軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68話

「実は、また現れて……」

ミリア嬢が言うには、再び、娼婦の顔を切り刻む冒険者が現れたらしい。

冒険者のほとんどは、ローカストホッパー駆除のため、砂漠に行っていたはずだ。

「先に帰ってきた奴らの中に犯人がいます!」

先程まで、目に涙を浮かべながらお礼を言っていたアマンダ嬢が言った。確かに先発隊は俺たちの2日前には町に戻ってきている。犯人の冒険者は戻ってきたその日に犯行に及んだらしい。

被害者は隣の娼館の娼婦だそうで、すでに俺があげた回復薬で顔の傷は治っているが……。

「でも、また来るんじゃないかと思うと」

まぁ、怖いだろうなぁ。

「薬師さんも冒険者なんでしょ。さっき、馬車の後ろでみたよ」

「まぁ、俺も一応、冒険者だけど」

「捕まえておくれよ」

ミリア嬢が手を握ってきた。

「冒険者ギルドには言った?」

「ええ、言いました! ただ、私たちの稼ぎじゃ、そんなに報酬は出せないし……」

アマンダ嬢は下を向いた。

「お願いだよ。薬師さん!」

「お願いされちゃあ、しょうがないな」

「やってくれるのかい?」

「もちろんだ!」

どうしてか俺は娼婦の前だとカッコつけてしまう節がある。とりあえず、冒険者の特徴と、どんな男なのかをアマンダ嬢から聞いた。

男は行為に及んでいる最中に「結婚してくれ」とプロポーズをしてくるらしい。それを断ると乱暴し始め、暴れた挙句、「誰も抱こうなんて思わない顔にしてやる」と、顔を切られるのだそうだ。よっぽど怖かったのだろう。アマンダ嬢は話をしている時も震えていた。

冒険者としてはありきたりな格好をしているらしく、髭面で皮の鎧、頬からクビにかけて切り傷の痕があるのだという。

「わかった。まずは聞きこみからだな。冒険者ギルドのギルドマスターに詳しい話をして、そういう冒険者がいないか聞いてみるよ」

2人も付いてくるという。

冒険者ギルドに美女2人を連れて、入っていくと視線がこちらに集中する。非常に気分がいい。

ゆっくりと、羨望の眼差しを堪能しながら、奥のカウンターまで歩いて行く。

「あ、社長!」

「え?」

掲示板を見ている冒険者をどっかで見たことあるなぁ、と思っていたらセスだった。

「何やってんだ? お前」

「いや、犯罪者捕まえたんで、ちょっとランク上げできるかなぁ、と思って。あ、これだこれだ。よかったEランクの依頼だったみたいです」

セスは掲示板から『娼婦暴力事件の犯人逮捕の依頼』という紙を引き剥がして、俺に見せてきた。

「お兄さん! 犯人捕まえたのかい?」

ミリア嬢がセスに迫った。

「え? ああ、そうですよ。さっき飯処で町の人に昼飯ごちそうになってたら、暴れだしたヤツがいたんで、捕まえたんですよ。あ、ほら、うちのキャンプ地の吸魔剤に突っ込んだ兄弟いたでしょ? その弟の方です。依頼出ててラッキーでした。これでようやく俺もDランクになれます」

セスは俺に向かって嬉しそうに説明していた。

「あ、社長!」

カウンターにいたメルモが振り返った。

「メルモもいたのか?」

「ええ」

「やっぱり依頼出てたよ」

「尋問しておいてよかったね。アイルさんが言ったとおり、『犯罪者は身体に聞くのが一番。余罪が出てくると二度美味しい』って本当だね」

なんちゅう教えだ。

「で、社長はなにしてるんですか?」

「なにって、その依頼の依頼主たちをだなぁ……」

「お兄さん腕ムキムキね!」

「わぁ~すごーい! これでアイツを捕まえたのね!」

ミリア嬢とアマンダ嬢はセスの腕に絡みついている。

「あ、いや、ちょっと、そんなところ……」

セスは顔を真赤にして悶えている。美味しいところをセスに全部持っていかれてしまった。

「Dランクに上がるのか?」

「ええ、ようやくって感じです! でも、ギルドの人達からは異例の早さだって言われましたけど」

「そうかぁ」

「まだまだ、社長やアイルさんには追いつけません」

「俺はFランクだけどな」

「え!?」

「これから、試験か? がんばれよ」

「は、はい。え? あの……社長がFランクってどういう、え!?」

混乱しているメルモを無視し、セスに昨日回復薬を売って稼いだお金を渡す。

「セス、これで少し、そのお姉さま方のところで遊んでこい! じゃあな」

本当は腸煮えくり返っているが、娼婦の方々の前では粋な御仁に見られたい。

「しゃ、社長!」

セスの叫びを聞きながら、俺は冒険者ギルドを出て行く。絶対振り返らないんだからねっ!

