軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

156話:学園入試1

冬になって、また帝都から貴族子弟が馬車行列を作って出発した。

目的地はルキウサリア王国。

目的は学園の入試だ。

今回はさすがに馬車までソティリオスと一緒じゃない。

けどソティリオスは逃げられずに、ウェルンタース子爵令嬢と一緒に馬車に乗ってたのは見た。

相変わらずウェルンタース子爵令嬢はしたたかなようで何より。

そして僕は今回、表向きは留学だから引率側で同行している。

それと言うのも、馬車を仕立てるには資金に心もとない貴族子弟が増えたせいだ。

「盗賊が出るから?」

「そう、冬の厳しさを越えるために、生活に困った者が他人から奪ってでも生き延びようとするんだ。あとは、陛下がサロンで教育の機会を広げる意義と、集団で行動する利点を広めたためだね」

僕は馬車の中、テリーと向かい合って車輪の音の中話す。

聞いて何か言おうとするテリーだけど、考え直した様子で口を閉じる。

今回なんとテリーが一緒だ。

外遊とまではいかないけど、封印図書館の件でルキウサリア王国と緊密にやり取りするためにも、テリーが同行することになった。

今まで帝都外に出てないことは次代の皇帝として駄目らしく、ルカイオス公爵も乗り気だったそうだ。

行き先が八方美人なルキウサリア王国だったのも良かったらしい。

「僕たちのような子供が主体の馬車を狙われる。か弱い子供を守ることを優先して、抵抗が疎かになるからね」

「けど、これだけ大勢で移動して、お金を出し合って警備する者を用意すれば、安全なんだね」

今回人が増えた理由を理解して、テリーは頷いた。

「それを主導することで権威づけ?」

「うん、それもあるよ」

帝王学のせいかなのか十歳なのに賢いなぁ。

「…………私がルキウサリアに行くことをルカイオス公爵が推した理由が他に?」

「あるねぇ」

すぐに答えを教えないと、テリーは一生懸命考える。

ちなみに答えはユーラシオン公爵だ。

僕は留学なので、今回こそはソティリオスを率いる側に立たせようと動いていた。

そうすることで貴族子弟の中で目立たせようとしてたけど、そこにテリーを同行させれば、ルカイオス公爵としては政敵に妨害工作ができるというわけだ。

「ヒント、皇子以下で最も家格が高い貴族子弟」

「兄上、それはもう答えそのものだ」

「はは、そうかも。ごめん、ごめん。ソティリオスは僕と並べられてすでに二回失敗してる。だからこそ次代を貶める三回目をルカイオス公爵は狙ったんだよ」

「それは、ちょっと、申し訳ないかも」

「気にしなくていいよ。そのくらいでソティリオスは挫ける性格じゃなさそうだし。ユーラシオン公爵も元は僕を踏み台にしようというくらいに考えて絡ませたんだし」

ソティリオスに同情しようとしたテリーは困ってしまう。

僕からすると、気づいた時にはすでに共通の敵で、そのくせ別のところで勝手に敵対したり、手を組んだりする公爵たちだ。

正直今までの関わりから、絡むだけ面倒っていう考えが根底にある。

だから少しくらい痛い目見ても全然心動かない。

ソティリオスもちょっと女性相手に不誠実なことしてるし、一回痛い目見ろくらいは思ってたりする。

「兄上はいつも冷静だ。私もそうならないとだめなんだね」

「別にならなくていいよ。僕は関わる気がないから落ち着いていられるんだ。けど、テリーはそうじゃない」

皇帝になるなら有力公爵家とは付き合いが発生するし、僕が冷めた目で見てるのはもうどうしようもないほど敵対関係だからだ。

けどテリーは敵対するよりも他の道を選べる。

今の公爵たちは世代が変わるんだし、先を見据えてつき合うべきだ。

宮殿で追いやられた僕の轍を踏む必要なんてない。

「盗賊の話を聞いて、どう思った? 僕は自分の身を守ることを優先する。じゃあ、テリーが優先すべきことは何?」

「…………盗賊を生まないようにする」

「うん、それができるようになる道は、きっと僕ができるやり方とは違うよ」

「そう、だね。でも、兄上なら冷静にどうすべきかもわかるんじゃない?」

「案はあるけど実行可能かっていうと、そんなことないしなぁ」

前世の日本じゃ盗賊なんていなかった。

けど強盗はいたし、貧困から犯罪という話もなくなった訳ではない。

