軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202話:説得と手回し2

急遽誘われたロムルーシ留学。

僕としてはありだけど、そのためには色々説得と根回しと準備が必要だ。

まずは一番上であるルキウサリア国王に面会の予定を申し入れ、文章でも話す内容については事前に告げて手間がないように計らった。

「ロムルーシにもそんな技術があるのか…………。水を高く運べるという機構が今も稼働しているならば是非我が国にも取り入れたいものだ」

留学に行く意義を説明すると、ルキウサリア国王は案外前向きに応じてくれる。

ファーキン組のことを言ってないせいもあるかもしれない。

半年の不在の間に、封印図書館について手を打つことも了承してくれた。

その上で皇子不在の誤魔化しについて協力も応諾してくれると、ちょっと裏を疑ってしまうなぁ。

「恥ずかしい話で申し訳ないが、他国の者に引き摺られるように、我が国の者たちも浮足立ち始めている」

「僕との姻戚ですか? それともテスタ?」

「狙えるならば、両得を狙うだろう。こうして出入りも数が増えるばかりで我が王室に近づきたい者も、殿下に興味を持つ状況なのです」

つまり僕にちょっかいをかけようとする者は増える一方になりそうだと。

「学生も生活に慣れれば接触を持とうとする者も現れる。将来帝都に伝手を作るとなれば、上級生もそろそろ動くでしょうな」

「あぁ、そういう人も増えるわけか」

帝国貴族以外もいるからこそ、帝国第一皇子の僕は注目を集める。

さらに学園という貴族以外もいる場では、皇子という身分を保持していることがもはや誘蛾灯に等しい。

僕が嫡子かどうかなんて、貴族ではない出身の学生から見れば些事だというのは、クラスメイトたちを見てもわかっていたことだ。

「近づけないよう手は打ちます。ただ半年動静が不明となれば、そちらのほうがより効果的に興味関心を失くさせるでしょう」

その上で、ルキウサリア国王は条件を提示した。

「もちろん皇帝陛下のご意向が第一。我が国のことであれば私の一存でも応じられたでしょうが。留学とはいえ他国でのことは保証しかねますので、確かに了承を得てもらいましょう」

「そこはもちろん。僕が選んだことですから、一学生として扱ってください」

留学でルキウサリアを離れるなら、良くも悪くも手は出さないということらしい。

そこは限度があるだろうし、僕も危険なことをするつもりもあるから了承する。

逆に安全を理由にがちがちに周り固められても困るしね。

そんな感じで、ルキウサリア国王からはけっこう簡単に了承が得られた。

そしてけっこう頑固に反対したのはテスタだ。

「後生ですから!」

「半年だけだってば」

「半年の間にぽっくり逝く可能性もあるのです!」

「それだけ元気に喋ってて?」

縋る勢いのテスタに突っ込めば、助手のノイアンも城の学者のネーグもテスタの元気さにフォローができない。

場所はダム湖の小島にある一室。

駄々をこねる頑固爺が一人。

「半年はやることなくならないようにしていくから」

「そうおっしゃるということは、すでにご用意があるのですな? であればもう半年と言わずここでパッと」

「それはそれで過労死が出そうだから却下」

「過労死?」

僕の言葉にテスタがオウム返しで尋ねる。

(あ、この世界って過労死ない? いや過酷な労働で死ぬってあるはずだよね)

(労働条件が悪く傷病による死、栄養状態の悪化、使役されることを受け入れられぬ憤死など。過労死という文言に該当なし。言葉の由来を問う)

セフィラが疑問に答えてくれるけど、知的好奇心で言ってるよね?

(過労死って僕の前世の世界であった死因だよ。暑くもなく寒くもない場所で限界まで働き続けて、栄養状態も悪くない人が、急激な感情の高ぶりなんかない状態で死に至るんだ)

(突然死では?)

