作品タイトル不明
閑話92:ヒノヒメ
錬金術科を卒業してから、帝都に参って、えぇことが続いてるんやけど。
お偉い人が慌てはるのは、東西変わらへんのやね。
うちはこの頃参上させてもろとる宮殿で、お話聞かせてほしい言うお人らにお呼ばれしとった。
帝室図書館の司書さんいうらしいわぁ。
「では、小雷ランプの内部構造をごぞんじなのですね? 明かりが灯る理屈もご承知で?」
「へぇ、存じておりますよ」
なんやうちの返答に、司書さんらはずいぶんな喜びようやな。
これなぁ、アズがらみやと思うんやけど。
この人らぁにどんな難題吹っかけたんやろね?
「失礼」
うちがただ見てるだけでおったら、チトセが言うた。
発言したいらしいわ。
今はうちの従者のふりして同行してるから、座りもせぇへんと立ってる。
せやけどなぁ、きちっとお仕事してるんやから、もう従者せぇへんでよろしのになぁ。
もしかして、まだうちのお目付け役のつもりなん?
律儀やわぁ。
たぁだ腰軽いだけなとこもあるけど、お家のこと、気にはしてるんやろか。
「なんや言いたいん、チトセ?」
「我々は確かに学園で小雷ランプの構造は学びました。しかし、それ自体を作るには技術が足りませんので、その点はご留意いただかなければ」
「あぁ、そやねぇ。真空にするいうて、空気抜くんは、ヴィー先生のなさることやねぇ」
「それもまた興味深いことですが、まずは内部構造についてご教授願えればと!」
司書さんらの熱意は本当らしいわ。
それに、チトセがまだうちの目付け役してくれるんやったら、頼らさしてもらいましょか。
「チトセ、よろしゅう」
「…………はぁ」
うちは説明をチトセに任せて、綺麗な布の椅子に寛がせてもらう。
うちが喋るんは、聞きづらいらしいんよ。
帝国の言葉、意識しぃひんといかんのやし。
うちが気にしい気にしい喋るより、チトセのが早うすむし。
「今日はお呼び立てをいたしまして」
「えぇんよ。妃殿下に頼られたんやから、お応えいたします」
司書さんらに見送ってもろて、うちは足が向くまま。
なんや、宮殿本館に行きたいなぁ。
「…………そりゃ、えぇでしょうよ。ほぼ俺が喋ってたやないですか」
チトセの小言も今さらやね。
気にせぇへんと、チトセもうちの行く先のほうが気になったようや。
「で、どちらへ? この先は本館でしょう? 上がりなさるんですか?」
「あちらさんにえぇことある気がするんよ」
うちは神がかりやいう力がある。
なんや、こうと思たらそうなるんよ。
今は、本館行くほうがえぇ気がする。
そう思てたら、本館に入ってすぐ、花のようなお衣装の方々いらしたわ。
うちの顔見てすぐに笑うてくださるんは、この帝国のお妃さま。
「まぁ、ヒノヒメ。司書からの学術研究に関する質疑は終わったかしら?」
「はい、恙なく。皇妃殿下におかれましては本日もご機嫌麗しくいらっしゃるようで喜ばしい限りでございます」
うちもやればできるんよ。
チトセは早よやれと思てるやろけど。
なんや、慣れるとニノホト訛りから変えるんが、今さら恥ずかしい気ぃもするしなぁ。
うちの喋りで嫌がる人やないて思うお人にしかせぇへんし。
それで言えばお妃さまは気にせぇへん。
やけど、周りはそうやないから、うちもお妃さまに合わせてる。
「お時間があるなら、どんな話をしたのかを聞かせてほしいわ」
「はい、喜んで。こちらのチトセも…………連れて、少々散歩をいたしませんか?」
うちの申し出に、お妃さまは察してくださる。
「では、ここから近い中庭へ行きましょうか。もうすぐ植え替えだそうだからその前に」
うちがお妃さまの隣並んで歩かさせてもらう。
一緒に来られたお花さんたちには申し訳あらへんけどね。
「今日は何が起こるのかしら?」
「わたくしにもわからないことが難点でございます」
「まぁ」
お妃さまが楽しそうなんは、それだけ普段いいことが起こるなんてわかってて、そぞろ歩きなんてせぇへんからやろうね。
うちもふらふらせぇへんよて、よう怒られたわぁ。
大きな宮殿には、明かり取りの中庭があるんよね。
うちらが行くと、そこに小柄な影が見えた。
そっくり同じ顔の双子の皇子さまや。
