軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#164 流星雨、そして消滅。

「ストレージ」の中からレシーバーを取り出し、共用チャンネルに合わせる。他国の王様が命令するのは角が立つかと、細かい指示は各国の隊長に任せていたが、状況が状況だ。幸いここらにいるフレームギアは通信が届く範囲内だから大丈夫だろう。

『ブリュンヒルド公王から操縦者全員に次ぐ! 上級種フレイズの前面には立つな! 予備動作があるから発射前にはわかるが、首を振られたら広範囲にわたって巻き込まれる恐れがある! 常に真横か背後に回れ!』

ザザザッと前面近くにいたフレームギアたちが大きく退避して上級種の横へと回る。

それを見計らったように、ワニ型フレイズは身体を反転させ、鞭のように唸りをあげた尻尾を一体の重騎士にぶつけた。

バキャラッ! という音がして、重騎士が吹っ飛ぶ。地面を盛大に転がって、そのままバラバラにパーツが砕けていく。

《本陣! 誰か聞いているか!? そちらにいま誰か転移したか!?》

《冬夜さん、ユミナです。いま転移されてきた方は重傷ですがなんとか生きてます。フローラさんが治療に当たってますのでご心配なく》

ホッと胸を撫で下ろす。どうやら即死ではなかったようだ。

威嚇するようにワニ野郎は尻尾を左右に振りながら、こちらへ向かってくる。動くスピードはさほど速くはない。これなら避けるのもさほど難しくはない、と思った瞬間、尻尾の先端にあったスバイク状の突起物が、まるで、ミサイルのように撃ち出された。

一旦それは上空高く打ち上がり、それぞれの突起物ひとつひとつが爆発したかと思うと、無数の水晶の矢が雨霰と地上に降り注ぐ。

「「シールド」ッ!」

不可視の盾が僕の周囲を防御し、水晶の矢の雨を弾いていく。他のみんなも盾を構え、なんとか雨を凌いでいた。

「勘弁してくれよ…! クラスター爆弾かっての……!」

クラスター爆弾とは「集束爆弾」とも呼ばれる。親爆弾の中にさらに多くの子爆弾が山ほど入っていて、広範囲を一気に攻撃するための爆弾だ。

拳銃や弓矢のような「点」の攻撃ではない、マシンガンのように軌道を描いて攻撃する「線」でもない。「面」の攻撃なのだ。広範囲を攻撃するのにこれほど厄介なものはない。

しかもいま撃ち出した突起物が尻尾からすでに再生され始めている。

あの尻尾は厄介だ。まずはあれを切り落とすか?

いや、こいつもフレイズである以上、きっと切り落としたとしてもすぐ再生してしまうだろう。

考えている間にワニ型フレイズがズシンズシンと動き出した。

「スリップ!」

あまりにも大きすぎるので足の六点だけ摩擦抵抗値をゼロにする。ワニは見事に横倒しに転倒し、やったかと思われたが、尻尾をやたらめったらに振り回し、再び水晶の矢の雨を降らせた。

「くっ! 逆効果か!?」

雨を凌いでいる僕たちをその視界に捉え(フレイズに目はないが)、転がっていた体勢を整えて、またしてもガパアッ、と、大きく口を開き、その奥に光が集まっていく。マズい!

『各自散開! 退避しろ!!』

僕に言われるまでもなく、必死でその射線上から退避する重騎士たち。再び轟音と光の奔流が僕らの眼前を貫いていく。どこまでも一直線に地面を削り取りながら、遠くの山が削られていくのが見えた。どこまで威力があるというのか。こちらに被害者はいない。いないが……。

どうやって倒すか……。フレイズである以上、あの三つの核を破壊すれば勝てると思うが、どうやって……。あまりにも巨大過ぎて核まで武器が届かない。肉厚過ぎるのだ。刃渡り50メートルもの晶剣を作れば届きそうだが……。材料は周りにいっぱいある。しかし時間がない。そんなものを「モデリング」で作っていたら一時間近くかかってしまう。しかもそんなものをどうやって振り回す?

