軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90話

宿は大乱闘の後のようにグチャグチャで、アイルやベルサが、竜たちの腹を枕に床で眠っている。竜たちも鼾をかいて爆睡中だ。

セスは椅子に座ったまま眠っており、背に何かを守っているようだ。後ろに回ると、食い散らかされた飯があった。

俺の飯を守ろうとしてくれたようだが、失敗したらしい。テーブルに突っ伏して寝ていたメルモが、俺に気づいて起きた。

「あ、社長。おかえんなさい。ああ、やっぱり無駄でしたか」

セスの後ろにある皿を見て、メルモが言う。

「今、作っちゃいますね」

メルモは立ち上がり、厨房に向かった。

「悪いね」

しばらく、社員と竜たちの寝顔を見ていると、突然、竜たちが光り輝き始めた。

「やべっ!」

竜たちは寝ると竜の姿に戻るんだった。

急いで竜たちの襟首を掴んで、窓から放り投げた。

外で二人とも竜の姿に戻ったが、全然起きる気配はない。

アイルとベルサも、枕が無くなり床に頭を打ち付けていたが起きない。寝るのは特技かな。セスも何事もなかったように、寝ている。

厨房にいたメルモだけ、何かあったか見に来たが、俺が説明すると、「ああ、そうなんですね」と言って、再び厨房に戻っていった。別に気にしないらしい。うちの社員たちは肝が据わっていて何よりだ。

