軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122話:初恋の君2

ディオラが帝都へやって来た。

僕と同じ歳で十三歳なので、まだ国を代表することはできない。

けど一人で他国へ行くならあり得る歳となっているので今回はディオラ一人だ。

表向きは親類のストラテーグ侯爵を訪ねて来てるそうだけど、その実僕に会いに来ていることは、手紙で知らされている。

「ハドリアーヌから求婚があったというのは本当でございますか…………!」

「あ、うん。正式なものじゃないから落ち着いて。ディオラ、久しぶり」

「こ、これは失礼いたしました。お会いできて嬉しゅうございます、アーシャさま。兵を率いての大変なお役目を成し遂げられた勲、聞き及んでおります」

ディオラは会ってすぐさま駆け寄って来た。

いつ聞いたか知らないけど、どうも言わずにはおれない感じだったようだ。

頬が赤いけどドレスを摘まんで身を低くする一連の動作は洗練されていた。

ここは庭園にある温室で、柑橘類を育てるため四方ガラス張りだ。

同じく日射が必要で寒さに弱い植物が集められてる。

そこに椅子とテーブルを用意して、僕たちは再会を喜んだ。

「こうして運よく戻れたよ。それも兵たちの働きあればこそだ。ハドリアーヌ王国のほうからは特別なことは何もない。ただ、園遊会という多くの人がいる場で少々情報の行き違いがあっただけだよ」

「まぁ、そうでしたか。お恥ずかしい…………」

わざわざ自分からディオラに椅子を引いてあげながら、ストラテーグ侯爵が疑わしい目をして僕を見る。

いや、本当あれは僕利用されたほうだからね?

うん、もちろんストラテーグ侯爵同席のお茶会だ。

とは言え、ディオラは綺麗になったし、橙色の髪をハーフアップにして耳元が見えるのも大人っぽい。

襟のあいたドレスを着こなし、成長してすらっとした腕に白い手袋が良く似合った。

「素敵な温室…………。硝子も綺麗に手入れされていますね。あれはレモンですか? 実がずいぶん大きいのは、庭師の腕がよろしいのですね」

「うん、庭師たちに頼んで見て回れるよう配置をしてもらったよ。後で案内するから楽しみにしていて」

「本当ですか、嬉しい!」

大人っぽくなったけど、好奇心に輝く笑顔は初めて会った時と同じだ。

僕が派兵するにあたって心配して手紙もくれていた。

僕としても顔を合わせて無事を報告できることは素直に嬉しい。

「まぁ、鉱物。それをアーシャさまは自ら精製されるのですか?」

「小さな炉で出せる温度はたかが知れてるけど、そこは魔法も使ってなんとかね」

「言われて見ればそうですね。盲点でした」

「どうしたの?」

「魔法の素材として金属は好まれないことは?」

「知ってるよ。時を経た木が基本で、そうでなければ魔物化して多くの魔力を蓄えた生物の素材を使うんだよね」

「はい、それと宝石類になります」

「うん? 宝石と鉱物は別?」

「はい、そうですが。どうなさいました?」

たぶんディオラの話の落ちは、魔法に金属は好まれない、だから鉱物を溶かすのに魔法使うのが盲点だったという話だ。

けど、僕の知識から言うと宝石にも鉱物は混じってる。

というか混じった鉱物によって発色が変わるのが宝石だ。

そして鉱物と言えば金属も宝石もこみこみの名称のはず。

けど理科知識もないこっちだと別物扱いされているようだ。

その上で金属は魔法に適さないという常識があるため、やはり魔法と親和性のある宝石は別だと考えているんだろう。

「含有量の問題かな? どうして金属が駄目かはわかる?」

「わかりません。寡聞にしてそのようなこと調べた文献を見たことはありませんね」

僕の問いにディオラも困る。

そのためストラテーグ侯爵が口を挟んだ。

「そもそも検証できないでしょう。金属棒に魔力を通したところで魔法にはならないのですから」

「魔力が通るなら、検証だけはできるんじゃないの?」

「いえ、魔力が通るだけで魔法にはならないんです」

ディオラも検証自体無理だという考えらしい。

そしてこういう話をして黙ってないのが一人いる。

(検証方法を提案)

(待って! ここじゃできないから、部屋に戻ってから!)

