軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364話:ルカイオス公爵の来訪4

ルカイオス公爵は父を皇帝にした政治の実力者。

そして次の皇帝の祖父となる人物。

「話すことがなかったのはそちらでしょう。そして、今僕に会って話す必要がある問題が浮上した。だったらその問題が最悪の事態になる前に解消すべきだ」

こっちも十年宮殿に住んで直接的、間接的に関わった相手。

ルカイオス公爵が今さら、僕個人をどうこうしようと考えていないことはわかってる。

問題は僕の第一皇子という身分だ。

隠し子から皇帝になった父から、正統性に文句をつけられることなくテリーが即位することが、外戚であるルカイオス公爵の政治的な方針。

政治的な安定のためにも、父より正統性が高いと言われる皇子に継がないといけないけれど、そこで長子相続を盾に僕を押し出す者がいる。

僕が継ぐようなことになったら、父以上に帝位の正統性と権威がガタガタになる。

それは帝国国内の混乱を招きかねない悪手だというのは、僕にもわかってたことだ。

「正直やりすぎだと思うことは何度もあったけど、父やテリーを押し出す上では全く邪魔をされなかった。ルカイオス公爵が動いたのはフェルの時だけだし、あれは服毒させられていた場合、真犯人の動揺を誘うとかそういうことでしょう。僕のことなんてあなたは最初から眼中にない」

言っても、ルカイオス公爵は笑顔のまま。

つまり否定もしない。

僕も今さらその辺りを見苦しく否定したり言いつくろったりするほど、みみっちいとも思ってない。

いっそ全肯定して、帝国や皇帝のために働けと言うくらい図太くて、目的は一貫してると思ってる。

(ただ、僕がルカイオス公爵のやり方に合わせるつもりもないこと、わかってるかな)

(主人が語るならば、出方を窺うためにも聞く心づもりです)

うん、もっと早く僕の前に出てきてくれてればいくらでも裏をかけたのにね。

政治の場を離れて会いに来るんだから、ルカイオス公爵という自身の名前と権威に僕を絡ませたくない姿勢は揺らがない。

その上で何を語るか、こっちも聞きたいところだ。

「こちらも視界の外で好きにしているんだから放っておいてほしいんだけど?」

「何、そう警戒されるな。老人の杞憂を晴らすだけの小旅行。お聞かせ願えるならば、留学を終えて、どうなさるおつもりか、お話しいただけますかな?」

記憶にあるのは、貴族が集まる中で僕を責める姿。

フェルがアレルギー症状に苦しんでいた頃のことだ。

ただその時もルカイオス公爵は僕を見ることはなく、皇帝である父に対して話してた。

「宮殿に戻るよ」

僕の答えにルカイオス公爵は全く動揺も見せずに返した。

「それはようございました」

「想定内なわけか」

僕と入れ替わりにテリーが入学し、帝都からいなくなる。

そこに第一皇子が戻ると、普通だったら帝位に近づくためと裏を疑う。

けど僕が見て来たように、ルカイオス公爵も十年僕の動きを見ていた。

その上でこうして大人しくしてたと言って見せてるんだ。

今さら無駄な疑惑をほじくり返して、時間を無駄にする気もないんだろう。

「精々害虫駆除に腐心してほしいね」

「おや、わしはもう引退いたしますことはお聞き及びでございましょう」

「どうせ戻るつもりでしょう」

とぼけるのを叩き返すと、ルカイオス公爵は笑みを深めた。

(あれ、どういう気持ちなの?)

(話がわかることを喜んでいます)

まさかの本心からの笑顔なの?

