軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295話:新たな錬金術5

手分けするはずが全員で鉱石を粉にしたら時間が余った。

「改めて見ると、よくわからない物が多いな。錬金術は」

魔法で道具や薬を使うこともあったエフィだけど、錬金術専用の道具にはなじみがない。

そんな発言を聞いて、ヴラディル先生が赤い被毛に覆われた耳を向けた。

「あぁ、そう言えば実験室を使う最初の注意もおざなりだったな」

エフィは編入生だけど、それとは別に、僕たちが初めて実験室を使った時の状況の特異さゆえのことだろう。

僕はここにあるものはほぼ持ってるから、特別説明を求めもしなかったし。

というか、ここに入りきれずに処分する分を回してもらったから、規格が一緒でいっそなじみ深いものばかりだ。

「フラスコだけでも相当な種類があるのは自分もここにきて驚いた」

「何を取り出すか、集めるかで形違うからね」

錬金術に馴染みがなかったウー・ヤーに答えるラトラスは、酒造りにも使うし、エッセンスにも使うからなじみ深いのかもしれない。

僕のやり方を間接的に教わったようなものだしね。

さらに言えばフラスコの何かを精霊にしようと、留学前は定期的にここを使ってた。

留学から戻ったら先輩たちと教室の取り合う状況でちょっと驚いたけど。

「ラクス城校に錬金術科があった時には、ネクロン先生も精霊の話を聞いたというわ。けれど今の就活生は聞いたことがないと。やはりここはラクス城校に行ってみなければ」

イルメは留学で離れてる間に落ち着いたと思ったけど、やること多いだけで諦めてなんていないみたいだ。

見慣れない道具も精霊関係だと思えば積極的に学ぶ。

「ラクス城校のほうはなぁ、今はもう別の教室として使われてるから」

「使われてるって、何に?」

ぼやくようなヴラディル先生にネヴロフが率直に聞く。

「魔法薬学の教室だな。排水設備があって、保管室があって、排煙設備に、耐火設備もあったから、ほぼそのまま使われてるはずだ」

ラクス城校にあった時の錬金術科は、けっこうしっかりした設備を持ってたらしい。

だからこそ、そこを少数しかいない錬金術科が占領するなと追い出されたんだろうけど。

僕は別のことが気になったので聞いてみる。

「魔法薬学って何をするんですか?」

「有名なのは魔力回復薬なんかだな。それも、今の薬学科がもっと高性能なの作ったが。あとは気を静めたり、逆に高ぶらせたりで魔法の効果に影響させるとかな」

僕の魔法の家庭教師だったウェアレルは、危険な魔法は教えず、どっちかっていうと魔法が何に使われるかとか、理論を中心に教えてくれた。

僕自身が使うよりもセフィラにやらせたほうがいいってことをわかってたし、僕が魔法を必要とする場面や、アイディアを出すためのヒントになる学習内容だ。

さらに薬術っぽいことは錬金術でしてたし、ディオラ経由で薬学科の最新の論文なんかも読んでた。

余計にウェアレルが僕に魔法薬学なんてものを教える必要性は感じなかったんだろう。

「魔法陣を書くためのインクを開発するのも魔法薬学だな。魔物の血を使うものもある。魔法の触媒としてより良い状態に加工するのも魔法薬学で、植物を調合して触媒になる粉を作ったりもする」

錬金術科の教師だけど、学園で学んだのは魔法なせいかヴラディル先生は指折り数える。

その間も、僕たちは思い思いに実験室の道具に触っていた。

特にエフィは知らないものばかりで、動き回ってる。

僕は手近にある懐かしいものを触ってた。

金属の箱にしか見えない錬金炉だ。

「これはともかく、こっちは見たことない形だ」

どうやら僕が貰った以外にも錬金炉には種類があるようだ。

僕の所には金属の箱に似た形状の錬金炉がある。

火を入れるところ、物品を入れるところ、温度を保つところと内部で別れてる造りだ。

他には前世のレトロな薪ストーブみたいな円筒型、フラスコを入れる専用の半球形型とこの実験室には揃ってた。

「それはなんだ、アズ?」

エフィが寄って来て、僕の手元を覗き込む。

質問の声が聞こえたヴラディル先生がついでのように答えた。

「錬金炉と言って、物質の変化を促進すると言われる特別な道具だ。…………実は俺も使い方がよくわかってない」

「え、そうなんですか?」

思わず聞き返すと、ヴラディル先生は恥ずかしげに耳を振る。

「いくつか前任の教師からレシピは継いだんだがな。ただレシピだけで使い方はわかるんだが、未だに新たに自分でレシピを作るようなことはできてない」

研究よりも錬金術科の存続に腐心してたし、本来複数の教員が割り振るところを一人でこなしてたんだ。

しかも学生は減る一方で、さらにはアクラー校へ出されてと、研究なんかしている時間はあまりなかっただろう。

「そもそもその錬金炉は人間が使うことを前提に設計されてる。起動には地、水、火、風の四属性の魔法を必要とするんだ。外付けで属性のある魔石で代用もできるんだが、魔石の調達も費用がかかるしな」

