軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243話:円尾と厄介ごと3

イマム大公の領地では、豪族間の争いにヨトシペが挟まってさらに悪いことになったということらしい。

大公としてはみせしめで怒りを鎮め、冷静になったところで話し合いを模索していた。

ところがヨトシペの特殊体質でそれも見込み違いに終わっている。

ユーラシオン公爵家の事情でやってきているソティリオスは、真剣な表情で核心を問う。

「大公の悩みの種は、それらの諍いであると思っても?」

「そうだな。そう言えるだろう。言い伝えどおりであれば、他の問題も同時に解消できると踏んでの申し入れだ」

二人とも伏せてるけど、つまりは豪族間の争いにメイルキアン公爵家の秘宝を使いたいってことらしい。

ただトンネル作れる秘宝で何をする気なんだろう?

「先の時代よりの取り決めでは、争いに使うことは決してないとあったはずですが」

「もちろん。示威行為に留めるつもりだとも」

僕たちがいるから決定的なことは言わないけど、それでも示威行為で力を求めている様子は伝わる。

ソティリオスとしても使用する気満々なのはわかるし、それを阻止するために留学してるから拒否の姿勢を隠しもしない。

「なんの話でげす?」

「政治的な難しい話だと思うよ」

ヨトシペに答えつつ様子を見守っても、話は平行線のようだった。

「現状はそちらへ申し入れを行った時よりも悪化していると言わざるを得ない。もはやこれほどに難解となった状況を解決するにはあれを使う以外にないだろう。だが、他に手があると言うのならば…………」

