軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

279話:虫捕りダンジョン4

学園が管理運営するダンジョンは、石で舗装されていた。

石壁に囲まれた通路や広場は完全に人工であり、そこに魔物が繁殖してる。

三十三階層の下りで、十一層ごとに、浅層、中層、深層と呼ばれるそうだ。

「石の通路は浅層までです。中層になると壁が岩肌になります。深層は水のたまった階層があったり、鍾乳石に覆われた階層があったりしますね」

経験者のウェアレルがそう教えてくれる中、僕らは今四層目まで降りていた。

なのにまだバッタに出会ってない。

というか、魔物もムジナ一匹だけだ。

「浅層は学生の出入りも激しく、魔物も住みにくいそうです。ですから、ダンジョンという環境特有の草木や岩石を採取できるそうですが」

ディオラ曰く、魔物を狙うなら中層かららしい。

浅層はあえて土や岩肌を露出させている場所があって、そこだけが採取ポイントだという。

「もっと早く進んでもいいか。えっと、五階と六階は真っ直ぐ階段目指すとして…………」

話を聞いてラトラスが計画変更。

今までは魔物の索敵をしつつ慎重に進んでたけど、潜るほうを優先するようだ。

ウェアレルが今まで言い出さなかったってことは、調べればわかることだったんだろう。

もしくは隊列の訓練はこれくらいでいいと見たのかもしれない。

「ネヴロフ、魔物調べた時にどの層に出やすいとか書いてなかった?」

「え、あ、うーん」

「学園の図書を当たったなら、書いてあったはずですが」

僕が聞いてみるとネヴロフは言葉に詰まる。

ウェアレルの言い方からして、やっぱり書いてあったようだ。

座って大人しく文字を読むということをしてこなかった育ちもあるだろう。

本人の性格的にも、すぐ動いて目の前の事象を捉えるようなところはある。

補欠とは言え入学できたから物覚え悪いわけじゃないはずだし。

たぶん覚えることを目の前に出さないと、重要性や優先度なんかはわからないんだ。

基本的に経験して覚えたことならしっかり理解してるし。

「ネヴロフ、今回は安全第一。けど、次からは魔物の生態についても覚えたほうがいい。ダンジョンに入るだけじゃなく、魔物と遭遇した時に対処もできるしね」

「お、おう。わかった」

色々言っちゃいそうだけど我慢だ。

ネクロン先生に学習の邪魔とまで言われたし、ウェアレルも体験して必要なことを実感して覚えるようにしてる。

僕が良かれと先回りするのは、たぶん経験にならない。

ラトラスの計画で六階まで降り、七階で様子見をしてみたけどバッタはいなかった。

「これは十階を目指してもいいかもしれない。環境が変わらないなら数もそう変わらない」

関係ないはずが真面目にバッタ探しをしてくれるソティリオスに、エフィも応じる。

「はい、兄からも浅層は十一階まで行かなければ代わり映えしないと聞いてます」

「地図も揃ってるし、自分はいいと思う。逆に戻りを考えると移動は最小限がいいだろう」

ウー・ヤーも賛成するけどイルメが忠告を入れた。

「それならまず、何処かで休憩をしましょう。余裕がある内に水や食料を口にして」

旅の経験と狩りの経験を併せ持つイルメに従って長めの休憩を取る。

そしてソティリオスの案を採用して今度は十階まで一気に降りた。

「うん、僕何もしてないな」

「不慣れなのですから、致し方ありません」

ついて行ってるだけの状態を振り返れば、近くのディオラが慰めるように言う。

みんな真剣にやってるし、暇だからってお喋りもできないのもあるけど、ディオラのほうが情報がある分、僕より貢献してるんだよね。

この世界特有のこととなると、僕はけっこう年相応の子供だったようだ。

そう言えば乳母のハーティがいた頃は、散歩だけでも色々知らないこととかあって好きだったな。

「アズ、手持ち無沙汰なら代わる?」

僕たちの話を聞こえてたらしいラトラスが、中衛から振り返る。

「いや、ダンジョンの設計思想考えるのも楽しいよ。例えば水場の配置は入る学生のためもあるけど魔物の繁殖も考えられてる。地図見るとあっちに低い位置から流れ出る水路がある。人間が使うには不便な水量と位置だけど魔物だと…………」

