軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402話:友人の怒り2

僕は怒ったソティリオスに襟首をつかまれたまま、抵抗はしない。

なんだかそれが余計にソティリオスを怒らせたようで、表情が険しくなる。

ソティリオスを止める気はないけど、僕は片手をあげて周囲に示した。

その合図で動こうとしてたヘルコフとイクトが止まる。

(なんか他の宮中警護が変な顔してる?)

(大貴族の嫡子相手にも、主人の周囲が手をあげる気であることに驚愕しています)

あー、うん。

荒事に巻き込まれぎみな騎士のテオも驚いてるんだけど、おかっぱだけちょっと驚いたくらいで弱いのはなんだろうね。

(皇太后運んだ後だからかな? でも、陛下も止める様子はないね)

(男同士、友人なら喧嘩くらいはするものと思っています)

そこは育ちの違いなんだろう。

というか、父から見たら僕とソティリオスは友人と言えるらしい。

それはちょっと気恥ずかしいけど嬉しさもある。

そうしてよそごとを考えていたのが、すぐ近くで顔を合わせるソティリオスにも伝わってしまった。

歯噛みして、余計に険しい表情になってる。

(あ、余計に怒らせちゃったか)

(相手にされてない悔しさが、怒りを強めています)

セフィラの指摘に、僕は向き合うことを告げるため声をかける。

「騙してたから、怒りはもっともなことだ。言いたいことがあるなら聞く」

無礼とか気にせず言えってことを、ユーラシオン公爵にも聞こえるように。

けどソティリオスは余計に口を堅く引き結んでしまった。

そうなると、僕から言うことは説明しかないんだけどな。

ソティリオスもらちが明かないことをわかってるみたいで、意を決して口を開いた。

「…………そうして、鈍いふりで今まで何をしていた?」

「いや、とくには?」

「嘘を吐くな」

断定した上で、少し考えたソティリオスは端的に突き付けてきた。

「ハドリアーヌ王国一行」

「あぁ…………」

「テスタ老」

「えっと…………」

「道中含めた入試」

「その…………」

「トライアンでの事件」

「うん…………」

「ロムルーシでの対応」

「うぅん…………」

「ルキウサリア王国で行われてる移動手段の開発」

「まぁ、うん…………」

そうも的確に上げ連ねられると、困る。

そしてソティリオスも、それ見たことかと睨むように視線を強めた。

うん、第一皇子が僕だって繋がると、アズロスの行動も含めて裏があると思うわけだ。

そうなると、事件が起きたあれもこれも疑わしくなるよね。

実際裏があるわけだけど。

「何をしてた?」

ソティリオスが圧を強めて改めて聞く。

僕も言ったからには、両手を挙げて降参しつつ答えた。

本当は父や弟たちがいないところが良かったけど、しょうがない。

これはもう身から出た錆だ。

「ハドリアーヌ王国一行の時は、第一王女が皇太后と近づく動きがあったんだ」

「聞いてない」

「うん、ソティリオスが対応してたニヴェール・ウィーギントが橋渡しでね」

「言わずに投げたのか」

すごーく怒ってるけど、これ答えてたら質問に答えられもしないな。

絶対もっと怒るから、話が進まなくなる。

「テスタは、錬金術に興味を持ったから、ちょっと教えて親しく?」

「帝国への同行も画策したのか」

「あれは僕が学んだのが帝室図書館と聞いてのことだよ」

「つまりは興味を引いたからだろう」

そのとおりなのでまた話を進めることにする。

「入試の時の事件は、たまたまだ。怪しい人に気づいただけ」

「何故気づいた?」

「う、えっと、武器持ってて動きがおかしかった?」

疑いの目を向けられて、僕はさらに話題を移す。

「留学の途中でトライアンの事件に遭遇したのも、完全に偶然。僕も慌てたよ」

「私が攫われた時、なんで前に出た。私が突き飛ばさなければ攫われていたのはそっちだ」

その言葉に、別の場所から僕に視線が刺さる。

「いやぁ、その…………」

「自分が攫われたほうが相手のアジトを特定できるとでも思っていたか?」

ばれてる。

