軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話

満景は除霊した部屋を借りて住むことが決まった。ちなみに賃貸契約書の保証人の欄は、マンションの窮地を救ってくれたからと、大家が本人の名で書いてくれることになった。

「敷金礼金もゼロにしてくれりゃいいのにな。あいつもケチなことだ」

「いやでも、どちらも家賃一ヶ月分に負けてくれましたし」

満景はソコノ住職の車で実家まで戻ってもらい、ついでに荷造りをした荷物と共にマンションに戻る気でいた。

納屋での暮らしを余儀なくされていたこともあって、満景の私物は少ない。

いま着ている卒業した中学校の制服の他に、私服が数着と寝間着が一着。中学校までの教科書とノート。食事に使う食器一式。スマホと充電器。後は、アゼンとオシロがそれぞれの道に旅立ったことで必要なくなった、二匹が使っていたペット用品。

それらを入れるために使っていた古びた 葛篭(つづら) は、犬塚家の所有物なので、軽く拭いて納屋の奥に戻しておく。

納屋の中に死蔵されていた段ボールを使って私物を梱包していくと、三つ分で全てが納まった。

「アゼンとオシロの物品が段ボール一つ分って、結構あったな」

ボロボロの玩具を段ボールに押し込んで、満景は段ボールを一つずつソコノ住職の車に積む。

そうした作業が一段落ついたところで、満景はソコノ住職にお願いをした。

「先にマンションに向かってください。後で電車で向かいますから」

「……親の義務を果たさなかった輩に、義理立てする必要はないぞ。不心得者に布施を与えることは、仏堂とて良しとはせんのだからな」

「僕が恩知らずになりたくないだけですって。少なくとも、僕がこの世に生まれ出でる恩と、この家の敷地に住まう恩は、両親からのものですから」

「律義者め。そんな恩など、絶縁状で済ませればよいものを」

「えっと、三行半で書くやつでしたっけ?」

「アホ。それは夫婦の絶縁状のことだ」

冗談を交わしてから、ソコノ住職は満景の気持ちを汲んで、車を前に走らせて去っていった。

満景は再び潜り戸を抜けて家に戻ると、もう何年も入った記憶のない母屋に入ることにした。

両親に対し、この家を去ることを伝える、その目的のために。

犬塚家の本宅の廊下に足を踏み入れると、あの悪霊がいたマンションの一室のような雰囲気が、満景に襲い掛かってきた。

そして、あのマンションと違って、この邸宅の中は日の光を避けているかのように、どこも薄暗い。

(代々、動物を殺して悪霊を作り、その悪霊で霊能活動をしてきたから、悪霊の怨念が代々に渡って家に染みついているんだよなあ)

家を歩くだけで気が滅入りそうになる。

だが満景は身体に気合を入れて、本宅の廊下を父母の部屋がある場所を目指して歩いていく。

犬塚家の稼業は、狗神を用いて対象者を呪うもの――いわば年に数件しか案件の来ない自営業だ。

年に数件だけ仕事を受けるだけなので、満景の両親は在宅していることが多い。

(占いの館を手伝ってから知ったけど。人を呪う仕事って、一件の報酬が馬鹿高いんだよね)

昨今の霊能活動の潮流は、悪霊祓いだったり、運気を上げる祈祷だったり、未来に起こる不孝を予言するなど、人を幸せにするための活動が主となっている。

一方で、人を呪って不孝にする呪術系は、多くの霊能者がやりたがらない流れができていた。

時代的に、人を害することはダメなことだという世間の認識が強まったことで、人を呪うことは悪であるという共通認識が醸造される結果に至ったことが理由だという。

そんな現状なので、呪術を使って人を呪ったと知られた日には、所属していた霊能者のグループから除外されることすらありえる、という空気があるらしい。

だがしかし、世の中の認識がどうであれ、人を呪いたいと求める人物は一定数存在することも確かなこと。

そうした人物たちは、人を呪う呪術を専門にやってきた犬塚家の腕前を見込んで、依頼を送ってくる。

呪術を行う霊能者が少ないこともあり、犬塚家が言い値で仕事を請け負う形になる。

満景は正確な料金は知らないものの、年数件で過不足なく一家が暮らせているのだから、一件で百万円以上は確実に取っていることだろう。

そんな高額報酬でも年に何件も来るからには、満景の両親が持つ呪術の腕前は確かなのだろう。

満景が、つらつらとそんなことを考えながら歩いていると、ふわりと獣臭が鼻にきた。

その臭いが何なのかを、満景はすぐに理解する。

両親が使役する、狗神が発する臭いだと。

「僕の両親に伝えて。面会に来たって」

満景が空中に声を出すと、獣臭が消え去った。

それからすぐに、満景が進もうとしていた廊下の先にあった襖の一つが、自動ドアかのようにひとりでに開いた。

どうやら、開かれた襖の部屋に、満景の両親がいるようだ。

満景は気合を入れなおしてから、その部屋に入るべく歩みを進ませた。