軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

326話:ルカイオス公爵領1

レクサンデル大公国の競技大会でテロ事件が起きた。

犯人は死亡。

共謀を疑われる者のほとんども死亡。

少数は逃亡して、捕らえられたのは二人だけ。

そんな中、レクサンデル大公国は捜査と逃げた犯人の捜索にも手を取られる状態。

テリーの安全を考慮して、近くのルカイオス公爵領に避難することになる。

それに、僕たち錬金術科、そしてヨトシペも同行することになった。

「これはすごいな。広大で豊かな畑だ」

ウー・ヤーがルカイオス公爵領の景色に声を漏らす。

僕たちは幌馬車に揺られて、畑の中を皇子の行列の最後尾について進んでいた。

歩きのつもりだったけど、皇子を助けた相手だから相応の待遇ってことで。

実際は僕の正体があるから、歩かせるわけにはってところだろう。

(正直、寝不足だから助かったな)

(深夜に寝台で転がる理由の説明を求める)

セフィラがガタゴトいう車輪の音に紛れて聞いて来る。

けどそこは見ないふりしててほしかったな!

(感情の乱高下もあり、精神安定の作用もあまりなかったと推測)

(そうだよ、危機脱して思い返したら、もっとやりようがあったのにって後悔して恥ずかしくなったの!)

たぶんテリーが髪を引っ張られるという暴行にあってから、僕の視野は狭くなった。

頭に血が上るって言うんだろうけど、冷静なつもりで冷静でいられてなかったんだ。

今思うと、セフィラに魔法を使わせると決めた時点で、敵側の足を止める手段を考えるべきだった。

というか、砂埃立ってもセフィラは問題ないんだから、セフィラに全員身動き取れないようにさせるとかすればよかった。

テリーに危害が及ぶ状況で、臆病になってた気がする。

「麦畑、畦も整えてあって綺麗な畑だ。ルカイオス公爵領は生産しても外に出さないから、できは知らないけど」

真っ直ぐな畑の境を見て、隣に座ったラトラスが呟く。

どうやらルカイオス公爵は、自領で生産した穀物は領内に溜めるようだ。

どれくらいが税で持っていかれるかはわからないけど、この規模で領内にしか流通しないってことはないだろう。

そう思えるくらい、僕たちが進むのは整然と並んだ麦畑の中。

たぶんこういうのを牧歌的と言うんだろうな。

テロだとか暗殺だとか起きた後だというのに和む。

「街も規模こそ大きいけれど、落ち着いているのね」

「清貧に努める修道院が幾つもあるので、ルカイオス公爵領の者は信心深く善良と言われます」

イルメが辺りを見回すと、ウェアレルがルカイオス公爵領の特徴を挙げた。

この世界、信心深さが人品の評価項目になる。

そう言えば無宗教って答えるとまずい国も前世にはあると聞いた覚えがあった。

もしかしたらこの世界が特殊なんじゃなくて、前世の日本がずれてたのかもしれない。

まぁ、この世界的な基準で言うと、宗教施設に足を踏み入れたのが一度きりだったという僕は不信心まっしぐらだ。

旅の間も実は教会見かけたらみんなでお参りしてた。

それが普通なんだって。

帝国の宗教が根づいてないチトス連邦のウー・ヤーも、ルキウサリアまで旅する間に日常的なこととして覚えたとか。

「またお屋敷か? 皇子ってすごいなぁ。…………俺の村だとテント暮らしさせてたのに」

宿泊先の屋敷を見たネヴロフが、懐かしいことを言い出す。

あそこはしょうがないし、村人の住居よりも皇子専用の天幕のほうがしっかりしてたくらいだし。

「まぁ、皆さままたお会いしましたね」

「これは、王女殿下」

廊下で行き合ったのはハドリアーヌ王女のナーシャ。

たまたま前にいたエフィが礼をして僕らも倣う。

ナーシャはお付きもいるから簡単に状況を教えてくれる。

「私どももハドリアーヌ王国から見物に参っていたのですが、折よくお誘いいただき避難をさせていただいております。またお会いすることもあるでしょう、では」

どうやら争う妹のいるレクサンデル大公国より、帝国の権勢を握るルカイオス公爵に近いほうへ来たそうだ。

ルカイオス公爵側の思惑からすると、レクサンデル大公国へのマウントかな。

後はけっこうレクサンデル大公国から人が一斉に避難してるから、早い内に要人入れて、その後は封鎖。

安全確保とかをお題目に混乱から距離を取るつもりかもしれない。

頭数いれば封鎖してもしょうがないって言えるしね。

「おぉ、なんか広い部屋丸っと貸してもらえただす」

「女子の部屋のほうが狭いと言われましたが、こちらは六人ですし」

ヨトシペが男子部屋に来て言うと、エフィが比較的丁寧に応対する。

ヨトシペのことは、ウェアレルの同窓で学園の外部業者のようなものと説明してる。

春からは学園の研究に注力ってことも伝えた。

その上でエフィが貴族として上から行かないのは、ウェアレルやヴラディル先生の他、ユキヒョウの双子の先生と並ぶ人物としてヨトシペを重んじたせいらしい。

「さて、それじゃ第二皇子からの捜査協力の前に、私たちも聞きたいことを解消しましょう」

ヨトシペと一緒にやって来たイルメが言うと、何故か僕を中心に半円を描くクラスメイトたち。

「へ?」

「…………さすがに私も経緯を詳しく聞きたいですね」

ウェアレルまで参戦して来た!?

