軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60話

役所に戻ると、人が大勢集まっていた。

皆、ローカストホッパーの大発生があるのかどうか、を聞きたがっているようだ。

「まだ、決まったわけではなく、情報を収集しているところだ。すでに砂漠には人を配備し、逐一情報がとれるようにはしている! もし、大発生、異常発生があった場合、すみやかに通達はする! 不安は尤もだが、駆除会社とも連携をとっているので、落ち着くように。間違っても無闇に砂漠へ向かうことがないように!」

リドルが甲高い声を上げながら、集まった人々に説明していた。声が高いので、よく通る。

一気に各ギルドに連絡を取ったため、不安を煽られた住民たちが押しかけているのだろう。

フロウラの町は砂漠から離れているし、間に森も挟むので、どこまで被害があるかわからない、と思うのだが大衆心理はそうは動かない。

草原近郊に村や町があって、親族を心配しているのだろうか。

砂漠周辺について、地図上の情報がほしいところだ。

「リドルさん! ただいま帰りました!」

手を振って、リドルに気づいてもらう。

「っ!! 早いな! 皆、道を開けてくれ! おい! 頼む! ちょっとだけ通してやってくれ!」

驚きながらもリドルは、自ら人をかき分けて、俺のために道を開けてくれた。

「砂漠はどうだった!?」

「異常発生はしていません。ただ、ローカストホッパーが集まりつつあるのかもしれないですね。うちの社員が草原でキャンプを張って見てはいます。何か異変があれば連絡が来るはずです」

「そうか、ご苦労だったな。さ、入ってくれ! 言われた物は一通り揃えたつもりだ!」

リドルはそう言って、役所の中に案内してくれた。

役所はすでに『ローカストホッパー異常発生対策本部』と化しており、通常の業務はほとんどされていなさそうだ。

「通常の業務に支障ありませんか?」

受付にいた女性職員に尋ねる。

「問題ありません。逆にデモに迷惑していた教会からも、『何かあれば協力する』と連絡が来たくらいです」

「町の中で、不確定な情報が広がらないように注意してくれ」

リドルが指示していた。

「それで?」

地下室に連れてこられた俺は、リドルと数人の男たちに囲まれていた。

倉庫のはずの地下室はすっかり、対策本部に変わっており、必要のない荷物は運びだされている。

「まずは、このローカストホッパーを見てください。今のところ、特に攻撃性はなく、状態異常にもなっておりません。大発生もしていませんでした」

俺は回復薬の瓶にいるローカストホッパーを見せた。

「これはどこで手に入れた魔物だ?」

リドルの後ろに控えている男の1人が口を出した。長身で浅黒い肌に、尖った耳。ダークエルフというやつだろうか。

「ジェリ! すまんな、弟のジェリだ」

「弟さんですか?」

「ああ、うちの親父殿は多情な人でな……。まぁ、その話はいい」

異母兄弟なのだろう。

ジェリは瓶の中のローカストホッパーをしげしげと見ている。

「このローカストホッパーは本物のようだが、虫系の魔物などスキルの低い魔物使いでも飼えるだろう……」

「これは本物ですよ。先ほど砂漠で獲ってきたのです」

「先ほどだとっ!? フィーホースを使ったとしても1日半はかかる距離を先ほど!? 兄上、なにゆえ、この者を信用するのですか?」

「ワシが気に入ったからじゃ。それに協力者として、これ以上ない人物だしな。実際、持ってくると言っていたローカストホッパーも持ってきた。今は可能性があるなら誰にでもすがらないといけない時期だと思わんか?」

「それこそが詐欺師の常套手段ではありませんか!?」

「では、お前はローカストホッパーを持って来られるか?」

「いえ、それは……」

「詐欺師なら詐欺師で、利用してねじ伏せろ! それがブラックスの人間だ!」

ジェリは「はい」と頷いて、後ろに下がった。貴族も面子を保たないといけないから大変だ。

「ナオキ殿、すまんな。気を悪くしないでくれ。ワシは詐欺師などと思っておらん!続きを…」

「あ、はい」

まずいな。この状況でお金の件を言えるかな?

