軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

125話:初恋の君5

結局、ルキウサリアでの入学体験は団体行動になった。

ルキウサリアの学園は王立で、つまり王室のものだ。

そのため学園入学には権威が利くと思い込んで行動する者は毎年いるらしい。

ディオラに口利きをしてもらおうと、近づく貴族もいるし、逆に僕だけ同行していると、口利きを勘ぐられる。

個別に対応するより、一斉に帝都から発して、その際に全員に口利きなんてないし、誰かを特別扱いもしないと明言することになったんだ。

「いっそ、貴族以外の学業に励む者のために馬車を用意していただけないでしょうか?」

ルキウサリアに行くことが許された報告のついでに、僕は起こりえる問題についても父から聞かされた。

そうしたディオラを思っての団体行動を理解した上で、僕はさらに提案する。

「馬車を用立てるのも一つ入学資格でしょうが、体験する機会すらないのはまた別の問題かと」

日本には奨学金制度があった。

あれは借金だ、無償にしろと批判はあったものの、前借りしてでも行けるなら行けたほうがいい。

学業にお金がかかるのは前世と同じなので、学校に行かない者が国民のほとんどのこの世界ではもっとひどい格差となっている。

血筋至上主義的なところのある貴族社会以上に、まず学ぶのには時間とお金が必要で、それを捻出できる家となれば貴族がほとんどという話なのだ。

だから貴族出の人間が平民に比べて優秀なのは、当たり前の事実。

ただ、貴族に生まれなかった人間が生まれながらに低能かと言えばそんなことはない。

僕は血筋に限らず有能な人間は育つと知っている。

だったらまず学ぶ機会、学びに触れる機会を増やすべきだ。

「学業の奨励は過去の皇帝も行った。だが上手くいった例がないのだ」

なんだかそれ、明治の歴史であったな。

子供は働き手だから、学校へやることを反対する親がって、義務教育施行の時に。

「まずは陛下に賛同する者の中で、貴族に近い者から推薦させては? 模擬授業と模擬試験を行うとのことですから、受けた感触で入学するかどうかを吟味する一助にすればいいと思います。重く考えず、今回は大人数となるので数人増えても問題はないですから、試しということで」

