軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#527 親子の距離、そしてジオラマ。

「うーん……。難しいなぁ……」

「なにがです、か?」

ポツリと僕が漏らした声を、たまたま側で編み物をしていたリンゼに聞かれたらしい。

まあ、別に隠すことじゃないんだけど。

「ちょっと久遠のことでね」

「久遠の? なにかありましたか?」

「いや、その逆。なにもないというか……」

なんというか、他の子供たちと比べて、いまいち打ち解けてないというか。ユミナとはそれほどでもないのだけれど、僕相手だとどこか他人行儀な感じがするんだよね。

「男の子がお父さんにべったりというのもどうかと思いますけど……」

「いやまあ、そうなんだけどね」

僕の場合どうだったかなあ。子供の頃は両親が共に忙しくて、ほとんどじいちゃんに遊んでもらっていたけど。

そのじいちゃんと同じ名を持つ息子でこんな悩みを持つとは。人生わからないもんだ。

「一緒に遊んだりしたらどうですか? 地球では親子でキャッチボールとかするって本に書いてありましたけど」

「キャッチボールねえ……」

キャッチボール自体をするのはいいんだけど……。それで? ってなるんだが。なにか話すのか? 『最近どうだ?』とか? 久遠のことだから、『どうだとは? 特に変わりありませんが?』とか素で返されそうなんだけども。

そもそも久遠のことをあまり知らないな、僕。好きな食べ物とか、趣味とか。普通なら成長過程で知るんだろうけど、一足飛びに息子が来たからなあ……。

まずは彼のいろんなことを知らないといけないか。よし、とりあえず他の 姉(きょうだい) たちに聞いてみよう。

◇ ◇ ◇

「久遠の好きな料理ですか? そうですね…… 冷奴(ひややっこ) とか筑前煮とかでしょうか。あ、松茸のお吸い物も好きですね」

「渋いな!」

とりあえずアーシアから久遠の好きな料理を聞いてみたら、およそ子供らしくない答えが返ってきた。

どっちかというと、それってご年配の方が好きな料理じゃないの? や、イメージだけど。

うちでは和洋折衷構わず食卓に上るが、基本的に僕が米を好きなため、和食になることが多い。

そう考えると久遠が好きになったのもわからないでもないんだが……。普通、子供ならハンバーグとかカレーとかじゃないの?

「逆に嫌いな食べ物は?」

「ありませんわ。なんでも黙々と食べますわ、あの子は。ああ、ゼノアスの郷土料理や味の濃すぎるものは苦手のようですけれど」

ゼノアスの郷土料理って……アレか。僕も一度食べたことがあるが、紫のスープになんかの目玉が入ってたやつだ。にがじょっぱかった。よくわからないけど、例えるなら乾電池の味がした。

アレを『苦手』の一言で片付けたらダメだろ。完食したら命に関わるぞ。

とりあえずアーシアに礼を言って、今度はエルナのところに行くことにする。歳も近いし何か知ってるかなと思ったからだ。え? リンネの方が歳が近いだろって? あの子はその……なんというか大雑把だから、こちらの意図が伝わらない可能性がね。

エルナは城にあるウィンドウベンチで本を読んでいた。その横では母親であるエルゼが本を開いたまま窓にもたれて眠っている。奥さんとしてちょっとだけ残念な寝顔だ。エルナは気にすることなく本を読んでいるが。

エルナに付き合って本を読んでいたが、眠くなってしまったというところか。

「久遠の好きなもの……? 動物とか好きだよ。よく猫と話してる」

「え? 久遠って猫と話せるの?」

まさかそんな能力が? 久遠の魔眼にそんなのあったっけ? 動物を従わせるってのならあった気がするけど。

「ううん、琥珀に通訳してもらってだよ。簡単な合図を使って、猫たちと意志の疎通ができるようにしてた。未来のブリュンヒルドには猫がいっぱいいたけど、ほとんどの猫が久遠のことを知ってたよ」

なにそれ、うちの息子さん、猫の王様なの?

いや、琥珀が猫の王様のようなものだから、その琥珀が世話役をしている久遠は猫にとっては王様の上の人なのか? 皇帝? 猫皇帝?

