軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

287話:大公国へ向けて2

マーケット七日目、最終日。

錬金術科の設置したテント前には、わざわざ見に来る人たちが集まるようになっていた。

「ここが動く絵を見せるというテントかしら?」

「斬新な魔法と聞いたが…………うん、何? 錬金術?」

「まぁ、話に聞いたとおりなんて綺麗なお菓子」

「ふむん、テスタ老が足を運んで望まれたというのはどれかね?」

テスタが見に来たのはまだマーケットが始まる前だったけど、ワーネルとフェルという皇子二人が足を運んだのはマーケット中のことで多くの人が見た。

そして五日目には大々的に音楽会に参加。

どうやらその時に、ワーネルとフェルはここで上映会をやっていることを大いに話して広めたらしい。

そしてテスタの名前も出るってことは、あっちの方面でも何か錬金術科の催しについてそれとなく広めてくれたんだろう。

「飲食物ご購入を希望の方は右に列をお作りください。上映時間まで今しばらくお時間がございます。お待ちいただくお客さまは左の列にお並びいただけますようご協力お願いいたします」

僕は前世の日本人のさがか、通行の邪魔にならないよう整理の人員として表で声を上げ続ける。

ゼリーや炎色反応で目を引くのは良かったんだけど、そこにテスタの噂を聞きつけてやって来る人も増えたせいでなかなかに人数が集まってる。

ボーロは炎色反応の実演と共に焼いてる上で、ゼリーは日ごとに原液を作る量が増えて、作画班にいたはずのヒノヒメ先輩が、人間冷蔵庫状態で裏で固める役をやっていた。

そこにテントの中からラトラスが飛び出して来る。

「アズ、交代!」

「…………わかった」

ラトラスと人員整理を交代して、僕は何か問題があったらしいテントの中へ。

「どうしたの?」

「アズ、絵が破損をしてしまったの」

答えたのはイルメで、ネヴロフとウー・ヤーはフィルムを外す作業をしてる。

破損したらしい部分がそれ以上崩れないよう支えるエフィが、状況を知らせた。

「最初の柔軟性がなくなってる。それに触ってすぐは熱を持っていた」

「あぁ、摩擦か、小雷ランプの発熱か。どっちにしても劣化してしまったんだね」

バッタの魔物の翅は、ただの虫の翅よりずっと長くもったと言える。

けど、それも限界に来たんだろう。

最終日にというのが痛いところだ。

「まだ午後は始まったばかりだ。ともかく破損個所の描き直しを。次の上映では破損した部分をつぎはぎしてやるしかない。回す速度と勢いを今までより慎重に調整しよう。キリル先輩を呼んで。ステファノ先輩に描き直してもらうようお願いしないと」

僕が指示を出すと、イルメがテントの裏へと向かう。

その間に、エフィには調理班から膠をわけてもらうようにお願いした。

フィルムをこれ以上破損しないように慎重に投光器から外して、絵の裏を雑に膠を接着剤にして補強する。

「光が当たらない部分ならこれで大丈夫。ただ回す時にずれが生じるから、それで巻き取りに失敗するとたぶんもっと破損する要因になる」

「この絵の部分だな? その前からできるだけゆっくり回すようにしたほうがいいか」

投光器を回す係をやっているネヴロフが前後の絵を確認しながら、何処からテンポを変えるかを吟味。

ワンダ先輩もやって来て打ち合わせを始めた。

「これは来年もするなら、保全方法も考えたほうがいいな。乾燥か熱が問題なら表面に油でも塗るか」

「そこは素材から考え直してもいいし、今日一日を乗り切ることに全力で取り組もう」

そんな予定外が発生もしたけど、マーケットでのアニメーション上映も終わる。

「お、おぉ…………」

売り上げは目標額に届き、問題ないはずなのに、ヴラディル先生と上級生、就活生たちが何度も売り上げの額を確認する。

「これはテスタ老の威光?」

「いや、威光で言えば帝国皇子だろ」

オレスとジョーは隣り合って普通に話してる。

思い出したら口喧嘩し始めるんだけど、どうやら素だと別に仲が悪いわけじゃないらしい。

つまり、わざわざ喧嘩してみせるのって、国を忖度した結果の仲悪いふり?

