軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

198話:先輩とお姫さま3

「まぁ、錬金術科の実験ですか? 何をしていたのかお聞きしても?」

ディオラはヴラディル先生のほうへ寄って行くので、僕はともかく近くにいたラトラスの陰に隠れる。

いや、身長僕と変わらないからあまり隠れられもしないな。

「え、何? なんかまずい人?」

「ルキウサリアのお姫さま」

僕の動きにラトラスが焦ったように聞くので囁くと、イルメが僕らのほうへ寄って来た。

「つまり学園を運営する側ね。それがどうして錬金術に興味があるようなふりをするの?」

棘を感じる言葉だけど、現状を客観的に見れば錬金術科は冷遇されているから、顧みられないと思われてもしょうがないだろう。

僕としてはこれだけ錬金術が凋落した今、施設や人件費を割いて存続してくれてたことがありがたいくらいだけど。

イルメ自身も禁術と言われていながら入学してるし、錬金術が嫌われる要素があると思っての発言だと思う。

しかも本人に裏がないから、ディオラにも聞こえる声量でイルメは喋っていた。

ただ状況としては近づくのはディオラだけで、一緒にいた他のラクス城校の生徒は警戒してか距離を取ったまま。

だから限定一人に対しての苦情にも聞こえる。

「不便があることは聞こえています。あなた方の入学までに満足に人員も揃えられず…………。ですが、錬金術の可能性は確かに認識しておりますので、どうか学園において研鑽を続けてください。必ず正しく評価をいたします」

ディオラは動じずにイルメを真っ直ぐ見て答えた。

その堂々とした姿はやっぱり僕が知るディオラよりもお姫さまらしい。

ヴラディル先生も国の方針は聞いているので、ディオラを援護するように言う。

「錬金術師名乗って、ちゃんと結果残してる奴を引っ張ってこられるんだ。国は本気で当たってる。王女さまを困らせるな」

「半年したら来るって言う講師? 入学には間に合ってないのに?」

ネヴロフは、たぶん錬金術師の世間一般の評価と実態を知らないから、悪意はない。

ただ責められるような立場になったディオラに、今度はウェアレルが援護を向けた。

「確か、独自に弟子を抱えて私塾を開いていた錬金術科の卒業生を、ツィーミール島から呼び寄せるのでしょう? 昨年から探して半年遅れであるなら相当に無理をさせているのでは?」

