軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316話:競技大会テロ事件1

ナーシャとの密会翌日、今日は魔法の集団戦を観戦する予定だ。

「すごい人だね。それだけ人気競技なんだ?」

「取れたのは一番安い席だったからはぐれないようにしてくれ」

場所は一番大きな大闘技場。

エフィはそう言ってネヴロフを掴む。

けっこう身長のあるウェアレルはともかく、僕たち錬金術科ははぐれないようにネヴロフの厚い冬毛を適当に掴んで対策した。

「ここは古い城砦だったと言ったか? 外壁の石積みがそうなのか」

「ずいぶん崩れているけれど大丈夫かしら? 中は木組みの観客席ね」

ウー・ヤーとイルメは人間の古い建造物に興味深々で辺りを見回す。

ラトラスは似たような建物を見たことがあったようで教えてくれた。

「確か野外舞台の作り方で、半分だけ壁にするのがあるんだよ。たぶんそれ模してるんじゃない?」

「あぁ、ありますね。本来半円で使うところを、もう半分の円を木造の客席で作っているのでしょう」

ウェアレルもそういう建造物を知ってたようで頷く。

僕が見る限りは、円の半分が砦の石造りで、もう半分は石壁と同じ高さに組まれた木造の席。

それを布で覆って中の木組みが見えないよう飾られてるんだけど、風でけっこうバタバタ揺れて布の間から武骨な木組みが見えてた。

「なんか立見席って言ってたけど、それどういうもんなんだ?」

「そのまま立って観るんだ。椅子はないから周辺からずいぶん押されることになる」

ネヴロフに答えるエフィは、気落ちした様子で溜め息を吐く。

「その様子だと何かあって立ち見になった?」

「あぁ…………そうだな。上位入賞だと関係者席の斡旋もあるはずだったんだが、後援者が俺の悪評を嫌って席を用意しなかった」

「第二皇子が今日観戦するからね」

「そういうことか」

どうやらテリーの観戦は知らなかったらしく、僕の言葉にエフィはまた溜め息。

それをネヴロフが笑ってみせた。

「あの皇子さま怒ってない感じなのにな」

「いや、たぶんあれ、嫌みか皮肉じゃない?」

「そこのところはどうなんですか? 色違い先生」

悪くとるラトラスに、ウー・ヤーが実際の知り合いであるウェアレルに振る。

「ただの兄君の自慢なので、重く受け止める必要はありませんよ」

「つまり、エフィが第一皇子を越えられはしないと思っているのね」

「く、まだ、まだ錬金術をやり始めたばかりなんだ。まだ俺は上を目指せる」

イルメの容赦ない言葉に、エフィはずいぶんとやる気だ。

それはいいんだけど、本当にやる気なら、たぶん僕に相談しないほうがいいんだよ。

今、エフィの手の内全部知ってる状態だし。

そんな話をしながら、僕たちは立見席へと向かう。

柵で覆われた踊り場のような場所で、階段状になってない広いスペースだ。

けど人数制限はだいぶ緩いらしくぎゅうぎゅうと次々に人が押し寄せる。

「ひぇー、すごい人」

「大丈夫ですか、アズくん?」

おっと、ふざけて声上げたらウェアレルが心配してしまった。

ちょっと満員電車思い出してただけなんです。

あと足元がけっこうギシギシ言ってるのが気になる。

「おぉ! 個人戦とだいぶ違うな!」

「わ、魔法派手だね。すっごい撃つ」

ネヴロフとその肩に登り上がったラトラスが、始まった試合に声を上げた。

魔法の集団戦もまたトーナメント方式。

六人ひとチームで、三人の代表が出て、三対三の対戦を行う。

「一列に並んで撃つなんて、選手はお行儀がいいわね」

「律儀に全部撃ち落としてるが、当たらないのは無視すべきだな」

イルメとウー・ヤーは、ネヴロフを盾にする形で観戦してた。

横一列に並んで向かい合った選手たちは、お互いに一斉に魔法を放ってる。

迎撃しないと魔法を食らって脱落するから、相手の隙を狙いつつ自分も守るために弾幕状態で本当に派手だ。

魔法によって生み出された光が散って、綺麗と言えば綺麗かもしれない。