ヨトシペはなんかのりで、イルメの横にいて丸まった尻尾振ってるだけ。

するとウー・ヤーとエフィが口火を切った。

「まずは、はっきりさせておくべきだろう。そうじゃないと聞いていいのかすらわからん」

「そうだな。アズ、お前の家は帝国の暗部だったりするのか?」

「ぶほ!?」

「え、何それ?」

これは予想外だったらしく、ウェアレルが噴き出す。

僕は初めて聞く言葉に戸惑って聞き返した。

僕の身元を知るヨトシペは、面白かったのか尻尾の振りが早くなってる。

「アズ、知ってること多すぎじゃない? なんか犯人側のこともわかってたみたいだし」

「あと、上に報告とか言ってたしさ。公爵家のソーも助けたとかなんとか」

ラトラスとネヴロフも同意見で、どうやら僕の発言を拾って勘違いしたようだ。

秘密警察みたいな家系だと。

どうやらそういう都市伝説があるらしい。

反体制、他国のスパイ、危険思想を取り締まる秘密組織。

それを血族で行い、皇帝に忠誠を誓った闇の一族が、とか説明されるけど。

「違うよ。ないない」

思わず笑って否定した。

そんなのあったら父の側で見るはずだ。

何より父があれだけ後手に回ることもなかっただろうし、そんな皇帝至上主義的な組織は存在しないと言える。

もし存在してあえて父に近づいてないなら、それもそれで存在意義を失ってるし。

セフィラもそうした人物を検出したことはない。

その上で僕は左翼棟で放置の上、何度も抜け出してるから仕事できてないにもほどがあるって話だ。

「まずアズ郎は、どうしてあそこにいたのか一から聞き直していいどす?」

ヤバい家系なら聞けないと思ってたクラスメイトに代わって、途中合流のヨトシペが聞く。

「そうですね、私は安全確保をするように言っていたはずです」

ウェアレルの発言は、学生全員に向けての言葉。

あらましは合流した後に伝えたんだけど、僕を含め、どう説明しても叱られることがわかって苦笑いが浮かべた。

「えっと、たぶん、競技大会で騒ぎ起こしたニヴェール・ウィーギントは、様子を見に近くに来てたんだ。それをたまたま見つけて追ったんです」

そのまま追い駆けて地下の避難路まで。

僕たちの話を聞いてウェアレルは溜め息を吐く。

そしてクラスメイトたち曰く、よくわからないけど大変そうだから手伝ったと。

「あ、そうそう。上って先生とかのことだから。たぶん帝室にも届いてると思っておおげさに言ったんだよ」

「確かにあの雰囲気で言われると、なんかヤバいことになってそうだって思ったよね」

実際は皇帝直通だけど、言い訳に納得してラトラスは頷く。

「俺としては、都合が良かった」

「エフィ?」

何やらある様子で呟くのに聞き返すと、イルメが思い出したように聞く。

「そう言えば、あなたはこちらに来てよかったの? お兄さんがいたはずでしょう?」

「あ、姉って言う人もエフィの様子見に来てたな。様子見に行かなくて良かったのか?」

ネヴロフが言うのは魔法の集団戦観戦の前日、宿舎に戻る時に会いに来てた人。

エフィは準優勝を褒めてもらったと言ってたけど、それ以上に家庭の事情の話でもあったのか気落ちしてる様子があった。

「いや、レクサンデル大公国で事件が起きて、皇子を狙われた。それに全くレクサンデル大公国の人間が寄与していない状況よりもずっといい」

レクサンデル大公国に残るよりも、こうしてテリーを助けた一人として厚遇してもらってるほうが体面いいそうだ。

つまり、故郷のためにあえてついてきたってところ。

「さて、そうなるとトライアンで何かあった話はどうだ?」

「え、そっちも? えー、ソーも関わってるからなぁ」

ウー・ヤーが話を逸らすのに僕も乗る。

それなりの家の出身だから、家名に傷つけた立場のエフィの考えがわかるようだ。

家名に傷つけさせた側の僕としてもその話は耳に痛い。

だから、ふわっとファーキン組の話をして誤魔化したのだった。