一応、琥珀の主人は僕なんですけど……。

「鳥とかともよく話してたけど……」

「ああ、そっちは紅玉か……」

猫と鳥はブリュンヒルドでは目と耳だ。彼らの見たこと聞いたことは全て琥珀と紅玉に伝わり、そこから宰相の高坂さんや騎士団長のレインさん、諜報部長の椿さんへと情報が上がっていく。

もちろん基本的には不審者や犯罪に関わることだけを流してもらっている。突発的な事件や事故の時も、猫や鳥が騎士団詰所へと走り飛び、何か起きたことを伝えている。

「久遠は動物好きなのか……」

「動物が好きっていうか、あの子たちと話をするのが好きって感じ?」

「話好きなのか? そんな風には見えなかったな……」

動物と話をするのが好きって、ちょっと微妙だな……。や、いいんだけどね? 人間嫌いというわけじゃないと思うし。

「ブリュンヒルドをより良くするには、動物目線から見ることも大事なんだって。人間が気付いていない細かいこともわかるから。それがお父さんたちの手伝いになるって」

「いい子だなぁ!」

くそう、涙が出てきそうだ。上を向き、目頭を押さえる。まだ小さいのに親を思っての行動……なんてできた子供なんだ! さすが僕とユミナの息子……!

「うるさいわね……。なに騒いでんのよ」

僕の心の叫びにエルゼが起きてしまったようだ。エルナに久遠のことを聞いていたと話すと、まだ少し眠たげな目をしたエルゼが、エルナにぎゅーっと抱きついていく。

「お、お母さん?」

「久遠もそうだけどエルナもかわいくて優しくていい子よ。今だってこの国のためにって勉強していたんだから」

「え? そうなの?」

少しテレているエルナの手元にあった本を見ると、地球からリーンが持ち帰った医学についての専門書を、『図書館』のファムがこちらの言語に翻訳したものであった。

『入門編』みたいな字が書いてあるが、それにしたって子供が嬉々として読むものじゃない。

「わ、私もなにかお父さんとお母さんのお手伝いができればなって思って……。私は回復魔法と【リカバリー】が使えるから、医療関係のお手伝いができないかなって……」

「いい子だなぁ!」

「でしょう!?」

僕の叫びにエルゼが我が意を得たりと返してくる。僕はエルゼにさらに抱きつかれたエルナの頭を撫でまくった。本当に優しくていい子だ。エルナは将来、ブリュンヒルドの施療院を受け持つのかもしれないな。

あ、いや、お嫁に行ったらこの国を出て行くのか……? あっ、泣きそう。

切ない未来を垣間見た僕は、それを誤魔化すようにエルナに礼を言ってその場を去った。

ともかく本人と話をしてみるか。一緒にどこかに遊びに行ってもいいかもしれない。

◇ ◇ ◇

「さ、最近どう?」

「どうとは? 特になにも変わりありませんが」

くそう! やっぱり素で返されたよ!

久遠を野球場に呼び出して、試合を見ながらドキドキもので発した言葉は予想通りの返答だった。

様子見に投げた外した球をホームランされた気分だ。

試合はうちの商店街にある二つのチームが行っている。平日だし国の騎士団同士の試合というわけでもないので、客はまばらだ。実際、僕らの座っている 観客席(スタンド) にはほぼ客がいない。

うちの野球場は基本的に使用料さえ払えば誰でも使える。だから今日みたいに平日は野球好きな人たちが集まって、試合をしていたりするのだ。そしてそれを暇な人たちが観戦してたりする。観戦するのは無料だからね。

余人の邪魔が入らないようなところで話をしようと思ったのだけれど、第一声でつまずいた僕は、この後どうするべきか必死になって考えていた。

「えーっと、なにか不自由なことはないかな?」

「特には。問題ないと思います。あ、打ちましたよ」

くゥ……。取りつく島もない。冷静に試合を見てからに……。

くっ、ここで引き下がってはダメだ。どんどん会話をしていかなければ。

「あー……久遠はなにか趣味のような物はないのかな?」

「趣味ですか? まあ、ないこともないですけど……」

お、なにかあるのかな? かくいう僕もこれといった趣味はないのだけれども。強いて言えば音楽とか映画鑑賞だが。僕の息子なんだし、同じ趣味の可能性もあるよな? 同じ趣味なら話が盛り上がるかもしれない。

「趣味というか……模型作りは好きですね」

「はい?」

模型作り? それってプラモデルとか、ジオラマとかそういうやつ?

「はい。気分転換によく作ってました。えっと、こういうのを」

久遠が懐からスマホを取り出し、写真のアルバムを見せてくれた。

港に帆船が並び、これから出港しようかという写真だ。……ん? なんか違和感が……。え、ちょっとまって!? これ、作り物か!?

「え、これ模型か!?」

「はい。そうです。一年前に作ったやつですけど」

一年前って、君、五歳だよね!? その歳でこのレベルの物を作ってるの!?

