けっこうそれで新入生からは話しかけられもしてる。
今まで嫌そうな顔しかしなかったタッドからも質問されたりしたんだが、今まで何が駄目だったんだ?
ともかく今も話を聞く側に回ったほうがいいのか?
「イルメが地脈調べて、今回問題になった薬の結果と合わせてね」
「俺たちは先に森に行って、その理論の検証をしてたんだ」
ラトラスとエフィが説明してくれた。
聞けば、どうやら怪しい薬で素材を得るという別事件があったそうだ。
そっちは教師に通報して止めたが、それができるなら地脈の流れを探って、占星術の星の動きと照らし合わせることで、魔力の強まる場所を突き止められるんじゃないかと。
「そ、そんなことができるのであるか?」
「実際、あの短時間で希少素材は手に入れられたからな」
、
驚くアシュルに、ウー・ヤーが本を捲りながら答えた。
ずっとペンを動かしてるイルメは、顔をあげずに話す。
「それで痛んだ素材を少しでも高く売るために、論をまとめたものと一緒に、結果としての収穫物という形で売れば、付加価値がつくとアズが言うの」
他よりも遅く戻って、一番いい状態で素材が売れないと見て、アズが言い出したそうだ。
「ダンジョンでしか使えなさそうだから、継続的に調べることができるところに売るべきだ」
ウー・ヤーに、イルメとネヴロフも頷いた。
「薬のことも学園で調べる上では、有用だというのもわかるわ」
「それを売ろうって言うんだから、アズは頭いいよな」
ラトラスとエフィは、まだ売れてないと楽観に釘を刺す。
「だから、ちゃんと売る先を決めないと。まず錬金術科は却下。個人で買うにしても予算があるようには見えない」
「そうなると、やはり魔法学科だろうな。だが、印象がよろしくないというなら、いっそ学園そのものに売り込んでみるか」
「ずいぶん強気だな」
俺が思わず口を挟んだが、嫌な顔はされなかった。
「これもアズね。もしくは薬学科に売り込んではどうかという話だったわ」
「それが駄目ならユキヒョウの先生にもっていけと言っていたな」
アズの言葉を口にするイルメに、ウー・ヤーももっと別のルートを挙げる。
エフィが整理したメモをイルメに渡して、言った。
「だから俺たちが金を手にするのはまだかかるんだ」
「そう、悪いけど待ってもらえる? 物はあるからさ」
ラトラスも手伝う約束をしてた後輩たちに笑いかける。
金に困ってるポーとタッドは応じるが、アシュルは首を横に振った。
「分配はなくてかまわない。その論を見せてもらうことは?」
「そうだよな。知ってたら自分で採取する時楽だしな」
ネヴロフに言われて、俺もと言いたくなる。
けど、実際金は欲しい、というか切実に必要だ。
だからぐっと我慢して、こいつらがきちんと売れるように整えてくれることを祈るだけ。
それから数日後、ダンジョンの点検が終わった後、学園側が救済措置として収穫手伝いを学生から募集した。
今度は催しじゃなく、純粋に教師が安全確保して作った簡易ダンジョンから指定されたものを収穫するだけの採集作業だ。
もちろん、俺はまた新入生と参加して今度は何ごともなく働いただけの賃金をもらった。
「はぁ、疲れた。けどこれで学費なんとかなりそう、ふぅ!」
「それは良かった。改めて援助してくれる存在のありがたみを感じるのである」
「援助される方は、健やかに勉学に励まれることを喜んでおられます」
安心するポーに、アシュルが余裕のある自分を顧みて、金のありがたみを感じたようだ。
クーラはその援助者からの世話役らしいが、アシュルけっこういいとこの生まれだな。
「…………今回は、お世話になりました。避難誘導から今日の採集指導まで」
「お、おう…………」
賃金をもらった後、タッドにそう言って頭を下げられる。
まさか初めて先輩らしいことできたのか?
どれだ? どれが良かったんだ? わ、わからん。
ただ今回一番、先輩らしいことができたらしいと実感できた瞬間だった。