軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#239 仇、そしてシンボルマーク。

「光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール」

竹林の中に蹲る蓮月さんに回復魔法をかける。右肩に受けた刀傷が見る見る間に塞がっていき、完全に元に戻った。

「……すごいですね。すっかり元通りです」

右肩をぐるぐると回し、蓮月さんが立ち上がる。

「にしても、なんで冬夜さんがユーロンに? っと、ブリュンヒルド公王陛下でしたね。申し訳……」

「ああ、いいですいいです。お忍びなんで。ここにいるのは銀の鬼武者。イーシェンからの流れ者ですよ」

蓮月さんが跪こうとするのを慌てて止める。正体バラしたのはまずかったかなあ。でもあのままだとソニアさんが引いてくれなさそうだったし。

「それよりもこっちが聞きたいんですけど。街で噂になっている天帝を暗殺しようとした三人組って蓮月さんたちなんですか?」

「暗殺ですか。いや、城に忍び込んだのは事実ですし、殺そうとしたのも確かです。しかし、これは暗殺ではありません。敵討ちです」

「くっ、ジャオファのやつめ! あと少しだったのに、あんな手練れの護衛がいるとは……」

ソニアさんが吐き捨てるように口を開いた。

「ジャオファ?」

「この都の天帝のことですよ。本名はチェイ・ジャオファ。天帝なんて名乗ってますが、その正体は冒険者くずれの盗賊です」

蓮月さんの方も苦々しい口調で話す。天帝が盗賊? どういうことだ?

「例のユーロンを襲ったフレイズの大侵攻よりこっち、天帝を名乗った輩は数多くいます。亡くなった先帝があらゆる街で、のべつ幕無しに子供を作った結果、どこに落とし胤がいてもおかしくない状況でしたからね。加えて、正妃、側室の子供はまとめて都と共に消えてしまった。他の街にいて無事だった息子も今じゃ全員死んでます。こんな状況では誰が天帝を名乗ったところで、その正統性を確かめるすべがないわけです」

まあ、そうだろうなあ。適当な物をでっち上げて、「これは先の天帝が、息子である私が生まれたときに下された物だ」とか言えば、それで充分な訳だ。

なにせ、それを「嘘だ」と断言できる資料も人物もすでにこの世には無いのだから。

あとはもう実力だけだ。それを示せば天帝候補のいっちょ上がり。

だが、当然危険も孕んでいる。当たり前だが、他の天帝候補がそれを認めるわけが無い。自分が一番天帝に相応しいと互いに主張し、結果、ぶつかることになる。

「ジャオファもその一人で、奴は天帝の証である「 玉璽(ぎょくじ) 」を持ち出して、「これこそが我が家に伝わる天帝の証」と宣言したのです」

「ジャオファってのは天帝の血筋なのか?」

「まさか。その「玉璽」はとある遺跡から発掘されたものですよ。それを発見した冒険者を殺し、手に入れたものです」

横取りか。すると、「玉璽」自体は本物かもしれないな。

「奴が殺した冒険者は私たち二人の恩人なんだ。何度も命を救われたことがある。私たちはジャオファに報いを与えなければならない」

「普通ならジャオファごとき盗賊が「玉璽」を持っていようと、誰も天帝などと認めるわけがなかったでしょう。しかし、どこからか奴は強力な力を手に入れた。それが────」

「鉄機兵、か」

こくりと蓮月さんが頷く。

ユーロン天帝の証、「玉璽」、強大なる力、「鉄機兵」。確かに天帝と名乗りを上げてもおかしくない。

しかし、どこでそのジャオファという盗っ人は「鉄機兵」を手に入れたのだろうか。やはり裏で「 黄金結社(ゴルディアス) 」が糸を引いてたりするのか?