メルモに作ってもらった夕飯は、肉野菜炒めをパンに挟んだサンドイッチ。美味い。美味すぎる。日本人はご飯がないとダメなのかと思ったが、すっかり慣れてしまった。

「そういや、この宿の従業員も逃げたのかな?」

「わかんないですけど、夕方に帰ってきてから見てませんよ」

「そうか……」

夕飯を食べ、食器をクリーナップで洗ってから、寝ている社員たちをそれぞれの部屋に運んだ。

メルモだけは、会社で飼っているイヤダニの瓶を眺めている。俺が飼育しきれず、ベルサに渡り、ベルサからメルモに渡ったらしい。

「メルモは顕微スキル発生したか?」

「いえ、私はまだです。観察力がないせいでしょうか? 可愛いとしか思わないですね」

ベルサはイヤダニの観察で顕微というスキルが発生したと言っていたが、人それぞれで違うのかもしれない。

メルモはパン屑を瓶の中に入れながら、ほくほく顔でイヤダニを見ている。

危ないメルモは放っておいて、宿屋の奥を見るとすっかりもぬけの殻になっていた。

「村で唯一の宿屋が逃げ出してどうする?」と思わなくもないが情報を伝えてなかったのだからしょうがないか。

「あんまり夜更かしするなよ」

メルモに言って、自室へ行きベッドに潜る。

別にもうどこの部屋を使っても文句を言われなさそうだし、空き家を使っても良さそうなものだが、なんとなくこの村での寝床はこの部屋な気がする。

外で眠る竜たちの鼾を聞きながら、就寝。

翌日、朝早く外からセスの悲鳴が聞こえた。トイレに行った時に竜でも見たのかな。

「そういや、新人たちに紹介してなかったか」

俺はあくびをしながら、ベッドから降り、部屋を出て階下に向かう。

ちょうど、セスが宿の扉を開け、慌てて入ってくるところだった。

「りゅりゅりゅ竜です! ドラゴンです!」

「ああ、昨日、アイルとベルサが紹介しなかったのか?」

「竜の守り人って言うから竜を守る称号じゃなかったんですか!?」

「まぁ、そうなんだけど、今はただの友人だ。だいたいこの前農園を焼いたのは竜たちだろ?」

「それはそうですが、じゃ、僕は竜と酒を酌み交わしたんですか?」

「そうだ。まったく、いい加減この会社に慣れろよ」

「そ、そんなぁ……」

とはいえ、セスの言うこともわかる。

朝起きてトイレに向かったら、建物と同じくらいの竜が寝そべっているのだから。早いところ、対処しないと村人たちが騒ぎ始める。

竜たちの目蓋を持ち上げて起こす。

「朝です。起きてください。人化の魔法を使うか、北の方に飛んでいってください」

「な、なんじゃ。竜使いが荒いのう」

「すみませんね。でも、起きてください。騒ぎになりますから」

「わかったわかった」

レッドドラゴンと黒竜さんは、そのまま大きな口を開き、あくびをしたかと思うと人化の魔法で人の姿へと変身した。

「して、今後の我々の仕事はどうなっておるんだ? ナオキ殿」

黒竜さんが聞いてきた。

「今後は、北の国との国境線付近でちょっと暴れてもらって、人化の魔法で抜けだしてくれれば、業務は終了です」

「なんじゃ、そんな簡単でいいのか?」

「そうですね。良いと思います」

「それじゃあ、業務が終わったら、フロウラのマーガレット邸でご飯をご馳走になってから帰るとするか?」

「うむ。そうしましょう」

大惨事必至のマーガレット邸のことは一先ず忘れて、地図で国境線を確認しようとしたところ、地図がないことに気がついた。

昨日、ガルシアさんの家の倉庫に置いてきたのだ。

仕方がないので、教会に行って知っている人に教えてもらうことにした。

竜たちを連れ、朝の教会に行くと祈りを捧げている時間のようだった。

後でまた来ようとしたら、葬式の時に弔辞を読んでいたロメオ牧師の友達が俺たちに気づいてくれて、事情を説明すると、地図を描いて教えてくれた。

礼を言って、村はずれまで竜たちを送ることにする。

教会を出てすぐに人化の魔法を解こうとする竜たちは、まだ少し寝ぼけているようだ。

結局、水路の上流の方まで竜たちを送り、仕事を確認して別れることに。

「ここで、お別れか。また、我輩たちの助けがいるようならいつでも呼び出してくれ」

「うむ。正直、神に会えるとは思わなかった。神の依頼ならいつでも呼んでくれ。これ以上の誉れはない」

黒竜さんとレッドドラゴンがそれぞれ挨拶をして、飛び立って行った。竜たちとはビジネスライクな関係だ。

報酬は飯で良いのだから、ありがたい存在でもある。ただし後でアイルに聞いたら、アイテム袋に入っていたかなりの量の食料を食べられたという。報酬を考えると割に合わないか。

