軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#397 ヒトデ型上級種、そして六撃破。

「あらためて見ると大きいでござるなあ……」

八重はシュヴェルトライテのモニターに映るヒトデ型上級種を見て、思わず声を漏らした。

五角の星形をしている上級種だが、こうして砂浜に上陸して横から見ると、ちょっとした小山にしか見えない。

どうもわずかに浮いているらしく、砂浜の砂を舞い散らしながら、ゆっくりとその体を回転させている。暗金色のボディがキラキラと日差しを反射させていた。

「さて、どう料理してくれようか」

『考えるだけ無駄よ。先手必勝、やられる前にやれってね! 【ブースト】ッ!』

エルゼの駆る真紅の機体、ゲルヒルデが背中のバーニアを吹かしながら一直線にヒトデ型上級種へと向かっていく。相変わらず手が早い。

『【闘気解放】! 必ッ殺ッ! 【キャノンブレイク】ッ!』

闘気をまとわせたゲルヒルデの右拳が、ヒトデ型上級種の一角に炸裂する。

ガオンッ! と、間髪入れずに右腕に装備されたパイルバンカーが打ち出され、さらに上級種の体を砕いた。大きな亀裂が上級種に入る。

『もう一発!』

構えたゲルヒルデの左拳が同じ場所に繰り出される。そして再び凶悪なパイルバンカーが打ち出され、さらに亀裂が深くなっていった。

ボロボロと暗金色の破片が剥がれ落ち、ヒトデ型上級種が持つ一角の先端がボキリと折れた。

『むっ……』

しかし、その折れた先端がドロリと溶解したかと思うと、再び折れた部分が再生を始め、元通りになってしまう。

『やっぱ都合良く核があったりはしないかあ』

そう呟きながらエルゼはゲルヒルデを上級種から離れさせた。

『でも、いまの再生で核の位置がだいたいわかったよ、お姉ちゃん』

双子の妹であるリンゼから通信が入る。彼女の乗るヘルムヴィーゲは飛行形態をとりながら、空から上級種を観察していた。

フレイズも変異種も、再生する際には核からその魔力を供給している。つまりその流れを遡れば、だいたいの位置は掴めるのだ。

『たぶん、中心に一個、そして五つの足の中に一つずつかな』

全部で核は六つ。上級種だとしてもかなり多い。

『六つも……。ほぼ全て同時に潰さなければいけないということですか?』

オレンジ色の騎士型フレームギア、ジークルーネに乗るヒルダがボヤく。

『リンゼ、リーンを呼んできて「ブリューナク」で攻撃できない?』

巨大魔砲『ブリューナク』。莫大な魔力と、【スパイラル】&【エクスプロージョン】の魔法により特殊加工されたドリル弾を撃ち出す、一撃必殺の武器である。

そのため魔力量の多いリンゼとリーンの二人が全魔力を使って同時に……しかも撃てるのは一発のみという、ある意味使いにくい武器でもあった。

『できなくはないと思う。けど、外れたらそれで終わりだし、一つでも核が残ったら全部無駄になるから……リスクが高い、かな?』

「うむむ、確かに失敗してリンゼ殿とリーン殿が抜けるのは手痛いでござるな……」

『皆さん! 正面を!』

ヒルダの声に八重たちがヒトデ型変異種に視線を戻すと、ゆっくりと回転していたヒトデがいつの間にか停止している。

五つの足に亀裂が入り、中央部の五角形を残して、足の部分が切り離された。それぞれ中央部と細長い触腕のようなもので繋がれている。

触腕に繋がれた足の先が、まるで蛇のように鎌首をもたげた。

そしてその先端に光の粒が集まり始める。

「っ⁉︎ 回避するでござる!」

八重の言葉に反応し、いち早くその場から散るフレームギアたち。

伸びたヒトデの足先からは、先ほど双頭竜の変異種が放った荷電粒子砲モドキより細い、レーザーのようなものが放たれていた。

ジュワッ! と耳に嫌な音が届き、貫かれた砂浜を見てみると、ドロドロに溶けてしまっている。

『またくるわよ!』

エルゼが叫ぶ。

見ると、他の足先が同じようにこちらへ向けてその触腕を伸ばしてきていた。再びその先端からレーザーが放たれる。

合計五つのレーザーが縦横無尽に八重たちの乗る 専用機(ヴァルキュリア) を追い詰めていく。

『レスティア流剣術、二式・乱舞!』

砂浜から飛び上がったヒルダの操るジークルーネの剣が、触腕から伸びるヒトデの足先を一瞬で斬り刻んだ。

あっという間にバラバラになった先端部が砂浜にボトボトと落ち、黒煙を上げながらドロッと溶解していく。その中には直径二メートルほどの赤い核もあった。

しかし先端部を無くした触腕から再び再生が始まり、元の形へと戻ってしまう。

