軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262話:錬金術科の新顔2

ヴラディル先生のところへ、ソティリオスと留学のレポートをだしに向かった。

並んで廊下を歩いていると、ソティリオスが教室を振り返る。

「ちなみにあれはどっちだ?」

「あれ? どれ?」

「ハマート子爵の以外からの反応のなさだ」

「あー、知らないのか、興味がないのかって? …………たぶん両方じゃないかな?」

イルメとウー・ヤーは帝国出身じゃないし、ネヴロフは辺境出身だし、数年前までは別の国だったし。

ユーラシオン公爵家なんて、聞いたことがなくてもおかしくはない。

僕だって、前世大陸挟んだ西側の島国にある国の、女王と血縁のある公爵家なんて言われてもわからないし。

「あ、いや。一人帝都出身がいるから、そっちは知ってるかも? けど平民だから関わりないと思ってるかな」

「どの生徒だ?」

「猫の獣人のラトラス。帝都で商人してて、今は親がこっちに店だしてる。モリヤム酒店の支店長」

「それはディンク酒の? そう言えば、支店は猫の獣人ばかりだと聞いた。それに、錬金術を使って作っているというのも聞いたことがある」

逆にソティリオスには聞き覚えがあったようだ。

モリーが皇帝のサロンに招かれたし、テスタも気にかけてるように振る舞ってたし、ユーラシオン公爵家からするとディンク酒関係には注目してたのかもしれない。

「つまり、学園に入学できるほどの錬金術師が帝都にいたのか。いっそ我が家の捜し方が足りなかったと考えるべきかもしれないな」

「あ、違うよ。錬金術師じゃなくて、商人。各地を回って得た技術から新たに作ったんだ。で、より錬金術知るためにラトラスを入学させたんだって」

出入りしてた僕がディンカーと名乗って教えたんだけど、そもそも錬金術を使ってることは、父のサロンの時まで秘密だった。

公爵家が探ったところで、知れるわけがない情報だ。

それに子供の僕をドワーフと間違えて、技術の秘密を握ると勘違いして探ろうとした人もいたとか聞く。

誰も錬金術とは思ってなかったと思う。

その上で、実際に錬金術の影響を受けている蒸留酒のジンなんかは、モリーが見つけだしてくれてる。

だから誤魔化し交じりではあっても、完全に嘘ではない情報だ。

「それもメイルキアン公爵家に伝わっていた枝葉の一部か?」

「それは僕じゃわからないよ。ただ皇帝周辺に伝わるほどの大きな枝葉じゃないことは確かじゃない?」

僕は当事者じゃないふりをして推測を伝える。

「錬金術科教師は、その辺りの話はわかるだろうか?」

「そこも聞いてみたら? 確かアダマンタイトを手に入れて錬金術に興味持ったって聞いたし。アダマンタイトの入手先とか、枝葉に繋がってるかもしれないよ」

「ふむ」

ソティリオスがヴラディル先生に興味を持ったのは、たぶん僕のせいだ。

説明すれば理解できると言ったから。

そして実際そのとおりだった。

「うーん、そんな技術があったのか。すごいなロムルーシ」

「ヴラディル先生はロムルーシで錬金術学んだりはしてないんですか?」

僕の質問に、レポートから顔上げる。

「あぁ、両親が出会って生まれたのはロムルーシだが、物心つく前にエルフの文化圏のほうに移住した。後はドワーフの国にいたこともあるぞ」

思ったより大きく移動して育ったらしい。

とは言え、範囲は大陸の北西部限定。

子供時代をそうして過ごし、十四歳で入学。

以来ルキウサリアで暮らしているとのこと。

「何処で錬金術を学ばれた?」

ソティリオスも同席を許可されて、質問をする。

メイルキアン公爵家から錬金術の道具を継いでるとも言えないから、表向きは教養学科に出すレポートの補強のためと言ってあった。

「錬金術は入学してからだな。そもそも何かわからなかったから、入学してからアダマンタイトは錬金術の産物だと知ったんだ」

「あ、魔法学科卒業ですもんね」

「そのことアズに言ったか?」

おっと、これはウェアレル情報だけど、そのままでいいか。

「ウェアレル先生が魔法学科卒だと聞いてます。それにヨトシペも魔法学科だって」

