軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65話

深緑色の駆除剤が砂漠に霧を作る。

霧を避けようとするローカストホッパーの黒い点が密度を濃くしながらこちらに迫ってくる。まるで黒い波のようだ。

前方の赤い煙にハマったローカストホッパーの群れがごっそり消えるも、次から次へと湧いてきては、こちらにうねるように向かってくる。

俺は、空から飛んでくるローカストホッパーに気をつけながら、ポンプの吸魔剤を噴射していく。視界はすでに真っ赤。マスクをしているせいか、息の音がやけに大きく聞こえる。

俺とアイルは単独なので、周囲には誰もいない。

深緑色の駆除剤と赤い吸魔剤が混ざり合って、気持ち悪い色になっている箇所がある。

ローカストホッパーが包囲網を抜けられる隙は埋められ、数匹のローカストホッパーが空に向かって飛ぶ。

俺が跳べば届く範囲なので、空に向けても噴射。バラバラと音を立てながら、地面に落ちていく。

概ね駆除作戦は成功のようだ。

ローカストホッパーに追われたデザートサラマンダーやポイズンスコーピオンなどの群れが現れたが、冒険者の精鋭たちが飛び出していって仕留めていた。こういう大型の魔物には対処できる。

吸魔剤の補充も、霧に隠れられるのでアイテム袋から問題なくできた。

まるで終わる気がしないと思っていたが、空を埋め尽くすローカストホッパーの群れに隙間が見え始め、青空が見え始めた。

時間にして2時間ほど。

ローカストホッパーの群れも小さい集団がチラホラ現れるくらいになった。

前方にいる冒険者たちの隊は、ポンプの使い方に慣れ、ローカストホッパーの群れを、燻煙式の吸魔剤の罠へと追い込んだりしている。

他の隊も真似を始め、俺のやることがなくなってきた。

罠は俺が仕掛けたので、あれは全て俺の経験値へと変わるのだろうか。

あざーっす!

心の叫びを送っておく。あとで、飯でも奢ろう。

そろそろ、作戦も終わりかけだろうと思った時、通信袋から声が聞こえた。

『セスです! 砂漠の東から塵旋風……。いや、あれは竜巻です! 竜巻の奥に巨大な魔物がいるとのことっ!』

「了解! すぐに撤退してくれ! アイル!」

『今向かってる!』

うちの副社長は行動が早い! 周囲にいる隊に一言断ると、拳と拳で挨拶された。「いってこい」ということだろう。

少年に見送られ、東へと走りだすと、前方に砂煙が上がっていた。アイルだろう。

その先に竜巻が発生しているのが見えた。

赤い煙も深緑色の煙もローカストホッパーも巻き上げられている。

「アイル!」

「ナオキ! もう追いついたのか! あの竜巻、なんか変だ。魔力の匂いがする!」

「魔法か?」

竜巻から逃げる冒険者たちの姿が見えた。

防御魔法の魔法陣を自分のツナギに描き、冒険者たちの前に出る。少しは風よけになるだろう。

「助かりました!」

「いいから早く逃げろ!」

冒険者たちが、お礼を言って逃げ出した。

俺の身体が竜巻の勢いを止め、方向を変えていく。

突然、竜巻がかき消えた。魔法の効果が切れたのだろう。

遠くに山が見え、少し大きめのデザートサラマンダーが山から向かってくる。

「あれが巨大な魔物か?」

アイルが呆れたように聞いた。

「いや、上だ!」

巨大な魔物はゆっくりと、地上に降り立とうとしている。

身体は獅子、2つある頭は獅子と山羊、尻尾は蛇。

「いやはや、典型的なのが現れたな」

「キマイラ!」

大きさは以前、ダンジョンの島で見たヘイズタートルほどだろうか。

見慣れた大きさに、俺もアイルも特に気後れしない。

「アイル尻尾、頼む!」

「了解!」

キマイラに向かって走り、防御魔法の魔法陣を空中に地面と平行に描き、俺は魔法陣で階段を作り、駆け上がっていく。

アイルは、体術で空中を駆け、一直線にキマイラに向かう。

キマイラが威嚇のため、咆哮を上げた時には、俺はキマイラの遥か頭上にいた。

躊躇なく自分の体に重力魔法の魔法陣を描いていった。戦闘スキルがない自分にはできることは決まっている。作戦や戦術などなく物理によるごり押し。

山羊の頭が火の玉を吐くよりも早く、俺は落下し、獅子の頭を潰した。

同じタイミングで、アイルは尻尾の蛇とぶつかっていた。

アイルの剣が、蛇の牙とぶつかり火花を散らす。

どういう牙なんだ?

