軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#296 魔法講座、そして才能。

「事情はわかった。けど、普通に歩いてくりゃいいだろうが」

「まことにもってその通り……」

テントの中で正座させられた僕は、ニアの言うことにもっともだと反省する。

なんでも楽しちゃいかんな……。でないとこういう落とし穴に落ちる羽目になる。

「副首領がいなくてよかったですねぇ。相手が副首領だったら冬夜さん、大変なことになっていましたよぉ」

「エストは人の弱みを握ったら容赦ないからな。遠慮なくこき使われるぜ」

ロングウェーブの髪を揺らし、おっとりとした口調で話す団員のユーリに、ニアがうんうんと頷く。

どうやら副首領のエストさんは留守らしい。もう一人、ポニテ娘のユニもいないようだ。アレントの 聖王都(アレン) へなにやら探りに行っているとのことだった。ある意味助かった。

「もちろん、あたしも簡単に許す気はないけどな」

人の悪い笑みを浮かべてニアが笑う。

ですよねー。

「……なにをしろと?」

「前にも言ったろー? 魔法を教えてくれって。簡単なのでいいからさー」

「あぁ、私も教えてもらいたいですねぇ」

ぬぬ。そうきたか。あまり魔法が発展してないこちらの世界で、魔法を教えるのはどうなんだろう?

もともとあるものだとは認識されているし、魔法の指南本が売られているくらいだから、そこまで過剰に警戒しなくてもいいとは思うけど……。

ふむ、簡単なものならいいか。

「……わかった。ただし、悪用するのはやめてくれよ?」

「それ、あたしらに言うか?」

「あー……善人が悲しむような悪用はしないでくれ」

盗賊団に馬鹿なことを言ったと思いつつ、「ストレージ」から魔石のかけらを取り出す。

ランタンが置いてあるテント内のテーブルにそれらを並べた。

「なんだこれ? キラキラしててキレーだな」

やはりというか当然というか、こちらの世界には魔石がないらしい。まあ、だからこそ魔法があまり発展しなかったのだろうけど。

そういやこの世界にある魔光石、あれは光属性魔石の変化系とも言えるな。他にも似たような物はあるのかもしれない。

「これは魔石のかけらだよ。これでどんな適性があるか判断するんだ。無くても恨まないでくれよ。無い人の方が多いんだから」

特にこの世界じゃ、おそらくかなり低いんじゃないかと思われる。人々に魔力が無いわけじゃない。水道の蛇口に例えると、蛇口が固かったり、握りにくい形をしているのだと思う。

それが何代も続けば蛇口は錆び付いてしまう。だけど、その錆び付いた蛇口だって、回せればちゃんと水は出るのだ。

この世界で魔法と言うものは、一部の人間か、特殊な教育機関でしか学べないものらしい。代わりにゴレムというものがあり、魔法も僕らの世界より退化しているので、そこまで重要視はされてないというが……。

