軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

228話:二度あることは3

突然来たニヴェール領主、またの名をニヴェール・ウィーギント。

二十歳前後という外見で、羽根飾りの目立つ帽子を被っていた。

由緒正しい伯爵家の名前を一緒に名乗って、生まれの良さを前面に押し出してる。

かつて僕もイスカリオン・ニスタフと呼ばれた。

あれは格下の伯爵家の名前での差別化を計ったもので効果は真逆だけど似たような名前の形だ。

「まぁ、ニヴェール・ウィーギント卿。お久しぶりです」

「帝都での園遊会以来ですね。お元気そうで」

押しかけた上で、ヒルデ王女と親しげに挨拶するニヴェール・ウィーギント。

卿って呼ばれてるし、たぶん騎士の身分を持ってるんだろう。

そしてヒルデ王女が参加したことのある帝都での園遊会って、たぶん僕とソティリオスがホストやったあれだよね?

正式な招待客にいた記憶はない。

だからたぶん招待客の連れとして参加でもしていたのだろう。

「ことがあったばかりであまり騒がせるのも本意ではない。今は手当てだけを取り急ぎ行ったのみ。お帰りになる王女殿下の送迎でもなさっては?」

ソティリオスは塩対応だ。

どうやらニヴェール・ウィーギントは、わざわざ来たけど顔を知ってるくらいの相手らしい。

思えばハドリアーヌ一行の相手も、ソティリオスは途中で抜けた。

あれは皇太后の手が伸びたと知ったユーラシオン公爵からの働きかけだったと聞く。

皇太后の孫であるニヴェール・ウィーギントとは家の因縁でもあるのかな?

