軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

305話:学生道中5

手前の町で馬車を預け、レクサンデル大公国の競技大会が開かれる街へと向かった。

壁に覆われた街は、門に色鮮やかな制服を着た門番たちが見張りに立ってる。

街中にも旗が幾つも飾られ、人混みもお祭感のある活気があふれていた。

そこまではまだ期待感があったんだけど…………。

「おい、見ろよ。ハマート子爵のところの」

「ち、ったく。あいつ、よく来れたな」

僕たちは今、ヒソヒソと悪意を囁く中を歩く。

場所は賑わいから離れた、選手用の宿舎として借り受けられた一画。

一緒にいるのは選手のエフィ、そしてラトラス、ウー・ヤー、ネヴロフ。

ウェアレルとイルメは同じ宿に別室を取ってあるのでそこへ移動。

イルメの世話をするエルフが前のりして宿を確保しているとのこと。

「選手の手伝いの名目で、同室での起居を許されてるんだが。…………悪い」

「エフィが謝ることはないだろ?」

宿泊費が浮いているネヴロフがフォローするように言うけど、エフィは視線を落とす。

「いや、言ってる奴らの何人か…………もっと幼い頃に泣かせた覚えがあったり、年長者でも困らせた覚えが、あるんだ」

「あー、俺たちに挑んだ時の好戦的なの、元からだったんだ?」

ラトラスはその頃に認識したからだろうけど、僕は知ってる。

初対面の印象、確かにガキ大将かいじめっ子かって感じだった。

っていうか、名前知らなかった時にはいじめっ子って認識してたしね。

エフィ自身、素行が悪かった自覚があるせいか、ヒソヒソに敵対する気はないようだ。

ただ宿舎としてあてがわれた建物の前には、屯する人がいた。

しかもこっち見てヒソヒソの上、どく気がない。

「あいつらか…………」

「知り合いか? 眺めてるだけの者たちよりも害意が強い」

ウー・ヤーが囁くように確認すると、エフィは頷く。

「実家の直属の家の奴らだ」

つまり幼馴染みって辺りか。

その上でどうやらいくらか年上の人たちのようだ。

で、直属ってことはエフィの実家、子爵家か侯爵家の下の子供。

魔法の才能があってガキ大将だったエフィとなると、直接困らされたってことか。

その上、入学体験で第一皇子に手を出した際の煽りも受けてるんだろうなぁ。

「入学前に何かあった相手?」

僕が聞くと、そこは否定した。

「何も。そこは父と祖父が対応している。ただ、こうして代表として現われたことで言いたいこともあるんだろう」

家や国の代表者として、それなりの弁えた行動を求められるっていうのは、前世のオリンピックでもあった。

ましてや真面目にやってきて代表になったほうからすれば、問題を起こしたエフィは鼻つまみ者。

エフィが足を止めると、入り口を塞ぐ相手はあからさまに緊張を高めて睨んでくる。

そんな中で、エフィはあえて僕らをその場に止めて一歩前に出た。

それにラトラスとネヴロフが、僕に確認してくる。

「アズ、これって止めちゃ駄目なやつ?」

「なんかまた偉い人の面倒なあれか?」

「相手の出方次第だけど、けじめかな?」

そう言うと、ウー・ヤーが腕を組んだ。

「言葉で済む内は静観だ。そうでなければ…………」

そのとおりなんだけど、どうもそうはいかない雰囲気になったようだ。

きっかけは一緒に来た僕たちを、相手が取り巻きと言ったこと。

まだ偉ぶってるとか、反省がないとか言われたんだけど、そこにだけはエフィが言い返した。

「こいつらは関係ない。文句なら俺が聞く。だがここは競技大会のための場だ。俺に関わって時間を無駄にするくらいなら腕を磨くべきだろう」

「結局何も変わってないじゃないか」

「殊勝な態度もどうせ見せかけだ」

エフィの言葉に敵意が高まり、危うい雰囲気になる。

僕たち以外のやじ馬も気配を察して距離を取った。

「恥知らずなんて出すだけ無駄だ」

「そうだ、ここで俺たちが脱落させてやる」