「ところで冬夜さ……鬼武者殿は何故ここに?」

「あー……あの鉄機兵ってやつ、どうもウチから盗まれたフレームギアを参考にして作られたみたいなんですよ。なもんで、ちょっとした復讐をと」

「そうだったんですか……どうりで。それならあの技術力も頷ける。ただ、私の見た限りでは、ウッドゴーレムを倒したフレームギアの方が強いと感じましたが」

そりゃそうだ。言ってみればあっちは改悪型だ。それでも再現した技術力は侮れないが。ん? 誰か駆けてくる。

「ソニアさん、蓮月さん! だ、大丈夫でしたか!? そ、そいつは!?」

「大丈夫だ、ジェスティ。この方は私たちの知人だ。蓮月の傷を治してくれたんだ」

一瞬、追っ手かと思ったが、違った。ソニアさん、蓮月さんと同じローブを着ている。どうやら二人で足止めをして、この人を逃がしていたようだな。戻ってきてしまったようだが。

「冬夜ど……鬼武者殿、彼はジェスティ・パララックス。さっき話した私たちの恩人の息子ですよ」

なるほど「敵討ち」だもんな。ジェスティと呼ばれた男が、かぶっていたフードを外す。短い茶髪にはしばみ色の双眸。歳の頃は21、2といったところか。身長が180近くあるな。

といっても、蓮月さんもそれぐらいあるし、ソニアさんも僕より高い。竜人族は女性でも高身長が多いからなあ。

僕は170ほどしかない。成長期だし、175はなんとか突破してほしいところだが……って、あれ……? 完全神化したら成長止まる……?

「ジェスティ・パララックスです。蓮月さんを助けていただき、ありがとうございます!」

「え? ああ、いえ、お気になさらず」

考えごとをしていたときに声をかけられて、少しびっくりする。やたら快活明朗な青年だな。

「とりあえずいつまでもここにいるのはまずいな……。「ゲート」」

僕は目の前に、先ほどいた元帝都へと繋がる「ゲート」を開いた。

「さ、早くここから移動しましょう」

驚いている三人を置いて、先に「ゲート」をくぐる。しばらくしてソニアさん、ジェスティさん、蓮月さんの順番で、同じように「ゲート」を抜けてきた。

「ここは……!?」

「帝都ですよ」

「そんな遠くまで!?」

「すごい……。これが転移魔法か……」

辺りをキョロキョロと見回す三人だったが、急にソニアさんが中腰になり、戦闘の構えをとる。なんだ?

「おい、そこの小僧。命が惜しかったら有り金全部とそこの女を置いて行きな」

「……またお前らか」

瓦礫の陰からぞろぞろと出てきたのは、さっき逃げて行った追い剥ぎどもだった。懲りてないな、こいつら。さっきと全く同じセリフだったし。

仮面をかぶっているし、さっきと衣装が違うからどうやら僕とわかってないみたいだな。

「パラライズ」

「ふぎゃっ!?」

追い剥ぎ共に「パラライズ」をかけて一網打尽にする。痛い目に合わないと反省しないようだからな。

「それでさっきの話ですけど。そのジャオファって奴が天帝になるとどうなると思います?」

「碌なことにならないのはすでにわかっています。街を見ましたか? 女子供がほとんどいなかったでしょう。ジャオファの兵が乱暴狼藉を働くからですよ。さらに都の大店から次々と金品を徴収するもんだから、その結果、商人は逃げ出し、食料などが入ってこなくなる。入ってきてもすべて城へと取られては、市民は死ねと言ってるのも同じです」

むう。ひょっとして、あのまずいチャーシューメンもそう言った事情からなのか? ……違うか。

「そんなに金を集めてどうするんだろう?」

「鉄機兵ですよ。さらなる改良と量産をしようとしてるんです。私たちの掴んだ情報によりますと、三日ほど前にも大量の資材が城へと運ばれていったそうです」

僕の疑問にジェスティさんが答えてくれる。どうやら生産工場は城の中にあるみたいだな。

それにしてもその大量の資材はどこから来たんだろう。ジャオファと「黄金結社」が繋がっているとして、フェルゼンからか?

「ジャオファを放っておけば、必ずあいつは鉄機兵をもって、他国へと攻め入るぞ。あいつはユーロンが欲しいんじゃない。それは足がかりにしか過ぎないんだ。隣国のもっと裕福な国を乗っ取ろうとするに違いない」

ソニアさんの言うとおりかもしれない。

狙うとしたらどこだろう。ロードメア、ゼノアス辺りはさすがに厳しいだろう。イーシェンも位置的に難しい。

僕ならどこを狙う?