ミスリルゴーレムの時のように「ゲート」で上空に放り出しても、おそらく無傷……いや、傷ついても再生してしまうだろう。

ワニ型フレイズが尻尾を横薙ぎに払い、うっとおしそうに僕らを攻撃してくる。その攻撃をかわしきれずに何機かの重騎士が巻き込まれて吹っ飛んだ。

そしてそのまま水晶矢の雨。地味だがこれが結構こたえる。みんな盾で防御するが、どうしたって肩や足などに小さい損傷を受ける。その状態で先ほどのような攻撃をされると、どうしても動きが鈍り、避けきれないのた。

「こうしていても押されるだけだ……。一気に行く!!」

僕は両手に晶剣を構えながら、宙を駆けてワニの脇腹へとたどり着く。目の前に、ぼんやりと光る直径1メートルほどの核が体内遠くに透けて見えた。

「っせえぃッ!!」

左右の晶剣をクロスさせるように連続で削っていくが、とてもじゃないが核までダメージを与えられそうもない。こいつがワニだとしたら、少し大きな 虻(あぶ) が刺してきた、くらいなものなんだろう。

ヴォンッ、と震えるような音が背ビレのあたりからしてきて、次の瞬間、僕は吹っ飛ばされていた。

「なッ……!」

空中をぐるぐると回転し、なんとか体勢を元に戻す。どこにも叩きつけられることはなかったので、ダメージはないが、なんだ今のは!?

衝撃波のようなものをあの背ビレから放つことができるのか?

すかさずまた水晶矢の雨が降る。もうみんなの盾も限界だ。唯一の救いはこの攻撃が敵味方無差別にしかけられているということか。

何度か繰り出されたこの攻撃で、ここにいたフレイズたちの大半はやられてしまっている。

こいつは言ってみれば殲滅型のフレイズなのだろう。このままでは全滅も有り得る。なんとかしなければ……。

この水晶矢の雨が厄介だ。まるで流星雨のような…………まてよ……。

周りをざっと見渡す。砕かれたフレイズのかけらが山のように辺り一面に散らばっている。いけるか?

『各自に通達。三分だけ時間を稼いで欲しい。無理に攻撃することはない。気を引くだけでいい』

僕の通信が聞こえたのだろう。各国の重騎士たちが、僕の存在をワニ型フレイズからそらすような方向へ動き始めた。

よし、今のうちだ。広範囲に散らばっているフレイズのかけらに「マルチプル」「トランスファー」で魔力を込めて強化する。あの上級種よりも硬く、強固なものにしていく。

『各自散開! フレイズから距離を取れ!』

僕の通信により、フレイズから退避し、みんなが距離をとったのを確認してから、「ゲート」を開いて広範囲に散らばっていたフレイズのかけらをワニ型フレイズの上空へと転移させた。高さは数十メートルだ。あまり高くしすぎると狙いが外れる。

「くらえ。「 流星雨(メテオザッパー) 」」

空中に転移したフレイズのかけらに「グラビティ」で加重をかける。その重さは数万倍にも跳ね上がったはずだ。

キラキラと降り注ぐかけらの雨が、次々とワニの巨体に楔を打ち込んでいく。巨体のあらゆる部分に亀裂を作りながら、埋め込まれていく無数のかけら。それにさらに魔力を加え「グラビティ」で重さをさらに増加させた。

キキキキキキキキキィィィ!! と黒板をひっかくような音を放ちながら、ワニの巨体が地面に縫い付けられる。

バキ、バキッと巨体のいろんな部分から亀裂が広がる音が聞こえてくる。かなりの魔力を注いでいるのだが、まだ足りないか。さらに加重をかける。

ひとつのヒビが別のヒビに達し、それがさらに大きいヒビを作り、次々と連鎖して亀裂を作っていく。

ワニ型フレイズは口を開けて、例の光弾を放とうとしたが、口のところにもかけらがめり込んでいるため、開くことができない。ギッ、ギギッ、と軋むような音が聞こえてきた。

「砕けろ」

ダメ押しにさらに魔力を追加して、かけらの楔をめり込ませる。とうとう耐えきれなくなって、ワニの身体がバラバラに砕け散った。

『今だ! 再生する前に核を砕け! 三つ全部だ!』

一気に全員が砕けた巨体から転がり出た核に群がり、武器で攻撃し始めた。瞬く間に核にヒビが入り、あっけなく砕かれる。残りの二つも同じように砕け散り、上級種は巨大な水晶の残骸と化した。

