軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

455話:懲りないハリオラータ5

僕たちは、見てわかる被害の出てる研究室を回って指紋採取を続けた。

研究室に出入りする人にも指紋の提出をお願いする。

その上で部外者と思われる指紋は九種類。

うち、右手の親指の数は五個。

「最低五人は部外者が入り込んで荒らしたわけか」

確認を口にするウー・ヤーにエフィが首を横に振る。

「まだ指紋を採取していない事務員もいることを考えるともっと少ないかもしれないけどね」

その言葉に全員で溜め息を吐いた。

けっこう時間かかるんだよ。

採取だけでもそうなのに、確認はもっと神経も使う。

だから手伝ってくれる人たちはありがたい。

そうして時間と人を使って調べた結果、本当の部外者は三人だった。

そして行動から部外者で指紋の形を特定できたのはクトルのみ。

戦闘中に壁や柱に手を突いてたから、そこからとれた。

「で、錬金術科の侵入者の指紋がこっちには出ない。つまり学園全体では、四人のハリオラータが入り込んでたわけだ」

クトルは素材業者として正面から入ってた。

魔法も使った隠ぺいを考えると、他もそうして正面から入ってる可能性が高い。

さらには他人を操る謎の魔法と、まだまだ全容は見えてこなかった。

そして特定した指紋をさらに追って、ハリオラータの行動を調べること三日。

ヨトシペが帰って来たと、僕は王城に呼ばれた。

「国外に逃げられただすー」

「三日追い続けたの? すごいね」

今日は会議室的な場所で、ルキウサリア国王は時間が合わず、政務官が聞き取りをする。

僕はそこに同席させてもらった。

ついでに、学園での指紋採取による調べの進捗報告も行う。

うん、皇子がすることじゃないけどね。

指紋を使った捜査とかないから、何して何がわかるって所から説明が必要なんだ。

被害にも遭ったヴラディル先生呼んで説明させるよりも早いからね。

「途中で馬乗ったり、水の中進んだりしてたどす。けど臭い追えたんでげす」

「錬金術してる侍女見習いの子がね、匂いのつきやすい場所調べてたんだ。最初はどんな布についたら匂いが長持ちするかってところから、人の体の場所とかも。それで、頭ってけっこう残る臭いは残るって聞いたから」

言ってしまえば血流が多いと匂いが強く発生するようだ。

その上、髪は細かく見れば表面に凹凸が多いから匂い成分が引っかかる。

上からかけたのが良かったらしい。

「それで、追っていた相手は何人いた?」

「四人でごわす。最初に逃げた眼帯っぽいのもいたどす」

「うん、だったらこっちで見つけた侵入者と一緒だ。途中で仲間が増えることは?」

「なかっただす。何か薬使って馬使い潰して逃げたんでげす」

ヨトシペは悔しそうに言う。

つまり、普通に馬は知らせる程度じゃ逃げられない自信があった。

それをハリオラータは馬に無理をさせる薬まで使って逃げ果せたんだ。

「ルキウサリア内にある拠点を頼らなかったのは、もうないのか、それとも次の機会のために残してるのか」

「次があるんどす?」

僕らの会話を会議室の誰も止めない。

書記官とか警備の偉い人とかいるのに、全員がかたずをのんで見守ってる。

これは聞きたいこと先に聞いて良さそうかな?

「アイアンゴーレムさ、ここにあるでしょ? 普通に狙えないじゃない?」

「学園みたいに身分誤魔化せないでげす?」

「帝都の宮殿みたいに出入りも激しくて人数も多かったら、無理ではないけど」

正直ルキウサリアは主要国だけど派手な動きはしないタイプ。

だから社交も穏やかで、外交官の出入りも激しくない。

というか、外交するなら国王自身が国外へ出るし、王城が社交の場なのは国内向け。

突然ねじ込むの僕くらいなものだ。

だからこそルキウサリア国王も時間取って対応できる。

そんな感じで顔見知りの社交場だから、国外からの見知らぬ人は目立つ。

どんなに偽っても、ハリオラータのクトルみたいなのは入れない。

「帰ってくる時襲撃してきた人たちみたいに、こっちに腰据えてる構成員はわからないけど」

「失敗続きで手貸さないでごわす?」

「その可能性は高いと思うな。けど、それこそ陽動って可能性もある」

「失敗続きは、成功続きだすなぁ。ルキウサリアの警戒緩んだとこ狙うわけでげす」

「ヨトシペ相手に逃げ切れたなら、最初から逃げるの想定してただろうしね」

なのに国内の拠点には寄らずいたという。

もう拠点がないなら、それはそれで無謀だ。

だけど、あえて寄らずに次の襲撃を企てていたら?