そう言えば理由が過労で、突然死することを指すのか。

「体が限界を超えて突然死することだよ。君たちただでさえ寝食削ってしまうんだから。半年小出しにするのはヴィーラの試用も兼ねてるんだ。拙速におし進めないで」

僕とセフィラで段階を考えて例題を用意した。

それを新たなオートマタであるヴィーラに預ける。

ヴィーラはまだ対話が不十分であり、判断基準も可変状態で、ナイラほどのオートマタに育ってはいない。

だからまずは命じたとおりにできるか、例題をテスタたちが解決したと認識できるか、テスタたちと段階を踏んでの対話が可能かを見る。

それらの関わりの中でどれだけ自己判断をするようになるかは興味深い。

その他幾つもチェック項目を用意して、テスタたちにはヴィーラの観察もやってもらう予定だ。

「薬についても…………」

「そっちは時間かかるってわかってるし、実験場できてからのほうが確実だよ」

除染室と隔離室を作ってもらうことになったから、工事の間はあまり大きな動きもない。

「エリクサーについて…………」

「危険だってば。僕が知るレシピは見せたでしょう? あれ、どう考えても毒しかできない。何か薬として調合するためにはまだ足りない部分があるんだ。元の本は帝室図書館にあるし、なんだったらテスタも帝都へ行って実物を見てくればいい」

往復二カ月も半年に比べれば短い。

「しかし…………」

「それと、この子のこともあるからね」

僕は食い下がるテスタに、委縮して壁際に寄った少女を呼ぶ。

「テレサ。僕の侍女の一人でまだ錬金術は初歩だ。それでも全く知らないわけじゃないし、テスタもやったことないって言ってた香水の調香をしようと勉強してたんだ」

テスタが見ると、テレサは僕の後ろに隠れる。

うん、だいぶ駄々こねてたしね。

だいぶ不審者だね。

けど今後連絡取ってもらわないといけない相手だから慣れてほしい。

何故ならテレサには僕の影武者をしてもらうんだ。

「テスタが思いの外しつこいなぁ」

「逆にルキウサリア国王が受け入れが早すぎたような気もしますが」

同行してたイクトが帰りの馬車でそう応じる。

今回はテスタを頷かせられなかったから、また日を改めて説得しなくちゃいけない。

「あの、私、本当に代わりが務まるでしょうか?」

今日は侍女姿のテレサが不安そうに聞くけど、僕とあまり背格好が変わらないんだよね。

僕、前世ほど身長伸びないみたいなんだ。

だから移動用のローブでも頭からかぶってしまえば誤魔化せると思う。

半年身を隠すにしても、屋敷には帝国の人員もいるから、そちらに出入りしている風も装う必要がある。

そして僕が指示を出したふりをするためにも、出入りしている人物が必要だった。

「窮屈な生活になるとは思うけど」

「いえ、お役に立てるなら。ですが、あのご老人も納得していらっしゃらないので」

テスタの反対に委縮したようだけど、別にそこはテレサが気にするべきじゃない。

「テスタのことはあまり気にしなくていいよ。何か困るようなことがあったら、爆破って囁いてみて」

「は、はぁ?」

わからない顔をするけど、テレサはほどなく笑う。

「お姉さまが言うとおり、ご主人さまはすごい方ですね。薬学の権威と言われる方もまるで子供のように」

「そういうつもりはないんだけど。年長者に失礼すぎたかな?」

「いえ、もっと大人びていると思っていたご主人さまが、私と同じ年齢なんだと思えました」

それはつまりどういう?

一緒に街に出た時のほうが普通にしてたつもりなんだけど…………。

もしかして僕、おっさん臭い?

一抹の不安を抱えながら馬車で帰り、僕は着替えのため二階へ向かう。

すると留守番をしていたノマリオラが手紙を差し出してきた。

印章を見て僕は着替えを後回しに中を検める。

「…………うわぁ、一番の強敵かもしれない」

僕の言葉に一緒に部屋まで来ていたイクトとテレサも不思議そうな表情を浮かべた。

「帝都を出立して、ようやく僕が遠くに行ったことを理解したライアが、大泣きして大変だって、テリーが」

手紙は帝都のテリーから。

入学からひと月だから、この手紙を出したのは、僕が帝都を発して数日のことだろう。

そして内容はライアが僕に会えないと癇癪を起してしまっていること。

以前父に伝声装置で連絡を取った時に言われなかったのは、私的な内容すぎたせいかも知れない。

これは半年さらに手紙も返せないとなると、ライアを余計に悲しませることになるかも。

だからと言って今回を逃せばファーキン組を早期に排除するチャンスを逃してしまう。

僕はどう対処すべきか、ダム湖にいた時よりも真剣に悩むことになってしまった。