そして家族から刺さる視線も強くなる。

「でも、実際どうにでもできたでしょ?」

「…………第一王女を邪魔する動きをしていたな。なら、第二王女と結託したのか?」

「あー、えー、利害の一致?」

そこもばれたかぁ。

そして第二王女ナーシャとの共謀は言ってなかったから、父からも視線が痛い。

僕が黙るとソティリオスのほうから答えを要求してきた。

「ロムルーシで、イマム大公の手伝いをしたあれはなんだ?」

「そこも偶然、というか、そもそもそこに巻き込んだのそっちじゃないか」

「九尾」

「あれ、本当に初対面だし知らなかったから。できることをしたに過ぎないよ」

まさかのヨトシペが仕込みだと思ってるの?

確かに僕の家庭教師は九尾の一人だけど、ウェアレルは双子のヴラディル先生以外とは連絡とってなかったって言うし。

何より仕込みにしてもあんな妙な状況、どうやったら用意できるって言うんだ。

さすがに僕もできることとできないことがある。

とは言え、その後のイマム大公が抱えた問題解決には、自主的に参加もした。

ただ本当にロムルーシでのことは、何かを企図したつもりもない。

ルキウサリアから発した錬金術の枝葉についても、あの時まで知らなかったんだし。

興味関心の末に、解決方法探れただけだ。

僕の意図を睨むようにして探りつつ、ソティリオスは続けた。

「近年ルキウサリアで開発された移動手段も、お前か」

「い、いや、錬金術の古い技術で、かつて使われたものを話しただけだよ」

「言い方がおかしい。転輪馬と天の道、どちらかだけというわけではないんだな」

鋭い、と言うか、誤魔化し方読まれてるな。

「そこは…………ルキウサリアとの話だから、言えない」

国を相手に出して明言を避けると、ソティリオスもそれ以上は追及できなくなる。

そして悩むように一度視線を逸らし、覚悟を決めたように僕を見据え直した。

「留学の、帰りのことは?」

留学は第一皇子として今の僕がルキウサリアへ行く名目。

けどソティリオスが言うなら、たぶんアズロスとしてロムルーシへ行ったことだろう。

帰路に、ソティリオスは僕の協力への感謝として、メイルキアン公爵から継いだ秘宝について教えてくれた。

あれはソティリオスが信頼してくれた証だろう。

そして僕に報いようと悩んだ結果、最大限の厚意を示した。

それが実は第一皇子でした、なんて状況だから、僕がソティリオスに協力したのは企みがあってのことじゃないかと疑われてる。

本当に何も裏はなかったからそう思われるのは不本意だけど、騙してたんだから疑われてもしょうがない。

「僕は…………」

暴かれる形になってしまったからには、ただ否定しても疑いは晴れないだろう。

それでも誠意を伝えることは必要だ。

僕は襟首を掴むソティリオスに手を重ねて、逆にこっちから押さえこんで聞かせる。

「君が示した友情を裏切ることはしていない」

ソティリオス驚いたように肩を揺らした。

怒ってるせいか顔が赤い。

いや、普段よりも血色が悪いからそう感じる?

まだ無理な移動から回復しきれてないようだ。

「君がアズロスとして信頼し打ち明けてくれたことは、何処にも報告はしていない」

もう一度言って、ソティリオスは父のほうに目を向けた。

僕は頷いて見せる。

メイルキアン公爵の秘宝はもちろん、ロムルーシでの前イマム大公との密約。

もちろんユーラシオン公爵家の嫡子のことも、何もだ。

「…………私も交友に口を出すほど野暮ではない。何があったかはわからないが、アーシャからは何も聞いていないとも」

父も視線に気づいて、僕の言葉に嘘はないと応じてくれる。

それを聞いてユーラシオン公爵のほうが、こっそり息を吐いたようだ。

ソティリオスも僕の視線に気づいて父親の反応を察し、眉間がまた険しくなる。

だから思ったことを伝えた。

「少なくとも僕個人は、ユーラシオン公爵家として節度を持った管理と自制を示したことには敬意を払う」

僕の言葉に、室内の誰もが驚きに息を呑む。

僕の境遇を思えば、そんな言葉が出るはずもないからだろう。

だからこそ、ソティリオスたちも僕が何も言ってないことを確かに伝わったようだった。