軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話9:ストラテーグ侯爵

また第一皇子だ。

思えば関わるきっかけも、弟皇子に攻撃した、泣かせたという話から。

そして今回は第四皇子暗殺未遂。

大人しく目立たないよう振る舞っていることを知っているからこそ、どうしてそうなると聞きたい。

しかも呪いだなんだと馬鹿馬鹿しい話で余計にややこしくなっていた。

きっかけは第一皇子の発言だが、それを取りざたしたのはルカイオス公爵周囲だ。

ルカイオス公爵のほうも、独自に毒物を入手できるのではないかと庭師との結託を疑って厳しく追及したようだ。

それが仇になり、庭師たちは結束して第一皇子を庇うような証言を上げたのだろう。

「一部庭師から第一皇子を庇う証言が出ていたのを、事態を調べようと独自に動いた貴族たちのそれなりの数が耳にしている。暗殺未遂と言われた日は、廃棄する植物を貰いに庭師たちと会う予定の日であり、暗殺を企図した外出ではなかったとな」

こちらもその予定は把握していたので、庭師の証言に嘘はないと知っている。

しかもユーラシオン公爵からの求めで、レーヴァンを直接見張りに動かした日だ。

図らずも、私は第一皇子の無実を証明する手を打っている形だ。

「今回のことは、ルカイオス公爵も詰め切れんだろうな。第四皇子は回復し、毒の痕跡もなし、呪いは最初から不確かな話だ。それでは印象づけも不十分。庭師の一部が反論している中には、第三第四皇子を見失った者たちへの糾弾も含まれている」

そうなればルカイオス公爵周辺で泥をかぶる者が出て来る。

皇妃の実家であるため、皇子の周辺を息のかかった者で固めているせいだ。

何より解決策があると、皇妃自身が気づいた様子であったことを第一皇子が見ている。

第二皇子を泣かせた件で上手く悪評が回ったのは、関わる者が少なすぎて当事者の中でも実態がわからなかったからだ。

今回は関わる者が多すぎる上に、庭師はことが起きてすぐに動いたのもある。

目撃情報やその時間に庭園にいた者たちの証言を元に、だいぶ正確に誰がいつ何処にいたかを絞っていたのには驚いた。

「前回と同じように上手くやれると思ったようだが、一度起きたことには対処もするだろう。第二皇子の時には、ことが起きた区画を整備した庭師が辞めさせられたんだ。火の粉を被ることを嫌って…………レーヴァン?」

私は第一皇子から話を聞きとった後、執務室に戻っていた。

いつもなら口を挟む男が、黙ったままであることに気づいて声をかける。

以前と違って遠回りもせずに済んだため、疲れていることはないだろう。

「第一皇子は、俺と侯爵さまの関係知ってたんですかね?」

「何? …………まさか」

思い当たるのは、レーヴァンを名指ししての問い。

私に迷惑かかるとわかってて、レーヴァンは自分の感情を優先するかというものだ。

引き合いに出したのは、陛下と第一皇子の関係をたとえてのこと。

「あの質問って、身分のある父親の、足引っ張るかってことじゃないですか?」

「そうとも取れるが…………だが、我々のことは言っていないんだろう?」

「もちろん。というか、俺個人のこと聞かれたこともないです。だからこそ、あれ、知ってたんじゃないかって、思ってですね」

私は不安を隠すように笑うレーヴァンと顔を見合わせる。

改めて見ても私に似たところのない顔だ。

かと言って、母親にもそう似ていないと思う。

それでも、性格は母親の影響が窺え、時には私の血かと思わせることもあった。

「…………どうしてもの時は、迷惑など気にせずともよい」

思えば名乗り合ったことはない。

レーヴァンの母親は、ルキウサリアでの私の恋人だった。

結婚を約束していた、婚約の準備も進めていた。

そこに来て、家からの命令とも言うべき侯爵家への婿入り話が横やりを入れた。

私に言う前に根回しがされていたのだ。

恋人の実家のほうが、対抗できないと引いてしまい、私が抵抗すれば、私の下の弟妹の結婚に差し障るように。

恋人も、家や国に害を及ぼしてまで一緒になれないと結論づけた。

その時は、お互いに話し合って、別れたのだ。

「母さんがですね、私、結婚できないってわかって、あんたのお父さんの初めて奪っちゃったのよ、なんて言うんですよ」

「ごっふ!? え、え!?」

年甲斐もなく顔が熱くなる。

何故なら否定しようのない事実だからだ。

実際、操立てするから肉体関係を結んでほしいと言われて、私も、結婚は貴族の家に生まれた勤めと考え、割り切るために応じた。

心は決してルキウサリアからは離れないと誓って、床を共にしたのだ。

そしてその一度で生まれたのがレーヴァンだ。

「恋人に捨てられただとか、相手がお偉い貴族を選んだからだとか言われても、迎えに来るって笑って言うんです。子供心に父親なんて会っても、絶対認めねぇとか思ってた時期もあったんですよ」

