軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

160話:学園入試5

入試会場の学園へ行くのはこれで二回目。

最初は帝国子女と一緒に来たわけだけど、今回は僕一人で、帝国外の人たちと一緒に列をなして校内を進んでいった。

ちなみにイクトは置いて来た。

ルキウサリア王国は山間部だから、海人ってすごい目立つんだよ。

その上すでに宮中警護の制服着てたのを見られてるから、変装してる僕について来たらモロバレだし。

第一皇子が屋敷にいるっていうポーズのためにも置いてきました。

「…………その代わりなんだけど」

僕はちらりと行く先の校舎であるラクス城校を見あげる。

石造りのテラスに教員らしい獣人と並んで、やってくる受験者を見るウェアレルの姿があった。

いや、OBだし、僕がここの図書使うってことで今日は下見とか言い訳にしているのは知ってたけど。

まさかそんな堂々といるとは思わないじゃん。

まぁ、イクトみたいな狩人の勘とかないから、僕を守るならそうするしかないかな?

(あんな堂々としてるなんて。っていうか、一緒にいる白い猫の獣人、なんか、家猫じゃない顔してる?)

(耳の形、被毛の厚さ、毛皮の模様からユキヒョウであると推定)

セフィラが推測するのはネコ科の猛獣。

そう言われて見るとすごく強そう。

そんな人と喋りながらもしっかり僕と目が合うウェアレル。

これだけいる中で、普段と違う格好してるのに一発かぁ。

周囲は受験生がほとんどだけど、それとは別に前回来た時よりも人が多い。

僕がハドスに絡まれた時に要請したため警備は多く、学園の人員の巡回もしっかりしてる。

その上で即応できるようにウェアレルは学園内で待機と言う話だったのに、どうやらそれとなく僕が見える位置をキープし続けるつもりのようだ。

卒業生にして元教師だから、位置取りできるんだろうね。

「それでは共通テストを始める。質問のある者は声を出さず挙手をするように」

通されたのは学内の集会なんかに使われるらしい講堂。

ラクス城校を受験する者たちが一斉に詰め込まれていて、静まり返ってるのに緊張感がすごい。

それでも貴族と平民では部屋を別けていて、これは平民側が絡まれることを避けるためだと事前にウェアレルから聞いてる。

入学体験にいたいじめっ子を思えば、ないとは言えないよね。

そして僕は貴族側にいる。

平民でも全然いいって言ったんだけど、さすがにお育ちの良さが隠せないと言われた。

小領主の子弟で、行儀見習いのため親元を離れて帝都に暮らしてたって設定。

だから皇子の僕と顔を合わせられる身分のソティリオスたちとは、遠い場所に座っていた。

「それでは始め」

講堂に並べられた机の両端は通路になっていて巡回する教員が歩く音がする。

けれど広い講堂には息をひそめるような緊張が漲り、ペンの動く音ばかりが四方から聞こえた。

(脱字があります)

(ちょっと、セフィラ。試験中に堂々とカンニングさせないで)

まさかの指摘に動揺して文字が乱れる。

問題内容は共通科目という名の基礎問題。

読み書き計算と応用力、後は代表的な文学や美術に対する教養知識。

しかもこの入試、ほぼ半日かけて行われる。

僕としては高校レベルかなって内容だけど、ここにいるのは中学生くらいの年齢ばかり。

それを思えば難しい内容だし、詩作の問題があるのが地味に悩む。

(五割の受験者がペンを置きました)

(こういうのは見直しがって、ほら誤字があった)

前世の受験勉強でも散々言われたケアレスミスでの失点の勿体なさ。

僕は最初からもう一度問題を見直して答えが合っているかを検討する。

結果、ほぼ最後までペンを持っていた。

そして次に挑むのは学科の試験だ。

(セフィラ、暇なら魔法学科か薬学科のほうの試験見に行ってもいいよ。あっち実技もあるらしいから。錬金術科はまた筆記だから、つまらないかも)

(錬金術科の試験以上に興味深いことはありません)

期待してるみたいだけど、どうだろう?

