軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

330話:ルカイオス公爵領5

沈没の大騒ぎの中、周辺住民たちも総出で遊覧船からの救出が行われた。

遊覧船に乗ってるハドリアーヌの人たちも気づいて大声で助けを求めてる。

その中で船頭はなおも抵抗して叫んでいた。

「こうするしか! ルカイオス公爵が、常道派が、うわぁぁああ! しょうがないじゃないか! どうしようもなくなったんだ、こっちだってこんなこと!」

支離滅裂だけど、単語を拾うとどうも恨み言にも聞こえる。

それを沈む船の上で必死に叫ぶ意味はなんだ?

小舟が出され、救出が始まるとさらにカオスになった。

我勝ちに助けられようとして、水中に落ちてしまう人が出たんだ。

豪奢な服を着ているほど水を吸って重く、泳げるかどうか関係なく沈む。

「もうこれ、縄少しずつでも引いたほうがいいかも」

「そうでげすね。柱折れないよう気を付けて引くだす。アズ郎は離れないでほしいどす」

護衛の上で注意され、しょうがないから僕も手伝うふりで近くにたったまま。

守られるからには無闇に動けないけど、頭を働かせるだけはしよう。

(どうしてこうなったんだろう? 狙いはテリーのはずだけど、騒ぐ犯人ってなんか)

(被害をこうむっているのはヒルデ王女。船頭は何か言わなければいけないことを思い出そうとしつつできずに混乱しています)

セフィラの補足に眉間に力が入る。

それ、また虚言強いられてるとかじゃないの?

けどどうしてヒルデ王女を狙うような真似を?

「ヒルデ王女の価値って…………」

「このルカイオス公爵領での騒擾でしょうか」

僕の呟きに近くのナーシャが硬い声で応じた。

目はしっかりと船を見据えて、いや、高い所へ逃げて沈む船の上で怯えてるヒルデ王女に向けられてる。

確執があるとは言え心配してるのか、あくまで事故だと言えるよう状況を記憶に焼き付けているのか。

聞くような藪蛇はしない。

「競技大会の犯人も、ルカイオス公爵を貶める発言をしていたそうですね」

「そうだね、その後で…………後で?」

テリーが狙われたんだよね。

テロでもそうだったけど、実際の本命はその後人目のなくなった場からテリーを攫うことで。

「…………騒ぎで目を引きつけて、他に本命がいるかも」

「それって、また第二皇子狙われるだす?」

ヨトシペの声に案内の修道士が反応し、すぐに寄って来た。

「どういうことだろう? 獣人の方」

「レクサンデル大公国でも大きな騒ぎを起こした裏で本命あっただす。これもそうかもしれないどす」

「す、すぐに屋敷に連絡を!」

修道士がすぐさま駆け出そうとする背中に、僕も声をかける。

「それなら僕の友達にも警戒を。彼らは実行犯の顔を見てるから!」

「わかった!」

ヨトシペが動けないし、このままヒルデ王女たちを見捨てるのもなんか違う。

今回はテリーの周囲に引きはがせない量の人員がいるとは言え、不安はある。

(セフィラ、行ってくれない? ここでの救出はもう人手をかけてやるしかないから見るものもないでしょう)

(主人も目撃者として狙われる可能性あり)

(だったら、ヨトシペとナーシャの側にいるよ。王女のお付きの側ならついでに守ってくれる)

(了解しました。走査して戻ります)

(異変があったらウェアレルに伝えてね)

