軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

358話:音楽祭の出し物3

音楽祭の手伝いに、人手として錬金術科にもお呼びはかかる。

確保するためにも、まずは話しやすい就活生に話をすることにした。

「というわけで、ステファノ先輩には手に入った花の色を見て、その場で下絵の作成をしてほしいんです」

「わぁ、やったことないよ。でも面白そうだねぇ。花の大きさや形でも違うだろうし、色も偏ることもあるだろうなー」

「デザインによっては立体作れますよ」

はっとしてこっち見ると、ステファノ先輩は作成中の、たぶん宗教画を塗る手が止まる。

半裸の女性が踊ってる真ん中に、青い服の中性的な人がいる絵だ。

側で見張ってるキリル先輩が絵に向き直らせつつ、僕に声をかけた。

「当日に手が空いている者がいればいいのか? 舞台に呼ばれた者も、片づけを回避できれば参加も可能かもしれない」

「それもありますが、まずは必要な薬剤を作る人手。それと、参加する人には、参加する催しで使われた花の廃棄後の引き取り交渉に当たっていただきたいです」

そう言うキリル先輩は、貴族出で楽器が扱えるから舞台音楽ですでに声がかかってる。

「というか、ここにいない者は催しの参加者だな」

言われて教室を見ると、いるのはトリエラ先輩と竜人のロクン先輩、エルフのウルフ先輩。

見事に就活生の平民組だ。

「ワンダ先輩は?」

思わず聞くとロクン先輩が笑って言った。

「歌だよ、歌。歩けば転ぶし、躍らせればぶつかるけど、高い位置に据えて動かさずに歌わせるだけなら失敗しないんだ」

「オレスは手先が器用で暗記は得意だから、扱いの難しい楽器任されて演奏会。なんで錬金術科にいるんだって言われてたな」

ウルフ先輩が軽く手を振って見せて言う。

こっちだと上のジョーと張り合う、どうしようもない人扱いだけど、学園一のラクス城校の試験に受かってるから、勉強できる人たちではあるんだよね。

その上で音楽的教養があるとなれば、貴族としては全く問題ない。

「念のために聞きますけど、成績悪くて参加できない人とかは?」

聞いたらその場の全員がウルフ先輩を見る。

どうやら就活生の中では、一番成績が悪いらしい。

軽く点数とか聞いてみたけど、うん、僕のクラスメイトのほうがまずいな。

補欠入学だったラトラスとネヴロフはもちろん、文化が違って勉強だけをしてきたわけでもないウー・ヤーも先輩たちに比べると点数が下だ。

「というか、僕がまずウルフ先輩と同じくらいですね」

「逆にいろいろしてる上で、他の人にも働きかけてそれがすごいと思うよ」

トリエラ先輩がふるふると首を横に振ると、ステファノ先輩も頷く。

「君たちは、紙の上での成果より、やって来たことのほうが大きいからねー」

「まさかアクラー校生がこんなに静かになるとは思ってなかったな」

ロクン先輩も羽毛の生えた手を振って窓を見る。

ウルフ先輩は僕の肩を叩いて来て、ウィンクしてみせた。

「というわけで、何かするなら手伝うぜ。…………そういう仕事なんでな」

卒業したテルーセラーナ先輩関連、竜人の後輩、アシュルを巻き込むならってことか。

「では、こちらにいる方々で、参加する先輩たちの出し物先に、花の種類の確認と廃棄の交渉お願いします」

先輩にお願いして、次は新入生だ。

「やぁ、今話しいいかな?」

新入生の教室へ行くと、運よく全員いる。

中には帰り支度終わってる人もいるけど、ちょっと帰るのは待ってもらう。

うん、懇親会のことがあるせいか、すごい警戒されてるなぁ。

「音楽祭で、錬金術科で催しする許可とったから、参加呼びかけに来たんだ」

「今度は何をするんだ、アズロス」

廊下から声がするから振り返ると、ソティリオスがいた。

珍しく今日は間がいいね。

「ちょうどいいところに。ソーにも協力要請しようと思ってたんだ。一緒に聞いて」

言って、新入生の教室に入れる。

途端に、虎のウィーリャと、帝国貴族のトリキスが反応して慌て始めた。

「そんなご令息に対して!」