逆にニアがなぜここまで魔法に執着するのか、そっちの方が不思議だ。

まあ、僕がいろいろ便利な魔法を見せたからかもしれんが。

「で、どうやんの?」

「魔石を持って呪文を唱えるんだ。適性があればなにかしら反応がある」

手本として僕がやってみせたいところだが、僕の魔力量では大変なことになるからな。

呪文の断片だけ教えて適性検査をすると、ニアは火、ユーリは光の属性を持っていた。

正直、これは意外だった。どっちかに適性があれば御の字だと思っていたのだが。と、同時にどっちも適性が無かったら面倒なことにならないで済むなあ、と思ったのは秘密だ。

「魔力の流れってのはわかるか?」

「それはわかるぜ。ゴレムを操るときにも使っているからな。……そういやルージュのやつ遅いな。どこまで行ったんだ?」

「ルージュ」ってのは確か、ニアのゴレムだっけか。まだ見たことないけど。しかし単独行動してるのか。どうやら自律型のゴレムらしい。

そいつの修理に必要だってんでオリハルコンとか渡したんだよな。

まあ、魔力を操れるなら話は早い。全くの初心者から始めると、まずそこが初めの難関で、けっこう時間がかかるんだ。……と、リンゼやリーンが言ってた。

桜の時も魔法を使えるようになるまでそれなりにかかったからなあ。

「ま、とにかくその魔力を集中させて、頭の中にイメージを浮かべ、呪文を詠唱するんだ」

これは実際に見せた方がイメージを捉えやすい。

「光よ来たれ、小さき照明、ライト」

僕の立てた指先から野球ボールほどの光の球がテント内に現れる。

「おおおお、スッゲー! 光ってる!」

「ふぁあぁ……綺麗ですねぇ」

テント内をあちらこちらに飛び回らせたあとに、指を鳴らして「ライト」を消す。

「それ、あたしもできるのか!?」

「できない」

「なんだよ、それっ!?」

「だから言ったろ? 属性ってもんがあるんだって。「ライト」は光属性の魔法。ニアは火属性の魔法しか使えないんだよ」

むくれるニアの横でユーリが手を上げる。

「じゃあ、私なら……」

「使える。魔力を集中させて、光の球を思い浮かべ、さっき僕が言った通りに詠唱してみな。必ずできるって思い込むと成功しやすい」

「えっとぉ……「光よ来たれ、小さき照明、ライト」、わぁ!」

ユーリのかざした指先に十円玉くらいの大きさの光の球が出現する。

出現したことに驚き、集中力を欠いたのかすぐさま消えてしまったが。ま、成功だな。初級も初級の魔法だからそんなに難しくないし、当たり前だけど。

やっぱりこの世界の人間でも素質のある人は問題なく魔法は使えるようだ。

「消えちゃいましたぁ……」

「集中力が途切れたな。慣れてくると意識しないでも発動させておくことができるようになる。逆に瞬間的に集中すれば、目くらましのように使うこともできるよ」

偉そうに語るが全部リンゼの受け売りだ。地味な「ライト」の魔法だって、使い方次第では強力な武器になる。

「でも、私にも魔法が使えましたぁ。嬉しいですねぇ」

「だぁーっ! 次、あたし! 火の魔法教えろよー!」

暴れ出しそうなニアをなだめて、場所をテントの外に移す。ニアの場合、火属性の魔法なのでテントの中でやるわけにもいかないからな。

とはいえ、砦の中庭だって周りが森である以上、あまり練習場所にはふさわしくないんだけど。

もともと打ち捨てられた砦であるから、蔦の蔓延る崩れかけた城壁なんかがあちこちにある。そのうちの一角を練習場所に選んだ。

「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア」

僕が呪文を唱えると、小石ほどの火の 礫(つぶて) が指先から放たれた。崩れかけた城壁に当たり、その一部がぶわっと炎に包まれる。かなり威力は抑えたので、石を溶かすほどの熱量はない。壁の表面に生えた苔などを焼いて、少しの焦げ跡を残して炎は消える。

「おおお! 火が出た!」

「大した殺傷能力はないけど、それでもかなり役立つ魔法だよ。火属性の基本的な魔法だ」

驚くニアに説明をする。それから彼女も同じように石壁に向かって、僕が教えた通りの呪文を唱え始めた。

「炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイア!」

ニアの呪文に応えて、小さな飛礫が現れ、僕の時と同じように城壁へと飛んでいく。炎の 礫(つぶて) が見事当たると壁が少し削れていた。お? なかなかの威力じゃないか。

「できた! ははは! すっげー!」

喜びながらニアが続けざまに炎の礫を何発も撃ち続ける。へえ、魔力量もけっこうあるみたいじゃないか。………………ちょっと待て。二発目以降、無詠唱で撃ってる!?

