軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……3年目』19話「変わりゆく者たち」

魔力量ではなく魔力の変化率、もしくは変換率に気づいてから、かなり学生を見る目が変わった。というか、俺達がラジオで喋ってしまったから、かなり意識しているし、塔の魔女たちからも廊下で話しかけられることも多くなった。

「あんな説明だけで、普通の学生にわかるわけ無いでしょ?」

その日も俺はとんがり帽子を被った魔女たちに囲まれていた。塔から出ずに籠もって研究しているはずの魔女たちにしては珍しく、こう言っちゃあなんだけど汗臭い。

「だいたい、魔法を扱えなかったが学生たちから急に『自分にはアンチ魔法の才能があるのではないか』って無意味な分析依頼が来てるんだけど」

「実際にある人はいなかったんですか?」

「いるわけないでしょ? ああいうのは生来の特性であることが多いんだから」

「でも、測ってあげたんですか?」

「仕方ないからね」

「なにか見つかりました?」

「わかったのは魔法を使わない剣士や武道家は本当に不器用なだけだってこと。魔力の感度が低いし、無意識で発散してしまっているのよね。今では骨の中で運用することが多いじゃない? それも知らないって言って、話にすらならなかったわ」

「でも、彼らは骨折が少ないけど切り傷、打ち身なんかは多いわけ。僅かな魔力を守ろうとしているんじゃないかっていうようにも見えるのよ」

「いや、あれは単に身体が動くだけじゃない? 失敗も多いから距離感を測るのが上手いとか、別の能力にリソースが割かれていると思うのよ」

「それ、グラフにできませんか?」

「グラフ!?」

「ちょっと待ってください」

俺は持っていたカバンの中から、ミストが借りてきた本を見せた。能力を大雑把に数値化して弱点や特化している要素を測るグラフだ。レーダーチャートと言うらしい。

「これを見てください。こんな感じで独自の指標で凹凸が見えるようにすると単純に学ばないといけない授業が見えてきたりしませんか?」

「なにこれ。ああ、そういうことか……」

「これ、魔力特性にも活かせるんじゃない?」

「いいかもしれない。別に筋肉量や魔力量にしなくていいってことでしょ?」

「そうです。冒険者ギルドで測ってもらう指標があるじゃないですか。あれはちょっと現実の実力とはちょっと変わってきているので」

「確かに……、指標を先に作るって話ね。それは面白いわ」

結局、魔女たちはレーダーチャートの本を読みながら塔へと去っていってしまった。

ダンジョン学の片付けに向かうと、冒険者ギルドの職員たちがダンジョンに来ていた。

「何かあったんですか?」

「ああ、コウジじゃん」

そう俺を呼んだのは、冒険者ギルド職員になったミミモという魔法使いだった。

「ミミモさん、冒険者ギルドの職員になったんですか?」

「そう。どうもアリスポートから離れられなくてね。それよりアグリッパくんの測定なんだけど……」

「魔力の測定でもしているんですか?」

「あんなラジオを聞いちゃったからね。すぐにギルド本部から測定し直しを命じられたってわけ。言ってしまえば、お役所的な仕事って動態変化に弱いのよ。ランキングが実力だと思っていたほうが楽でしょ? でも、コウジみたいな例もあるし、今回の野外研修で見せたアグリッパくんの才能は冒険者ギルドが測定できていなかったから、上層部は慌てちゃってるんだよね。駅伝で各国の実力も見えてきて、勇者選抜大会もあるからさ」

新人ギルド職員はいろんな部署に駆り出されて疲れ切っていた。

「で、測れたんですか?」

「測れるわけねぇだろ」

中級者用ダンジョンからアグリッパが出てきた。手には冒険者ギルドで能力値を測る水晶玉が握られている。

「やっぱりダメ?」

「ダメですね。ミミモさんには悪いけど、魔力量が変わるわけではないんで、この測定機ではわかりません。だいたい、感情の幻惑魔法を研究していたんだからわかるでしょ?」

「そうなんだけどさ……。はぁ、上からやれって言われたから、やってんのよ。コウジ、どうすりゃいいの? 発案者なんだから、ちょっとヒントを頂戴よ。一応、私も先輩でしょ?」

