軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話36:ウー・ヤー

「チトス連邦って全部が島国じゃないのね?」

「僕も本で見ただけだけど、確か北のほうに大陸に繋がる陸地があるはずだよ」

「チトス連邦って言うのも初めて聞いたけどさ。ウー・ヤー、島って何?」

「俺も見たことはないけど、水の中の陸地らしいよ」

同輩となった者たちの故郷への認識を聞いて、なんとも言えない心地になる。

一番知ってるらしいのは人間のアズで、次がエルフのイルメだ。

猫の獣人であるラトラスは想像だけで、山に住んでいたという獣人のネヴロフに至っては、チトス連邦という国名すら知らないという。

「正直、自分の国の知名度のなさに落ち込みそうだ」

「いや、そこは逆に考えてみようよ。ネヴロフ、ロムルーシは知ってるでしょ? ウー・ヤーはロムルーシ知ってる?」

「さすがに名前だけは。だが、そうか。距離が離れて馴染みがなさすぎるということか」

アズの言葉で、悔しいような気持ちに納得はできた。

ネヴロフはロムルーシ近くの出身だというし、海人の自分も獣人には詳しくない。

「私の故郷には定期的に海人も船で訪れるわ。けれど二人は帝都出身でしょう。海人を見てもあまり驚いた様子はなかったように思うけれど?」

イルメが住んでいたエルフの国は、北はドワーフや獣人、南からは竜人に紛れて海人の船乗りが現れるという。

そんな問いに、アズとラトラスはそれぞれ首を横に振った。

「帝都は各種族いるから。僕もエルフや獣人、海人と知り合いだよ」

「俺もそうだな。特にギルド周辺は遠方からの商人とかも立ち寄るし」

「つまり、暮らしぶりの違いが帝国国内でも見識の差を生んでいるのね」

イルメもこうして互いの常識をすり合わせることで、理解を深めている。

自分の国でも地域差や格差は当たり前にあったが、エルフは違うのだろうか。

本土以外が全て島という地形上、島ごとに独自の常識があるチトスとはまた違う?

「エルフは格差をなくす方向で発展をしたわ。大きな国も小さな国も同じように暮らせるの。国許なら旅をして回ったからそこは確かよ」

「それはエルフの国のある、大陸の西側が結構平たんだからだって聞いた覚えがあるな。あと、帝国が支配する以前には西側全土を掌握するエルフの帝国があったとか。だから共通認識が今も生きていて、格差をなくす方向に行ったんじゃない?」

アズは博識だ、そして視野が広い。

自分はネヴロフやラトラスに比べれば知識層だけれど、アズに比べると劣るだろう。

それはイルメにも言える。

けれどイルメはあまり視野が広い感じではない。

自分の生まれ持った常識を疑わないし、そんなイルメを見ると自分もそういうところがあると気づかされる。

「っていうか、二人とも山脈越えしたんだろ? その大変さならわかるぜ、俺も山育ちだし。大陸中央へだてる山脈ってマジで辛いもん」

ネヴロフの言葉に自分はもちろんイルメも深く頷く。

「俺は遠くに見たことあるだけだけど、確かに山越えは辛いって話は聞くなぁ」

「そうだねー」

ラトラスは聞いただけらしいが、アズが普段の様子とは違う反応を示す。

たまにするが、なんだろう?