言って、地図にあった水路の位置を指すと、そちらの廊下から巨大な複眼が現われた。

「バッタだ、構えろ!」

「うわ、気づかなかった!」

「こいつ今まで動かずにいたんだ!」

前衛の三人が慌てると、戦意を感じたのかバッタがすぐさま逃げようと跳ぶ。

イルメとソティリオスは遅れて構え、逃げないよう矢と魔法で牽制した。

「翅優先で腹を狙うわ!」

「跳んで逃げようとしたら風の魔法で妨害する!」

「あ、口と足が濡れてるからきっと水飲んで来たんだ」

ラトラスが、退きながら気づいたことを口にする。

「水分豊富な草もないだろうし、水飲むよね」

「なるほど」

邪魔にならないよう距離を取る僕にディオラもついて来て頷く。

ウェアレルは最後方で全体を見つつ助言を与えた。

「軽いのであまり強く攻撃すると吹き飛びますよ」

言った側からネヴロフが一発入れて通路の奥へ飛ばしてしまう。

イルメが矢を射かけ、ソティリオスがあえて通路奥に火を放って逃げないようにした。

「ラトラス、周り込める?」

「やってみるけど向かってこられたら逃げるよ」

僕に応じて、ラトラスが身体強化の魔法で速さを活かしバッタの後ろへ。

するとバッタは火のことも嫌がって跳躍してこっちに飛んで来た。

というか、吹き飛ばされた距離を一足飛びに戻って来る。

お蔭で追おうとしてた僕たちは隊列が乱れた。

その隙に着地したバッタは、さらに中衛を越えて僕とディオラの前に飛び込んでくる。

「うわ、大きくて白いだけで本当にバッタだ」

だから攻撃手段なんて口元だけ。

あとはギザギザした足にひっかけられたら痛いくらい。

馬車の中で見た大型の魔物や、殺そうと迫って来る教会騎士に扮した犯罪者ギルドよりも全然危機感はわかない。

なんて思ってたらディオラが杖を構えた。

「動きを止めます!」

魔法で素早く口に火を打ち込む。

慣れないことで火の形はいびつになってたけど、すごいピンポイントだ。

見ながら僕はエッセンスの薬を出し、水の魔法をバッタの足元に放って薬をかけた。

途端に凍りつき始めるバッタだけど、力を入れればすぐに氷はくだける程度。

それでも確かに生じた冷気に、バッタの動きが鈍った。

水を氷にしたから、それだけで熱の移動が激しいのが効いたみたい。

「やっぱりバッタだなぁ。寒いの苦手なんだね。それで言うと、どうしてこのダンジョンは日もあたらないのに涼しい程度なんだろう?」

「倒してもいない魔物を前に悠長にしてはいけませんよ」

ウェアレルの注意に向き直ると、すでにネヴロフが横っ腹をがっしり掴み倒してる。

次いで、ウー・ヤーとエフィが息を合わせて首の継ぎ目に剣を立てた。

「バッタに似た魔物の中には、毒液を吐くものもいます。この種は口から垂らすくらいしかしませんし、とても不快な臭いがするだけで死ぬほどではありませんが…………」

思い出したのか言ってて顔を顰めるウェアレルに、ディオラも困り顔。

「はい、毒にも薬にもならないのに、臭いばかりが頑固で。一時期大量発生した時には、討伐の際にダンジョンに臭いが籠って一時封鎖しなければいけなかったとか」

ただのバッタかと思ったら、とんでもない害虫らしい。

そんな話をしていると、ラトラスに呼ばれて解体の前に翅の点検を求められた。

僕しか完成形がわからないから翅が使えるかどうかを見ないとね。

畳まれてる翅を取ろうとするソティリオスを制して、イルメが開くべき方向を見極めびらっと翅を広げて見せる。

「けっこう大っきいね。うん、弾力あるし絵も描けそう。翅自体は透明だけど、継ぎ目みたいな模様が入ってるな。でも元が大きいし、行けるかな?」

蝉の翅にもあるような、あみだくじに似た縦線があり、その間を横線が繋ぐ模様。

場所によっては黒味が強いけど、場所によっては完全に白い。

「個体差あるかもしれないから、これ捕って、もう三匹くらい捕って翅の様子を見たいな」

「おう、俺たちがドタバタしたから隠れてたバッタたちが慌てて移動する音が聞こえてる」

ネヴロフに、ラトラスとウェアレルも同じく音を拾ってるらしく耳が動いてる。

見ればディオラは一発入れたことでやる気になっているみたいだし、ソティリオスもイルメと連携を詰めていた。

僕が言うことじゃないかもしれないけど、王侯貴族の子女が生き生きしてる。

「じゃ、十階を巡ってバッタ探しをしよう」

僕の言葉で続行が決まったのだった。