「そう言われても……。どうなんすか、アグリッパさん」

「だから、あれは偶然起こっただけで、別に常にあんなことができるわけじゃないんだよ。あ、これは死ぬなと思って、いろいろ考えるのを止めないと無理だ」

「じゃあ、ちょっとコウジに殺してもらって……いい?」

「いいわけないでしょ!」

「どうやったのよ! 魔力変換ってなに!? アグリッパくんの感情と結びついているわけ?」

「いや、それはわかりませんけど……」

「困られても、こっちもわからないから聞いているんだけど。コウジ!」

なぜか俺に話を振られる。面倒なのだろう。一応、調査書を書かないといけないようで、ミミモはメモ書きをしている。

「アグリッパさんは役割とか考えたり、家族の関係もあるから魔力と結びつく感情が多いんじゃないんですか?」

「あ、それじゃあ、分散するのよ。私は幻惑魔法の研究していたから知っているけど、考えていることが多いと、魔力の回転数が落ちるわけ」

「回転数?」

また新たな概念が出てきた。

「循環摩擦係数と言ってもいいけど、要は詰まりが発生しちゃうんだよね。アグリッパくん、しがらみを捨てなさい!」

「家族と縁を切れって言うんですか!? コウジ、この人、無茶苦茶だよ」

「そうじゃなくて魔力の循環が滞りなくできればいいわけだから、別に今更、家族との関係は問題ないわけでしょ?」

「いや……、問題ないわけでもないんですよ」

「ええ? 名門と謳われたアグニスタ家の何が不満なの!? コウジを見てみなさいよ! コムロカンパニーの御曹司でパレードの看板の息子よ。しかも、全世界にラジオ局まで作って、冒険者になれないって現実が歪むでしょ? 」

「これでも真っ当に生きてるんです!」

「コウジほどじゃなくても、俺にも一応いろいろあるんですよ」

「いろいろって何?」

「ミミモ先輩に言っても仕方がないことです」

「でしょうね。でも、その家族の問題はとっとと解決してくれない? 私も仕事で来てるから」

「コウジ、やっぱりこの人、無茶を言ってるよな?」

「まぁ、今日のところはミミモ先輩も諦めたらどうです? 上司には測定不能とでも言っておけばいいじゃないですか」

「そうなんだけどね。ああ、なんか上手く怒りを湧かせられなかったか。ごめんね」

どうやら幻惑魔術師による感情操作だったらしい。

「いや、いいです。感情のコントロールが魔力の循環に影響を与えているとわかったので……」

アグリッパは、魔力測定機をミミモに返して、オルトロスのポチと一緒に森へ向かっていった。

「やっぱりアグニスタ家って難しいのかな?」

残ったミミモが俺に聞いてきた。

「他人の家のことはわかりません」

「コウジの家は別に問題ないわけ?」

「なくはないんじゃないですか。一緒に住んでないので、特に気にしてないだけです。あと、親父が死んだら、誰か知らせてくれるだろうとは思ってますけど」

「それは結構大ニュースじゃない?」

「でも、意外と親父は死んでるらしいんですよね」

「みたいね。まぁ、死ぬこと以外はかすり傷か。レポートどうしようかな」

「魔力変換には外部要因があるとかないとか」

「いいね。その方向でまとめておこう。持つべきものは優秀な後輩だ」

ミミモはそう言って、魔力測定機をカバンにしまって冒険者ギルドに帰っていった。

そこでダンジョンの切り株の上からアラクネの学生が糸を垂らして下りてきた。歴史学を取っている同級生だったはずだ。

「荒れ地の王はどうなの?」

「どうって言われても、いろいろあんじゃねぇの。それよりアグリッパさんはすでに荒れ地の王なのか?」

「それだけの力を見せたからね」

「魔族の学生たちの間ではかなり人気なんだ?」

「うん。ほら、魔族の親子関係ってちょっと特殊っていうか、種族によっても愛情表現がない場合もあるからさ。でも、あの魔力は結構衝撃だったよ。敵意がないのに包みこまれているっていうか。人間の種族特性なのかな?」

「子が少ないから、愛情が深いみたいなこと?」

「そうなのかな。自分の存在を肯定してくれるような感覚だったよ」

「あんまり崇拝するなよ。本人は迷惑になっているかも知れないから」

「見定めろか。これは魔族にしかわからない感覚かもしれないね。我々、魔族の学生は皆、人間を見る目が変わってしまったよ」

「そんなに影響があるんだ」

「魔力と戦闘が結びついて生まれてきたからさ。言葉や頭ではわかっていても、どうしても拭い去れなかった疑心を拭ってくれたような気がしている。今年の体育祭は荒れそうだよ」

「そうだな……。魔族同盟みたいなものを作ったりする?」

「それもいいかも知れない。少なくとも人間に対する劣等感は消えた」

「楽しみだな」

アラクネは微笑んで学校へ向かった。

俺は魔族たちにこの学校に通う引け目があったのかと考えていた。ゴズさんが卒業して少し元気がなさそうだった魔族たちが元気になるならいいのかとも思う。

「おい、黄昏れてるところ悪いんだけど、手伝ってくれ」

どこからともなくマルケスさんに言われて、俺は上級者用ダンジョンの片付けをするために中に入った。

中はせっかく俺とソニアさんで描いた空の絵が剥がれ落ちていた。

「なにかあったんですか?」

「ああ、物質系の魔物が暴れているんだ」

「え?」

ヒュンッ

氷の刃が壁に突き刺さった。

奥の部屋で、ドーゴエとゴーレムたちが訓練中らしい。

「ドーゴエくんは、マジコちゃんのミミックとダンジョンのリヴァイアサンと魔法を弾き返しながら体育祭に向けているんだそうだ。学校行事の訓練となると、こちらも何も言えん」