「このローカストホッパーが嫌がる匂い、近づかない植物を見つけたいのですが…」

「ああ、町中の花屋を集めておいた」

「では、すぐに実験を始めてください」

そう言って、瓶ごと渡した。

「お、おう!」

網の中に入れて、一本ずつ花を近づけるだけでいい、と簡単な実験方法を説明した。

『ナオキ! ベルサと合流した!』

通信袋から、アイルの声が聞こえた。

「了解! 今、町のほうでも殺虫剤の実験を始めるところだ」

『OK! こっちも始める』

「頼んだ。異常はないか?」

『特にないね。空も星が出てるよ』

「じゃ、まだ大丈夫そうだね。また、なんかあれば、連絡して」

『はーい』

通信袋を仕舞う。

ジェリが、隣の男と「あれはなんだ?」などと話していると、リドルが「うるさい! 後で説明するから、早く、花屋たちを連れてこい!」と叱っていた。

「リドル様! 船大工たちがやってきています!」

ジェリと入れ替わりに役所の女性職員が階段を下りてきた。

「なんだというのだ、いったい?」

「逃げようとした冒険者たちが造船所を襲ったらしいです!」

「まったく……」

リドルは額を押さえて、下を向いた。

「冒険者ギルドのラングレーに連絡して、襲った冒険者を全員取り押さえろ」

「わかりました!」

女性職員は階段を戻ろうとした。

「あ、ちょっと待って下さい! 船大工の人たちって工作技術のスキル高いですよね?」

「え? ええ、たぶん」

「じゃ、ここに連れてきてください。リドルさん、ポンプ作りを手伝ってもらいましょう。申し訳ないんですが、臨時的に報酬を船大工さんたちにあげてもらえますか?」

「わかった! すぐに船大工たちを連れてくるように!」

リドルは後ろに控えている男の1人に、財布を持ってくるように言った。

「えーと、ポンプの素材は?」

「その木箱に揃えてあるはずじゃ」

リドルが言ったように、木箱にはポンプに使う素材がすべて入っていた。

木箱の中の物をすべて使ったとして、12、3個は作れるだろうか。

「足りるか?」

リドルが、不安そうに聞いてきた。

「10個以上は作れるかと。とりあえず急ぎで作ります。一度地図を作ってもらってもいいですか?砂漠を通る行商人さんたちにも協力してもらって、どこに鉄砲水が通るのか、オアシスはあるのか、東の山との距離などできるだけ詳細な砂漠の地図が欲しいです」

「わかった。手配しておいてくれ!」

最後に残った後ろの男にリドルが命令を出した。

男は血相を変えて階段を駆け上がっていく。

「ナオキ殿、最悪の場合、駆除するのにどのくらいの人数が必要だと思う?」

誰もいなくなり、二人きりになった地下室で、リドルが前のめりになって聞いてきた。

「わかりません。砂漠のどこで発生するのか、どのくらいの規模で発生するのか、まるで情報はありませんが、できるかぎりはやります」

俺は正直に言った。

「それが正直なところだろうな。実際、すべてを止められると思うか?」

「それは……、不可能でしょうね。人力であるかぎり、すべてを防ぐのは無理です」

「んんん……」

リドルは目をつぶって、眉間にしわを寄せた。

「すみません」

「いや、ナオキ殿が謝ることではない」

「ただ、発生条件や生態がわかれば、事前に食い止められるかも知れません」

「んんっ! 長いスパンで考えたほうがいいのだろうな。とはゆえ、これがローカストホッパー大発生という災厄を駆除する第一歩だ。できれば、方法だけでも確立したい」

「ええ、そうですね」

「具体的に、砂漠に行くとして、だ。駆除する者、ローカストホッパーを探知する者、砂漠の魔物に対応する冒険者、回復役の4人一隊で向かおうと思っている」

確かに、普通、砂漠に向かったとして、駆除する者だけでは生きて帰れない。

「ポンプを10個作ったとして……」

「砂漠の予想外の出来事にも対応できる精鋭が40人以上必要だな」

通信袋も用意したほうがいいだろうな。

「あ、こっちですか」

ここで、船大工たちが階段を下りてきた。

「おお、来たか。船は盗まれなかったか?」

リドルが船大工たちに聞いた。

「ええ、大丈夫です。海は時化で、どうせ船は出せませんよ」

船大工の1人が答えた。

「時化だって、嵐が来てるのか?」

「あれ? 外見てませんか? 沖の方から大嵐が来てますよ」

船大工の言葉に、俺とリドルは顔を見合わせた。

血の気が引いていくのを感じた。