セフィラ・セフィロトは今日も平常運転です。

「例外はありますがな」

ストラテーグ侯爵がため息交じりに語るのは、おとぎ話の類だった。

「アダマンタイトと言う、伝説とも謳われる金属であれば可能だと。ごくまれに所持している者がいます。しかしどうやって作られるかは失伝しておりますな」

つまりやっぱり検証はできないってことらしい。

残念だ。

また技術の囲い込みかな?

(該当あり)

(うん? え? セフィラ?)

(帝室所有の図書に該当あり。アダマンタイトは錬金術により生成される特殊金属になります)

僕は声が出そうになるのを堪える。

いや、言われてみれば読んだ記憶がある、というか、一言だけあったのを思い出した。

確か、自分も賢者の石を作って、アダマンタイトも精製できれば天下一の錬金術師みたいな文言だ。

しかも技術の秘匿のために詩的な言い換えが多い文章で、賢者の石だって第五元素とか神の血とか言い換えられてた。

それで、アダマンタイトも金剛、神の鎌とか書かれてた気がする。

思い出してみれば確かにそういうアダマンタイトを示す語は錬金術の書にあった。

考え込む僕にディオラが好奇心に輝く目で聞いてくる。

「アダマンタイトや、魔法が金属では使えないことに興味がおありですか?」

「もちろんあるよ。神の悪戯にも、そうなるべくしてなった神の意思が介在する。理由のない現象ではないはずだ」

読んだ錬金術書に書かれた文言を口にすれば、ディオラは前のめりになった。

「では、アーシャさま。我がルキウサリアの学園に入学をご検討ください。多くの研究者、多くの分野にわたる研究が日夜行われております。その者たちが辿った道を行くのもまた、知を深める道となるはずです」

おや、これって勧誘?

そう言えばディオラには行かないって言ってない気がするけど、僕が入学に消極的だと知っていて言ってるよね。

そしてディオラに言った相手は…………。

ストラテーグ侯爵を見ると視線を逸らされてた。

どうやら僕が行く気がないってことをディオラに伝えたらしい。

僕がユーラシオン公爵から妨害受けてることもわかってるだろうに、止めるか先に根回ししてよ。

ディオラのことになると、わかりやすいけど脇が甘くなるよね。

「その、錬金術科も少し話題になっては、いるので」

ディオラが一生懸命誘ってくれる。

そして話題になった心当たりもあった。

派兵に行く前に小雷ランプを錬金術科に送っているので、もう二年ほどになるから何か成果でもあったんだろう。

ただ黙っていても悪いので、僕は話を膨らませようと聞いてみた。

「へぇ、錬金科には今何人の生徒がいるのかな?」

聞いた瞬間、ディオラの笑みが固まった。

ストラテーグ侯爵を見ても僕を責めるように見てる。

「…………申し訳、ございません。実は、今年の入学者は、いないのです」

「え!?」

ディオラが肩を落として実情を語る。

僕も今度はこらえきれずに声を上げた。

けど小雷ランプは注目されているのは確かなはずだ。

ディオラも話題にしたくらいだし。

困るディオラにストラテーグ侯爵がまた代わって応じる。

「殿下もお聞き及びかもしれませんが、小雷ランプを錬金術科の教師が再現しました。ただ半分魔法と言うことで錬金術の貢献は低いと言う者もいるのですよ」

「ふぅん、今まで再現もできなかったのに?」

ついそんなことを言ってしまうと、なんかストラテーグ侯爵がやっぱりみたいな顔した。

これはウェアレル経由で回したのばれたかな。

ストラテーグ侯爵相手ならばれても困ることはないからいいけど。

(錬金術の衰退は技術一つじゃどうにもならないってことか。というか、魔法交えるとそっちに評価吸われる感じだ)

(現状主人が制限を受ける要因は錬金術の不当な低評価と、関わる人間の少なさと推察。今後の活動を広げるためにも学府における地位の向上を提言)

セフィラの言うこともわかる。

けど結局それを僕がすると、いや、ここが宮殿から離れる時期なのかな?

ここまでルカイオス公爵は父もテリーも排除する様子は見せていない。

ユーラシオン公爵の盾として働いてはいるけど、いまいち信用できないんだよね。

今離れてどんな手を使ってくるか…………。

「あの、アーシャさま。試しに今年、入学してみませんか?」

悩む僕に、ディオラは両手を胸の前に組んで、そう提案した。