思い出すままに語るレーヴァンに、何も、言えない。

約束をした、誓いもした、今もストラテーグ侯爵をしているのはただの勤めと思っている。

それでも、もう待っている人はいない。

私は間に合わなかったのだから。

「…………すまん」

「いえ、死ぬ直前に髪振り乱す勢いで駆け込んで来て、死ぬな死ぬなと大泣きしてる姿見たら、なんか母さんが正しかったんだってわかったんで」

それも謝るべきだろうか?

正直、目の前で愛する人が死の床についていることにばかり目がいっていた。

初めて会った息子に声をかけることさえ忘れていたのだ。

「だから、ちょっと癪ですけど、第一皇子が言うとおり、俺はあなたに迷惑かける気はないですし、現状に不満はないです」

どうやら、第一皇子に心情を言いあてられたのが、不服であったようだ。

そういう自分の内側を暴かれることを嫌うのは私と同じだと感じる。

暴かれてもいいし、さらけ出してもいいと思えた人を愛した。

私はそういう人に出会えただけでも幸運だったのだろう。

レーヴァンもそういう人に出会えたなら、きっと、その時には全力で背中を押そうと決めている。

「もうついでに聞いちゃいますけど、葬式でまでぼろ泣きしたのに、なんで駆け落ちしなかったんです?」

レーヴァンがなんでもないように聞くが、こういう切りこみは初めてだ。

無礼そうに振る舞っておいて、踏み越えない一線があることには気づいていた。

きっかけはともかく、こうしてさらけ出したなら私も正直に話すつもりはある。

「お前を身ごもっていると知った日に、駆け落ちをしようと誘って断られた」

「はい?」

「腹の子にひもじい思いをさせるつもりはないと、即座にな。しかも駆け落ちする場所から生活の当て、残された者たちへのフォローやお前が生まれた後の生活設計もろもろ問い詰められた」

とめどなく出て来る詰問は、愛した人が心から悩んだ結果を物語っていた。

全てを上手く行かせることはできない。

だから駆け落ちはしないと、決めてしまっていたのだ。

「待っていてあげるから、ちゃんと身ぎれいにしてからプロポーズをやり直せと追い返された」

ストラテーグ侯爵家での勤めを終えて、離婚して戻り、改めて結婚をしようと。

「時間をかけ過ぎたなら、出迎えるのは息子か娘がいなくなった後になるぞと、嗾けられもした」

レーヴァンは何か言おうとしてやめた。

結局時間をかけ過ぎた私に、愛した人は息子だけを残して病で逝ってしまっている。

きっと、決して私に報せるなという願いを無視して、ルキウサリア国王が報せてくれなければ、二度と再会することもなかっただろう。

愛する人は未練ができるとずいぶん怒っていた。

「…………何が正解なんでしょうね。俺のこと、侯爵家の人知ってます?」

レーヴァンが私の心の中を読んだように聞いて来た。

何が正解か、私は今もわからない。

それでもより良いと思って進む、それでもわからなければ我を通す。

通して、押し通し、貫いて、正しいのだと胸を張らなければ、選ばなかった者に顔向けもできない。

「先代は知っているだろう。妻は承知している」

「え、そうなんですか? じゃあ、侯爵家の子女は?」

言ってしまえばレーヴァンの弟妹だ。

跡継ぎ息子が生まれるまでに娘が二人生まれている。

「知らないはずだ」

知られた時には、罵倒されるつもりはある。

だからあえて子供たちには近づかない、優しさは見せない、ただ侯爵として振る舞って来た。

ずっと、自分の子だと言えるのは、たった一人だったから。

けれどそのたった一人の息子も、面と向かってそう呼びかけることはできない。

何が正しいかなど、私はわからないままだ。

だが正解など、この度し難い感情の前では些末なこと。

それで言えば、誰かのために感情を抑えると言った、第一皇子とレーヴァンは、私よりもできた子供たちなのだろう。