「そのような。今日のこともあります。やはり割符はトライアンに預けるべきです。わたくしであれば有能な者をご紹介できますわ」

「割符? もしや暴漢に襲われた理由がそれなのかな?」

「部外者への不必要な情報の拡散は、ご遠慮いただきたい」

反応するニヴェール・ウィーギントに、ソティリオスははっきりと拒絶する。

こうまで言われて目の前であれこれ話せば、いっそまた襲われろと言ってるようなもの。

ヒルデ王女もニヴェール・ウィーギントも、出方を窺うように黙る。

そこにナーシャが口を挟んだ。

「危険に身を晒されたのはユーラシオン公爵令息ですもの。お休みになられたいことでしょう。今日はお暇すべきでしょうね。日を改めてお話をいたしましょう」

「えぇ、今日はお戻りになられたほうがよろしい」

帰ってほしいソティリオスが応じるけど、ナーシャはさらっと次の訪問の応諾をもらってる。

ヒルデ王女も食い下がるだけ、今後の対応にマイナスがつくと察したようだ。

「わたくしもまた妹と共に参りますわ」

尻馬に乗っかるんだけど、悔しそうなのはヒルデ王女としても体面が悪いとわかってるからかな。

三女のユードゥルケ王女もそうだけど、ヒルデ王女もそうとうプライド高いね。

そしてナーシャも、けっこう王女としてのプライド持ってるんだよなぁ。

「はぁ、帰ったか」

「ソーはこのまま休む? 僕、部屋に戻ろうか?」

「いや、アズロスにはもう少し話がある。認識されただろうから、ニヴェール・ウィーギント卿に絡まれる可能性が高い」

「うわー、面倒そうな話だね」

正直に言えば、ソティリオスは力なく笑う。

ユーラシオン公爵子息としてそんなこと言えないだろうけど、内心では大いに頷いてるんだろうな。

「いちおう、皇太后がトライアンの王族出身っていうのは知ってるから、トライアンの王族を母と夫に持つヒルデ王女と関わりがあるのはわかるよ」

「二年前にハドリアーヌの王子と王女が帝都に来訪、宮殿の離宮に滞在したことは?」

「聞いたことがあるね」

僕はそ知らぬふりで応じる。

「その際、血縁を頼って皇太后が政治復帰の足掛かりにしようとした。一手として孫であり、自家を立てたばかりのニヴェール・ウィーギント卿を使ってな」

聞けば現ウィーギント伯爵には弟が三人いる。

ニヴェール・ウィーギント卿は二番目の弟で、家に残るよりも小さいながら領地を得て自家を立てることを望んだとか。

そんな野心的な孫に声をかけたのが、今や権勢から退いた皇太后。

そして折よくやって来たのが、継承争いで帝国側からの後ろ盾が欲しいヒルデ王女。

二人を使って、血縁者にまで手を伸ばせば、離宮で幽閉状態の皇太后も復権の足がかりにできる。

「へー、そんなことがあったんだぁ」

「他人ごとだと思って…………」

ソティリオスがご機嫌斜めだ。

実際は他人ごとじゃないけど、あの時皇太后への対処はルカイオス公爵がしてたから。

僕のほうは下手な人がハドリアーヌ御一行に近づかないようにガードしてただけ。

「あの時には第一皇子も何もしなくてな」

「え?」

「第一皇子の性格は聞いているか?」

「あー、うん。噂程度なら?」

「噂以上に気が抜けていると思え。そのくせ別に頭の回転が悪いわけじゃない。いっそわざと鈍いふりしているんじゃないかと思うくらいだ。だがそのせいで誰もわざわざ第一皇子に言わない。私のほうに持って来て、誰に口利きをしろ、誰に贈り物を届けろと。それは私の仕事ではないしわざわざ時間を取って長い前置きの末にそんな話で、結局断って悪態をつかれて…………!」

「ソー、ソー。落ち着いて」

なんかすごい勢いで不平不満があふれてるよ?

よく誰それがご挨拶にって呼び出されてたと思ったら、そういうことだったのか。

大派閥のご令息は違うなーとか思ってたよ。

だって僕、最初こそ少数いたけど、その後は何も言われなくなったし。

戦場カメラマンの喋りって、面倒ごとよけには本当便利だな。

「…………すまない、忘れてくれ」

深呼吸して落ち着いたソティリオスが、ばつが悪そうに顔を背ける。

忘れはしないけど聞かなかったふりはしておくよ。

「で、えっと、宮殿であの二人は繋がったの?」

「一度ルカイオス公爵に邪魔をされて、指示をしていた皇太后のほうが身動きを取れなくされた。それで我が家もこれ以上はと手を引いたから、その後は知らないが」

「ルカイオス公爵相手に引いたの? ユーラシオン公爵が?」

「違う。皇太后だ」

政敵相手ではないと強く否定されるけど、どう違うんだろう。

わからない顔の僕に、ソティリオスは続けた。

「縁談を袖にしたことを皇太后のほうからも怨まれていると父が、な。さらに幽閉されてなお萎むどころか、加齢と共に復権の野望を強くしているという」

「えぇ? 皇太后って六十代半ばくらいの人でしょ。元気だね」

復権しても何年政治に関われることやら。

「…………何を考えてる、アズロス?」

「え、皇太后って復権しても政治やる前に亡くなるのと五分じゃないかなって」

「全くだ」

不謹慎な僕の意見に、ソティリオスも大いに頷く。

窘められるかと思ったのに。

「アズロスのように言いたいことを言えるような環境だったら…………いや、今のも忘れてくれ」

「別にいいけど。いちおう僕も言う相手と場所は考えてるんだからね?」

疑わしげな目を向けないでほしいなぁ。

ソティリオスは回りくどく言うより、今みたいに思ったこと言ったほうが好感触だから答えてるのに。

「ともかく、ここにきて割符を狙う面倒な人が増えたと思っても?」

「そうだな。皇太后の思惑で動いているなら、ニヴェール・ウィーギント卿は皇帝派閥の重要情報かもしれないこれを狙うだろう」

割符片手に言うソティリオスも、皇帝派閥とは敵対してる。

けど皇太后派閥とも溝があるから、渡すことはしない。

「けどあの王女さまが言うとおり、ソティリオスが持ってても危険だよ」

「さっさと帝都に送るか? いや、送る使者が襲われるか、割符を確認にやって来る別の者が危険にさらされるだけだろうな」

ソティリオスも襲われたことで対応に悩むらしい。

さすがにルキウサリアの学園の定宿に襲い掛かるようなことはないだろうし、宿自体が防犯意識高いほうだ。

けど外に出たら、今日のようなことがあると危ない。

とは言え割符の中身を確かめるには行くしかないし、僕としても中身は知りたい。

「だったら、警戒すべき方向を確かにしたほうがいいかもね」

「そう言えば手があるというようなことを言いかけていたな」

「そう。ようは相手を絞って見張ればいい。だったら、ちょっと撒き餌に使えるものを持ってるんだ」

ニヴェール・ウィーギントの来襲で言いかけたことを続ける。

僕はもう邪魔されない内にポケットに手を入れて、ソティリオスの目の前に晒した。

取り出した新たな割符の存在に、ソティリオスはあんぐりと口を開ける。

「これで、情報の漏れる先を確定して、狙われる可能性を二分してしまおう」