宝石を使い捨てにすることになるから、一回使うだけでもお高いことになる。

けどヴラディル先生の話は思わぬほうへと進んだ。

「それで第一皇子殿下に贈ったんだが、独自に使い方を模索しておられて。俺が知ってるのは金属の溶融や経過時間の短縮程度だったんだが、第一皇子殿下はそれで食品の加工に使われたとか。そういう話をしたら、トリエラ辺りがずいぶん気にして。あいつは魔法使えないからキリルとスティフに協力してもらってその錬金炉を最近使ってる」

どうやらこの錬金炉が、先輩たちが実験室を使う一因になってるらしい。

言われてみれば当たり前に使ってたけど、魔法が使えること、そして四つの属性があることが必要な道具だ。

「つまり、この錬金炉を設計したのは、人間なんだ。当たり前のつもりだったけど、改めて考えると人間専用道具なんだよね」

「そうなのか? 人間専用ということの何がそんなに重要なんだ?」

錬金炉を見下ろす僕の横から、初めて見るし触ったこともないエフィは錬金炉の外観を眺めるだけ。

「錬金術は人間が生み出した技術で、人間が暮らしよくするために工夫することから始まったんだなって。ほら、今の人間の魔法の始祖っていう大魔導士に通じるとか言ったら、少しはすごさわかる?」

「それなら、まぁ。実際今使われる魔法の基礎を築いた方だし。そう言えば、錬金術の歴史でアガシスという錬金術の始祖とか言うのを習ったな。ただあれは伝説だろう? 大魔導士と違って直筆のものも残ってない」

まぁ、千年以上も前の人だし伝説とか実在じゃないと言われてもしょうがない。

けど、アガシスは道具を作って技術を広めることをしたという。

それに前世、千年以上続く国に生まれ育ったから、連綿と長い時の間に続くことがありえないとも言えない。

「アガシスの実在が疑われる一番の要因は、偽書が多いことなんだよね」

「偽書?」

「そう、アガシス文書と言われる錬金術の指南書なんだけど。これが全部後世の全く関係ない人たちが作った本で。それが揃って錬金術の始祖アガシスが作った指南書の写本だって謳ってたものだから、アガシスって名前に嘘偽りのイメージがついちゃってるんだ」

「つまり、アズはアガシスが実在だと?」

「そういう名前で錬金術に関わった人、もしくは錬金術に通じる技術を生み出した人はいるんじゃないかな?」

偽書が生み出されたのは錬金術が広まっていた八百年くらい前。

その頃確かに科学に通じる錬金術の発展はあったんだ。

実際このルキウサリアでも一人の天才が生まれて錬金術を発展させてる。

それに歴史上、アガシスが暮らしたという土地は今も名前が残ってる。

「クーファーメル領って知ってる? 今も帝国にある、アガシスの暮らした地域と言われてる皇帝直轄領だ」

「そんな所があるのか」

そこが錬金術を修めていなければ継げないと規定されていて、さらにメイルキアン公爵家に伝わる秘宝とも関連付けされてた。

何かあると思わないほうがおかしいけど、それも今は昔ってやつだ。

話しながら、僕は何げなく錬金炉の金属の戸を開けた。

「あ、そこ開くのか?」

「うん、そう…………みたい」

持ってるとか言えないから、誤魔化して何もない中を覗く。

つられてエフィも興味を持って続いた。

そして、目が合った。

見た目はぎょろんと真ん丸な目をしたトカゲ。

けれど青く透明なそれは、僕たちの目の前で薄れて消える。

「…………なんだ、今?」

エフィは身を起こすと、目を擦って混乱のまま呟く。

僕はなんでもないふりで戸を閉めると、エフィも見間違いを疑うように首を傾げた。

つい見た目で火の精霊、サラマンダーなんて考えたせいで、掌が熱いあつい。

僕は握り込んで拳を作り、セフィラの訴えを見ないふり。

そして今のが何かを検証する方法を考え始める。

ネクロン先生が噂に聞いた錬金術の実験室に現れる精霊、トカゲもいた気がするなぁ。