軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

132話:封印図書館2

昨日の内に早馬を出して手紙を帝都に送り、数日は滞在予定だ。

僕個人に予定はなかったけど、他の貴族子弟はルキウサリアにいる関係各所にあいさつ回りなどをする。

馬車を全体で動かすことで来ているので、僕も皆が帰る時までは滞在予定だった。

「お迎えに上がりました、アーシャさま」

そして突然できた予定によって、朝からディオラが迎えに現れる。

誘った側として馬車を出すためなんだけど、ここは僕が迎えに行ったほうが良かったかな。

「まぁ、レヴィも一緒ですか?」

「レヴィ?」

僕はついて来る予定の宮中警護を振り返る。

同行者はいつものイクトとヘルコフ。

古巣でやることがあるとウェアレルは別行動で、誰もいないと困るから連絡係でノマリオラが残る。

そして名目上は僕の警護であるレーヴァンも一緒に行くと言った。

「もしかしてディオラ、個人的に知ってる?」

「はい、私が生まれる前はルキウサリアの宮廷にいたそうで。その縁で父とも交流があると聞いております。確か、宮廷伯であったかと」

やっぱりいい血筋なんだなぁ。

宮廷伯は領地なし、一代限りだけど、王城の出入り可、国王との対話可という貴族の中でも特権持ちの地位だ。

ただ、宮廷にいないのに宮廷伯でいいのかは、ルキウサリアの問題か。

「ストラテーグ侯爵とルキウサリア国王は血縁で、レーヴァンは…………」

「あのぉ、殿下。俺のことよりデート優先しません? さすがにレディに失礼ですよ」

探られたくないのか、そんな冷やかしを投げ込む。

ただデートの言葉にディオラも赤くなるので、僕も失礼がないように馬車まではエスコートをした。

馬車に乗って目的地へ向かう間、ディオラはしっかり用意した資料を僕に渡して嬉々として封印図書館について話してくれる。

もちろんレーヴァンのことより僕もそっちが気になった。

「封印図書館は八百年前に生じたそうです。それまでは学術研究の最高峰とも言われていた研究機関だったとか」

「うん、でも研究内容が先進的であると同時に物議をかもす内容だったというものを読んだよ」

「まぁ、その辺りのことも帝室に残っていたのですか? もう学者も探すのをやめて長く、こちらでは当時は進みすぎている技術の悪用を恐れて封印したと言われています」

ただ調べれば僕が言うような危ない研究の話も出て来るそうだ。

けれど語り継がれることでルキウサリアでは、話がマイルドになってる。

「たまにダム湖に依頼で向かった狩人や、ロマンを求めた有閑貴族が捜索を行います」

「大々的に捜索はしなくなっても、散発的に探されてはいるんだね」

資料はそうした過去の捜索記録が纏められていた。

最近で一番大きな捜索活動は、七十年前の有閑貴族が学者たちも動員して行っている。

今までとは違う着眼を持って挑んだけれど、結果は失敗。

「封印図書館の封印場所はダム湖周辺であってるの?」

「言い伝えでダム湖が関わるということだけは。あとは遺された当時の文章から推測されます」

資料の該当箇所を教えられて確認すると、そこには詩的な文章と注釈があった。

詩を読み解いた結果、ダム湖の中で取り残されたような小島の上の教会にヒントがあるようだ。

教会の来歴に関する資料もあるけど、ヒントを見つけられた者はいない。

「詩に謳われた事象を数字に置き換えて、この文章が書かれた当時の地図の図法に合わせると位置が決まるんだね。詩は全体で六段。一段目が封印について、二段目が危険性、三段目が警告、四段目と五段目が場所で、六段目が封印を解く道順かぁ」