学生たちからすると設備を使っているだけに過ぎない。

手前の通路ではガルポが召喚した精霊に祝詞を捧げて返しているところだった。汗だくなのに顔は笑っている。

「お疲れ様です」

「おつかれ。アグリッパの調子はどうなんだ?」

「わからないです。冒険者ギルドの職員でも測れませんでした」

「そうか。変化率で言えば、あの二人は化け物だ。まいった。精霊魔法を一から鍛え直さないと間に合いそうにないよ」

野外研修を経て、マジコとドーゴエは変わってしまったという。

部屋ではそこかしこで爆発音が鳴り、アラクネの糸が縦横無尽に張り巡らされているのに、なぜか糸が切れることなく戦いが成立している。

「コウジ!?」

「どれでもいいから糸を切れ!」

マジコとドーゴエの声を聞いて、俺は一番近くの糸を切った。途端にすべての糸が切れ、落とし穴が空き、天井が崩落した。壁から毒矢も放たれているようだが、砂煙で見えない。

俺が風魔法で煙を散らすと穴だらけの床に無数の矢が刺さったミミックとゴーレムが立っていた。

ボコンッ!

崩落した天井を放り投げて、落とし穴からマジコとドーゴエが出てきた。

「はぁ、近づくことすらできなかったか……」

ドーゴエは負けを認めていた。

「ゴーレムたち、個々のレベルが高すぎて連携についていけない。リヴァイアサンは時間稼ぎにもならなかったね。ドーゴエ先輩は命令らしい命令はしていないのに……」

マジコも魔物使いとして負けたらしい。リヴァイアサンは魚竜の中でも強いはずだが、相手にならなかったのか。

「なんの訓練ですか?」

「ん~? ほら、アグリッパがああなっちまったからな。こっちはこっちの強みを活かさないとな」

「活かすと言っても、そもそも命もない魔物をどれだけ鍛えれば、そうなるんだい? どれだけ私が命を吹き込んでも、あんな動きはできないよ」

「まぁ、強くするより柔軟さを求めた結果だ。ただ、アイディア量は敵わないな。環境、その場にあるものを使う発想は常軌を逸している」

「なんでも使って生きてきたからね」

「ダンジョンのマスター部屋から見ていたけど、3人とも十分おかしいよ」

「どうでした?」

ガルポはマルケスさんから総評を聞きたいらしい。

「ガルポくんは、エルフの中でも相当な精霊使いだと思うけど、自信を失くす必要はない。ただ、魔力の総量と分配にもっと精度を求めていいのかも知れない。自分の限界ではなく、理想とする精霊の方に自分を合わせたほうがいいだろうね」

「ああ、確かに……。ありがとうございます」

意外と聞く耳を持っているところがガルポのいいところだ。

「私は!?」

マジコも聞いていた。

「正直、環境特化型の天才であることはわかっていたから、これ以上どうするんだと思っていたんだけど、マジコちゃんは相手を見極める目を持ったほうがいい。環境、魔力の使い方は人類の中でも異常だし、どこに行っても通用するとは思う。でも、誰かと戦うとなると、その相手の力量、戦力、技術への理解度がちょっと薄いかな。自分のやりたいことだけで動いている感じだ。ドーゴエくんのゴーレムみたいに想像していた上をいくような攻撃を受けると、思考がループしちゃう感じじゃないか?」

「そう! その通り。無理に思考を止めないようにしているかも……。ありがとうございます!」

「ドーゴエくんは聞くかい?」

マルケスさんの問いに、ドーゴエは苦笑いを浮かべて頷いた。

「やりたいことはわかるよ。ゴーレムそれぞれの動きを特化させたいんだろ? 正直、今の精度だと若い竜あたりが限界だと思うけど、回り始めたら止めるのは難しいだろうね。ゴーレムそれぞれをネームドにするつもりなんだろ?」

名付けすることで個性を与え、技の精度を上げるつもりらしい。

「ええ。マルケス先生、一つ聞いていいですか?」

「なんだい?」

「使役されていた魔物は自立して魔族になることはあり得ますか?」

「ないことはないよ。ただ、どれだけ主人に依存しているかによるんだと思う。うちのダンジョンにいる魔物は土地に依存することで自立しているから、依存先を変えるのもいいのかもしれないよ。でも……」

「それならいいんです」

ドーゴエのゴーレムたちには霊魂が入っている。ドーゴエを依り代にして使役されているが、いずれ故郷に帰すのだろう。

「さて、片付けだ。コウジも呼んだから、今日中に終わらせよう」

「「「はい」」」

「俺はダンジョンの清掃係ですか?」

「そうだよ。親の代からね」

人の成長を間近で見られるなら、悪くない職業なのかも知れない。

「コウジは変わってるよな」

天井の瓦礫を片付けていたら、ドーゴエに言われた。

「そうですか?」

「どれだけ強くても、納得して汚れ仕事をしている」

「きれいな仕事を知りません。面倒で汚れるのが仕事じゃないですか」

俺がそう言うと、ドーゴエ含めその場にいた全員が笑い、ゴーレムたちも揺れていた。