そうして救助活動を眺めることになった。

ほとんどの人が船と一緒に水へ半ば沈む。

けれど幸い、二階建てだったから沈んでも上に立てば水の上に顔は出るという状態でとまった。

ハドリアーヌの人たちは数人溺れたけど救命され、ヒルデ王女も盛大に濡れた以外は五体満足で岸に上がる。

「ちょっと待てよ。あの船頭は?」

「水に濡れてて臭いわからないだす。あ、船の上で捕まえようとしてた修道士だす」

見れば濡れた修道士が仲間に何やら話している。

ヨトシペは耳を動かして、そちらに集中した。

「水に落ちて見失ったって言ってるどす」

「溺れたのか、逃げられたのか」

「危ないでげすからあーしから離れないでほしいでごわす。このまま集団で屋敷戻るほうがいいだす」

春の水はまだ冷たく、凍える人もいた。

付近の民家では全員を収容できないため、急いで屋敷に戻ることになる。

ただ、そうして戻った屋敷でも問題が起きていた。

「くっそ、逃げられた! 絶対あいつだったのに!」

ネヴロフが屋敷で起きた騒ぎに対してそう言って悔しがる。

僕は安全確保のためヨトシペに急かされてウェアレルと合流した。

「こっちでも何かあったの?」

「あぁ、そっちは遊覧船が目の前で沈んだそうだな?」

ウー・ヤーが知ってるってことは、情報源は報せに走った修道士からだろう。

不満そうだけど、怯えてはいない様子でラトラスが教えてくれる。

「同じ手口って言うから、皇子さまの所行こうとしたら、いたんだよ」

「ハドリアーヌ王女たちが使ってる辺りの部屋から、地下で逃げたファーキン組がね」

イルメが言うにはちょうど行き会ったという。

もちろん見ないふりなどせずに、数の優位がある上で捕まえようとしたそうだ。

「色違い先生が雷を当てたんだが、魔法の対処してたらしくて足止めはできなかった」

エフィがいうには、雷に打たれても走って逃げたとか。

ウェアレルはレクサンデル大公国でも邪魔したから、覚えられていた可能性は高い。

それを見て、クラスメイトは僕がやったみたいに物理も含めた攻撃をしたそうだ。

音で気づいて、屋敷を守る人員もすぐに駆けつけ。

何もできない内に相手は逃げたけど、一人を生け捕りにできたという。

ただ逃げるために使ったハドリアーヌ王女たちの部屋は、何処も小火程度だけど火事になったとか。

「王女が狙われたのではないかと言われていますが、まずは二人とも濡れていますし着替えをさせましょう」

ウェアレルが喋り続けそうなクラスメイトを制した。

言われて僕もヨトシペも何処かしら水が跳ねて服の色が変わってることに気づく。

ずぶ濡れの人たちと一緒に戻ったからだろう。

そして、着替えのために何故か衝立を挟んでヨトシペと同じ部屋へ。

いるのはウェアレルだけだけどさ。

「ウェアレル、さすがにこれは女性に対して失礼じゃない?」

「わはー、紳士だすー」

「ヨトシペ、恥じらいを覚えたのか?」

「あはー、若気の至りどすー」

ウェアレルの言い方酷いけど、何をしたんだろう?

いや、女性に対して聞いちゃいけないことな気がする。

というか、ヨトシペが気にしないならシャツだけだしさっさと着替えてしまおう。

ウェアレルがあえてこうしたのは、先に話しておくためだろうし。

(セフィラ、いる? どうなってたの?)

(錬金術科学生が言ったように、ファーキン組の侵入を確認。家庭教師に情報提供の上、誘導に手を貸しました)

どうやらセフィラが気づいて、わざと音を立てることでクラスメイトたちに賊がいることを気づかせたそうだ。

「小火は紙類が燃やされており、今のところ何が狙いだったのかは。王女二人どちらの部屋も同じくらいの荒らされようで」

「ニヴェール・ウィーギントの言葉を思えば、ヒルデ王女かな。それとも、この屋敷から別の場所に移させるために小火?」

「じゃあ、何か証拠隠滅されたでげす? だからすぐ逃げたどす?」

ヨトシペの予想もありだろう。

「遊覧船では船頭が実行犯で、またルカイオス公爵だとか常道派だとかを叫んでた」

「闘技場の時と同じですね。ファーキン組の欺瞞に利用されたのでしょう」

「王女は何に利用されたんでごわす?」

ただの証拠隠滅なら、利用価値なんて言葉にはならないはずだ。

とは言え僕たちにも答えはなく、着替えにしては時間をかけすぎて出ることになる。

さらに動きがあったのは翌日だった。

「我らがヒルドレアークレ王女殿下はルカイオス公爵の問題に巻き込まれた被害者だ!」

「この責任をどう取るおつもりか? 補てん程度ではお話になりませんぞ!」

ヒルデ王女の周囲が盛大に騒ぎ出し、ルカイオス公爵を批判し始める。

当のヒルデ王女はショックで部屋から出ないそうで、姿もない。

それなのに、ヒルデ王女のお付きばかりが息を合わせてルカイオス公爵批判を行うのは、作為を感じる。

どうやらテロからルカイオス公爵領への避難。

その一連のできごとには、テリーを狙う以外の目的もあったようだった。