軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話87:ウェアレル

ルキウサリアの学園都市、その中にある個室を貸す形の飲食店。

利点は人の目を気にせずに済むというものなんだが、内装はどこぞの富裕層の一室を思わせる調度が揃っていた。

「おぉ、話には聞いたことあったが、本当にお貴族さまの屋敷みたいだな」

「ヴィー、こんな安物に騙されないでください。どれも雰囲気を作りですよ」

私は双子の片割れに、どれもそれらしく作っただけであることを教える。

本物はもっと重々しい歴史とこれ見よがしな技巧か、いっそ理解不能な凝り方をしている。

安いが悪くはない、そう思いながら座る私に同輩のヨトシペが笑う。

「ウィーが慣れてるだす。ルカなんとか公爵さまの屋敷でも堂々としてたでげす」

「それより珍しいディンク酒って、どんなの振る舞ってくれるの?」

「帝都でそんなお土産買ってきてくれるなんて、気が利くなぁ」

白いイールと黒いニールが、長い尻尾をくねらせ急かす。

話をするために集めるとして、この二人がまさかここまで簡単とは。

面倒な気配を察すると逃げていた学生時代のほうが、捕まえにくかったくらいだ。

私はアーシャさまに頼んで、ひと手間加えてもらったディンク酒を出す。

土産など買う暇なかったので、労を負ってもらった。

「伝手で手に入れた試作品です。仮称ジンジャーレモンになります」

そのままディンク酒にショウガとレモンのジュースを加えたものだ。

爽やかな味わいにピリッとした刺激、そしてレモンの甘酸っぱさが鼻をくすぐる。

その上で、酒精は強く体を巡るのだ。

「うわぁ、辛口でいて、それで後味の爽やかさ。なのに鼻にはレモンの甘さが印象的」

「ショウガが舌を刺すのもアクセントでいいし、酒の強さと相まって癖になるぅ」

饒舌なユキヒョウたちに比べて、ヴィーは酒の強さを気にした。

「本当だ、腹が熱く感じる。強いな、この酒」

「甘いのがいいでごわす」

ヨトシペも好みではないらしい。

ただこれは単なる餌なので、さっさと本題に入ろう。

「帝都に戻った際、宮殿が賊に占拠されていた」

「「「ごぼふっ!?」」」

「大変、だったどす?」

ヴィー、イール、ニールが、傾けていたディンク酒を吹いた。

ヨトシペもさすがに驚くが、こうして私が帰って来てるせいか、すぐに終わったこととして話す。

「ちょ、待って! そんなのルキウサリアの陛下にも聞いてないよ!」

「ってことは情報統制されてるってことでしょ! なんで言うの!?」

イールとニールは垂れる酒を拭わず、うるさい。

ヴィーは口元を拭ってから言った。

「第一皇子の突然の帰省はそれが理由か?」

「いや、居合わせたのは偶然だった」

「おー、勘がいいだす」

ヨトシペは他人ごとで言うと、酒は放置で部屋に用意されていた果物に手を出す。

だがヨトシペがいうような勘ではなく、さすがにアーシャさまもあれは成り行きだろう。

ただ、助けようとした相手が一連の事件に巻き込まれていただけという。

「一応ここで聞かせる理由もあるからまずは騒ぐな」

私はそう言って、ユーラシオン公爵子息の誘拐から、ディオラ姫などに請われて動いたという形でアーシャさまの関りを話す。

表向きの動きと共に、アズくんのふりをするアーシャさまとは悟られないよう、アズくんも個別に動いていたように話して聞かせた。

「そういう? 誘拐でハリオラータに報復って聞いてたけど、そんな大それたことをねぇ?」

「誘拐が、宮殿占拠からの皇太后の政変が狙いって、よくルキウサリアに戻って来れたね?」

騒いでいたイールとニールは、話せば一連の流れを理解して呆れたように言う。

そしてヨトシペは政治に興味がないからあまり反応もない。

ただヴィーは頭を抱えていた。

「アズ、そんなこと何も言わずに、錬金術科で早速目新しい問題に当たって錬金術して。いや、第一皇子と行動したからこそ、関係で気にかかって?」

「まぁ、えぇ。口止めはしていましたし、ユーラシオン公爵子息にとっても広めるとまずいということで、友人を思ってのことでしょう」

私はヴィーに合わせて流し、話を先に進める。

長年解体もできなかった錬金炉の構造については、セフィラと嬉々として話ていたのも知っていたから。

「帝国としても、関わったと思しきハリオラータは見逃せない。そんな中で報復として公爵子息が襲われ、また姿を現すような言動もありました」