「多分今回のことじゃ懲りないよ、ハリオラータは」

「また来るだす? だったら今度は湖も警戒するどす」

「湖って、学園の?」

「そうだす。湖の底歩いて逃げてたんでごわす」

「え、何それ。魔法?」

周囲に目を向けると、誰も首を横に振って知らないと示す。

魔法で空を飛べないのと同じで、水中での移動もまた人間にはできないはずのこと。

(できるのは海人くらいって、あれ、もしかして羽毛竜人だったら空飛べたりするの? いや、竜人だから火属性しか…………ロケット噴射だったら)

(仔細を求める)

おっと、思考がそれ過ぎた。

僕はセフィラを後回しに、ヨトシペに詳細を尋ねる。

「歩いてたって、呼吸とかは? 馬で逃げる前?」

「そうどす。泳いでも見て後から追いつけるつもりだったんでごわす。でも潜ってそのまま上がってこないで、向こう岸に出て来たんでげす」

水の底を歩いたとしか言えない状況らしい。

ちなみにヨトシペは泳いで渡ってそのまま追い駆けたそうだ。

本当、すごい体力だね。

「呼吸に水流、それに浮力も問題だし、水魔法だけでどうにかできるかな?」

「色んな属性ならいいでげす?」

「そう、あぁ、そうか。使えるかどうかはともかく複数の属性を混ぜ合わせる発想はあるんだ。だったら、四人がそれぞれに魔法かけて水中歩行を可能にすることはできる」

土か岩の魔法で浮力へ対抗して、水の魔法で水流を緩和、もしくは呼吸の確保。

呼吸確保は風属性でもできるかもしれないし、いっそ水の魔法で推進力にしてもいい。

ただどれも他人の動きに合わせる必要があるし、集中力が半端じゃない。

やってできたとして、四人の魔法使いは並みの腕よりずっと上だろう。

「少なくとも、襲撃してきた二十三人は捨て駒確定かな」

「警戒強くして疲労狙いどす? でも諦めてないなら警戒弱められないでげす」

「相手は年数かけて入り込んでる。調べ直しも時間がかかるだろう」

今も二十三人も捕まったせいで、その周辺も洗うとなって時間がかかってる。

けどクトルたちは少数ながら、警戒を抜けて侵入した。

前世でも密入国は犯罪としてあったから、そうとう防止は難しんだろう。

しかもルキウサリアは地続きだ。

国境封鎖は無理だし、顔の知れたハリオラータがルキウサリア外に出てる今意味がない。

「だったら見つけ出すまでが問題だ。情報を絞るか、泳がせるか。向こうが気の緩みを狙ってるなら、こっちも順調を装って相手の動きを監視するのもありかもしれないけど」

考え込むと、ヨトシペが尻尾をフリフリ気軽に聞いてくる。

「何か他にあるだす?」

「うーん、イメージ戦略? 今のところハリオラータは三回失敗してる。しかも二回はクトルっていう頭目が出てまでの失敗だ」

実際はこっちが逃げられてるんだけどね。

それでも実際のクトルの軽さを知らない人からすれば、頭目が出張って二回失敗はけっこうな汚名だろう。

「特に向こうは気にしてないし、それも作戦の内ってこともある。けど捨て駒にされた人たちみたいに、深く計画を知らされてないような構成員はどう思うかな? 頭目肝いりで三回も失敗したって聞かされたら」

「駄目な頭目の指示に従うの不安だすなぁ。イメージ悪くして、国内にいるかもしれないハリオラータのやる気削ぐでげす?」

「厳しく調べて取り締まった後に、実は三回も、なんて言われて、情報提供者は減刑とか囁かれたら揺らがないかなって」

多分ハリオラータのクトルたち上層は、帝室だとか王室だとかそんなもの気にしない。

けど全員がそうというわけでもないはずだ。

だったら帝室とルキウサリア、学園に喧嘩を売って失敗したと喧伝するのは一つ牽制として使えるんじゃないかな。

そう聞かされれば強いほうに靡く人も出るかもしれない。

正直隠れられたら面倒なんだ。

それは犯罪者ギルド潰して、今回のことまでハリオラータが尻尾も掴ませなかったことからわかってる。

今じゃないと、きっとまた見失う。

「検討をお願いするよ」

聞いてた人たちに言うと、忙しくメモしてた手を止めた。

たぶん僕やヨトシペがあれこれ言うよりも、実行力ある権力者が動いたほうが確実だ。

僕の求めに応じて、いくらか質疑応答をした後には、ルキウサリアの人員は揃って恭しく請け負ってくれたのだった。