軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話82:ストラテーグ侯爵

左翼棟で会った後、改めてユーラシオン公爵と会談を持った。

場所は私の屋敷だが、ストラテーグ侯爵家ではない。

私用で使うために帝都に購入し、表向きはゲストハウスとして使っている場所だ。

「あれはいつからだ…………?」

「最初からだな」

ユーラシオン公爵が単刀直入に聞くので、私も手短に答えた。

私の答えは予想していたらしく、お互い無表情に見つめ合い、そして同時に息を吐く。

「七歳頃からあれか」

「いや、宮中警護からの報告では三歳頃、発語がはっきりしてきたあたりからと聞いている」

さすがにそこまでは予想外だったらしく、想定を変える様子をみせた。

さすがに大人を翻弄するあの言動が生まれつきとは思えないが、私もユーラシオン公爵も、あの人格形成には悪影響しか与えた覚えがない。

「生まれつき周囲の状況を客観的に見ていたようだ。その結果、目の前にいない相手のやり方を想定して動くことを覚えた」

「はぁ、それもいつから?」

「あまり貴殿と変わりはない時期だ。ただ、宮中警護をつけているという立場上、その後に関わる機会が多くなってしまった」

お互いに小さく息を吐く。

ここでの話は、ルキウサリアを含むもろもろの調整もやった後のこと。

血縁や姻戚は強く、それと同じくらいに強いのは共通の受益者であることだ。

その辺りのすり合わせと、今後の足並みに関する交渉などを行った。

そうして必要な話を終えて出たのが、本性を現した第一皇子に関しての問い。

「最初からとなれば、わかっていて左翼棟に囲われていたと?」

「活動範囲の狭さから、常識的なところが足りない点はある。しかし、自らに降りかかった事態に関しては、複雑な人間関係など知らないからこそ、本質を捉えている」

「…………派兵は?」

「自身を排する構えで、両公爵が手を組んだことを理解し、最初から一年で戻るつもりでいた」

十一歳の子供に利用された、その事実にユーラシオン公爵も言葉もない。

「ただ、ご本人曰く、近衛の反乱もホーバート領主の暗躍も、サイポール組の抵抗も全て成り行きだそうだ」

「成り行きであれほどのことを為済したと?」

「そう、為済ます。それこそ、くず鉄から金を生み出すようなことを、する」

「そう言うだけの実例が、他にも?」

ユーラシオン公爵に聞かれて、疲れた笑いが漏れる。

思えばそうと確信したのは、派兵の一年ほど前のことだった。

「大聖堂での事件があっただろう?」

「あぁ、あのエデンバル家と犯罪者ギルドの…………まさか?」

「そのまさかだ。犯罪者ギルドを潰したのは第一皇子だ」

「無理がある」

「私もそう思って調べた。調べたが、今日まで尻尾を掴ませない。ただ結果を見せるだけ。あの方は、誰に見つかることもなく宮殿の出入りができている」

「それは…………」

私の責任問題にもなるが、誰にも証明ができない事実だ。

言っても情けないだけだが、第一皇子の異常性を示すにはわかりやすい。

何故ならユーラシオン公爵も長く左翼棟に人を配置しているのだから。

もちろん第一皇子が左翼棟を離れるどころか、宮殿から出ているなど今日まで知らなかった。

「それと、聞いただろう長距離の連絡手段、あれを作ったのは派兵の時になる。魔法の家庭教師がひな形を作り、それを改良。実用に足るものをすぐさま作ったそうだ。未だにそのひな形を、そのまま使うにもルキウサリアの知者たちが苦慮しているというのに」

「そんなことが、できる、錬金術師、か…………」

「言えることは、あの方は困難が降りかかるまでは大人しい」

ユーラシオン公爵の眉間に、深く皺が刻まれた。

かつては私もそうなったものだ。

本当に何故そうなるという疑問と共に、どうしてそうしたという不可解さが襲うのだ。

派兵されるから存在しない連絡手段を突然作り出し、しかも即座に実用可能に調整。

そんなこと無から有を作り出すような、錬金術という詐術か手妻にでもだまされたような気分になる。

「そしてその異常性は、十歳頃陛下に露見した」

「まさか、親にも隠して?」

「言ったとおり、生まれつき周囲を見ていた。そのため、決して皇帝の不利になることはせずにいた。今では、不利になることはしないまま、有利に運ぶことを覚えている」

恨み言を言えるなら、そんな手管を覚えるほど刺激しないでほしかった。

本当に大人しい時には大人しかったのだ。

いや、それすら敵に隙を作らせる手管なのだろうが。

後悔よりも、今は手を組むためにも危険を知らせなければならないな。

「第一皇子の異常性に、ルカイオス公爵はすでに気づいている。皇帝周辺からの報告もあるため、気づきやすい」

「うむ。今回の件で第一皇子にほぼ単独行動を許していた。もしもがあってもかまわないという立場もあろうが、同時に実行すると言われて受け入れる程度の素地を知っていたか」