宿に戻ると、セスが昨夜の余り物で軽い朝食を作っていた。

朝食を食べていると、女性陣も食堂に降りてきた。アイルとベルサは二日酔い気味で、メルモは寝不足という体たらく。

ハーブティーの匂いを嗅ぎ、ようやく頭がはっきりしてきたのか、ベルサが、「あれ!? 竜たちは?」と、聞いてきた。

「もう仕事に行ったよ。俺たちも朝食を食べたら、仕事するよ。井戸掘りは進んだんだろうな」

「進んだよ。もう水源までは届いているんだ」

「あとは、どうやって汲み上げるかってこと!」

アイルとベルサが朝食を食べながら説明する。

井戸はかなり深いらしく、普通の釣瓶では汲み上げるのが大変らしい。

「ポンプ作るか」

「ポンプってあれか?」

ベルサが駆除用のポンプのジェスチャーをした。

「あれの元になったものだな。ただ、材料があるかなぁ……」

朝食を食べたあと、すぐに井戸の現場へと向かった。

「青銅ですか?」

ガルシアさんは青銅があったかどうか確認してくれた。すでにガルシアさん親子がいて、土魔法を使って作業を進めている。

「ええ、錆び難くて加工もしやすい素材なんですけど、ありますかね?」

「それなら、うちの妻が持っているかもしれないねぇ、聞いてみよう。ハハハ、相変わらず、不思議な事を聞くなぁ、ナオキくんは。何を作る気なんだい?」

口調が昨夜の真面目なガルシアさんと違い、すっかり元のガルシアさんに戻ったようだ。

「地下水を汲み上げる装置を作ろうと思いまして」

「そうかぁ、わかった。ちょっと土魔法の練習をしておきなさい」

ガルシアさんは子どもたちに指示を出し、俺を家の方へと案内してくれた。

「アシュレイ! アシュレイ!」

ガルシアさんが奥さんの名前を呼ぶ。

「なぁに?」

奥さんも仕事中らしく手は汚れていた。

「あらあら、ナオキくん。昨日はごめんね。あ、ちょっと待って、今地図を写し終わったところなの」

そう言うと、すぐに引っ込んで地図を持って戻ってきた。

「ごめんねぇ。借りちゃって」

「いえいえ、いいんです。それより、青銅ってありますか?」

「水を汲み上げる時の装置を作るそうなんだ」

ガルシアさんが説明してくれる。

「あら、そうなの? じゃあ、私の工房に来て」

奥さんのアシュレイさんは、昨日、村人や行商人たちが集まっていた倉庫の隣にあるもう一つの倉庫らしき建物に向かった。

倉庫だと思っていたが、アシュレイさんの工房らしい。俺とガルシアさんも後をついていく。

工房のなかはいろいろな器具が所狭しと積まれ、壁際の棚には魔物の歯や頭骨のほか、腸や胃袋、瓶に詰まった何かの粉、薬のようなものなどが置かれていた。

「妻のアシュレイは錬金術士なんだ」

ガルシアさんが説明してくれたが、錬金術で魔物の腸を使うのだろうか。

奥にある大きな机には紙の束が積まれている。

アシュレイさんは、その紙の束を棚に片付け、恥ずかしそうに、「散らかっているけど、座って」と、丸椅子を勧めてくれた。

ガルシアさんは机の上にある魔石灯を点けた。

確かに工房は隣の倉庫の裏にあり日陰になっていて、あまり日の光が入ってこない。

「それで、どんなものを作るの?」

「描いて説明しても?」

俺はアイテム袋から、雑な紙と木炭を取り出して、机に広げ、手押しポンプの部品や構造を説明した。

「つまり、この部分に真空を作り出し、水を汲み上げるということです」

「なるほど、面白いなぁ。ハハハ」

「魔法も魔法陣も使わずに汲み上げるなんて。こんな方法があるのねぇ」

ガルシアさんもアシュレイさんも感心していた。

「どうです? 素材はありますかね?」

「青銅の量はそんなに多くはないのよ。それに加工技術もなくて。鍛冶スキルを持っている人はいたかしら?」

「ああ、ドワーフの子はいたが、独立してしまったしなぁ」

そんな子がいたのか。

「何か魔物の素材で代用できないかしら? 錆びずにカビも生えなければいいのよね?」

「まぁ、そうです」

「例えば、砂漠にいるサンドワームの食道でもいいのじゃないかしら?」

そういえば、そんなミミズの魔物がいたなぁ。

「オラの土魔法で固めた石も結構な強度があるぞ。その辺の魔物の頭蓋骨くらいなら穿けるぞ」

「なるほど、そういう手もありますね」

「ただ、井戸は結構な深さなんだけど、大丈夫かな?」

ガルシアさんが根本的なことを言ってきた。

そういえば、深さを確認していない。ちょっと確認しに、外に出て掘り進めている現場まで向かう。

子どもたちが地面に向かって土魔法の練習をしている間、うちの社員たちが、ロープを結んでいた。何をしているのか聞いたら、井戸の深さを計るという。タイミングがいい。

「なんにせよ。装置を作るなら、正確な計測は必要だろ?」

まったくその通りだが、ロープが長い。長過ぎる。

「そんなに深いのか?」

「探知スキルで見てみろ」

忘れていた。

言われて探知スキルで見てみると、かなり深い。正直、手押しポンプでどうにかなるか不安だ。

これで、フィーホースを放牧して、村人や行商人たちの水を賄うというのは酷だ。

「風車で汲み上げようか」

「「風車?」」

後ろにいたアシュレイさんとガルシアさんが疑問の声をあげた。