「ユーラシオン公爵家の?」

一度は僕を咎めようとしたウィーリャは、思いついた様子で虎柄の耳を立てた。

「ご令息からもその者に、大公へ返事を書くようおっしゃってください!」

それにソティリオスは、目だけを僕に向けてきた。

「いや、だって。内容がウィーリャに錬金術教えてくれってものだったんだよ?」

「はぁ!?」

当のウィーリャが一番驚くから、僕はほらねと言う代わりに肩を竦めてみせた。

それを見てソティリオスも頷く。

「イマム大公の本音としては、アズロスを招きたいんだろうが、その気はないんだろう?」

「環境が違いすぎて、僕がやりたいこととはまた方向性が変わってしまうからね」

「デニソフ・イマム大公にお声かけいただけることを軽んじるなんて!」

「ウィーリャ嬢、諦めろ。こいつは私の誘いも無下に断った」

「いや、普通にソーのところは家が面倒臭い」

はっきり言ったらこづかれる。

そこは僕も皇帝派に片足突っ込んでる風だから言えることなのに。

それに、ウェアレルのところに泊まってる時に、いきなりユーラシオン公爵から手紙とか本当心臓に悪かったんだ。

ちょっとぐらい牽制させて。

「はいはい、ともかく説明聞いて。すぐ終わるから」

僕はそのまま廃棄する花を使った花絵について説明をした。

「絵はステファノ先輩。花の回収と、花をもたせるための薬剤作り、そして薬剤で加工する手順が必要になる。その上で、展示任されたっていうソーには、廃棄する花あったらこっちくれないかなって」

「また妙なことを考えるな。だが、確かに花は予備も含めて多めに用意してある。昼の休憩中にすべて取り換えて飾り直しの予定だ」

ソーとしては午前の花は確実に廃棄で回してくれるという。

午後は客の入り次第だとか。

「ふん、そんなもの。廃棄物を並べて何ができるといいますの?」

ウィーリャは懐疑的で、トリキスもいい反応じゃない。

「奇抜さも、突出するとも思えない案ですね。そんなことをするよりも、例年どおり音楽祭に参加するほうが社交的には有意義でしょう」

「あれ、トリキスに関しては薬剤に興味持つと思ったのに」

わからない顔をされた。

「病気で何が怖いって、なんの病気か診断がつかないことじゃない? 花は嫌な言い方だけど植物の死体だ。それを色褪せず、劣化を遅らせ、その病気を知らない医者に見せて学ばせることができる」

言ってしまえば標本だ。

植物ではないものが、薬剤でどう変化してしまうかは未知だけど。

少なくとも液体が固まることで密封はできるから、冷暗所ならある程度もつはずだ。

「す…………っごい! すごい、そんなことできるの? あ、ですか?」

麦藁のような髪を跳ねさせて、ポーのほうが興味を示した。

錬金術というか、好奇心旺盛な性格がそもそもの反応の良さなんだろうけど。

その上で命を拾った薬術や医学に尊敬の念もあるから、そっちに貢献できることに喜んだかな?

「そう言われると、確かに興味深くあるのだ」

「では、ポーさまと共に参加いたしますか?」

竜人のアシュルが反応するとクーラも従う姿勢。

それに流されるように、ポー以外の富裕層二人も参加を表明した。

この二人は基本的に発言を慎んでる風がある。

中でも口数が少ないというショウシは、困った様子でウィーリャを窺っている。

「ウィーリャ嬢、どうやらイマム大公は手紙をやりとりして終わりとは思っていない。ならば、ご指示に従うのも一つ役目ではないだろうか」

ソティリオスが口利きしてくれるけど、そこは僕が止める。

「いいよ、参加しないと決めたらそれで。強制するつもりはない。ただこの学生生活は期間が決まってる。やるならやって、後悔しないことを自分で選べばいい。やりたいことをやっていいよ」

「…………なんの責務も負わない浮薄の徒が知ったように言わないでください!」

「あ…………ウィーリャ」

ウィーリャは怒って出て行ってしまう。

ショウシは僕に謝るように黙礼すると、追って行った。

他の新入生たちも驚いて反応できてない。

どうやら僕は、何かウィーリャの虎の尾を踏んだようだった。