「上等!!」

アイルは本性を現したように、笑いながら蛇を根元から切り刻んでいく。

山羊の頭が、二発目の火の玉を吐き出そうと俺に狙いを定めていた。

俺は、獅子の首筋に手刀を突っ込み、そのまま力を入れて首と胴を切り離す。イカを捌く感覚に似ていた。獅子のたてがみを掴んで、山羊頭に殴りつける。

グラっとよろめいた山羊頭に、もう一発、もう一発、ビターン、ビターンと繰り返していると、そのうちキマイラは動かなくなった。

潰れた肉片の上に立ち血まみれになった姿は、傍から見たらちょっとまずいんじゃないだろうか。

マスクを外し、自分にクリーナップをかける。

アイルは、近づいてきていたデザートサラマンダーを切り伏せていた。

「アイルもクリーナップかける?」

「ん? うん、お願い。……なんか来てるよ」

アイルは山の方を見た。

俺はアイルにクリーナップをかけながら山の方を見ると、おっさんが勢いよく走ってきた。走ってくるスピードが割りと速い。俺たちと同じくらいだろうか。

「すいませーん!!」

人の良さそうな面のおっさんは、頭に被った麦わら帽子を押さえながら、にこやかに走ってきた。

おっさんは、オーバーオールに白いTシャツという農作業でもするような格好だ。アイルが剣の柄を握り警戒している。

俺は感じないが、おっさんは強いのかな?

「いやぁ、山の抜け道が魔物にバレたらしくて、抜け道の魔物を討伐していたらぁ、1匹取り逃がしてしまいましてなぁ。ハハハ、いやぁ、大丈夫でしたか?」

妙に田舎っぽいイントネーションで、おっさんが話しかけてきた。

「ああ、大丈夫です、大丈夫です。あ! もしかして、肉とか解体するつもりでした? だったら……すみません! うちの者が細切れにしてしまいまして……」

自分のせいではないことをアピールしながら、俺はキマイラの死体を指差した。

「細切れ……!!?」

おっさんは目を丸くして、キマイラの死体に近づいた。

「あら~、これは、これは、ぶっ潰れてますな!」

「魔石とか要ります?」

「いえいえ、それは倒した人の物でしょう。いやいや、砂漠の国にもお強い方がおるんですなぁ、ハハハ」

よく笑う感じの良いおっさんだ。

「あ、それいい服ですね」

「いやいや、そちらもいい服で、よく似あってますよ」

おっさんが俺のツナギを褒め、俺もおっさんのオーバーオールを褒める。

「これは、妻に仕立ててもらったんですがね。うちのは錬金術士なのに、裁縫もできるんですわぁ、ハハハ。あ、そちらにおられるのが奥方ですかな?」

「あ、いえいえ、これはうちの社員です。あ、申し遅れました。駆除会社を経営しております。ナオキ・コムロです」

「駆除会社ですか? 珍しいことをしていますなぁ」

「ええ、害虫駆除や清掃をしているんです」

「なるほど、今度うちの農園に来てください。虫が酷いんだぁ、ハハハ」

「ええ、ぜひぜひ! 安くしておきますよ」

おっさんが笑うので、こっちも笑ってしまう。

「おっさん、なにもんなんだ?」

未だにおっさんを警戒しているアイルが聞く。

「ああ、これはすみません。申し遅れました! 土の勇者をやっております、ガルシア・ノームと申します、ハハハ。勇者がこんなおっさんだと思わなかったでしょう? ハハハ……」

俺は、笑い顔のまま固まってしまった。