軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111話:ユーラシオン公爵の妨害1

短い家族旅行は、弟たちと遊び倒して終わった。

話して遊んで肩の力が抜けたテリーは、釣りや野草摘みといった遊びで僕と張り合っていた。

それを見て双子も面白がると、妹のライアまで一緒に競い、そして年齢的な不利で負けて泣きそうになるのをみんなで慰めるという、とても楽しい日々だった。

そうして帰ってからは平穏だったけど、二カ月でまた動きがあったようだ。

「へぇ、ワゲリス将軍また軍を率いてホーバートへ?」

「上層に入ったって言うのに、じっと座って命令だけなんてできないんですよ」

ヘルコフが腐すけど、皇帝である父からの指名で名誉なことだそうだ。

僕は今日来る弟たちに見せる錬金術の玩具を調整しながら話を聞く。

「今では悪を許さない正義の人という評判で、民衆から人気だそうです。ワゲリス将軍が兵を出すと聞いて、帝都の民も見送りに列を作る準備を今からしているとか」

ウェアレルは、口元に隠しきれない笑いがある。

本人を考えると、世間の評価とかけ離れてるよね。

けれど長年悪事でのさばって来たサイポール組に正面から切り込んで成果を収めた。

だからこそ期待と人気が望む英雄像をワゲリス将軍に被せたんだろう。

言ってしまえば、ワゲリス将軍を英雄扱いする分だけ、サイポール組が嫌われてるんだ。

「そのきっかけとなる果断を行ったのはアーシャ殿下であり、将軍の風評を作るきっかけもまたアーシャ殿下が配置した者によるのですが」

イクトが言うのは、とある武官について。

僕に従軍して、最初の頃ワゲリス将軍に天幕の不備を訴えた人だ。

勢いはあるけどそれだけみたいで、結果が出るより先に経過で満足してしまう武官のように見えた。

ただ、ワゲリス将軍に突撃する行動力と、すらすら言葉だけは出る会話能力、そして貴族的なやり方は理解している教養面。

これ、上層部に食い込んだワゲリス将軍に足りないところだと思ったんだよね。

なので、ロビー活動用にワゲリス将軍の元で受け入れてもらった。

「セリーヌや顔見知りになったワゲリス将軍の部下に、ワゲリス将軍のいいところいっぱい吹き込んでってお願いしてたのが良かったんだろうね」

武官は聞いたとおりのワゲリス将軍のいいところを誇大に言い立て、脚色して広めた。

それが英雄像にも一役買ったようだし、この調子で軍上層部で存在感を強めてほしい。

軍も上層は貴族だ。

そのせいで生まれの低い皇帝を重んじない風潮はある。

それでもサイポール組を追い込んで追撃が成功すれば、ワゲリス将軍を無視できない。

純粋に皇帝のためと言ってくれる将軍が上で存在感を強めることは父の助けになる。

「こっから大変なのは近衛のほうでしょうけどね」

「おや? 職を辞した後のやらかしですから無関係を言い張っていたのでは?」

「どちらかと言えば生家が軒並み貴族から手を切られて窮しているとか」

ヘルコフの言葉に、ウェアレルが疑問を呈すとイクトが答える。

元近衛はもちろん反乱を起こした者たちで、しかも楽しい家族旅行を邪魔した人たち。

まぁ、隙があれば襲ってくるよう煽ってもらったの僕なんだけどね。

「庇ってたのも家のためなら、有罪でも罰金刑で済ませようと抵抗したのも家のため。その上で家から放逐して無関係ってやろうとしたところで、皇帝一家の暗殺未遂だしな」

「あぁ、家が結局巻き込まれて、血縁や姻戚が飛び火しないよう一斉に手を切ったとかですか」

「そう言えば、派閥内でも色々動きがあるようで。ストラテーグ侯爵の元に嘆願に駆け込む貴族を一度見ましたね」

元近衛たちは父と潜んでもらっていたワゲリス将軍たちで全員を捕縛。

未遂で被害なしだったから、結果は見せしめ含めた無期限の奴隷落ち。

直系の親族は爵位の降格や所領の没収。

なんかこれら、貴族的には死刑よりももっと尊厳のない刑罰扱いらしい。

そして近衛のほうは元近衛が武装してたことや侵入成功したことから関係を疑われ、今も大変だって。

何せ反乱以外にも僕への対応の悪さを父は聞いているから、近衛のトップ更迭のために今もやいやいやってるそうだ。

さすがに皇帝権力に傷がつくからって、公爵たちも邪魔しないらしいし。

(戻りました)