「もちろん、お困りであると言うのであれば解決に微力ながら手をお貸しします」

言ってしまえば、秘宝を出さないならそっちで解決しろと。

言ったイマム大公のほうが苦笑するのは、子供に無茶ぶりの自覚はあるからだろう。

ただソティリオスも家の代表として来ているので引かない。

状況が悪くなってることはソティリオスも聞いたとおりだから、あまり表情は芳しくない。

「争いの主導権で必要との話でしたが、山の魔物の件はどうなさるおつもりで?」

「それも問題だったが、今まで巣穴から出て来ない。今はそれよりももう一つ魔物関係で、故公爵家の力を得られれば、解決を見るだろう問題がある」

「…………つまり、我が家に伝わるあれを使い争いと魔物の問題二つを解決したいと」

二つというには、争いがもう四つの豪族に関わってるし、一つと数えていいものかどうか。

秘宝で大きな力を見せつけて主導権を握ることができないのなら、一つ一つを説得するしかないんだ。

けれどソティリオスは帝国の大貴族とは言えロムルーシでは無名。

一度話すくらいは家名でごり押せるかもしれないけど、相手にはされないだろう。

「こちらとしては問題をさらに面倒にしてほしくはない」

「つまり、現状私が介入することは許可されないのですね?」

「そうだ。ただ力を示すなら、こちらとしても橋渡しの名目が立つ」

聞いている限り、どうやらイマム大公は問題解決能力があるかを試すようだ。

無関係の子供差し向けても、イマム大公のほうが他から反感を買う。

そうならないために、相手を納得させる功績が必要だと言うんだろう。

他人ごとで見てたら、何故かこっちを見るイマム大公。

視線を辿れば行先はヨトシペだった。

「まずは山の魔物の状況を、今度こそその者と共に確認すること。魔物でなくとも被害は確かに存在する。その原因を調べるにも知見が必要となるだろうが」

「…………アズロス。円尾の言うことの意味はわかるか?」

ソティリオスに問われて僕は即応する。

「意味はわかるし、想像はつく。けど発生源の特定をしないと対処できるとは断言できない」

「十分だ。円尾とともに現地へ向かう。そして何が起きているかの目算を立ててくれ」

ソティリオスは僕の返答を受けて、イマム大公に詳細を問う。

「その魔物の住処までの距離は? 猶予などはあるのですか?」

「距離で言えば今から日のある内に行ける。宿泊は我が屋敷を使え。そして私も行こう」

最後の言葉にソティリオスはすぐには答えられない。

イマム大公として、ソティリオス自身が行くと見ての判断だろう。

家同士の問題だからイマム大公も引くことはしないけど、子供を含む僕らを送りだすのは不安なんじゃないかな。

スリーヴァに着いてすぐどころか、ロムルーシに入港した初日に、僕たちはさらに移動することになった。

そうして着いたのはイマム大公の領地の端。

夏の割に涼しい平地で、丘陵や高地らしいものははるかかなたに見える。

ただ東に目を転じれば、その平原を貫くように山の連なりがあった。

「うわ、ひどい臭い」

「これは、確かに毒か」

僕とソティリオスは山脈のふもとで鼻を覆う。

馬車を降りて歩いた先、木々が異常に枯れている地点は悪臭に満ちていた。

さらに進むと、もう吐き気を催すほどの臭いがする。

「周辺では魔物が唸るとこの腐臭がひどくなるといわれているそうだ」

「なるほど、周辺の動物を食らう魔物の息らしいですね」

鼻をハンカチで覆うイマム大公に、ヘルコフは両手で鼻を押さえながら応じる。

鼻のいいヨトシペは、もはや顔半分を覆面で隠して、その上からさらに押さえていた。

行く先は岩の割れ目のような洞穴で、確かにそこが臭いの元のようだ。

これはもう、答えは見えた。

「動物の死骸が腐敗して、ガスが発生してるんだ」

「あーしもそう思うだす」

「しかし尋常じゃないぞ。それにそんなことなら他にも気づく奴がいるだろ」

僕の言葉にヨトシペも同意するけど、ヘルコフが首を捻る。

「火を噴いての反撃と、唸り。その辺りがわかれば、魔物と錯誤した理由もわかるのではないか?」

魔物と言われる要素をソティリオスが上げるけど、それも予想だけならできてる。

「唸りは中の死骸の腐敗でガスが発生、死骸が破れた際の音が洞窟に籠って響いたんだよ。それとも中で魔物が動いたとか顔を見たとかあるのかな?」

僕の疑問をソティリオスが伝えると、イマム大公が部下に確認を取った。

すると炎のように光る目を見たと言う者がいたそうだ。

「火が燻ってるのを見間違えたんじゃない?」

「だが、そうなると誰が火をつけた?」

ロムルーシ語で推測した僕に、イマム大公が直接聞いてくる。

面倒だけど下位の貴族子弟という設定を守って、礼儀上許可を取って答えた。

「その目撃は冬の間ではないでしょうか?」

「…………うむ、そのようだ」

だったら答えは簡単、自然発火だ。

周りは枯れた木々ばかり、そして臭いけど体調不良まではいかないくらいにここは風がある。

後は乾いた空気があれば、条件次第で枯れ葉が火種になる。

「なんでいつまでも魔物と思ってるかはわからないけど」

「魔物が肉を食えばその息は臭う。臭う量はその体の大きさに関わるからだろうな」

ヘルコフが言うのは、つまりこれだけ腐敗臭があるから逆に大型の魔物が潜んでいると思い込んでいるってこと?

「そして冬から初夏の今まで臭いが取れない。これは相当の量か、新たに腐敗する死体が増えているのか。減ってる動物が群れなら。何処かこの洞穴に通じる箇所が崩落して、死体が封じ込められてる。で、臭いだけ上がって来てるってところかも」

「それなら心当たりがあるだす」

一度周辺を調査したヨトシペが、ルキウサリアの言葉で話してた僕に反応する。

そうして連れて行かれたのは山のもっと高い所。

そこから見下ろすと、確かに崩落して岩が積もった場所が見下ろせた。

洞穴の入り口からはだいぶ離れているけど、それでも通じている範囲と思われる。

「確かにこの近辺には山羊や鹿、他にも熊などの大型も生息している。そして数が減っているそうだ」

「あの腐臭は、周辺の動物が崩落に巻き込まれて?」

こんな所までついて来たイマム大公とソティリオスも、腐敗臭で納得してくれたようだ。

「原因はなるほど。だから冬の間は腐らず温かくなった今猛烈に臭っているのか。そうなると骨になるまで待つしかないな」

「いえ、音がなるほど空気が抜けてることを思えばもう燃やしたほうが早いです」

僕の提案で、ことは急激に動き出した。

もう面倒な毒素は燃焼で化学反応させて無毒化するとか、そんな説明はいらない。

腐ったら焼くは日常的にやっているからね。

後は周辺が枯死してるから切り倒して延焼を防ぐのも楽だと言うので採用された。

領地ということもあり、イマム大公の声かけで迅速に準備が整えられ、結果、日暮れには火を入れて洞穴は炎上。

火を吹くと言うから空気の流れで、洞穴がオーブンのような状態になったのは、僕も想定外だった。

「沈火した後も熱が引くのは数日後だな。その際には中を調査するのでまた同行するように」

イマム大公にそう言われて再度訪れた時には、燃え残った大量の動物の骨だけ。

しかも入り口に対して下る形だったから、長らく死体から発生したガスが溜まって、入る動物を定期的に死に至らしめていたようだ。

そして崩落したことで内部の空気が流れて臭いが漏れ出たという。

結論としては、巨大な魔物は存在しないことが判明し、周知されたのだった。