軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

270話:惚れた腫れた5

屋敷でアーシャとしてヒノヒメ先輩と会って、僕は改めて側近たちとお話し合いだ。

「ヒノヒメ先輩、思いの外乗り気だったね」

「わかっていたことではないですか」

珍しくイクトが諌めるっぽい言い方するけど、切り替えすごかったのにも驚かされたんだよ。

「正直もう少し慎みあるかと思ってたんだけど、年相応ってことかな」

「そうですね。ニノホトの王族であるならば、結婚と政略を結び付けていてもおかしくはなさそうでしたが」

「いやぁ、ありゃ当人の性格だろ。これと決めたらわき目も振らねぇんじゃないですか?」

僕にウェアレルが同意するけど、ヘルコフからすれば、王族云々という話ではないと。

「留学前にはそれらしいこと言ってたんだけどなぁ」

「ですから、そこを横においてもいいと夢中になるもん見つけたってことでしょう」

そう言ってヘルコフは被毛に覆われた指でイクトを差す。

「すごいなぁ。人生賭けてるのか。ちょっと見誤ってたよ」

この世界、誰も生まれた時から人生の道は決まってる。

外れて自分の道を開く者は少数だ。

それで言えば、こうして学園を整えて別の道へ行けるようにしてるルキウサリアは先進的かもしれない。

ただ生まれに縛られるのは王侯貴族も一緒。

僕が皇帝の長子で、皇子をやめたら家族と交流もできないのも縛りがあるから。

なのに血筋とか家族とか国とか、すべて放り出してヒノヒメ先輩はイクトに求婚してる。

どうやら本気度合いを甘く見てたらしい。

「アーシャさまの場合は、しがらみが多すぎますので。あちらは現ニノホト皇の子であるわけでもないのですし。国を離れた故に、縛りがないも同じかもしれません」

ウェアレルがフォローするように言ってくれる。

「チトセ先輩はどうなんだろう?」

「ここまで仕えているのです。帰らぬ気概もあるでしょう。であれば、悪いほうへは止めるとしても、良いと思えば協力をする。あちらのほうが冷静で口説きやすいかもしれません」

イクトはヘルコフの指を見据えながら、押さえるべきはチトセ先輩だとアドバイスをくれた。

「よし、ともかく陛下にお伺いするために伝声装置の使用について予約を入れよう。先日、家庭教師として卒業生はどうかと聞いておいたし。向こうがやる気ならそれなりの対応を考えてくれるはず」

言ってちょっと見ると、イクトは眉間に力を込めてる。

「えっと、陛下に求婚のことは、言うけど? 大丈夫?」

「…………どうぞ、ご随意に。家庭教師を斡旋できるとなれば朗報ですので」

「それはそれとして大笑いしそうだなぁ」

ヘルコフは顎を擦りながら父の対応を予想する。

イクトも予想できていたようで、昔馴染みだからこその気安さと気恥ずかしさに眉間に深い皺が刻まれた。

そんなことがあった翌日。

僕が戻る前から予定されていたという錬金術科の集会があった。

新入生、上級生、就活生が強制参加だとか。

場所は送別会をやった学園の会場を借りてる。

集まった半数は人間で、もう半数は獣人とエルフと竜人がいる。

名簿の上では知ってたけど、海人はウー・ヤーだけで、ドワーフはいない。

「…………チトセ先輩、あの」

「病気だ」

「あ、はい」

気になって聞いたら端的に返されたので、それ以上聞けない。

つまり不治の病でヒノヒメ先輩は笑み崩れて、ルンルン鼻歌を唄って浮かれていると。

「え、何? 病気? 大丈夫か?」

「いや、もののたとえだよ」

素直に受け取るネヴロフに、ラトラスが察した様子で教える。

聞こえたウー・ヤーは驚いた様子でヒノヒメ先輩を見た。

「恋って、もしかしてあの海人の方と成就?」

「あら、おめでたいことかしら?」

イルメも反応するけど、チトセ先輩は疲れたように首を横に振る。

「違う。魚料理のレシピのことで第一皇子直々に礼を告げられた。その上で職の斡旋の話をいただいただけだ。恋やらなにやらの件に関しては一切触れられていない、第一皇子殿下からは、な」

「えぇと、就職は、良かったですね?」

「…………恨めしぃ」

表向き言ってみると、突然の声。

振り返ればヴラディル先生が不服そうに耳を下げている。

「俺は全然会ってもらえないのに。しかも帝都で錬金術師として働くとか。恨めしい、羨ましい…………」

わー、本気の滲む声。

「その、ご本人より周囲から近づいたほうが落ちるかもしれませんよ?」

チトセ先輩がそう言ったら、無言でヴラディル先生はウェアレルを指差した。

途端にチトセ先輩もわかったように頷きを繰り返す。

「会ったと言っても、こちらも色違い先生が間にはいましたので」

あれ? ネヴロフのつけたあだ名が上の人たちにも定着してる?