聞こえない声を聞いて、僕は側近たちに伝える。

「セフィラが戻って来たよ」

「推測の範囲内です。主人に使えない内容を教えるため派遣された家庭教師は、ユーラシオン公爵の手の者でした」

さっさと報告するセフィラには、もうちょっと勿体ぶってほしいなぁ。

ことの発端は陛下が入学準備とそのために家庭教師を捜したことだ。

ところが軒並み拒否で、伝手が少なく落ち込む父に代わって、妃殿下も捜した。

けれどそちらも拒否や少し教えてすぐに理由をつけて辞職する始末。

「さすがに三人連続親戚の葬式に出席するために辞めますは怪しかったもんね」

父たちに家庭教師斡旋までの苦労を聞いて、もはや裏を疑わないわけがないし、いるのはルカイオス公爵だろう思ってた。

そしてやって来た使えないことをあえて教える家庭教師は、どうやらユーラシオン公爵の手の者だったようだ。

そういう伝手を潜り込まされるのは、それだけ父周辺を固めて守っていたルカイオス公爵の人員配置が緩んでるってことでもある。

「こっちが平民だからと、指摘しても私のほうが間違ってるとはよくもまぁ」

ウェアレルは内容がおかしいことにいち早く気づいて指摘したけど認めなかった。

だから僕もすでに習ってる手紙の書き方を教えてと試すことに。

偉い人が使う文体ってものがあって、日本的にはビジネス文書をもう一段格調高くしたようなものなんだけど。

それをさらに格調高すぎて使わない単語を覚えるところからやらされそうになった。

「あれはさすがに私もわかりましたからね。逆に古めかしくて今使うとおかしな書き方を教えようとは」

一応貴族のイクトも、貴族としての体裁を保つためにそうした文章には触れるそうだ。

ただし、書くのは代筆屋さんに頼むんだって。

そんな職業あるって知ってちょっと面白かった。

「追い出して何処行くかと思えば、ユーラシオン公爵か。殿下、これはやっぱり入学阻止ってところなんでしょうかね?」

「そうだと思うよ。あとは、あんまり家庭教師捜したせいで、余計な人が近づいて来たのを察して、ユーラシオン公爵なりの防波堤かな?」

僕はヘルコフに、無駄を教える家庭教師が斡旋されてきた理由を推測して聞かせる。

「さすがに外国人家庭教師は悪影響が過ぎるでしょうね。こちらには弟皇子方もいらっしゃる。帝国ではありませんが、他国には外国人家庭教師による洗脳教育があったと聞きますしね」

ウェアレルが不穏なことを言う。

聞けば、他国から嫁いできた妃の元に、生国から送られてきた人物だったそうだ。

生まれた王子の家庭教師として、妃の生国の言語から歴史、素晴らしさ、誇らしさ、優位性を徹底的に教え込んだ。

そして国の者たちの前に王子として立った時には、何処の国の生まれだと疑うような、人物になってしまっていた。

「その国は自国を下に見て愛さない王子を王太子にするかどうかでずいぶん揉めたそうですよ。結局、自国を愛する令嬢と結婚の上で、その令嬢が実権を握り次代へ繋いだと」

「大変だね」

いや、今僕に迫ってる危機だけどね。

年齢が上がって僕の継承権が問題になるのも現実味を帯びて来た。

長子相続、しかも一度追い出されて戻って来た実績から、可能性ありと寄ってくる人が増えているらしい。

独り立ちの実績作りであってそんなつもりじゃなかったのに、迷惑だよ。

「継承とかって面倒だね」

側近たちに何とも言えない顔をされた。

うん、僕、第一皇子です。

けどテリーのほうがきっといい皇帝になるよ!

「やっぱり入学阻止する方向っぽいけど、動くの遅すぎるんだよね、ユーラシオン公爵」

実はもう、必要な勉強は終えてる。

なんせ僕の家庭教師はルキウサリアの学園に務めてた教師だ。

必要分は自分の担当分野でなくても調べて教えてくれたんだよね。

精神年齢高くて異世界に興味深々で、幼い頃から勉強は苦でもなかったし。

一時期は引きこもりで錬金術以外にすることもなかったから、勉強ははかどった。

しかも父にも言ってないままだったから、今から始めると思い違ったようだ。

「けど問題は礼儀作法なんだよね」

「申し訳ない。私自身蔑ろで、伝手さえ」

「俺も軍隊式だったらなんとかなりますが、上流貴族となると」

イクトとヘルコフは今さら解決策も見当たらず難しい顔になる。

ウェアレルも困り顔で、考え込んでしまった。

そう、僕が今一番欲しいのはマナーの家庭教師。

しかもただ言葉遣いや挨拶の仕方だけじゃない。

そこには血統や姻戚関係、家名にまつわる歴史などさえ網羅した礼儀が必要になる。

名前を聞けば何処の誰でどんな身分、派閥かを把握する、そんな力を備えるための勉強が皇子として必要だった。

「あ、そろそろテリーたちが来る時間だ。ほら、僕は最悪黙ってればいいんだし、そんな深刻に考えないで」

側近たちにそう声をかけて、僕は一度手元に集中する。

ほどなく、軽やかな足音と共に、弟たちがやって来たことがわかった。