……ハノックだな。ここなら西は大河で遮られ、東のユーロンには敵はいない。しかもハノックにはレアな鋼材が取れる鉱山が多くある。新たに鉄機兵を製造するのにうってつけだ。

鉄機兵の力をもってハノックを制圧し、自分の支配下に置いて、新王国を打ち建てる。荒れ地や廃墟が多く、再建に金がかかるだけとなったユーロンは、もう必要ないと考えているのかもしれない。だから金品を巻き上げたり、碌に政治をしたりしてないのか? どうせ切り捨てる土地だから。

今は鉄機兵の生産と、兵力のために天帝を名乗っているが、あくまでそれは手段でしかなく、利用しているに過ぎない、か。

「……確かにあり得る話ですね」

「そうでしょう!? 私たちには関係ないとはいえ、他の人たちの不幸を黙って見過ごすわけにはいかない。やはり今のうちになんとかしないと……!」

ジェスティさんが悔しそうな顔をして拳を握りしめる。親の仇なんだからな。無理もないか。

「私たちは以前もジャオファを追い詰めたことがある。まだ天帝などと名乗ってはいなかったが、その時は失敗に終わり、まんまと逃げられた。あの時奴を倒していれば……」

たら、れば、の話をしても仕方がない。問題はこれからどう行動するかだが……。

「とにかくそのうち内情を探っている僕の仲間から連絡が入りますから。……そう言えばみなさん、「 黄金結社(ゴルディアス) 」って知ってますか?」

「さあ、私は知らないが……。蓮月、ジェスティ、二人は知っているか?」

「いえ、私もあいにくと」

「自分も知りません」

二人とも首を横に振る。

一応、秘密結社だしな。そんな簡単に情報は入ってこないか。

「その「黄金結社」ってのは?」

「鉄機兵開発の裏にいるかもしれない組織です。ひょっとしたら、ジャオファをも操っているのかもしれない」

「黄金と言えば……ジャオファの護衛にいた二人、妙な黄金のペンダントをしていたな……。」

思い出すようにソニアさんがつぶやく。

「どんなやつです?」

「こう……黄金でできた円の中に、六……いや七角形の意匠がされたペンダントだったと思う」

ガリガリと地面に棒切れでソニアさんが絵を描いた。

怪しいな。まず黄金ってとこが怪しい。さらに七角形というところがまた怪しい。リーンに聞いたことがあるが、七角形ってのは属性魔法の根源を表しているんだそうだ。つまり、火、水、風、土、光、闇、無、の七属性だ。

「黄金結社」は魔術結社。その象徴をシンボルにする可能性は高い。

フェルゼン国王に聞いてみるか……って、そういやフェルゼン国王にはスマホを渡してないな。

仕方ない。僕はスマホを取り出し、「連絡先」から執事のライムさんへ電話をかける。

「もしもし。あ、ライムさんですか?」

ライムさんにフェルゼンへ「ゲートミラー」でお手紙を送ってもらう。内容は「「黄金結社」のシンボルマークがあれば教えてほしい」だ。

しばらく待つので、「ストレージ」からテーブルや椅子を引っ張り出し、入れてあったおやつのドーナツと紅茶も出した。

初めからこれを食べれば、わざわざトロールの脛肉なんか食わんでもよかったんだ。でも一度はその土地の味って試してみたいじゃないか。ハズレだったけど。

いきなり出されたテーブルやドーナツに三人とも驚いていたが、腹が減っていたのか、貪るようにドーナツを食べ始めた。特にソニアさんがやたら食う。竜人族は燃費が悪いんだろうか。まあ、ドーナツはまだあるからいいけど。

僕もひとつ手にとって食べ始める。美味い。やはりウチのコック長、クレアさんの腕は天下一品だ。

テーブルの上のドーナツがなくなりかけたころ、ライムさんから写真添付でメールが届く。歳の割に使いこなしてるなあ。

画面に映し出されたイラストを撮った写真を見る。

「こりゃあ、決定だな」

そこには円の中に七角形が描かれたマークが映し出されていた。

間違いない。新天帝と「 黄金結社(ゴルディアス) 」は繋がっている。