錬金術科でやる必要、一切ない気がするんだけど、そういうところが同級生の先輩にばっさり言い負かされる要因なのかな。

「おい、お前らいつまでも喋ってる余裕はないぞ。日が暮れるまでに片づけだ」

そこにネクロン先生がやって来て、僕たちを急かすように言う。

「そうだ、日が暮れてからじゃ、明日授業前に片づけの続きをすることになる。急いでまず竈の解体だ」

ヴラディル先生も信じられない売り上げから目を離して、生徒を急かし始めた。

ちなみにお金がある学生が集まる学科では、業者を呼ぶそうだ。

ちゃんとお金を集めて業者と契約して、さらに売り上げから必要経費として差し引いた上で、目標額に届くならありなんだとか。

「こういう祭って終わったら打ち上げしないの?」

「いや、明日普通に授業だから。やるところはやるらしいけど。その分の準備する暇、おいらたちにはなかったしね」

手伝ってくれる助手のウィレンさんに、顔馴染みの馬獣人エニー先輩が答えつつ手を動かす。

最後、マーケットの運営が集計した金額発表だとか、偉い人のねぎらいの言葉だとかをステージでやるらしいけど。

それはそれとして、そもそも全体で数の少ない僕たち錬金術科は、総出で片づけをするよりほかになかった。

そうしてマーケットが終われば通常授業という容赦ない学園の方針により、僕は翌日午前に皇子をやって、午後に登校することに。

ただ休憩も含め、今日の午前は屋敷で書類仕事だ。

「「いってきます、兄上」」

「いってらっしゃい」

双子は音楽の才能が注目を集め、ルキウサリアの王城に雇われた宮廷音楽家に是非と請われてお茶会に出席するため朝から出かけた。

そっちはルキウサリア国王のほうからも、注意あってるから悪い対応はしないだろう。

「あれ、この寄付のお願いって初めて見たな」

僕は書類にサインしつつ、初めて見る内容に手を止める。

面会も招待も軒並み断ってるから、だいたいはお断りの文面の確認だけ。

けど今回ウォルドが回してきたのは、教会からの寄付をお願いする文面への対応だった。

「身分のある方は往々にしてある請願になります。特にこの時期にはよくあるもので」

教会関係からの寄付のお願いは王侯貴族では珍しくないらしい。

特に今の時期、ルキウサリアにはマーケット目当てに富裕層が集まってる。

面識なくても、教会という大きな看板で寄付を求める者は少なくないそうだ。

実際、教会はこの世界の社会福祉をつかさどってたりするので、お金はいくらあっても足りない組織でもある。

僕がそういう慣習に今まで触れて来なかったのは、宮殿にいたから。

さすがに教会の看板掲げてても、冬を越すお金くださいと宮殿にいう人はいない。

つまりこうして市井に近い場所に住んだことで、初めて遭遇したんだけど。

「…………帝都で、諸派が暴動を起こしたって聞いたんだけど」

「それは…………申し訳ございません。一度調べ直し、どの宗派からの寄付依頼であるかを確認いたします」

ウォルドが謝罪の上で書類を引き、すぐに部下へ確認を取るよう指示を出した。

「僕も帝都から来た人からの話で知ったばかりだけど。その様子だと今の、常道派じゃない?」

「はい、常道派は最も大きな宗派ですので、このように挨拶もなく要望を出しはしません」

王侯貴族と交渉を持って寄付をお願いするくらいには、影響力がある最大宗派ってことか。

こうして相手が誰でもともかくお願いするようなのは小さな宗派らしい。

そして王侯貴族はそうした困っている者を救うこと、社会に貢献することで名声を得る。

いや、これで応えないと信心がない、正しくない人というイメージを持たれて、名声を失うこともあるとかなんとか。

「しかし帝都で問題を起こしたような宗派に寄付をする必要はないでしょう」

「けど、帝都とは距離があるし宗派が同じだけで関わっていないってことなら、寄付はやぶさかではないよ。いっそ、他の宗派と差をつけず同額を寄付してくれていいよ」

調べるには、相手や関係先をアポ取って訪ねて話をして、さらには登記を調べたりで裏付けをする。

そして僕に報告、許可で、ようやく資金を割くことになるんだけど、そうなると冬は厳しくなって冬に備える時間がなくなるだろうしね。

ウォルド曰く、常道派と並ぶ権威があったのは正統派という宗派で、僕の祖父の時代に正統派から別れた諸派が兵乱起こしたことで弱ってるそうだ。

で、父の代にはルカイオス公爵と結んだ常道派が隆盛。

ところがエデンバル家に利用されたせいで信用が失墜し、一度は凋落した正統派はもちろん、諸派までが自らが本流になろうとしてるとか。

「へぇ、僕が宮殿にいる時からそんな動きあったんだ」

「殿下は被害を受けられたので。あまり思い出されるようなことを話題にもできず」

元からルカイオス公爵派閥に冷遇されてるから、宗教のほうから距離を取ってた。

さらには大聖堂で襲われるという事件があったから誰も話題にもしなかったそうだ。

「うん、ともかく調べるのとは並行して、王都周辺の宗派には平等に寄付をしておこう」

寄付しないで名声落ちるのは気にしないけど、それが父や弟たちに波及するのは困る。

ルキウサリアの王城のほうにも確認して、ちゃんと活動実態あるかも調べてもらおう。

さて、そんな皇子らしいことをたまにはして、午後から登校だ。