「そうだな、継続的にとなると資金の問題がある。だが、今回一度だけ同行を試すなら。ふむ、今からルキウサリアに招待をどれほど用だてて貰えるか」

「あ、それはすでにディオラから本国へ連絡してもらってます」

「なんだ。すでにそちらは説得済みか。では、こちらは二、三声をかけてみよう」

父は皇帝として仕事があり、まだ近衛関係が尾を引いてるから忙しい。

本当、家潰すとか言う話になると、貴族たちが浮足立って纏まらない。

エデンバル家の時はよくもあれだけさっと切って、さっと終わらせたものだ。

たぶんこの一年、父はかかりきりになるだろう。

申し訳ないけど、これを乗りきれば皇帝として実行力があると見直されることになる。

頑張ってもらいたい。

「そう言えば、今回の件はユーラシオン公爵子息から言い出したことであったはずだな?」

「えぇ、ソティリオスが同行を求めたことが発端ですね」

父の確認に、僕はおおよその状況を説明した。

「その時に何かユーラシオン公爵の家について言ったか?」

「特には記憶にありませんが」

「何故か他所の家のことをかき回すなというようなことを、ユーラシオン公爵から言われてな。それとも、あれはもっと別の意図があったのか?」

どうやら今回同行を騒いだソティリオスのことで、親のユーラシオン公爵が父に物申したという。

けど父にはなんのことかわからないらしい。

「それはたぶん、ソティリオスがディオラに心寄せているためかと」

「…………あぁ、そういう」

父は半笑いになってしまった。

ユーラシオン公爵家は、跡継ぎのいなくなった公爵家の土地と財産を受け継いで新たに建てられた家だ。

その際に、前公爵家の血も受け継ぐことが要件とされている。

そのためすでに結婚していた現ユーラシオン公爵の子息が、前公爵家の女子と結婚することは生まれる前から決まっていた。

つまり、ソティリオスにはすでに家が決めた婚約者がいるのだ。

「優秀だと誇っていた割りに、案外手を焼いているというわけか。子息のほうはなかなか気骨があるやもしれないな」

冗談交じりに言う父は、ちょっと面白がっている。

散々邪魔をするユーラシオン公爵が、息子の恋路に手を焼くと思えばおかしいんだろう。

僕は父と打ち合わせて、その後はディオラとも話し合ったり、庭園散策をしたりした。

散策の時には、双子が走って来て、テリーが追ってくるという形で弟たちを紹介する場面もあり。

後で仲間はずれにされたとライアが怒ったらしいとか。

そしてふた月はあっという間に過ぎる。

「…………同じ、馬車なのかな?」

「問題ない大きさの馬車を用意してあります。同乗は私とディオラ姫、もう一人令嬢が」

馬車の前には僕とソティリオスの二人だけ。

気まずいし、ソティリオスはなんだか緊張が漲っている。

そしてもう出発の時間が近いのにディオラはいない。

これは変だ。

「少し…………様子を…………見て、来るよ」

僕はゆっくりたっぷり勿体ぶってそれだけ言うと、ソティリオスから離れる。

まだここは宮殿前の広場なので、僕にはイクトがついて来ていた。

というかルキウサリアにも同行する。

もう派兵まで一緒だったからって、前例押し出して同行を許可されたんだ。

近衛の反乱やサイポール組の暗殺もあって、僕にだけ特別護衛をつけることに文句はほとんどなかったとか。

あと、馬の手綱握って残ったレーヴァンも同行するから、ストラテーグ侯爵からも抵抗なくすんなり許可されてる。

「あ、アーシャさま。良いところに」

現れたウェアレルは、もちろんルキウサリアまで同行する。

一緒にヘルコフもいるんだけど、ノマリオラも含めて三人は別の馬車移動の予定のはずだけど。

「あっちでちょっとルキウサリアのお姫さまが困ってんですよ」

ヘルコフが指すのは、宮殿広場から建物の一階を抜けて庭園に行ける通路の方向。

僕はすぐに案内されて、建物の一階部分へ。

すると建物内部の階段の陰から声が聞こえた。

「殿方に色目を使うなんて! なんてはしたないのでしょう! 恥を知りなさい!」

「いえ、私は決してそのようなことは…………」

責めているのは少女の声で、責められているのはディオラの声だ。

諍いの気配にそっと様子を窺うと、そこには温室の陰にいた紫縦ロールの少女がいた。

敵意を隠しもせずディオラに相対し、厳しく追及している。

「何かの間違いではありませんか、私は決して…………」

「そんなことで誤魔化せるとでもお思い? ずいぶんと軽んじてくれるのですね」

よろしくない雰囲気だし、ディオラは押されており、相手の勢いが強すぎる。

事情はわからないけれど放っておくこともできない。

僕はイクトたちをその場に留めて一人で出て行った。

「どうか、したかな…………? ディオラとは、僕も、約束が…………あるんだけど。いい…………かな?」

「これは、アーシャさま!」

すぐにディオラが反応して、口論の現場を見られたことに恥じ入る。

さすがに宮殿にいるなら帝国貴族の関係者である少女も、僕の名前とディオラの反応で誰か気づいて反射的に開いた口をすぐに閉じる。

「もしかして、私を捜しにいらしてくださったのですか?」

頷くと、ディオラは頬を染めてはにかむ。

それを見た紫縦ロールは、眦を裂かんばかりに気色ばんだ。

「他人の婚約者を誘惑するようなはしたない真似をしておいて、皇子殿下にまで?」

「ご、誤解です! アーシャさま、私は決してそのような!」

邪推にディオラが慌てて僕に弁明する。

「うん、わかってる…………わかってるよ…………。君も、移動をしたほうが、いいと…………思うよ。…………ウェルンタース子爵令嬢」

僕は紫縦ロールにそう声をかけた。

相手の素性は間違ってなかったようで、言い返してはこない。

最近知った名前だったから覚えてた相手だ。

ウェルンタース子爵家は、今はなき公爵家の令嬢を娶った家で、生まれた娘の血筋は家名以上に由緒正しい。

その血筋を重んじて生まれる前から婚約者がいるほどに。

「いたし方ありませんわ。今日のところはいいでしょう。ですが、またソーさまに色目を使うならば」

「しません!」

ウェルンタース子爵令嬢の言いがかりに、ディオラは必死に否定する。

けれどウェルンタース子爵令嬢が納得した様子はない。

っていうか、うん、ソーさまってやっぱりソティリオスだよね。

この子爵令嬢はユーラシオン公爵家以前の公爵家の血を受け継ぐ令嬢で、生まれながらのソティリオスの許嫁、その人だった。