軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256話:ルキウサリアへ復学1

帰りは問題のあったトライアンは避けて、対岸のハドリアーヌ王国へ入港した。

旅客船は廻船ギルドの船で、国に根差した組織じゃないから、ギルドのある港ならどこでも入れるそうだ。

ハドリアーヌにも廻船ギルドはあるという。

そしてルキウサリアの学園の定宿はハドリアーヌにもあった。

時勢によって近づかないほうがいい場合を想定しているという、なんとも八方美人なルキウサリアらしいやり方に思える。

「あ、赤熊の旦那。ちょいと使いを頼まれちゃくれねぇか?」

船を下りる所で船乗りエルフがヘルコフに声をかけた。

船はこのまま新たな客を乗せて、エルフの国がある西の山脈の向こうへ行くそうだ。

「ルキウサリアの学園にいる奴への手紙を預かってですね。料金から差し引きこれだけの代金払う。土産物買う足しになる程度だが引き受けちゃくれないですか?」

「帰るついでってなりゃ楽なもんだが、受領書だとかは?」

「そういうのきっちりしてる相手じゃないならいらねぇいらねぇ」

ヘルコフに差し出されるのは五通の手紙。

なんとなく聞いてると、あて先は学園の誰かだそうだ。

「だったら僕が請け負ったほうが確実じゃない?」

「いやいや、お貴族のお坊ちゃんにこんな使いさせられませんって」

「確か学園は受付で渡せば学内で配達してくれるって聞いてるな」

身分で船乗りエルフが断ると、ヘルコフはウェアレルとの連絡手段としてでも知っていたんだろうことを教えてくれる。

その上で手にした手紙のあて先を確認し、一つに手を止めた。

「錬金術科?」

「そうそう、講師っていうので一人北の島から人が行ってるんで。そいつ宛てに」

「そうか、ツィーミールって北西の島から講師の人が来てるはずだね」

僕と入れ替わりに学園に務めだしたはずだし、どんな授業してるか楽しみだ。

そんなやりとりをしていると、先触れの騎馬を連れた馬車が現われる。

「ご無事のお戻り、喜ばしく思います。またお目にかかれてようございました」

ナーシャが王家の紋章付きの馬車という、地元ならではの権威を誇示して現れた。

ソティリオスは気圧されないように堂々と対応するので、僕はおまけのふり。

船乗りエルフは面倒なお偉いさんと見て、さっさと船に逃げた。

「宿へお送りいたします。お聞きになりたいこともあるでしょうから」

ナーシャはそう言って僕とソティリオスを同乗させ、他の学園関係者やヘルコフにも足を用意して移動を始める。

「気にしておられるファーキン組についてお話いたしましょう」

ナーシャはもったいぶらず口火を切った。

と言っても、正直お姫さまではもう深入りできない話になってるのが、聞いててわかる。

「四か国が調査団とは聞いていたが、周辺諸国も人を派遣しているのですか」

「えぇ、社交期も終わったのに、今もトライアンには大勢の方々が滞在しておられます。まるでかつての隆盛を思わせるなどと、口さがのない者まで」

しおらしく言うナーシャは、責められる側になったトライアンに同情的にも見える。

けどその凋落を踏み台にしたハドリアーヌの王女が言うと、ただの皮肉だ。

「港町の支部から逃げ出した者は?」

「ご存じのとおり、帝都に。すでに調査団の手で半数がトライアンに戻されています」

イクトが連れ出したファーキン組の上層らしい数人は、皇帝である父の名の元に調査団と一緒にトライアンに戻されたらしい。

そういう国同士の取引でもあったんだろうけど、情報面では帝国調査団がリードしてる証のような見せしめ目的かもしれない。

「帝国調査団とは別に、ユーラシオン公爵家からも問責の使者が出されております。ルキウサリアからも、学園と連名で調査団が派遣されました」

まぁ、ユーラシオン公爵家の嫡子で学園の学生が被害者だしね。

トライアン王国に、そっちの治安どうなってるんだと文句を言わないなんて選択はない。

そしてユーラシオン公爵家は、姻戚関係のあるルキウサリアと足並み揃えて声を大きくしているということもナーシャが教えてくれた。

「トライアン王国から、逃げ出す高位の者もいるそうです。罪状に心当たりがあるということでしょう」

「捕まえたりはなさらないのか?」

「微力ながら、我が国に逃れた者なら対応できるのですが」

ナーシャは微笑んで清楚に言葉を濁す。

実際に捕まえているんだろうし、トライアン王国に、尻拭いもできないのか、迷惑かけるなとでも言って圧もかけてるだろう。