おそらくは核も再生していると思われる。元の木阿弥であった。

一旦、全員ヒトデ型変異種から距離を取り、触腕のレーザーから逃れた。

『やはり一個潰しただけでは無意味ですね』

『全部同時に破壊しないといけないってこと?』

『私たちは四人しかいない、よ?』

『残り二人……ユミナ殿かルー殿、あるいはリーン殿に助っ人を頼むでござるか?』

あと二人……最悪、あと一人を加えた五人で同時に足の核を攻撃し、それが再生する間も与えず、全員で最後の中央核を砕くことができれば倒せるかもしれない。

だが、この状況ではユミナにルー、リーンは騎士団のサポートを抜けるわけにはいかないだろう。

「残り二人、ね。じゃあ私たちが手を貸そうじゃないか」

『『『『え?』』』』

どこからともなく聞こえてきた声に、全員の声がハモる。

見ると、八重のシュヴェルトライテと、ヒルダのジークルーネの肩にいつの間にかそれぞれ女性が立っていた。

一人はとても女性では持てないような三メートルはあろう刃渡りの大晶剣を持ち、もう一人は矢筒を背負い、その手には大きく美しい弓を持っていた。

『 諸刃(もろは) 義姉上(あねうえ) に 狩奈(かりな) 殿⁉︎ いつの間に⁉︎』

八重が己の愛機の肩に乗る 婚約者(フィアンセ) の姉に目を見開く。

「なに、手を出すつもりはなかったんだけどさ。どうにもウズウズしてしまってねえ。少しだけおこぼれをもらおうかな、と」

「あたしはどっちでもよかったんだけど。諸刃に誘われてさ。ま、暇つぶしにはなるかね」

まるで遊びにでもきたような感覚で二人が話す。いや、実際に遊びのようなものなのだ。少なくとも彼女らにとっては。

「私を含めた五人でヒトデの足を狩ろう。最後の中心部を狩奈の矢で──」

「いやいや。あたしらはあくまでサポートじゃなきゃいけないさ。最後のトドメは……リンゼ、あんたがやんな」

『ふえっ⁉︎ わ、わ、わたし、ですか⁉︎』

突然のご指名にリンゼの声が高くなる。トドメを刺せと簡単に言うが、外した場合、全てがリセットされるのだ。

もともと上がり症のリンゼにはいささか荷が重いとも言える。

「落ち着いてやりゃいいさね。あんただって今までいくつもの修羅場を乗り越えてきてるんだ。必ずできる。冬夜にいいとこ見せてやんな」

『はっ、はい!』

リンゼが空飛ぶヘルムヴィーゲのコックピット内で力強く返事をする。

「よし、じゃあ私と狩奈、エルゼ、八重、ヒルダの五人で一気にあのヒトデの足の核を全部潰す。そして間髪入れずにリンゼが中心の核を破壊、と。いいね?」

巨大な晶剣を担ぎながら、諸刃が全員へと通達する。スピーカーも通さずになぜこんなに良く聞こえるのだろうかとヒルダは少し疑問に思ったが、地上に降りて人化しているとはいえ本来は女神、考えるだけ無駄だなと判断し、頭の中からその疑問を追い払った。

フレームギアの肩から諸刃と狩奈が砂浜に降りる。

狩奈はどこからともなく晶材でできた片刃の 鉈(ナタ) を二丁取り出し、それを両手に構えた。

その間も容赦なくヒトデの触腕からはレーザーが放たれているが、狩奈は手にした鉈でそれを次々と弾いていく。

いったいどのような技術を使えばあんな芸当ができるのかと、フレームギアに乗る四人は呆れて声も出ない。これも考えるだけ無駄と四人とも頭からその疑問を追い出した。

「よし。じゃあ行くよ。リンゼ以外は散開してそれぞれ目的の核を一分以内に潰すこと。いいね?」

「わかってるさね」

『委細承知』

『わかりました』

『任せて!』

『了解、です』

「じゃあ作戦開始だ」

三機のフレームギアと二人の女神が砂浜を駆けていく。

一人一人を追うように、触腕から伸びた足先がレーザーで攻撃を仕掛けてきた。しかし全員がそれを躱し、弾き、斬り裂いていく。いや、斬り裂いているのは一人だけだが。

『 九重真鳴流(ここのえしんめいりゅう) 奥義、 紫電一閃(しでんいっせん) 』

最初に仕掛けたのは八重のシュヴェルトライテ。目にも留まらぬ斬撃が、黄金の触腕から伸びるヒトデの足を斬り裂いていく。

八重はバラバラになった破片に含まれていた赤い核を見つけると、瞬時にして刀を突き出し、それを貫いた。

核がパキィン、と甲高い音を立てて砕け散る。まずはひとつ。

『【ブースト】ッ!』

八重に続くのは真紅のゲルヒルデを駆るエルゼ。両腕のパイルバンカーを使い、レーザーを放ってきた足先を殴打していく。

神気をまとった拳で殴られ、亀裂が入ったところにパイルバンカーを撃ち込まれる。次々と黄金の触腕が砕かれていくその様は、もはや戦闘というよりは解体工事、あるいは岩盤掘削に近い。