「あぁ、そうだな。ヨトシペに会ったんだったな。…………怪我もなく、恐れられもせず。あいつもけっこう落ち着いたんだなぁ」

「落ち着いた? あれで?」

即座にソティリオスが疑問を差し挟む。

けど僕は別の疑問が浮かんだ。

「ヨトシペと長く会ってないんですか?」

「所属が魔法学科のままだからな。こっちに来ることないし、基本研究室のほうに出入りしてる。あとはもうルキウサリアにいない。何処かの山登りだ」

それでも時間が合えば会うくらいには交流があると言う。

それにはソティリオスも興味を持った。

というか、入学してから錬金術知ったなら、完全に枝葉云々の話通じないしね。

「あの破格の力は学生の頃からだったのでしょう? 学生とは言え、調べようとは思わなかったのですか?」

「残念ながら、エルフの血が濃いのか身体強化魔法はてんでな。教員の中には探求を志す者もいたが。結果的にヨトシペに振り回されて、何人も倒れただけだった」

「わぁ…………」

そんなの見てたら旧友としては手は出さない。

そしてヴラディル先生は魔法学科に通いながら、錬金術科にも顔を出してたと話す。

「あの頃には一学年三十人割ってて。俺が一人紛れ込んでも歓迎された」

「全体で百人弱って、多いですね」

「あの頃は頭数揃えるだけはしようとしてて、入試は笊だったんだよ。俺が教員になってからは、せめて意欲と錬金術への見識を求めて試験にしたんだが」

それはそれで定員割れで減る一方だったわけか。

「錬金術師の現状ではな」

ソティリオスはなんでこっち見て言うかな?

「だが、今も錬金術の本質が失われていないなら、意味はあったんだろう」

「本質、か。それを捉えてるだろう本当の天才は来なかったんだなぁ、これが」

ヴラディル先生は遠くを眺める。

でも、いるんだなぁ、これが。

ソティリオスいるし、絶対騒ぐからヴラディル先生にも言えないけど。

「そうだ、アズ。このレポート他にも見せるぞ」

「それはどうぞ。クラスメイトたちも気にしてましたし。何か問題がありますか?」

「いや、この俺が再現した小雷ランプと、こっちのイマム大公領にあった小雷ランプの対比図がわかりやすくてな」

地下を調べてオートマタは復活不可能だということがわかった。

完全に断線してるというのはセフィラがいるからこそわかったし、修理するには解体する必要があるけど、誰も再度組み立てることはできない。

それに電源の風力も確認して、もう長くは稼働しないこともわかった。

その上で、小雷ランプも知ってるものと違う様子だったから調べたんだ。

「あれは帝都にあったものとまた違ったので、興味が湧いたんです」

「そうなのか? 田舎にあったものと聞いていたが、帝都にも小雷ランプが?」

そう言えば、ヴラディル先生に送ったのは、乳母のハーティが嫁いだ先で埃を被っていたものだ。

けど僕が初めて知ったのは帝都の港なんだよね。

「夕暮れの港近くで他と違う光を見て、聞くと小雷ランプだと教えられました」

「あの不思議な明かり、帝都にあるのか?」

ソティリオスが知らないことで、ヴラディル先生も首を傾げる。

「そんな特殊な場所で使われているのか?」

「全然。荷運びが使うような酒場です。だから逆にソーは知らないんだと思います」

「アズロスはなんでそんなところに行ったんだ?」

一応貴族設定だからなんだろうけど、木っ端だからそのまま言っていいか。

「親に秘密で抜け出して遊んでたから」

「不良…………」

「よ、夜になる前には帰ったよ」

ソティリオスに言われて反論すると、ヴラディル先生が笑う。

「外泊したと言わないあたり、やはり育ちはいいんだな」

うーん、そうなるか。

というか、ヴラディル先生はやったことがある? それはつまり、ウェアレルも?

これは面白い話が聞けそうだ。

「レポートは採点して、もう一人の新任の講師と助手に見せてから、その後は教材としてでも使おうか」

「返してくれないんですか?」

「こんな研究資料他にないだろ。必要なら一旦返すから複製してくれ」

すでに口頭でルキウサリア国王とか、湖の学者たちには伝わってるんだけど。

「レポートにまとめる前の資料は自分で持ってるんで大丈夫です」

というか、助手って、どうやら人員は二人増えているようだった。