素直に喜びの笑みだったとか、それはそれで性格悪いなぁ。

つまりテリー不在の間に、僕という餌に群がる、将来テリーの政敵になる相手を排除する算段があるわけだ。

僕としてはやってくれる人いるなら楽できるとは思うけど、利用される形は面白くない。

「どうしてこう、邪魔でしかないのに利害が一致するんだか」

「目指す先が同じですので、自然の成り行きであるかと」

「わかっているならこれ以上面倒な真似はしないで」

「いやいや、左翼からでは見えぬこともありますとも」

引き篭もってるだけじゃ駄目だと、引き籠らせてる相手が言う。

わかりやすい煽りに、僕は冷めた目を返す。

たぶんその見えないことがあるから、こうして来たんだろうけど。

だったらさっさと本題に入ってよ。

「あなたはこの先、目を集める」

「断言するね?」

「こうして待ち構えられたのが、何よりの示唆でございました」

たぶん伝声装置のことかな。

表向きウェアレルの開発だけど、その裏に僕がいるのもわかってる。

あれの存在はいずれ世界を震撼させる。

けど僕自身が大きく表に出る気はない。

「ここへ来るまでも転輪馬、天の道と。一年であれならば、二年後帝都へ帰還される時には、さらに人の目に映る形での結果を出されることでしょう」

「気になるなら宮殿にある書籍をひっくり返すといい。天の道に至っては宮殿にある絵に描かれてる」

事実を言ったら、さすがにルカイオス公爵の眉が動く。

今までの不動の笑みが崩れたのは、ちょっとやってやった感がある。

「知っているだけの者と、知っていることを実現できる者は、また別なのです。どうやらあなたは実現させる道筋を決められる方であるのは間違いない」

「さぁ? 左翼棟からも出られない子供に何を期待してるのかな」

「今帝都に戻るならば、気にせず宮殿を歩けるでしょうな」

さらっと言われて、僕も思わず黙る。

つまりルカイオス公爵不在の今なら邪魔は少ない。

依然ユーラシオン公爵という妨害はあるけど、それでも僕を制限する力は半分だ。

ましてや僕の味方の父を直接止められもしない。

「…………宮殿で何がある?」

つまり、僕を自由にしても対処しなければいけないことがあるんじゃないの?

そしてこうして持ちかけるってことは、僕というデコイが必要な可能性がある。

それはきっと、父か弟たちに害が及ぶような状況。

「大変な事件が起こった今であれば、安全は確保できたとして戻られても咎められはしないでしょう」

「藩屏であることを放棄したと言うなら、帝都に戻れないよう手を打つ」

ルカイオス公爵の言葉を遮って、僕は復権阻止を突きつける。

家族を守る立場だったから、今まで排除なんて考えなかった。

けど危険があるとわかって離れたなら、いっそ敵だ。

僕も本気で排除に動いて、いっそルカイオス公爵派閥を解体、皇帝派閥に吸収させる手を考える。

めちゃくちゃ父に負担を強いるから、本当はあまりやりたくない。

けど、訳もわからないまま利用されるなんてごめんだ。

こうして来たなら正面から来い。

違うっていうならさっさと話せ。

そうじゃなきゃ、いっそ信用ならない相手なのはよくわかってるんだ。

「では、一昨年起きた誘拐未遂事件について、どれほどご存じですかな?」

「入試の時のか。ニヴェール・ウィーギントが関与していたことなら報告は受けてる」

いつどこでなんて聞かないのは、僕と父が伝声装置でやり取りしてるから。

急かしてることが通じたのか、ルカイオス公爵は結論から言った。

「あの誘拐未遂は、先々において皇子を狙うものでした」

「実行犯はファーキン組。今回の競技大会でもテリーを狙っていた。でも、最初から殺害ではなく誘拐と聞いてる」

僕が直接見たわけじゃないように取り繕いながらも、喋りつつ考える。

ファーキン組のあれが本当に皇子狙いなら、一昨年からことは動いていた。

しかも目の前に現れた皇子自身には目移りしないで、令嬢を狙うという回りくどさ。

そうして外交官に近づいたとして、宮殿という場所でさらに悪さをしようと?

「宮殿で皇子を狙うなんて、まるでエデンバル家のようじゃないか」

「ご明察。今回の企みを考え動かす者は、エデンバル家のあの凶行を真似ようとしているのでしょう」

「つまり、宮殿で皇子を害すことで、現皇帝の権威を徹底的に貶めるつもりだと?」

僕の確認に、ルカイオス公爵はまた笑みを深めた。

前世の三十歳までの社会経験の分、僕とは話しやすいって思ってるわけか。

「その上で迂遠に手を伸ばしているのは、エデンバル家のように露見しないため。たださすがに一昨年前に失敗してから、遅々として計画は進んでいなかった模様。事ここに至って、焦れて今回の凶行でしょう。この身を狙って来た」

ルカイオス公爵領でのことだろうけど、言い方に引っかかりがある。

するとセフィラが勝手に相手の思考を読んで伝えてきた。

(一昨年、派閥の領地での問題で、その裏を独自に追っています。宮殿で事を起こす狙いとみて、気配があれば手の者を駆使して妨害し続けていたようです)

何それ、聞いてないけど父にも言わずに動いてたの?

いや、優しい父なら心配させまいと、報告されてても僕に言わない可能性もあるか。

「今回のことで相手に確信が持てました。トライアン王国に関与でき、その上でハドリアーヌ王女の死さえ歯牙にもかけない。労力を傾けてこの老いぼれを誰よりも排除したい者」

ルカイオス公爵は淡々と、最初と変わらない笑みを浮かべたまま語っていた。