『見付けたッ!』

砕いた破片からゴロリと核が落ちる。それをすくい上げるようなアッパーで、エルゼのゲルヒルデが見事粉々に撃ち砕いた。これでふたつ。

「ほい、ほい、ほいっと」

連続で放たれるレーザーを、両手に持った鉈で弾き、狩奈が砂浜を駆け抜ける。獲物は決して逃さない、狩猟神としての本能が触腕の動きを全て見極めていた。

軽々とジャンプして触腕の目の前へ飛び上がると、まるで 薪(まき) を割るように片手の鉈でパカンッ、とその足先を核ごとあっさりと分断してしまった。特筆することもない、なんともあっけない決着である。これでみっつ。

『レスティア流剣術、五式・螺旋!』

ヒルダの乗るオレンジの騎士、ジークルーネが、正面から突撃してきた触腕と激突する。

右腕から繰り出された晶剣は、螺旋の渦を巻き、まるでドリルがかった槍のように触腕の足先を打ち砕いた。

螺旋の風に巻き込まれた赤い核が空高く舞い上がる。

『ふっ!』

ジークルーネの剣が、重力に引かれて落ちてきたそれを横薙ぎの一閃で一刀両断に斬り捨てる。よっつめ。

「他のみんなは無事に終わらせたようだね。じゃあ私も片付けるとしようか」

刃渡り三メートル、刃幅は三、四十センチはあろうかという巨大な水晶剣を無造作に片手で操り、レーザーを斬り裂いていた剣神・諸刃が笑みを浮かべた。

襲いかかってくる触腕に対し、これまた無造作に剣を振る。離れた距離だったというのに、剣先から生み出された衝撃波がいとも容易く触腕を斬り裂いた。

空間さえも斬り裂いたような一撃が、確実に核をも破壊していた。これでいつつめ。

一歩たりとも動かずにそれをやってのけた諸刃が、上空を飛ぶヘルムヴィーゲに視線を向ける。

「さあ、フィナーレといこうじゃないか」

五つの足を破壊されたヒトデの中心部、五角形になったその中心に魔力の流れを感じる。確実に最後の核はあそこにある。急がなければ。

すでに再生は始まっている。足先の核まで再生してしまったら、みんなの働きが無駄になってしまう。それだけはダメだ。

「っ、いき、ます!」

リンゼは操縦桿を強く握り、ヒトデの中心部目掛けて下降を始めた。

モニター内に映る 機関砲(リボルバーカノン) の照準器に全神経を集中する。

ピタリとその真ん中にヒトデの中心部が重なった時、リンゼは両手操縦桿の 銃爪(ひきがね) を引いた。

ガガガガガガガガガガガガガガガッ! とけたたましい発砲音を轟かせ、晶弾が一斉に撃ち出される。

ヒトデ上級種の中心部は、降り注ぐ弾丸の雨によりその形をどんどん削られていった。

やがて暗金色の金属片の中から、大きな赤い核が剥き出しになってくる。容赦なくヘルムヴィーゲが放った弾丸の雨は、その核にも襲いかかり、無数の亀裂を与えていった。

しかし中心核の大きさは直径四メートル近くもあり、なかなか砕けない。このままでは足先にある核の再生が完了してしまう。

「させ、ない!」

リンゼはヒトデ中心部の上空で、ヘルムヴィーゲを変形、フレームギア状態へと戻した。

飛行能力があるのはあくまで飛行形態のヘルムヴィーゲであり、フレームギア状態で飛ぶことはできない。当然、真下へ落下することになる。しかし、リンゼにとってはそれが狙いだった。

「やああああああああああああああッ!」

上空から裂帛の気合いを込めたヘルムヴィーゲの踵落としが、亀裂の入っていた中心核に炸裂した。

『門前の小僧、習わぬ経を読む』というが、武闘士である姉の訓練や戦闘を一番間近で見続けた妹の、見よう見まねで放った一撃であった。

見事なまでのその一撃は、確実にその中心核を破壊。ヒトデ型上級種を葬り去っていたのである。

ガラガラと一斉にヒトデ上級種の本体が崩れだし、ドロドロと溶解を始めた。巻き込まれないように全員その場から離れて、上級種の最後を見届ける。

『やったわね、リンゼ! なかなかサマになってたわよ!』

『あらためてエルゼ殿との絆を感じたでござるなあ。見事な一撃でござった』

『ええ。気迫のこもった素晴らしい一撃でした。さすがです』

「そう、かな? 無我夢中だった、から。でも、成功してよかった……」

照れくさそうにリンゼが笑う。

ヒトデ型上級種は倒した。あとは……と、リンゼが海岸線に視線を向けると、双頭竜と冬夜の乗るレギンレイヴの戦いが決着を迎えようとしていた。