「なんですか、ヴィー?」

「おーまーえーがー」

「今日は必要があって集めたんですから、学業に関係のない話はしないでください」

ウェアレルはすまし顔で正論。

それでも治まらないヴラディル先生は、ウェアレルに肘鉄を入れる。

けれど予想していたように、ウェアレルは見もせずその攻撃を腕で受けて防いだ。

僕は心の中でヴラディル先生には合掌を送っておく。

卒業するまではばれるわけにはいかないので、ごめんなさい。

「じゃれてないでお前たちは働け、双子」

ネクロン先生はどっかり座ったまま声を上げた。

代わりに動いてるのは、助手の海人ウィレンさんと就活生の馬の先輩。

それもどうかと思うけど、僕たち新入生もウィレンさんの指示で用意された席に着く。

年齢的にネクロン先生が最年長らしく、ヴラディル先生とウェアレルは子供扱い。

というか学生と同じ扱いに見えるな。

「こほん、今日はまず新入生に冬の学園マーケットについて説明をする。その後に出し物の相談だ」

ヴラディル先生が切り替えて話し出した。

冬のマーケットは帝国の市井で行われる催しだ。

雪に覆われると外出さえままならないから、雪が降る前に必要な物を買い貯めしておくために盛大に市場が開かれる。

それを学園内部でも行うというもの。

「これも学園生活の一環。就活生でも学園に所属してるからには真面目に取り組め。でないと卒業延期もありだからな」

言いながらヴラディル先生が見るのは、帝都へ思いをはせるヒノヒメ先輩。

チトセ先輩も心配そうに横目に見てる。

うーん、これは本当に恋する乙女を甘く見てたな。

この反応は想定外だし、イクトが言うとおりヒノヒメ先輩よりチトセ先輩にまず話を持って行ったほうが良かった気がする。

まさか僕の人生経験の浅さがこんな所で露呈するとは。

恋愛でここまで駄目な感じになるとはなぁ。

「冬の休業に入る前の催しですが、さらにその前に期末試験があります。これに合格できなければ再試験ですので、冬のマーケットに参加している暇はありません。そのため、再試験となればマーケットで得られる評価点もないものとなります」

「面倒だから再試になるな。新しい問題用紙を作るという作業がこちらにも増える。そして再試に落ちると休業も返上になって、それに俺たちも付き合わされる」

ウェアレルの忠告の後に、ネクロン先生の本音が混じる忠告。

さらに睨むように集まった生徒を見て言い聞かせた。

「いいか、絶対に合格しろ。その上でマーケットには到達目標となる金額がある。そこも落とすな。惚れた腫れたと騒ぐ前に、足元を固めろ」

色々切迫した理由があるようだ。

マーケットは外から買い物客がやって来るので、人目に触れる。

その分名を売る機会でもあるそうだ。

そこで目標金額にも至らない、目につく物もないとなれば錬金術自体がさげすまれる。

「低く見られればそれだけ軽く扱われる。たとえ上からいい声かけられてたとしても、その後に掌返されることもあるんだ。気を抜くな」

言われたヒノヒメ先輩はショックを受けたような顔をし、その後は本気の見える凛とした表情になった。

「…………つまりレーゼンより目立てばその就職話はこちらに回ることも?」

「あら、それは美味しいお話ですわね。華やかなりし帝都、よろしくてよ」

なんか不穏なこと言う人間の先輩が複数いるし、ここは弟のために選択肢を?

うーん、事前に貰った名簿では、王族系の血筋はヒノヒメ先輩と竜人だけのはず。

主要国の王族って、宮殿に出入りできるようにするとしたら錬金術に対する偏見を少しはましにできるくらいには立派な看板だし。

イクトも決心しちゃったし、現状変更はなしでいいか。

今は初めての学園の催しに集中しよう。