「やめろ、選手として…………」

「うるさい!」

エフィが短慮を止めようとしたけど、それが相手を逆上させてしまう。

周囲への迷惑考えずに魔法でつぶてを作って飛ばしてきた。

けどそれはエフィにも届かず、身体強化を先に発動させたネヴロフが割って入る。

未だに厚い冬毛に覆われているから、礫なんてネヴロフの肌にも届かず阻まれて落ちた。

人間が当たれば怪我するような攻撃も、フィジカルに特化した獣人には効かない。

「これもう言葉で済まないってことでいいよな?」

「しょうがないか。選手同士で争ってどっちも失格なんて困るしね」

ネヴロフに僕が答えると、ラトラスが手を打った。

「あぁ、魔法で競うのに争うなって?」

「ふむ、なら自分たちはおあつらえ向きということか」

ウー・ヤーが言って小さな壷を取り出す。

それは粘性を持たせたエッセンスだ。

魔法が駄目なら錬金術って?

それも駄目な気がするけど、怪我するよりましか。

「そうだね。それじゃ、魔法なんて危ないもの使えないようになってもらおう。錬金術でね」

あえて言ったら、途端に相手が警戒を解く。

エフィに絡んでた二人の仲間らしい人がさらに二人増えたけど、それでも誰も侮りを浮かべた。

いっそ笑う僕に、エフィが責めるような顔を向ける。

「僕は争うことには素人なんだ。たばかることしかできないよ」

「神算鬼謀もたばかることを言うんだ」

魔法使えないなんてことはないって意味を、さらに返されてしまう。

その後は学園でやったことと同じ結果でしかなかった。

魔法を使う集中の隙にエッセンスをかけ、こっちは相手が使う魔法の属性を推測してエッセンスを投げるだけ。

それで魔法は不発に終わり、相手が勝手に混乱してくれた。

「どうして!? 俺の魔法が?」

「まさか本当に使えなくされた!?」

魔法は発動したら強いけど、そうさせないために先に攻撃する。

それは魔法の戦法が確立してるこの世界では常識だ。

だから逆に発動した魔法を止められるとは思ってない。

実際できないし、結果として不発だけど、エッセンスの影響で想像から曲げられただけ。

本人たちが操作を誤ってるんだけど、魔法使いからすれば魔法を途中で邪魔されたと思うようだ。

「どうなってるんだ!?」

「錬金術なんて知るか!」

相手からすればこんなことは初めてだし、ましてや未知の技術だ。

対処のしようがないと思い込んでしまった時点で、戦意は萎んでいく。

それを見て僕は手を叩いて注目を集めた。

「用があるのは君たちの後ろの宿舎だ。ただ道を開けてくれればそれだけでいい」

「これ以上魔法使いにも拘らず魔法が使えないなどという無様も晒さずに済むぞ」

ウー・ヤーが煽ってるのか、助言してるのか微妙な言葉を投げかける。

するとラトラスとネヴロフも笑顔で言う。

「少しは手の内わかって、儲けたとでも思ってよ」

「ま、避ける以外に何もできないだろうけどな」

僕たちが前に出ると、嫌がるように避ける。

それで勝負は決した。

僕たちはそのまま宿舎の中へ入ると、中には係の人員らしき人が立ってる。

「そう、止めないんだ」

思わず呟けば、肩を揺らして目を逸らした。

エフィはそれに溜め息を吐く。

「俺の悪名と顔はここじゃ誰でも知ってる」

そう言って手続きを手早く済ませて、あてがわれた部屋へと引き上げる。

ただ、部屋へ入ると僕たちに向けて指を突きつけた。

「だからって、無駄に俺のハードルを上げることをするな」

心底嫌そうに言われたんだけど、冤罪じゃない?

「あの反応なら隙はまだまだ多いだろう」

「そうだよ、エフィこそ緊張で警戒しすぎだって」

「エッセンスだけであれなら、本番もっと驚くぜ」

全く気にしてない別種族のクラスメイトたちは、いっそ励ますような言い方。

何故かエフィは僕を見据えて発言を待つ。

「えーと…………ブラフの手段が一個増えたね?」

「違う!」

どうやら違ったようだ。