錬金術、ルキウサリアでも衰退してるしなぁ。

そう思って学科試験の会場へ行ったら、思ったより人がいる。

三十人弱だと思ったら、セフィラが二十四人いるって教えてくれた。

ただテンションは低い。

(共通科目で終盤まで回答欄を埋められなかった者たちばかりです)

(そういうこと言わないの)

まぁ、予想はしてた。

パッとしない錬金術科は、それでもラクス城校の所属だ。

入れば箔になるから、他の学科に自信のない者がワンチャン願って受けそうって。

(けど、浅知恵だよね。あの錬金術科の教師がそんな手抜きしてくれるとは思えない)

(すでに問題用紙が配置されています。内容を検めますか?)

(セフィラが見る分には止めないけど、僕に教えるのはずるだからなし)

(了解しました)

僕の留学のために徹夜で問題作った教師は、ウェアレルの旧知だという。

話に聞く限り、手抜きはしない性格だろう。

前回出された問題もずいぶん高等だった。

世界の成り立ちを研究しているせいか、万物の元は一であるという一元論が云々っていう問題だったな。

あのレベルが出たら時間内に解答できるか怪しい。

けど試験だし、他の受験者より先に問題内容知るなんてずるはしない。

セフィラが錬金術の成果とはいえ、そこは人として守らないと。

(なんて思ってたのに)

実際出た問題は、あなたが考える錬金術とは? なんていうぬるい内容だった。

錬金術科の教師の研究課題を思って、僕は物理学的な方向で小論文を組み立てる。

それこそエメラルドタブレットに書かれた微細にしろって文言、あれを実現するにはって感じで。

(序論、本論、結論…………こんなものかな?)

(書き直しを推奨)

(え?)

突然セフィラに予想外の指摘を受けて聞き返してしまった。

(主人だけ抜きんでて優秀すぎます。これでは秘匿する正体がばれる可能性が高いと警告)

(それは、えぇ? 本当に?)

セフィラからの思わぬ警告に、僕は読み直すふりで身を屈める。

(ちなみに、他はどう?)

(半数が書ききれていません。ましてや錬金術に対する造詣のない者がほとんどです)

聞けば金を作るという俗世的な見方が多い上に、それを論じるほどの基礎もない。

ましてや小論文のような文章を書く基礎を知っている者さえ少数だという。

(そこまで?)

(主人に劣るまでも、態を成しているのは一人です)

セフィラの言葉に誘われて誰か聞くと、受験者唯一のエルフの少女だとか。

(それでも主人に及ばず)

(え、待って。じゃあ、今年の合格者二人だけとか?)

僕の悪い想像に、セフィラは黙る。

(…………記述内容から、錬金術に対する興味関心を持つ者は他三人)

(それでも五人かぁ)

(うち二人は共通科目において点数を三分の一取れるかどうかです)

さらに無慈悲な回答が来た。

僕は書き上げた小論文を見つめて溜め息を堪える。

(…………今は、書き直そう)

(論じる内容を変えますか?)

(いや、これはこのままでいいや。もっと何も考えずに書くよ)

小論文として整っているほうが目立つなら、内容よりも書き方の問題だ。

僕は一度書いた小論文を脇に置いて書き直すため、あえてインク壷を倒した。

そしてセフィラの協力の元、元の小論文を読めないほどに汚す。

すぐさま巡回の教員がやって来て眉を下げた。

「これでは…………」

「いえ、まだ時間はあるので。内容も決まっていますから書き直します」

「そうかい。頑張りたまえ」

すごい同情の目で見られた上に、試験中にもかかわらず、インクで汚れた机から移動を許してくれた。

移動してから僕は本当に思いつくままに書いてみる。

整いそうになるのをあえて別の話題放り込んで乱してみたり、深く考察を入れそうになるのを、あえて投げておいたり。

そうして僕は変なところで気力を使い果たして試験を終えた。

(やはり主人以上のできはいません)

(あれだけ頑張ったのに?)

僕は頭を抱えそうになりながら、ラクス城校を後にする。

帰りもやっぱりウェアレルと目が合い、落ち込んでるのがわかったようで、耳が垂れているのが見えた。

けど違うんだよ。

僕は思わずため息を吐き出す。

周囲にも同じく振るわなかった受験生たちが溜め息の合唱をしていた。