「その過酷さも一因として、私は入学を周囲に止められたけれど、精霊と交信する可能性を模索するためにも錬金術を学ぶ道を選んで正解だったわ」

「自分は継嗣でもないから止められなかったな。けれど山脈越えから何から自分でやらなければいけなかった」

知り合いの知り合いを渡り歩くようにして、山脈越えを行ったが、よくもまぁ、上手くいったものだと今さらながら思う。

そこからまた知り合った者を伝手にルキウサリアまで旅をしてきた。

そんな旅の話をするとイルメが首を横に振った。

「私はちゃんと家から従者たちと資金を用意されて、経路も事前に準備をして越えたわ。たとえ私が長子でなかったとしてもそれくらいの援助はしてくれたはずよ」

「自分の故郷は長子が強いから、下に生まれると役職を得られなければ家を放り出される」

「チトス連邦って結構シビアだね」

帝国貴族の出であるアズも違うらしいので、チトス連邦の習慣らしい。

そんな話も案外楽しく、授業が終わった後の時間は瞬く間にすぎた。

「僕そろそろ帰らないと」

アズがそう言って解散になる。

自分はネヴロフと同じ寮だが、今日はラトラスと共に出かけると言われた。

「それがさ、そろそろ換毛がやばいんだよ」

「いい床屋見つけないとな。夏前に、絶対」

被毛に覆われた獣人独自の悩みらしい。

人間やエルフに比べても体毛の少ない海人ではわからない悩みだ。

そうして一人帰路についた。

入学して日も経ち、慣れた道、の、はずだった…………。

「…………ここは何処だ?」

見慣れない街並みは、何処も同じに見える。

ただ今いる場所の建物は装飾があり、ガラスが光り、明らかに規模が大きい。

徒歩で移動する者は周囲におらず、舗装された石畳にはわだちが刻まれている。

明らかに馬車移動する上流階級の住まいだった。

「踏んではいけない道という話は聞かないが」

チトス連邦には、支配者の道という国の支配者のみが通ることを許される道がある。

そこは横切ることさえ不敬で、見つかれば即座に縛されるほど。

身分によって建物も入れる場所が決まっているし、場合によっては罪として即座に処刑される。

国許と違うことはわかっているが、常識が違うという不安で足を動かせない。

すると近くの屋敷から人が出て来た。

目を向けると、そこには珊瑚色の髪をした、身なりの良い海人がいる。

「そこで何をしている? 学園の生徒だろう?」

「あ、これは失礼を」

「待て、私はニノホト出身でチトス連邦の言葉はわからない。帝国語で話してくれ」

つい国許の言葉で応じようとしていた。

けれどどうやら人種が同じだけで、異郷の方らしい。

それでも道に迷ったことを告げると嫌な顔一つせずに、寮の場所と目印になるものを教えてくれる。

そうして話す間、相手をよく見れば、どうやらそれなりの身分だが、気のいい方らしい。

仕立てのいい帝国の軍服のようなものを着て、腰に剣を佩くているから武力のある組織に所属してるんだろう。

「ご丁寧にありがとうございます。このご恩はいずれ」

「いや、私も主人に命じられて対応に出たまで。気にするな」

予想は外れたらしく、どうやら出てきた屋敷の主人に仕えているようだ。

「ではおみ名を」

「…………帝国第一皇子殿下だ」

「え? ここが?」

驚く自分に、海人は小さく笑う。

「私の主人について何を聞いているかこちらも聞いても?」

「例外的な錬金術の使い手だと」

相手が口を押えて笑う意図がわからない。

「それは赤いほうと緑のほうどちらが言った?」

「赤い、ヴラディル先生です。色違い先生も第一皇子殿下を知っているのですか?」

さらに笑われたんだが、なんだというんだろう?

ヴラディル先生は唯一の錬金術科教師で、錬金術に造詣の深い皇子と知り合いでもおかしくはない。

けれど双子だというあの色違い先生は何故帝国第一皇子と?

というか、ネヴロフがそう呼ぶから色違い先生と言ってしまったが、名前はなんだったか?

元から長い名前覚えるのは苦手な上に、こちらの発音は耳馴染みがない。

「面白い話を聞かせてもらった。一つ、こちらの暮らしにおける忠告で返そう」

大したことは言ってないけれど、助けられた上で忠告となると、やはりこの場所は立ち入り禁止だったのかもしれない。

「こちらの夏は大陸東よりもずいぶん乾燥している。保湿剤は常に携帯していたほうがいい」

「はい?」

「君は目に見えて乾燥しているからな。使いさしだが、やろう。この保湿剤は錬金術で作れるそうだ」

渡された掌に収まる入れ物。

興味から開くと乳白色の油のようなものが詰められていた。

また自分の知らない錬金術だ。

正直興味が強く、申し訳ないと思いながらもありがたくいただく。

そしてその日はいつも以上に時間をかけて寮に戻ることになった。

「アズ、これがどういうものかわかるか? 保湿剤というらしい。錬金術で作れるとか」

翌日の午後に登校して来た、博識な級友を捕まえて聞いてみる。

するとアズは目を瞠って、その後は何か言いたそうにしながら小さく頷いた。

「知ってるよ。けど、僕じゃなくそこは先生に聞こうよ」

「何故?」

「いや、逆になんで僕?」

あまり必要性を感じないが、それが帝国でのやり方なのかもしれなかった。