軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04話 推しが生きてるだけで幸せ

まるでサナギになったような感覚だった。全身が肌にぴったり貼りつく硬質の何かに覆われていて息もできない。真っ暗で何も見えない。自分の心臓の鼓動、血流、肺の圧迫感が大きく感じる。

しかし常時展開しているはずのバリアの感覚は消えていた。

なるほどね?

俺の肉体の代わりにバリアが麻痺して石化したのか。

こういう事になるのはちょっと想像してなかったな。

一瞬死んだと思ったが別にそんな事も無かったようだ。緊張が一気に消えた。セーフ。

俺はバリアをぴったり体に纏うようにして展開している。それが石になったのだから外から見れば俺自身が石化したようにしか見えないだろう。石像のフリをする、という使い方もできそうだ。

不可視の念力の力場であるバリアを石にできるのは素直に凄い。何をどうすればそうなるのかさっぱりだ。電磁波を水に変えるとか、温度を土に変えるとか、それぐらいの意味不明な現象だぞ。意味不明な現象を起こすからこそ「超」能力なのだが。

念力を石にできたのなら、念力以外の超能力も石にできるかも知れない。燈華ちゃんの炎、ルー殿下の雷とか。

対超能力石化が可能なら水を念力の膜で包んで動かしている世界の闇も石にして倒せる。

なんだ、戦えるじゃないか。

魔眼の新しい可能性が見えたのは喜ばしいが、仲間や俺でさえも石にする暴走する人型災害になりはじめている。手綱を取り切れるだろうか。心配だ。

もうここで支部長失格・能力剥奪にしておいた方が災害が大災害に成長する危険の芽は摘める。しかし一度超能力を与えられておいて失敗したせいで奪われたら絶対に一生モノの深い深い傷跡になる。そんなのはダメだ。

俺は許せる限りは失敗を許せる大人でありたい。大丈夫だ、次また頑張ろう、と言ってやれる大人でありたい。相手は14歳の子供だもんな。

とはいえ無自覚精神攻撃のダメージが激し過ぎて割と心折れそう。早いとこなんとかしたい。

考え込んでいる内に息苦しくなってきた。全身を石で覆われているため空気が通らず呼吸できないのだ。

俺はバリアを張り直し、念力で石を砂に変え縛めを解いた。

うむ。シャバの空気は美味い。

目の前にいたはずのメドゥちゃんの姿は消えていた。地下室から地上階へ続くドアが開いている。上に行ったようだ。

メドゥちゃんをどう更生させれば良いものか悩みながら階段を上ると、一階にいた解放戦線の少年が腰を抜かした。

ガタガタ震え恐怖に引き攣った表情で俺を指さし、母国語で何かを繰り返し叫んでいる。

なんだろう。「石」「生きる」の単語は辛うじて聞き取れる。「石になったのに生きてる!」とか?

いいだろ別に生きてても。超能力者なんだから石になっても生きてるぐらい何もおかしくはない。親分かイグなら自己治癒で麻痺・石化を解除しそうだし、凛は時間遡行で状態異常を無かった事にするだろう。

一階にも見当たらないので千里眼で探すと、メドゥちゃんは屋上にいた。半狂乱で身投げしようとしているところを解放戦線の子供達に必死に取り押さえられている。

ひっどい事になってるなおい。もうめちゃくちゃだよ。

気持ちは分からなくも無いが……いややっぱり分からないな。

たぶん後追い自殺的なやつだと思うが、狂信的厄介ファンの心境は理解しかねる。

俺がノコノコ屋上に姿を現すと、自殺騒動の混乱は復活騒動の混乱に一瞬で切り替わった。怯えて逃げていくやつ、跪いて許しを乞い始めるやつ、まごまごして周りの真似をするやつ、泣いてるやつ怒ってるやつ笑ってるやつ……見事にバラバラな大騒ぎだ。

メドゥちゃんはというと泣き笑いで絞殺された鳥のような声を上げたあと案の定気絶した。こいついっつも気絶してんな。

とりあえずメドゥちゃんを抱き抱えてベッドに運ぶと、屋上からカルガモの雛のようについてきた解放戦線の子供達がベッドを取り囲んでせっせと世話を始めた。濡れタオルを額に乗せたりパジャマに着替えさせたり花を持ってきて枕元に飾ったりただ手を握っていたり。

俺はほとんど厄介ファンの姿しか見ていないが、たぶん、アリナータヤ解放戦線の子供達にとってメドゥちゃんはそれだけ大切な存在なのだろう。孤児の希望の星なんだよなあ。

メドゥちゃんは一時間ほどで目を覚ました。

護衛のようにメドゥちゃんを守っているキッズ達に身振り手振りで頼んで病床まで通してもらうと、メドゥちゃんは違和感の塊になっていた。

『お見舞いですか? ありがとうございます』

テンションがフラットだ。

頬を染めていない。

目がギラギラしていない。

ベッドから半身を起こして薄く微笑んだだけですり寄って来ない。

様子がおかしくないのがおかしい。

まるでただの褐色美少女だ。

『ご心配をおかけしました。私は大丈夫です。訓練は予定通りに』

本当に大丈夫か? 頭打った?