港を出港する船も、波打つ海も、波止場に荷下ろしする人々も本物そっくりにできている。プロモデラーの作品と言われても信じてしまいそうだ。

いや、プロモデラーの作品を見たことがないから比べようもないのだけれど。

「いくつか魔道具を使って作ったパーツもあるのですけれど」

聞くとこの作品に使った魔道具はクーンに作ってもらったものが多いそうだ。

よく知らないけど、実際のジオラマやプラモデルを作る時も電動的な物を使うこともあるらしいし、それは当たり前なのかもしれない。それを使いこなす久遠の技術の方がすごいと思うのだが。

そのことを伝えると、

「そうですか? 父上も【モデリング】で同じような物を作れますよね?」

「いや、僕のは自分の技術というか……」

久遠の言葉に思わず口籠る。ここらへんの意識の違いはなんとも埋めがたい。

地球では魔法なんてないから身につけた技術がその人の実力だ。それを魔法でやってしまうとズルのような気持ちがある。

しかしこの世界に生きる人にとっては魔法もまたその人の力であり、それを操るのはその人の技術である。それはズルでもなんでもない。その人の実力だと認められる。

確かに【モデリング】を使い始めた頃と比べたら上手くなったとは思うけど、純粋な技術としては久遠のジオラマには敵わないと思う。

バビロンの『工房』でも同じような物はできるが、あっちのは当たり前だけど手作り感がないからな……。

しかし本当に良くできているよなぁ。地球のジオラマコンテストとかに出したら大賞とか取れるんじゃないだろうか。

「あ、そうだ」

僕は思い立って、自分のスマホから『ジオラマ』で検索した画像を久遠の前に投影させた。様々なジオラマ画像が空中に浮かんでいる。

「すごい! これ、細かいところまで作り込んでいますね! わ、この水没した町とか面白いな……!」

笑顔ではしゃぎながら画面に食いつく久遠。初めて子供らしい一面を見たような気がする。そういや僕も子供の頃にプラモデルを作ったっけなあ。こんな本格的なやつじゃなくて、色も塗らず、ただ組み立てただけのやつだったけれども。

「こっちに来てからは作ってないのか?」

「あー……。いろいろと忙しかったので……。それに作るにはいろいろと素材や道具が必要ですし」

聞くところによると、ある樹木魔獣から取れる樹脂や、特殊なスライムから取れる接着剤のようなものなんかが必要なんだそうだ。その他にも筆やらヘラやら道具類も。

未来で持っていたものは全部城の自室に置いてきてしまったらしい。

「よし、じゃあその素材を集めよう」

「え? いや、結構面倒ですよ? 遠方にしかないのもありますし、希少種も……」

「大丈夫、大丈夫。【ゲート】や【サーチ】を使えばわけないさ」

道具類は似たようなのが博士の『蔵』にあったと思う。

あとは素材になるものを集めれば作業に入れるんじゃないか? あ、塗料とかも必要か。聖王国アレントなら精霊画なんかがよく描かれているらしいから、画材も多いんじゃないかね?

「よし、善は急げ。さっそく行ってみよう!」

「いや、あの、でも……」

遠慮する久遠の手を掴み、僕は【ゲート】を開いて人の少ないスタンドから聖王国アレントへと跳んだ。

◇ ◇ ◇

聖王国アレントの画材屋は品揃えが素晴らしく、多種多様な筆や、微妙な色合いの塗料まで何でも揃っていた。

久遠になんでも買っていいと言ったのだが、まだどこか遠慮があるようだったので、作るジオラマをこちらから依頼することにした。

つまりこれは仕事。半端な物を作られては困る。故に遠慮せず買えと。

そう言ったらやっと納得してもらえたようだった。

「それで、なにを作れば?」

「え? あ、えーっと、そうだな……。じゃあうちの城とか?」

「ブリュンヒルド城ですね」

特に決めていなかった僕は苦し紛れに言ったのだが、久遠はひとつ頷くと、すぐに店内にあった籠に画材を入れ始めた。

次々と迷いなく商品を入れていく。もはや彼の頭の中にはジオラマの設計図が出来上がっているのだろう。

画材屋でいろいろと購入した後、久遠からスマホでメモった物をメールで送られた。

「アドヘシブスライムの体液、クッションタートルの甲羅、エルダートレントの外皮……?」

なんに使うのかさっぱりわからないが、とにかく必要らしい。

とりあえず久遠をバビロンの『蔵』へ送り届け、管理人のパルシェに彼の必要としている道具を探すように頼む。

その間に僕は冒険者ギルドを回って、久遠の必要としている素材をかき集めることにした。残念ながらクッションタートルの甲羅だけは品切れだったので、直接探して狩ってきた。

甲羅以外は要らないのでそちらの素材は売ってしまおう。

しかしこの甲羅柔らかいな。低反発のスポンジみたいだ。打撃系のダメージには強そうだ。斬撃で倒してしまったけどな。

城へ戻ると、久遠にあてがっている部屋の中央に、すでに畳一畳くらいのベースが出来上がっていた。速いな!?