「大技を出すための溜めに入ったな。そういう選手は狙われるが、そこを補うのもチームプレーの技量だ」

今までも見たことがあるだろうエフィが解説してくれる。

ただそれも周囲の熱狂の声によって消えぎみだった。

人気競技だから席も急には取れないし、この立見席でも入れた客たちはすでに興奮状態。

うん、さらに足元ギシギシ言ってる。

けっこう太い木材と縄使ってるの見えたから大丈夫だとは思うけど。

「おや、序盤で使うには消費の激しい魔法ですね。しかし、一撃で三人とも脱落です」

ウェアレルも結構楽しんではいるみたいだ。

一人の選手が溜めのある大技で大量の水流を発生させて、さらには蛇のようにうねらせ攻撃をしていた。

弱い魔法じゃ迎撃もできずに、相手選手たちは薙ぎ払われて終わる。

水流の派手さで観客は大盛り上がり。

ただ、放った魔法使いは膝を突いて疲労困憊。

ウェアレルが言うとおり消費が激しかったようだ。

(…………報告。弟皇子が主人を視認しました)

(そんなに面倒そうに言わないでよ。教えてくれてありがとう)

テリーに遊んでるところを見られた後、文句を言ったから教えてくれたんだろうけど。

テリーは石造りの観客席のほうにいて、ボックス席のような胸壁のある特別な観客席にいた。

そこにいると言わんばかりに白い馬の紋章が飾られてたから僕からすれば一目瞭然。

「これなら…………」

周囲は勝敗が決まって声を上げ、腕を伸ばし跳ねる者さえいる。

僕はテリーに向けて一度手を振ってみた。

すると、ボックス席のテリーが選手を讃えるように片手を上げて見せる。

そして辺りを見回すふりで僕を見たようだ。

僕も見えてることを知らせるためにもう一度手を振ってみせた。

「ふふ、ちょっと楽しい」

「ほどほどに」

ウェアレルに気づかれて、注意されてしまった。

だったらここは念を入れておこう。

(セフィラ、今の僕とテリーのやり取り気づいた人いる? あと、ファーキン組とか)

(家庭教師以外には、騎士が一人。ファーキン組の該当なし)

(あぁ、あの元宮中警護でしょ。だったら大丈夫。僕がいるのなんてわかってるし)

イルメも周囲の騒がしさで、セフィラの声は判別できなかったようだ。

というか、本当に騒がしいし立見席の観客は激しく動く。

次の試合は不調な選手がいるらしくヤジが多い。

前世にもフーリガンとかいたけど、スポーツ観戦って本当に熱狂って言葉が合うな。

あと、さすがにこれだけ密集した中で暴徒騒ぎは怖い。

ずっと足元きしんでるのを感じるのも、不安が膨らむ。

地震ほどじゃないけど、だからこそなんだかたわむのを感じるんだよね。

(この立見席大丈夫? 何処かもう少し頑丈なところないかな?)

(…………警告。木材に刃を入れた形跡を発見。ほどなく崩壊します)

音とは違うセフィラの声に、僕は息が詰まる。

同時に前世のニュースを思い出した。

群衆雪崩だ。

あれも何処かのスポーツ観戦で起きた事故のニュースだった。

さらに群衆雪崩が起きたパニックで、逃げる群衆がさらに通路で群衆雪崩を起こし被害が増大したという事例も。

つまり、事故が起きてからじゃ逃げる暇はない。

「みんな! いったんここを離れよう!」

「アズ、どうした?」

「説明してる暇はない!」

「今はアズくんに従いましょう」

慌てる僕に、ウェアレルがクラスメイトに強く言ってくれる。

その間も足元は不穏にきしんで、足の裏が浮くような錯覚さえある。

そしてよく見ようと前へ押す観客に逆らって離れるのが思ったより難しい。

「ともかく、この木製の足場から離れるんだ!」

幸い出入り口は見える範囲にある。

クラスメイトはウェアレルの言葉もあって、僕に従ってくれた。

ただそうしている間にも揺れは激しく、ヤジによってボルテージも上がっていく。

(警告。観客の動きが揃うと、圧が高まり足場の崩壊の要因となります)

(だとしたら、また大技が出る時だ。その時に一斉に騒ぎ出す!)

つまり僕たちは試合の決着がつく前に、この場から離れなきゃいけない。

試合に熱くなる狂騒の中、僕たちは必死に人波を掻きわけた。