「あ…………。ご挨拶をよろしいでしょうか」
「お時間が許すようでしたら、お話させてください」
うちらの姿に、愛想よくご挨拶してくださって、愛らしなぁ。
挨拶の順番は、妃殿下、うち、そしてチトセや。
「先生、錬金術の本借りたんだけど、教えてほしいんだ」
「エッセンスだと思うけどわかんなくて、聞きたかったの」
すっかりチトセは先生やねぇ。
アズの采配は外れへんようや。
「妃殿下、よろしいでしょうか?」
「えぇ、二人は今休憩時間だと言うし、他の勉学に支障がないのなら」
主人のうちと、お妃さまの許しで、チトセは双子の皇子さまに連れていかれることが決定したわぁ。
「半刻したら、返してくださいね」
うちがそう言って見送ったら、チトセがなんや疑わしげやねぇ。
そう思たから言うただけなんよ。
「あなたたちのお蔭で、あの子たちの頑張りが人目に触れるようになったわ」
「そのようなことは。しっかりなさっていらっしゃる殿下方の頑張りの賜物でしょう」
「いえ、今までアーシャのためと言ってはしていたけれど、その分多くの人の目には留まらずにいたの」
アズの本来の名前やけど、第一皇子との関りの難しさは聞こえてるわ。
頑張っても、難しい立場のアズのためなんて言うたら、認めてはくれへんのやね。
せやけど、妃殿下といるうち、そしてうちに従うチトセに礼を尽くしてはるんやったら、きちんとしてはるて評価されるそうや。
「本当に、あなたには助けられて。あの子たちも勘が鋭いとは思っていたけれど、長じればこんなに補佐に長けた力になるのだと知れて、展望が開けた気分です」
お妃さまのお話し相手になったうちは、双子の皇子さまについて相談されてる。
その上で、こうしてえぇことあるところに連れて行ったり、言いたいことありそうな時に声かけたりしてたんやけどね。
そうしてたらなんや、うちも気に入られたみたいやねぇ。
おかしいなぁ、お国やとじゃじゃ馬姫言われてたはずやのに。
せやけどこれで、愛しい背の君からも評価してもらえるんやから頑張るかいもあるわ。
「あれ? あちらはなんのお部屋かお聞きしても?」
「各国の賓客をお招きした際に宿泊いただく場所ですね。けれど、扉に立つ者は…………」
気を引かれた扉について聞いたら、妃殿下は笑みを繕ってそちらへ向かわはる。
えぇこととは違う気がするなぁ。
やけど、悪いことが起きる前の気配あるようやし、止めるにはよさげやね。
お妃さまもうちの扱いに慣れるん早いんは、双子の皇子さまがうちと同じやからや。
神がかり的な意味があるとわかってからは、使わはるのに積極的やわ。
「ムルズ・フロシーズ大使にご挨拶を。ヒノヒメは教会には?」
「お恥ずかしながら。学ぶ機会を得られるならば望外の喜びでございます」
「きっと大使もニノホトの神域に仕えたあなたの経験に興味をお持ちになるでしょう」
世間話のふりして突撃しはったわ。
やけど、お妃さまのお声かけがあっても、部屋の中に入れないよう頑張るお人がいてはるなぁ。
宮殿勤めやのうて、何処かの家紋つけてはる人が。
せやけど話してると部屋の中から様子を見る人も出てきてきた。
結局お妃さまを廊下で待たせられへんて、招き入れられる。
「まぁ、ジェレミアス公爵。宮殿に上がっていらしたなんて」
「これは、皇妃殿下。ご挨拶が遅れましたことお詫びいたします」
なんやこの若い公爵さまがあかん人みたいやね。
大使のお人は困ってたところにお妃さま現れて喜んではるみたいや。
「今日はご予定がないとお聞きしていたもので。こちらニノホトの院のご息女にどうか説法をとお願いに参りましたの。けれどこれから半刻しか時間がないのです」
「それは稀なこと。是非に。閣下とはもう一刻は話しておりましたので」
公爵さまは、お妃さまと大使のお人が手を組んで追いだしにかかってはる。
うーん、勘やけど、大使のお人は公爵さま避けてたんやね。
そして公爵さまは宮殿には来たくなかったんやけど、大使のお人が出てこうへんからこうして来はった。
それやのにお妃さまに邪魔されて、たぶんよくあらへんこと持ちかけてたんやろ。
ようわからんけど、アズにとってはいいことな気がするし、えぇね。