「えっと、素材を持ってきたんだけど……」

「ああ、そこに置いておいて下さい」

久遠は防塵マスクとゴーグルのような物をつけて、置かれたベースの素材をグラインダーのような魔道具で大雑把に削っていた。おそらく地面を作っているんだろう。

集めてきた素材を部屋の隅に置き、僕は久遠の作業を眺める。

テキパキと迷いなく作業を進める久遠に対して、手持ち無沙汰の僕がなにか手伝えることはあるかと聞くと、クッションタートルの甲羅を様々な緑の塗料に浸して乾かし、細かく千切ってくれと頼まれた。

ここじゃ邪魔になるので中庭へ移動し、言われた通りの作業を終えて戻ると、久遠はすでに城周辺の道や堀などをあらかた作ってしまっていた。

「あ、冬夜さん」

久遠の部屋にあるソファーにユミナが腰掛けていた。その横には琥珀もいる。

「夕飯をと呼びに来たらいつの間にかこんな物を作っていてびっくりしました。この子、こんな趣味があったんですね」

「僕も初めて知った。趣味というにはレベルが高すぎるけれどね」

久しぶりのジオラマ製作に熱が入ったのか、久遠は食事も取らない勢いだったので、アーシアに頼んで作業しながらでも食べられるおにぎりやサンドイッチを作ってもらい、部屋に運んでもらった。

本当なら無理にでも食堂に連れて行った方がいいのかもしれないが、早食いで適当にご飯をかっこまれてもな。

「久遠は一度集中し始めると、止まらないんだよ。適当なところで止めてやらないと、間違いなく徹夜するんだよ」

フレイの言葉を聞き、さすがにそれは看過できないので、十時を回ったところで強引にやめさせた。ここまで集中できる才能が、この実力を生み出したのかもしれないな。

とりあえずユミナに隣の寝室へ連れて行ってもらい、寝かせることにした。続きは朝だ。

すでにジオラマは大まかな形ができつつある。普通なら時間がかかる工程も、魔法を使って短縮しているようだ。

しかしよくできてるな……。まさか僕のちぎったあのスポンジもどきが樹木の葉や低木になるとは。

この地面の草とか本物っぽいんだけど……本物の植物か? 苔かな? よくわからん。

触ってみたいが壊してしまうと久遠に怒られそうなのでやめておこう。

完成を楽しみに僕も部屋を後にした。

◇ ◇ ◇

かけられていた布を外すと、おおっ、と周囲の人たちから感嘆の声が漏れる。

完成したブリュンヒルド城のジオラマは城のロビーにガラスケースに入れて飾ることにした。今日はそのお披露目をしている。

久遠の作った精巧なジオラマはとても素晴らしく、部屋に飾って置くだけではもったいないと思ったのだ。

こうしておけば訪れた人たちみんなが見ることができるからな。

久遠の作ったジオラマにみんな興味津々だ。

「うわー、細かいところまでちゃんと作られてる!」

「すげえな……。公王陛下や王妃様たちまでいるぞ」

そう。ジオラマの中には僕たちのミニチュアも置かれている。八重やヒルダ、エルゼなんかは訓練場で戦っているし、リンゼやリーン、桜なんかはバルコニーでお茶を飲んだり編み物をしたりしている。

僕とユミナ、スゥはルーの広げた沢山の弁当を中庭に咲く桜の下で食べていた。

他にも花恋姉さんたちや宰相の高坂さん、様々な城の人たちがあちこちに配置されているのだ。

みんな自分を探すために目を皿のようにしてガラスケースにへばりついていた。

それを見ながら隣に立つ製作者の息子に声をかける。

「ずいぶんと細かいところまで作ったんだな」

「そこらへんはこだわりなので。細部まで本物そっくりに作りながら、自分なりの作風も出せるようになればいいのですけれども」

こだわりですか。作り手にとっては大事なことだとは思うけど、城にいる全員を作るってのはやりすぎじゃないかとも思うのだが。

まあみんなが喜んでくれているのだからよかったのだろう。

「今度僕にも作り方を教えてくれるかな?」

「え? でも父上は【モデリング】があるのでは?」

「魔法を使わず作ってみたいんだよ。久遠のように」

「……僕でよければ」

少し照れながら久遠が頷いてくれた。ちょっとは距離が縮まったかな?

久遠に教わってなに作ろうかね。まずは木から作れるようにならないとな。ああ、魔導列車のミニチュアとかを走らせたら面白いかもしれない。

あるいはこの城をさらに広げて城下町まで作るとか。ちょっとわくわくしてきたな。

僕はそんなことを考えながら、出来の良い息子の頭を優しく撫でた。