ウェアレルから僕も知らない地名が出たんだけど、それにはイルメが反応する。

「ツィーミール? あの不凍の北の海に浮かぶ島国から?」

どうやら大陸の西から見て、北の海にある島国。

けっこうな距離があるそこから、すでに職に就いている人をわざわざ招聘するそうだ。

卒業生でも、それだけまともに活動している錬金術師が少ないってことなんだろう。

大陸南東のチトス連邦出身のウー・ヤーはピンと来ないらしく別のことを聞く。

「わざわざ聞くということは、姫君は錬金術に造詣があるのだろうか?」

「いえ、私は話を聞くばかりで実際には。ですが、正しく錬金術を扱う方であれば、素晴らしい成果を収められると知っています」

そういってディオラはウェアレルに微笑む。

ラトラスはそれを見て、気づいた様子で耳を立てた。

「あぁ、また第一皇子か」

「まぁ、アーシャさまをごぞんじ?」

「え、いえ、まさか…………!」

ディオラに声をかけられ、途端にラトラスは耳を下げて慌てて手を横に振る。

そこでようやく、ステファノ先輩が話に入って来た。

「この貝を砕くの、帝国の皇子さまの依頼で石灰作っててねぇ」

「まぁ、貝を? いったいどうして?」

「皇子さまが何に使うかは知らないなぁ。でも僕は絵を描くために石灰が…………。あ、知らない? フレスコ画って石灰使うんだー」

ディオラの表情を見て付け加えるステファノ先輩は、王女だろうがお構いなし。

絵を描くことと聞いてディオラも感心する様子だ。

「知りませんでした。けれど、確かにアーシャさまもエッセンスというもので色のついた水を作って遊んだとお手紙にありましたね」

「え、何それー? エッセンスって何?」

ステファノ先輩が食いつくと、エッセンスを知らないことに僕のクラスメイトが驚いた。

「え、上級生でも知らないのか?」

「ヴラディル先生もエッセンスの使い方知らなかったな」

「けどラトラスとアズは知ってたから本当に帝都だけ?」

「俺も帝都で錬金術してる人から聞いたからなぁ」

クラスメイトの会話に、ディオラは嬉しそうに笑う。

「帝都にはエッセンスの使い方が残っていたのですか? アーシャさまは図書館に死蔵されていた書籍から、存在を知り、再現されたとおっしゃっていました」

「えー、ヴィー先生。どうしてその皇子さま入学させずに学位だけあげちゃったのぉ?」

ステファノ先輩が文句を言うと、ヴラディル先生が耐えるように拳を握る。

「俺だってな、だいぶ掛け合ったんだ。けど第一皇子自身が入学より留学って…………」

「私を恨みがましく見ないでください。実際アーシャさまは城に成果を報告しています。あれは学生の身分では後手に回るだけでした」

「確かにアーシャさまのお蔭で解明も進んでいますが、その、お忙しくしているのでしょう? 城へいらっしゃっても陛下と会議ばかりでお会いできず」

ウェアレルが言い返すと、ディオラがうつむきがちになってしまう。

実際封印図書館関係で何度か城へ上がっているけど、学生をしてるディオラとはすれ違い。

朝から封印図書館、学校と行って夜に城ってこともあるから、時間的に会うことも難しいんだ。

「なぁ、アズ。第一皇子って何してるか知ってる?」

僕が喋らないことを察して、ラトラスが小声で聞いてくる。

けどそこを僕に聞かないでほしいな。

「さぁ? 目立つ噂もない方だからね…………」

「問題のある方だと聞いているわ」

イルメがばっさり言ってしまうので、ラトラスが僕に確認の視線を向ける。

もちろん答えられるわけがないので目を逸らした。

するとネヴロフを見てウー・ヤーが思いついたように言う。

「ネヴロフの故郷は辺境なんだろう? 思えばそんなところに皇子が行くのもおかしな話だな。何かやらかして飛ばされたか」

「違います!」

「ディオラ姫、落ち着かれてください」

ディオラが強く否定すると、ウェアレルが宥める。

ヴラディル先生も何か聞いてるのか、クラスメイトのほうを止めに入った。

「面倒な政治がらみだから、そっちに興味がないなら深掘りしないほうがいいぞ」

「それでは皇子がこの国で何をしているかお答えいただけます?」

イルメはさっさと皇子の事情を投げ捨てて、興味のあることを聞くんだけど、もちろんそこも言えるわけがない。

封印図書館がオーバーテクノロジーなことは見ているディオラも返答に困ってる。

それを察してウェアレルがまた助け舟を出した。

「ディオラ姫、こちらは火を使っての作業中ですから、煙の臭いがつく前にそろそろ。ご心配ありがとうございます」

「そう、ですね。その、お時間がある時にアーシャさまのことをお聞かせください。それと、またお手紙いたしますと」

「はい、確かにお伝えいたします」

まずい話から逃がす意図を察して、ディオラも引き下がる。

ディオラにくっついていた生徒たちは、結局一言も発さず一緒に退散。

その姿が見えなくなって、ようやく僕は一息吐いた。

するとステファノ先輩が笑う。

「どうしたのぉ? ずいぶん恥ずかしがり屋になってたけど? 王女さま可愛かったよねー、あんな子が好み?」

「好、恥ず…………!? ち、違いますから!」

あらぬ誤解に慌てると、クラスメイトたちまで好奇心に満ちた目を向けて来た。

「いや、だいぶ不自然に静かだったぞ、アズ。そうか、好みの相手には黙るタイプか」

「いつもなら俺たちがまずいこと言ったら一番に止めるのに、まぁ、不自然だったよな」

「そうね、ラトラスに隠れて避けていたし、恥ずかしがっているようだったわ」

「けど違うのか? あ、もしかして家がどうこうってやつ?」

ネヴロフが当たらずも遠からず。

ラトラスにディンカーばれした経験から、声もまずいから黙るしかなかったんだけど、まさかそんな誤解をされるなんて。

そしてさらに神妙な顔をしたヴラディル先生からも、あらぬ誤解をしたようだ。

「家以外と貴族らしいことしてないから、もしかしてとは思っていたが…………」

「え?」

「アズも他家には錬金術科入学を伏せてる口か?」

「はい、は? もっていうことは…………」

ステファノ先輩を見ると、気にした様子もなく貝を潰しながら答える。

「僕も特別言ってはいないかな。やっぱり仲良くない家の子が絡んで来て邪魔されるのも嫌だし」

なるほどそういう誤解か。

ここは乗っておくために頷いておこう。

「名の知れた方から名前が出ると、ばれる可能性、高くなるからね」

僕はそう言いつくろいつつ、ちょっと頬が熱いのは火の近くにいるせいってことで誤魔化した。