それでもいなかったのは、生活水準だ、社会福祉だ、教育水準だ。

どれもこの世界にはないもので、一から作るには日本史の先達のように、明治大正と時代を跨ぐほどの大事業になるだろう。

「まずね、盗賊って領地の境に出るんだって。なんでかわかる?」

「え…………えっと、あ! 領地越えて逃げるため?」

「正解」

僕はヘルコフやイクトと言った、経験豊富な相手に聞いた話を聞かせた。

「管轄が違うからどうしても捕り方の動きが鈍る。だからって勝手に隣の領地に武装勢力入れるなんて、別の問題が生じるんだ」

「つまり、関係が良好な領地同士じゃなく、敵対的な領地の境に多い?」

「いや、多いんじゃなくて、規模の大きな盗賊団が発生するらしいよ」

「あ、長く捕まらないから大きくなるのか」

「逆に壊滅する時は一気にらしいけど。領主側も相応に実力のある人送り込むとか。調子に乗って襲うとまずい相手を襲っちゃうとかするらしいし」

たとえば僕たちが乗る馬車を襲ったら、どんな領主も帝国軍の介入を断れない。

たとえ主権を守ろうと拒否しても、盗賊を捕まえられなければ領主は国を敵に回すことになる。

そこは帝室の紋章掲げてるから、帝室に関係のある公爵たちも無視はできない話に発展するだろう。

「難しいね」

「そうだね。ただただシステマチックに対処するほうがまだ簡単だ。けれど犯罪を行うのも人間なら、取り締まるのも人間だ。感情がある」

「悪い人も、やりたくてやってるわけじゃないってこと?」

「あ、そっちじゃなくてね」

まだ純粋なところのあるテリーの言葉に、いっそ三十代の記憶がある僕のほうが汚れてる気がしてくる。

「元近衛の件、どれくらい聞いてる?」

あれは結局逆恨みに逆恨みを重ねた末の暴走だった。

近衛という組織に所属する人間として、感情を律せたなら起きなかった事件。

まず、皇帝の命令に不服を表明しないし、反乱しないし、僕を怨むようなことはしなかっただろう。

その上でこっちは手続きを踏んで対処したのを逆恨みして、皇帝一家を襲おうなんてしないし、生家も血縁者巻き込んで破滅しなかったと思う。

「けれど彼らは止まれなかった」

「どうして? 間違ってるのに、自分だけの罪じゃ終わらないのに」

「本人たちしか真実は知らないし、本人たちもわかってないかもしれない。それが感情だ。人間の理不尽なところだよ」

「理不尽…………」

感情を知らないセフィラと話してるとよく思う。

無駄がない、間違いがない、それは信用には通じる。

けど余裕がない、理解がないことは、信頼に値しない。

セフィラが知識を悪用しようとしてないのはわかる。

悪用なんて無駄なことするわけがないからだけど、悪いことに使わないかと言われるとそんなことはない。

実際私信を覗き見たように駄目なことはしまくってるし、必要だと判断したからやってるだけだと反省もしない。

そこに理解のなさはあっても理不尽さはない。

どっちかと言うと、理由があるからこそやってることで、それはそれで困るけど。

人間の感情のままの疑心暗鬼による妨害みたいな理不尽さはないんだ。

「さて、面白くない話はここまでにしようか。まだ先は長い。窓の外を見てごらん、テリー」

考え込んでいるテリーに僕は促す。

すると街道沿いに植えられた青い小さな花が群れ咲いていた。

「これは冬告げと呼ばれる花だよ。この花を最後に、冬が始まり次の春まで花は咲かないと言われてる」

「わぁ、垣根みたいにいっぱい」

「うん、野生動物が街道に飛び出してこないための垣根らしいよ、この冬告げ」

薬効のある樹木で、この世界特有の植物だけど、図鑑に載ってたから僕も知ってる。

前にここを通った時にそう言えばと思ってたんだ。

狙いどおりテリーは目を輝かせて外の景色を珍しがる。

テリーと一緒ということで、行く先々でこういうちょっとしたことを調べて来てたんだ。

お兄ちゃんとして抜かりはないよ。

「でも兄上」

「うん?」

「私は兄上と話すことを面白くないなんて思ったことないよ」

「う…………!?」

笑顔で思わぬ一撃を食らい、僕は胸を押さえて呻く。

これはなんて不意打ちだろう。

テリー、すごいな。

全くの予想外だったよ。

お兄ちゃんとして初めてのテリーをフォローと思ってたのに。

僕は初日から、緩んだ顔を晒してしまったのだった。