「ま、まぁ。一読でそこまで読み解けるとは。さすがアーシャさま」

「いや、昔の人たちが注釈を遺したからこそだ。あとは、前にも言ったけどここのことを書いた難解な文章は一度見てる。だからそれに沿って考えただけだよ」

ディオラの目がキラキラと輝き、純粋に僕を称賛してくれているからこそ面映ゆい。

馬車の中は二人だけで、警護は馬で付き従っている。

言うなら今だろう。

「ありがとう、ディオラ」

「え、いえ。私がお誘いしたので、お付き合いくださったことに私からお礼を言うべきです」

僕は首を横に振ってみせる。

「愛想つかされると思ったんだ」

「え?」

「昨日一方的なことを言ったでしょう、僕。不誠実なことは自覚してるし…………」

「そんな、そんなことはありません!」

否定されるとは思わず、ディオラを見れば必死な表情になっていた。

「大変なお立場は、私もわかってます。なのに私のことを気遣ってくださっていることも、わかっているんです」

言いながら、ディオラが俯きだす。

「出会った時、私、何も知らずに。失礼な申し出をいたしました。困らせてしまったどころか、はしたない申し出に呆れられたのではないかと、ずっと不安で」

言って頬を両手で覆い、瞬きもせずに怯えるような様子になってしまった。

「待って、待って。ディオラ、落ち着いて。僕はこうしてディオラと出かけられてうれしいよ。それに、自分で言っていてなんだけど、その、やっぱりディオラともう会えないかもと思ったら、寂しかった」

「アーシャさま…………」

顔を上げたディオラは両手で覆っていた頬が赤くなっている。

目が合って気まずくなり、僕もなんだか顔が熱い気がしつつ素直な気持ちを伝えた。

「えっと…………手紙、楽しみにしてる」

「はい!」

目的地に着いて降りると、ディオラはテンションが高いまま周辺について説明をしてくれる。

それを見てレーヴァンが嫌そうな顔をした。

「いや、本当。何したんですか? ストラテーグ侯爵に報告しにくいことしないでほしいんですけど」

「語弊がある。下手に突撃されて止めるのに苦労するの自分なんだから、妙な勘繰りしないでね」

釘を刺して、僕は元気に話し続けるディオラとダム湖へ向かう。

周辺は高い山に囲まれていて、谷の部分に壁を設けてダムにしてあった。

そしてぽつりとダム湖の中に岸壁を晒す島があり、教会らしい石造りの壁が見える。

ダムに沈む前は低い岩山だったんだろう。

ダムを形成する壁の部分には監視所とは別に屋敷が立てられていた。

どうやらかつての調査の拠点としての建物らしい。

僕たちが来ると決まって昨日から整備に人が入っているとかで、宿泊も可能だという。

「すごい景色だね。雄大で、人の知恵と強さを思わせる」

「はい、国内で一番の広さと深さのダムです。周辺国でもこれほどの規模は珍しいと聞きます」

見渡す限り湖であり、ダムとして落差もあって、水力発電について考えてしまう高さだ。

「…………って、え? ねぇ、ディオラ。あの水が流れてる所にある設備は何?」

高層ビル並みに高いダムの上から見下ろす場所に、僕は指を向ける。

ダムの排水路の辺りに太く頑丈そうな横倒しの水車が見えるんだ。

「わかりません。かつて周辺に粉ひき場でもあったのではないかと。ただとても大きいので、どれだけ大きな石臼を回していたのかもわからないと」

つまり資料に残ってない?

これだけ立派な上に、横倒しはきっと最初からだし、こうして見ても未だに動いてるのに?

「降りて見ていいかな?」

「はい、アーシャさまがお望みでしたら」

ダムの端から降りる急な階段を、ディオラの手を支えて進む。

待っていていいと言ったけど、興味があるとディオラも来たんだ。

「ヘルコフ、周辺に建物のあった形跡がないか調べてくれる?」

言いながら、僕はセフィラに走査を指示。

走査を誤魔化すためにヘルコフに動いてもらうんだ。

そして見る限り、水車は放水路のただ中にあって、今も水流を受けて回っている音がする。

ダムの壁の内部から水車の近くにある構造物へ行ける出入り口が下から見えた。

「殿下、周辺にそれらしいものはありませんね」

ヘルコフが戻ってセフィラの走査結果を口にする。

建物があれば基礎や建材の痕跡が残っているはずだけど、それもない。

その上で、確かにある水車の使い道を僕は一つしか思いつかなかった。

「まさか、水力発電?」

「アーシャさま?」

「ディオラ、あの水車近くの建造物へ行くルートはわかる?」

「それが、ダムが水で満たされる前に使っていた通路らしく、出入りできるのはダムの底からなのです」

つまり今は不通の通路だという。

そうなると余計におかしい。

だって八百年も前の水車が今も回っているなら、誰かが手入れしなければいけない。

それに水力発電だとして誰が電気を使っている?

湖の底に、誰がいる?

僕は思わぬ発見に唾を飲み込んだ。