お互い目を見交わし、ルカイオス公爵の動きを出す。

「ルカイオス公爵との対話の中で、第一皇子が息子を庇ったと聞いた」

「漏らされたと見ていい。その上で狙うのならば、第一皇子との対立だ」

「さすがに本人が息子へ、なんの対処も必要ないと言っているとは思わなかったろうな」

ユーラシオン公爵は、呆れ半分に笑う。

もしそれがなければ、ユーラシオン公爵は一方的な借りを背負い込まされ、対応を決めなければいけなかった。

返す場を自ら作るために、第一皇子を追い詰めることもしていただろう。

そうなれば、今までの対応から仕返しをされる。

今回のことでも、対応の遅れで責められただろう。

ルカイオス公爵も一度政界を離れたことで、ぐらついているからこそ立て直す間の的、もしくは自身が弱った分政敵も弱めようと、第一皇子の利用を考えたか。

「ふ…………」

「何か?」

つい笑うとユーラシオン公爵が怪訝そうにこちらを見た。

知らぬ存ぜぬができたのだ。

ルカイオス公爵の予想以上に、第一皇子がユーラシオン公爵の子息に気を使った。

そのため借りなどないと無視することもできた。

実際そうした動きは全て第一皇子が独自にやったことで、ルカイオス公爵は噛めない。

学生として依頼を受けた形というのも、結局は金銭で解決できる範囲に落とせる。

「義理堅いなと」

ユーラシオン公爵は答えず、目を逸らした。

学生相手に金銭で終わらせることもできたが、第一皇子に会いに行って膝を折っている。

そうして義理は果たしたと示して見せた。

そこから今度はまた派閥に従う者たちとともに、政治的不安が根強い皇帝と対峙する。

そうした手順を踏もうとしていたのだ。

「今知れただけまだましか」

ユーラシオン公爵の言葉で、お互いに頷き合う。

「教会は錬金術師を名乗る皇子など認めまい」

「今回のことで軋轢のできたジェレミアス公爵も、教会側に寄っている。責めない手はない」

ジェレミアス公爵の不審な動きは、もしかしたらルカイオス公爵より上に立つことで、権勢を支える教会勢力の剥ぎ取りでも狙ったか。

「間違った技術で過ちを犯すのが錬金術であり、神は人を正しく導くことを良しとするため、錬金術を行う者には怒りの罰を下すという」

「あぁ、教会が禁じるお題目はそんなものだったな」

あの第一皇子がユーラシオン公爵に敬意を払うと言ったと、宮中警護から報告があった。

考え併せて何かしら錬金術を持ってるのは、ロムルーシの報告からも想像できる。

そんなお題目で教会から睨まれることを忌避していたからこそ、諳んじたのだろう。

「あんなものと思っていたが、存外真実があるらしい。間違った技術、か」

「あぁ、なるほど。確かに今あるのはどこか間違って伝わっているように思える」

それで言えば、第一皇子は正しく理解し誤らないよう忠告してきた。

もしかしたら扱いを誤れば、神罰の如き厄災と予見できるほどの何かがあるのか。

しかし私たちでは、そんなもの見通せはしない。

だからこそ、今後有効活用には第一皇子がいる。

教会のお題目で攻撃された時、それをかわせるだけの理屈を捻り出せるのは、第一皇子しかいない。

そして教会と敵対するならば、それはルカイオス公爵との対立でもある。

その時、ユーラシオン公爵がどう動くかも、私の身の振り方に関わって来るのだ。

「ルキウサリアも第一皇子の立場と才能には苦慮している。そこは理解してもらいたい」

「人工ゴーレムに強化ガラスというだけでも、扱いあぐねることは想像できるとも」

ユーラシオン公爵も結果は知りたいらしい。

それは利益にもつながる上で、古い技術の正解を知る唯一の機会だ。

第一皇子が留学から戻るまでにはと期限を示したのも大きいだろう。

未知の技術を入れるならば、結果を出さなければならず、期限もない試みは現場から反感を買う。

できれば今後も、そうして上手く刺激せずつき合ってほしい。

なおかつユーラシオン公爵とも対立しつつ、共倒れなどという先行きの見えないことがないようにしてくれないだろうか。

そうすれば、ストラテーグ侯爵家はどちらかの派閥を選ぶ必要もない。

このストラテーグ侯爵の名を息子に問題なく継がせられるまで、平穏であってほしい。

私は密かに、年下の公爵にそんなことを願っていた。