軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135話:封印図書館5

僕たちは一度地上に戻った。

解いた仕かけはナイラのほうで解除前の状態に戻せるというので、もう一度封印をし直してある。

その上で僕たちは情報漏洩をしないよう、揃ってそのままルキウサリアの城に向かった。

「は…………? 封印を、解いた…………?」

ディオラと一緒に報告したけど、ルキウサリア国王は耳を疑って固まる。

まだ封印を解いたとだけで、オートマタについても言ってないのにな。

「短時間…………すぎる…………! あなたはどうしてそう、動く時とそうでない時の落差がここまで…………!」

何故か同席するストラテーグ侯爵が文句を言いつつ頭を抱えた。

うん、まぁ、こんな目立つことしたら宮殿のほうで政争勃発待ったなしだよね。

「考える時間があるからこそ、行動に移す時は短く済むだけだよ。今回は、僕も好奇心に逸って短慮をしたと思ってる」

「あ、そこはさすがに裏なしですか?」

レーヴァンは何を疑ってたのかな?

ともかく中断した報告を続けて、封印を解いて湖の底へ向かったこと、大図書館には見るからに先を行き過ぎた技術の内装について、そして八百年前から維持管理をしていたオートマタがいたことも話す。

「…………信じられん」

「本当です! 私もこの目で確認しております」

零れたルキウサリア国王の本音に、ディオラが反論した。

未だに整理しきれないながら、助手と学者も嘘はないと揃って頷く。

それぞれで様子を語るけど、ガラスの大階段の時点で信じてもらえないようだ。

そんな物作るには専用のガラス工房が必要な上、大量の資材と人手がいる。

またそうして作っても耐久性能はないに等しいので、非現実すぎるらしい。

「ガラスは透明度を保ったまま強度を増す技術はあります。ただ、確かに今の技術力では再現不可能です。その上で、オートマタの足はホイール型。つまり、階段以外の上下の移動手段も存在していたんでしょう」

言ってしまえばエレベーターだ。

これは人力なら古い時代にはあったもの。

ただ、水力発電を維持してるところを見ると、電動の可能性が高い。

ルキウサリア国王も、信じられないけれど信じようという姿勢で話を聞く。

ただ他の周囲は疑念の濃い顔が並んでおり、ストラテーグ侯爵も懐刀に確認する。

「レーヴァン? どうしてこうなった?」

「そもそも帝室の蔵書に、水底図書館とか記されてたせいらしいです」

「つまり、殿下には先にルキウサリアでは知りえない知識があったのですか?」

ストラテーグ侯爵が僕を見るので、誤解は解いておく。

「高い技術の錬金術が書き残されてるのは事実。けれど基本はディオラが見せてくれた今までのルキウサリアの研究結果から解いたに過ぎないよ」

「つまり、別の観点があれば封印図書館を見つけられるだけの情報は揃っていた、と」

何やらルキウサリア国王は重々しくまとめる。

ただストラテーグ侯爵が今も僕を疑うように見てた。

「宮殿での慎み深い自重の姿勢はどうしたというのか」

「本当に、それは申し訳ないと思ってます」

僕が素直に言うと、揺さぶりのつもりだったらしいストラテーグ侯爵が驚く。

脇に控えてたヘルコフやイクト、レーヴァンも僕を見下ろして信じられないような顔だ。

そんなに僕がやったことを後悔するのって珍しいかな?

うーん、珍しいかもしれない。

だって普段なら黙ってればばれないし、それで済ますからね。

けど今回はそれではどうしようもない問題を掘り出してしまった自覚がある。

「あれほどの技術力は想定外です。下手に公表するとルキウサリア王国は滅びを免れないと考えています。そのような厄災に手を出してしまったことはお詫びいたします」

先に謝ると、助手と学者が慌てて僕に問い質す。

「な、何故でしょう、第一皇子殿下? あれらはとても今は手を出せないものですが、あなたは初見であの機械人形とやらの行動も理解していたではありませんか」

「そうです。何故、ルキウサリアが滅ぶなどと不吉なことを。あれらは今後の研究と我々の努力によって繁栄をもたらす技術となりましょう」

想像ができない、いいことしか考えない、だって経験がないから。

それは大人も子供も変わらない、人間という生き物の性情なのかもしれない。

けど僕は知っている。

核という行き過ぎたテクノロジーが、世界の破滅を現実のものにしたことを。

「大きすぎて? だったら小さく、身に沿わせるように…………」

僕は考えてから話し出した。

「とある村があったとしましょう。村長がいて、村民がいて、それぞれの家には家長がいる。そんな村の一軒の家から、家を切り払えるほど、破格の威力を持つ剣が出てきました」