俺が熱を測ろうと額に手を伸ばすとスッと身を引いて回避した。

えっ……

どうしたお前。ボディタッチのチャンスは食らいついて逃さない貪欲メドゥちゃんはどこへ!?

『失礼。でも私は佐護様に触れていただけるような者ではないですから』

『触るぐらいいいだろう』

『いいえ、今度こそ殺し……傷つけてしまうかもしれません。無理です。そんな事耐えられません。どうか御身を大切に、御自愛下さい。私は佐護様が健やかに生きていて下さるだけで幸せです。やっと分かったんです』

メドゥちゃんは両手を重ねて自分の胸に当て、生まれてから一度も邪念を持った事が無いかのような澄み切った瞳でひっそりと言った。

いや、ええ?

どういう事だよ。二重人格?

まるで別人……あっ!?

これが例の「佐護杵光によるメドゥ・サグロゴの改心」か?

そういう事?

改心というか改造を疑うぐらい様子が変わっている。

翔太くんといいメドゥちゃんといい、どうして超能力者は反省が極端なんだ?

急に別人になるじゃないか。脱サラして秘密結社始めた俺が言える事ではないが。

触られるのが嫌だと言うのなら念力を使うまで。不可視の念力でこっそり触って脈拍や体温を確認していると、ポケットのスマホが震えた。見ると栞から電話がかかってきている。

栞の方から連絡が来るのは少し珍しい。何かあったのだろうか?

俺はすぐに立ち上がった。

『すまん、嫁から電話が来た。一度席を外す』

『奥様がいらっしゃるんですか?』

『あ』

背中に氷水をぶっかけられたようだった。

俺は俺が思っているより遥かに馬鹿なのかも知れない。

一日何回ミスるんだよ! 優秀な副官が隣にいなくなっただけでこのザマだ。

恐る恐る様子を窺うと、しかしメドゥちゃんは虚空を見つめてぽやーっと何かを妄想しながらひっそり呟いた。

『奥様がいらっしゃる佐護様尊い……』

大丈夫だった。もうなんでもアリだな。

なお栞からの電話は今年の夏の水着は赤がいいか黒がいいか、という話だった。今アパレルショップにいるらしい。

何色でもいいけど俺以外の男にはあんまり見せないでくれと答えておいた。

メドゥちゃんは佐護杵光石化未遂事件以降めちゃくちゃ大人しくなった。あれほどすりよって来ていた反動のように距離を取るようになり、よく俺にあてがわれた部屋の外に気配を消して立っていたり、手書きのIT布教広告を作って街中に出かけ店の許可を取って店頭に貼り出したりしている。以前のような強引な勧誘や古参ファン面したマウント取りはやめた。

あとたまにサングラスをかけて絶対に目を合わせないようにしながら暗がりからひっそり俺を見ている。そして俺に気付かれた事に気付くと早口で謝ってサッと逃げていく。

厄介ファンではなくなったが、熱心なファンではあり続けているようだ。なんか恥ずかしい。

超能力訓練への熱心さは変わっていない。

俺がそろそろ世界の闇と戦ってみるか、と話を振ると、次の日には自作の眼帯を準備して右眼につけてきた。金属板を縫い込んであるためナイフで突かれる程度の攻撃なら防げるらしい。

曰く、能力封じ対策だとか。

魔眼能力は目を潰されると途端に何もできなくなる。

閃光や砂かけで目潰しされたら戦闘力激減だ。あらかじめ片目を眼帯で守っておけば、普段使っている目を潰されても眼帯を外しもう一方の目を解放する事で即座に戦闘力を回復できる。

かしこい。

あと軍服に眼帯という見た目もすごく良いと思います。

軍服を着ているのはメドゥちゃんが持っている中で一番丈夫な服だからで、眼帯は純粋に合理的に戦うためなのだが、凄く中二病めいている。

思わず写真を撮って栞に送ったら三十分後に軍服コスプレ栞ちゃんの高画質自撮りが送られてきた。今日も俺の嫁が可愛い。

軍で戦闘訓練を受けた経歴を持ち、強盗や窃盗を繰り返す日々の中で実践的な身のこなしを身に着け、凶悪な石化能力を習得し、戦闘準備を怠らず意欲も高いメドゥちゃんに世界の闇とのチュートリアル戦闘なんて必要か? とも思うがこれも通過儀礼。

若干難易度を上げつつ実戦突入だ。