いやいやいや、確かに体内の術式を魔力とつなげっぱなしにすれば可能なんだけれども、言うほど易しくないんだが。

ニアはまだこの魔法しか知らないし、術式を切り替えたりする発想自体が無かったのはわかるけど……それにしたってけっこうな魔力のコントロールが必要なはずだ。よほど慣れてるとしか……。

「冬夜! 他になんかないか!?」

「他?」

ないことはないが、火属性は攻撃呪文がほとんどだしな。「イグニスファイア」程度ならいいが、それ以上になると森を燃やしかねないし。

「炎よ来たれ、火炎の防壁、ファイアウォール」

「うおお! 炎の壁だー!」

火属性では珍しい防御系の魔法を使ってみせる。ただこれは中級の火属性魔法なので、魔法を覚えたてのニアには、

「炎よ来たれ、火炎の防壁、ファイアウォール!」

使えるのかよ!

ニアが僕の真似をして「ファイアウォール」をいとも容易く発動させる。おいおい、なんだそれ? 才能あり過ぎだろ……。

僕が初めて魔法を習ったとき、リンゼはこんな気持ちだったのかもしれない。僕の場合、神様のおかげというか、インチキ能力だからアレだけどさ。それとも 裏世界(こっち) 側の人間はみんなこうなのか?

試しにユーリにも光属性の中級魔法を教えてみたが、発動できなかった。いい感じではあるので、練習すれば扱えるようになりそうだけど、ニアほどじゃない。

……今日はあまり強力な魔法は教えない方がいいかもな。「メガエクスプロージョン」まであっさり使われたら、なにしでかすかわからないし。

そこらへんは副団長のエストさんに相談しよう。

「そういえば冬夜さんわぁ、なにしにここへ?」

休憩をとっているときにユーリが僕に話しかけてきた。え? 今ごろ?

「ちょっとゴレムを手に入れようと思ったんだけど、お金が無くて。こないだオリハルコンとか君たちに売っただろ? それであのお金をもらいに来たんだよ」

「あーあーあー! あれな! 忘れてた!」

おい。

踏み倒すつもりはなかったんだろうけど、忘れんなよ。

「忘れてたけど、ちゃんと用意はしてあるぜ。ユーリ、金庫から冬夜に渡す金を持って来てくれ」

「はぁい」

ユーリが砦の中へと駆けていく。代金を用意して金庫にしまい、そのまま忘れてたってことかい。まあ、すぐ取りに来なかった僕も悪いけれども。

ユーリが戻ってくると、その手に持っていた小さな袋をそのまま手渡された。ジャラッとした感触とずっしりとした重み。

「えーっと、確か王金貨で百五十枚入っているハズだぜ。足りないとか言うなよ? これでも色付けた方なんだから」

表世界(あっち) と貨幣価値が違うとは思うが、仮に向こうと同じだとしたら約十五億円か。

っていうか、盗賊団がよくこんな大金を持ってるな……。いや、盗賊団だからこそ持っているのかもしれないが。

「これだけあればゴレムを買えるかな?」

「 工場(ファクトリー) 製のなら余裕だろ。 古代機体(レガシィ) はわからねえけどな。ピンからキリまであるし」

「そもそも 古代機体(レガシィ) が市場に売りに出されるなんて、滅多にないですよぉ」

そうなのか。どうせなら 古代機体(レガシィ) のほうがよかったけど、ま、 工場(ファクトリー) 製でもこの際かまわない。どうせ博士がパワーアップ改造とかしちゃうんだろうし。

「いや、 古代機体(レガシィ) が手に入らないこともないぜ。あそこなら」

「ああ、そうですねぇ。あそこがありましたねぇ」

「?」

二人が頷き合うのを見ながら怪訝そうな顔をしていると、ユーリの方が説明をしてくれた。

「 古代機体(レガシィ) のゴレムは主に遺跡とかから発見されるんですけどぉ、冒険者たちがそれを正規のルート以外で横流ししたり、他人から強奪など後ろめたい理由があって、おおっぴらに売ることのできない 古代機体(レガシィ) が売られる場所があるんですぅ」

「そんな場所があるのか。そこに行けば 古代機体(レガシィ) のゴレムも買える?」

「たぶんな。よかったら案内してやるぜ。かなり危険な場所だけど、冬夜なら問題ないだろ」

なんだよ、物騒だな。いったいどこなんだと尋ねると、ニアは不敵な笑みを浮かべて口を開いた。

「 闇市場(ブラックマーケット) さ」