目の前に昨日「一晩どうだ?」と誘ってきた女冒険者がいたので、思わず「回復薬いらないか?」と聞いてみたが「い、い、いりません!」と言って逃げ去っていった。

「くそっ! ちくしょっ!!」

冒険者ギルドの前の地面を蹴りながら、俺は浅はかな気持ちだった自分に腹が立った。

その後、屋台でやけ食い。

「俺は仕事に生きる! 仕事に生きるぞー!」

こぶしを突き上げ叫んだら、屋台の親父に「うるせぇなっ!」と怒られた。それでも、酒を出してくれて、「仕事なんか、程々にしておけ。女の尻追いかけてるほうが楽しいぞ」と諭された。

なんだか、泣けてくる。

「わかってるんですがね。女、部下にとられまして……」

「そりゃ悲惨だ。まぁ呑めよ」

屋台の親父としばらく酒を呑んで、結局、時には仕事に情熱を傾けてみるのも悪くないかもしれん、という結論に達した。

「じゃあ、親父ぃ、おらぁ、ちょっくら仕事に行くぜぃ!」

「おおい、お客さん、お勘定!」

「あ、お勘定?」

そういや、さっきセスにお金全部あげちゃったなぁ。

なんか、金になりそうなものは……と、アイテム袋のなかを探し、割りと上手く作れた回復薬を屋台の親父に渡した。

「悪いな。これしかねぇや。売ったら金貨1枚にはなると思う。薬払いってことでかんべんしてくれや!」

そう言って、俺は屋台を出た。

後ろから屋台の親父の声がする。

「こんなもの、どうせ偽物だろ? ……あれ? ウソだろ? 本物かよ!? おいおいこれ、金貨1枚じゃきかねぇぞ」

あ~また、ベルサとアイルに怒られる~。

「よーし! 勇者駆除してやんだからなぁ……、依頼は完璧にこなしてやんだから……、えーっと? うっぷ~、勇者がいるのは砂漠の山の向こうでぇ……、山の向うには湖がある。セスに聞けば……ダメだ! アイツは今パラダイスにいるんだったな。パラダイスってるんだったな、くそー……、他に山の向こうに行ってたヤツと言えばぁあ? アイツだな! おーっし、こっちを曲がってみましょう!」

酔っ払った俺は、独り言をしゃべり続けながら、町外れの方に向かった。

俺は町外れの一軒家を訪ねていた。

一軒家の脇には馬小屋があり、フィーホースが飼葉を食んでいた。

「ピンポーン! こんにちは~! おーい! 開いてますかぁ? ドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン、ドーンキー」

ガチャ

「あぶねっ! 店名、言うところだったじゃないか!」

「なんですか? あ、社長さんじゃないですか? 酔っ払ってるんですか?」

ターバンを巻いた奴隷商は、俺を見ながら、鼻をつまんでいた。

「なんだよ。酔ってたらいけませんか?」

「たち悪いっすよ」

「それよりもぉ、山の向こう側に何があるのか教えて下さい。それから土の勇者についての情報を教えて下さいっ!」

俺は頭を下げて、頼んだ。

頭を下げた拍子に、胃の中が逆流して気持ち悪くなってしまった。

「わかりましたよ、わかりましたから、吐かないでくださいよ。どうぞ入ってください」

「はい。お水をください。私にお水をください」

「はいはい。ちょっとー、誰かお水持ってきて~」

ターバンを巻いた奴隷商が言うと、首輪を付けた奴隷がコップに水を入れて持ってきてくれた。

「ありがとうございまぁすっ!」

俺は頭を下げて、奴隷からコップを受け取った。

「奴隷に頭下げないでくださいよ!」

奴隷商は手を振って、奴隷を下がらせた。

「少し、落ち着きました?」

「バカだなぁ。俺なんか生まれてこの方、落ち着いた事なんかないよ。俺落ち着かせたら大したもんだよ。おで落てぃとぅかせただ、たぃひたもんだ」

「誰の真似ですか?それは」

そうだった。この世界にはレスラーという職業自体ないんだった。

「いや、だから、土の勇者について、俺は知りたいわけですよ」

「そうですか。じゃあ、そっちの方面にいた奴隷に直接聞くのが一番でしょう。あ、社長。今はうちの旦那がいないのでいいですが、うちの旦那にはフィーホースの件は言わないでもらっていいですか?」

ターバンは、奴隷商の下働きらしい。

すでに俺の中で、ターバンという名になってしまった奴隷商が、奥の部屋に案内してくれた。