「うん? それまずいでげす。ハリオラータが簡単にルキウサリアに出入りしてると、帝国に怒られるでごわす」

ヨトシペの言葉は間抜けというか、スケールが違うが、そういうことだ。

言ってしまえば、ルキウサリアが共謀を疑われるような状況になる。

二十人以上も国内からハリオラータ関係者が出てきたのもまずい話だ。

ただアーシャさまは、ルキウサリアに全面的に任せる姿勢でいる。

そのためルキウサリアとしても、痛くない腹を探られるようなことにはなっていない。

外交に強いユーラシオン公爵も引き込む予定が立っていることも安心材料だ。

「帝国が宮殿占拠の後始末を終えて、国内でのハリオラータの調査を終えれば、次はルキウサリアに絡んでくるでしょう」

「…………どうしてウィーがそれを気にする?」

ヴィーがそう聞くのは、私がアーシャさまと帝国に戻るつもりと知っているからだ。

個人的な懸念でこんなことわざわざしないからこそ。

ヨトシペは気づいた様子で尻尾を振り始めた。

そうですよ、アーシャさまからの指示です。

だから突然尻尾振って私を見ないでください!

「ヨトシペ、暴れる必要はありませんからね」

「え、やめてよ。アイアンゴーレム狙ってたりしたら」

「ヨトシペなら壊しかねないじゃん、ダメダメ」

私が誤魔化すと、イールとニールが慌てて止める。

ヨトシペは笑って被毛に覆われた手を見下ろした。

「わはー、金属ゴーレムは爪立てるとぞわぞわするんどす」

思わず想像して、私は総毛立つ。

ヴィーも尻尾が膨らみ、イールとニールも体積がひと回り大きくなった。

ヨトシペまで爪を気にしてしばし無言。

私は咳払いをしてもう出すものを出すことにした。

懐から紙を取り出し、見えるように置く。

「乱暴に扱わずに見てください」

「いや、だったらウィーが声に出して読めよ」

ヴィーが言うとおり、テーブルを囲む形な上に、ヨトシペがいる。

下手に触らせるよりも私が音読すべきだろう。

「では…………。先般ルキウサリア国境砦にて襲撃を失敗したハリオラータ幹部と思しき、淀みの魔法使いが使用した複合魔法に関する考察と報告」

「え、何? 複合魔法って、もしかして属性二つを混ぜ合わせるとかいう?」

「たまに二人で成功例出るけど、理論立って説明できないのに、使ってたの?」

イールとニールが興味を示した。

ヨトシペは果物を食べることを再開しつつ、すぐに制作者に気づく。

「皇子さまが考えたんでげす? 属性魔法は打ち消し合うのに、混合、混ぜるなんて、錬金術っぽいどすー」

「いや、簡単に言うがな? 錬金術でもただ混ぜてできるってわけじゃ」

ヴィーが認識を正そうとするのを気にせず、私が先を読み始めると皆黙って聞く。

確かにこれは、アーシャさまが書かれたものだ。

しかしその考察にはセフィラという、どんな種族よりも魔法に関して突き抜けた適性を誇る存在が寄与している。

それを統制下において考察を導くことこそが、アーシャさまの才能なのだ。

「というわけで、霧を発生させて身にまとわせるという魔法の正体は、水属性と光の魔法の副次効果である熱を合わせたものであると考察します」

「え、何それ。そんなのあの皇子さま発表するの?」

「論文にしては考察足りないけど、面白いよねぇ」

「いえ、ハリオラータを釣る餌にします」

アーシャさまに言われたままを言うと、全員が固まった。

私ももちろん、言われた時には固まった。

「正直もったいないです。しかしこれ見よがしに置いておいて、ハリオラータが触らないと思いますか?」

全員が首を横に振るのは、自分だったら触るからこそだ。

「これを元に版を作り、印刷物として製造。そして印刷した紙をあなたたちにはハリオラータの目につきそうなところに潜ませてもらいます」

印刷物なら版を押さえなければ意味がないため、紙は置いて行かれる可能性が高い。

その紙こそアーシャさまが求めるもので、ハリオラータが触った紙さえあれば、そのハリオラータがどう動いたかを後から追えるという、そんな罠の仕込みだった。

「さらに、この紙を置く場所は、あなた方の研究室他、ハリオラータが忍び込みそうな学園内部でお願いします」

ヴィーたちはまた驚いた様子だが、今度は見てわかるほど疑問を顔に浮かべている。

「ハリオラータの言動から、九尾に対しての興味関心も強いものと思われるそうなので」

他が納得の表情を浮かべる中、一人実感がない顔をしているヴィー。

錬金術科に行ったことで、今まで標的にされなかっただろうが、今回はそうもいっていられないのだった。