ようはたとえ話だ。

村は世界、村長は帝国、家と家長は国と国王に相当する。

「剣はその家の先祖が手にし、のちの時代まで隠していた財産でした。それを剣の家の家長は誇り、公にします。すると、村民たちは大いに注目し騒ぐでしょう」

ここに集まってるのは教養人ばかり。

なのでたとえとわからなくても、僕の話を静かに聞いて含意を探る。

「ある者は手放しにその発見を祝福し、ある者は自らが得られないことに嫉妬する。ある者はその威力を疑い、ある者は信じるからこそ喉から手が出るほどに焦がれるでしょう」

もしそこで、争いが起こればどうなるかを僕は話す。

理由なんて下らなくていい。

子供同士が喧嘩した、酒の上で粗相があった、ただただ隣人とそりが合わない。

「そんな些細なことでも、剣の家以外は思います。もしかしたら、あの剣をこの家に向けて来るのではないかと。猜疑心をおおげさだと笑うならば」

「いや、理解した。しました。そう、剣を振るえば大衆の敵として危険視される。だからと言ってもうすでに剣を持っていると知られていれば、村長に猜疑心の末に訴えが上げられ、こちらを罪人に仕立てる者も出て来る」

さすがに政治を担うルキウサリア国王は、たとえの意味と危険性を理解してくれた。

帝国は一番の軍事力を持っているからこそ、国々を纏めている。

それを凌ぐ剣を持っていても、一本では抵抗も限りがあった。

ましてや村という共同体の中で自らの家だけ生き残ったところで存続は難しい。

「そして、剣には村長の息子へ贈るとでも書きつけが遺されていたとか?」

ストラテーグ侯爵が理解してさらに付け加える。

オートマタのナイラが僕を後継者と呼んだことが原因だろう。

僕や助手と学者が言わなくても、ディオラが素直に言ってしまったんだよね。

もうこれは国同士の話だ。

そして戦争も視野に入れなくてはいけない案件になる。

学校関連、国内貴族くらいなら、皇帝に直接上げられるから僕の口約束で済ませられた。

けど戦争や国際問題、もっと広く人類の存亡なんて僕がどうこう言える問題じゃない。

「あのぉ、そこまで話大きくするもんありました?」

レーヴァンが疑問を上げるのは、大階段の上から動いてないからだ。

だから全容なんて知りようもないんだけど。

セフィラの存在を知るヘルコフとイクトは、何か僕だけが知ったことがあることはわかってるようだ。

「…………ストラテーグ侯爵、水鉄砲で遊んだのは聞いてる?」

「あぁ、弟殿下方と水遊びをするために作った玩具とか」

宮中警護たちもいたから報告は上がっているようだ。

「あれと基本設計は同じ。狙いと飛距離を安定させる砲身、打ち出すための強度、速度に耐える砲弾。それらを全て鉄で作ると何になるかは?」

「大砲ですか?」

ディオラが即座に想像力を働かせるけど、惜しい。

大砲はあるけど、小型化した鉄砲はなかったから、水鉄砲を知らなければその危険性には想像が及ばないんだ。

「僕の技術では打ち出せて水だけ。速度もないから殺傷能力もない玩具だ。けど、それを鉄を打ち出せるように実用化させられたら?」

「まさかあの機械人形の腕の穴!?」

ヘルコフが気づいて、無礼も忘れて声を上げた。

他の人にも、事情を察したストラテーグ侯爵が説明して、個人が持てる危険物であることを知る。

「錬金術の利点は誰でも使えることです。つまり、あのナイラについていた鉄砲の技術が流出すれば、誰でも、魔力がなくても、剣術を覚えていなくても、金属鎧を貫通させられる力が手に入る。そこに、身分はなんの盾にもなりません」

僕があえて言うのは、前世の歴史を知っているからだ。

第一次世界大戦も一発の銃弾から始まったし、大国の大統領さえ銃によって命を落としてる。

「使わない理性。それを求められて封印された図書館なんです。封印する以上の倫理観を望まれる知識があります。当時の人以下であれば、手に入れたところで自滅の札でしかないでしょう」

人間は良いほうに考えがちだ。

けれど一度事件が起これば拒否反応のように、危険を排除しようと騒ぐ。

拭い去れない危険が常にあるとなれば、疑心暗鬼は払拭できない。

それを僕はよく知っているからこそ、ここでは理性ある判断を求めるために利用した。