うおおおおおおッ! とミスミドとラミッシュ、そしてリーフリースとブリュンヒルドのみんなが武器を頭上に翳しながら勝利の雄叫びを上げる。

まだ、多少のフレイズがのこっているが、このB地点での掃討はほぼ完了したと言ってもいいだろう。

なんとかなったか。魔力をかなり使ってしまったけど。今までで一番消費したんじゃないだろうか。今度はああいった上級種の対策もしておかないといけないな。

『ここはブリュンヒルド騎士団を掃討に当てて、ミスミドとラミッシュ、リーフリースはA地点へと転移する。各自転移準備。これで一気に終わらせる!』

『おおッ!!』

B地点にいたフレームギアたちのほとんどをA地点へと送った。C地点の方も片付いてきている。フレイズ表示数を見ると478まで減っていた。どうやらあとは掃討戦に入るだけのようだ。

山は越えた、と思う。どうにか撃退はできたのだろう。しかし、ユーロンを救えたかと言われれば、胸を張ることはできない。

あの上級種から放たれた光弾で、まきこまれた人がいたかもしれないのだ。

「考えても仕方ない、か」

いささか気だるい身体を起こし、「ストレージ」を開いて、砕け散った上級種のかけらを収納する。

『八重、ノルンさん、ここは任せた。僕はA地点の方へと向かう』

『わかったでござる』

『了解っ』

A地点へ戻る前に本陣の方へ転移した。突然現れた僕を見るなり、リンゼが駆け寄ってくる。

「冬夜さんっ、大丈夫ですか!?」

「ああ、一応大丈夫。ものすごく疲れてはいるけどね」

肉体的にも精神的にもかなり疲れた。こんなに連戦したこともなければ、魔法を使いまくったこともないもんな。

ルーの持ってきてくれた椅子にどかっと座る。あー……。気を抜いたらこのまま白い灰になりそう。

《冬夜? 聞こえる?》

《エルゼ!? どうかしたのか?》

がばっと顔を上げる。まさか二体目の上級種が出現とか言わないよな!?

《こっちの見える限りのフレイズを掃討したんだけど……まだこの辺りに残ってる?》

《え? ああ、ちょっと待って》

マップで検索してみると、C地点のフレイズはすっかりいなくなっていた。あとはB地点にわずかと、A地点だけだ。数も247まで減ってきている。

《大丈夫、もうそこにはフレイズはいない。本陣へ帰還させるから、みんなにそう伝えて》

《わかったわ》

C地点に残っていた全員を本陣へと転移させた。そうしている間にもB地点のフレイズも片付き、残るはA地点のフレイズのみとなり、表示数もどんどんと減っていく。やがて、それがゼロになったとき、映像盤の前に陣取っていたみんなが一斉に歓喜の声をあげた。

本陣では国に関係なく、近くの者と喜びあい、手を打ち鳴らし、勝利の雄たけびが上がる。念のためもう一度検索してみるが、フレイズが検索されることはなかった。

《全員に通達。作戦完了。フレイズの全滅を確認した。今から全員を本陣に帰投させる。お疲れさん》

次々と本陣に現れたフレームギアから操縦者のみんなが降りてきて、誰彼構わず抱きついて喜びを表している。

中には胸部ハッチから飛び降りて、怪我をしたやつもいたようだが。

「つっかれたー……」

泥のように眠りたいところだが、まだまだ事後処理が残っている。

まず倒したフレイズの回収、そんで本陣にいるみんなの各国への帰還、フレームギアのバビロンへの転移……ここらは僕じゃないとできないからな。

あとはなんかあったっけか? あ、ユーロンの天帝って大丈夫だったのかな?

何気なくマップを表示したが、首都が表示されない。あれ? おかしいな、確かこの辺りにあるはずなの……に……。

僕はひとつのことに思い当たり、マップにB地点から放たれた上級種の光弾の方向を割り出した。

そのうち二発目の光弾の射線上と、かつて都があった場所が一致していた。

天帝国ユーロンの首都、天都はこの日を境に地上から姿を消した。