そういう位置関係になって困るのは、ナーシャの対抗馬である姉のヒルデ王女だから手を抜くわけもない。

そんな手を打つために、回した名簿を使ったんだろう。

「すでにファーキン組のめぼしいアジトは兵で囲み、牢屋の準備ができれば逃げられる前に捕らえるてはず。冬までにはと申していたと聞き及んでおります」

トライアン王国も対処に苦慮しつつ、ファーキン組を潰す方向で動いている。

他の国々が動いたから、ファーキン組に逃げられないように兵を動かし、その上で国々からの問責に対処しているようだ。

こうなってはトライアンとしては自らの国の威信のために裁きたい。

けれど他の国々もそれは同じ。

たぶんもう、ファーキン組潰す云々より、国々同士のパワーバランスを争う場になってるんだろう。

「ずいぶん非道な行いをしていたが、ファーキン組もこれで終わりだろう」

「罪状と構成員の確定のために上を捕まえることに必死なようです。けれど本当に厄介なのは、実際に事件を起こし今なお逃げ果せている殺人者たちだと思うのですが」

ナーシャが言うとおり、どれだけ逃がしてしまうかで、今後の展開も不穏だ。

これは、犯罪者ギルド潰しておいて良かったかもしれない。

こんなことが帝都で起きてたら宮殿の雰囲気悪すぎて弟妹の教育に悪影響だ。

「サイポール組の動静は聞いておられるだろうか?」

「帝国の将軍が囲み、いっそそちらは静穏とも言えるとか。最初は恨みつらみで集まった者たちが暴徒化しそうになっていたほどだと聞いていたのですが」

「任されたワゲリス将軍の優秀さだろう。周辺の主要都市であるホーバートの悪事の証拠も漏らさないよう精査され、治安も向上しているらしい」

帝国の将軍とだけ言うナーシャに、ソティリオスは頷くんだけど、噂って怖いね。

たぶん勝手をしようとする人たちと喧嘩でもして、上下はっきりさせることでもしたんじゃないかな、その将軍。

そっちは一つの領地で籠城状態だ。

しっかり土地に根付いていたから、ホーバート領主の声かけでも引きはがしには時間がかかる。

ただ時間さえかければ対処可能で、ここと違って帝国内だから他の国からの口出しも防げていた。

調べることも落ち着いてできるから、ファーキン組を相手にするトライアン王国よりも時間をかけられる余裕もある。

「ロムルーシはいかが? 何やらあったと聞こえたのですが」

ナーシャは自国で港を持ってて行き来も見張れる。

イマム大公の所で毒殺未遂とかさすがに隠せないから噂が流れて来ていたんだろう。

「少々刺激が強くこちらからは。お聞きになりたいのでしたら専門の者に問い合わせを」

ソティリオスが逃げ口上を言うけど、それだけのことがあったことはわかる。

そうして忙しく情報交換をするうちに宿へ到着した。

「お元気なお姿を見られて安心いたしました」

「こちらこそ、嬉しい再会でした」

ナーシャとソティリオスは表面的には友好を感じさせる言葉と表情。

「あなたも留学に得るものはありまして?」

「はい、とても。学園でやりたいこともできて有意義な留学でした」

ナーシャは馬車を降りる段階になって、ようやく僕へと声をかけた。

「印象的だったのは見える星の違いでしたね」

「まぁ、では私も今夜は夜に窓を開けて星を見ようかしら」

当たり障りのない会話で僕が馬車を降りると、ナーシャはソティリオスへと一言かける。

「今夜はこの港に泊まっていますから、良い店をお知りになりたいようでしたら人を遣わせていただければ対応いたします」

これは、ソティリオスに向けているように見せかけた、夜に会う約束とみていいだろう。

そして僕は夜を待って、トライアンでやったのと同じやり方で忍び込んだ。

話すのはヨトシペの後援について。

「身体強化魔法で、薬の副作用が軽減できるならば、後援もやぶさかではありません」

「体力の底上げができれば、苦しむ時間も減ると思います。ルキウサリア国王に相談して、ヨトシペが戻ってから本格的に動きましょう。その際にはロムルーシのイマム大公と合わせて後援を求める手紙を送らせてもらいます」

使えるお金の違いから、王太子側へ後援要請という形を取るよう話を詰めた。

王太子に使った小児用ポーションの経過について相談し、帰る段になってナーシャが思い出したように言う。

「春にユディ王女から、レクサンデル大公国の競技大会を観戦しに来るようにと誘いがあります。学園の生徒も参加するそうですし、可能ならそこでお会いしましょう」

「わかりました。その時までにルキウサリアのほうで計画立てて話せるようにします」

留学から帰った今、どうやら新たな予定が立ってしまったのだった。