軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……3年目』3話「天才と天才」

後輩たちがたくさんできたことで、ダンジョン学の授業がまた忙しくなっていた。去年と変わらず、マルケスさんが先生になっているし、授業もお試し期間で何人でも初心者用ダンジョンに入っている。

「貴族連合はちょっと助けてあげてくれませんか。パーティーの組み方から、探索の仕方も理解をしていないんだ」

「うちは何度も使わせてもらっているし、ヒライが育ったのはまさにこのダンジョンからだから、協力は惜しまないよ」

貴族連合はやはり優秀で、冒険者ギルド的な制度まで作っていた。

さらに、回復術の授業も、ここまで怪我人が出ることはめったにないと参加してきた。他にも新設された補助魔法の授業の学生たちも来ていた。

「ああ、こんなに人が来たら、ダンジョン運営も楽だよなぁ。罠を嵌めてさ。どんどんモンスターを出して……」

マルケスさんはお茶を飲みながら、ダンジョンコアから映写された様子を見ていた。マルケスさんはダンジョンコアの使い方を教えてくれる。これで、大体のことはできるという。

「これが広がると、本当にセスの坊やの仕事が壊れるんだよな」

「セスさんの競合他社ってことですか? やりたくないですね」

「だよな。タグ付けして、自動化出来ないかな。マジコちゃんに頼んでみてくれないか? で、その技術を売ればいい」

「セスさんはもう持ってそうですけどね」

「ん~、確かに。まぁ、管理業務は面倒なんだよ。あ、魔体術の学生が暴れてる。彼は中級に飛ばそうか」

「彼じゃなくて、彼女じゃないですか。あれ棒術ですかね。腰にぶら下げてるってことは本来の得物は剣ですかね?」

「持っていってやるのか」

「いや、剣士を探すミッションもあるんですよ。ちょっと行ってきます」

我ながら不思議な立ち位置だと思う。学生でありながら助手をしているというのは、おかしい。自分の授業も決めないといけないので、こういう時にいろいろ見せてもらおう。

冷蔵庫だと言うのに、裸足で道着を着た丸刈りの学生に声をかける。

「おつかれー。魔体術でしょ? 南半球から来た?」

「え? あ、いや、傭兵の国から……」

「へぇ。じゃあ、才能だ。ダンジョン学の助手をしています。コウジです。初心者ダンジョンじゃ荒れちゃうから、中級の方に来てもらっていいかい? 中級は今、植物を育てていてルールが多いんだけど、こっちのほうがちゃんと戦えるからいいと思うよ」

「はい……。コウジって、駅伝を開催した。コウジ・コムロですか?」

「そうだよ。聞いてくれた?」

「もちろんです。ウーシュー師範が聞かなかったら破門にすると言っていたので」

「大丈夫。魔体術は破門にならないよ。俺は見様見真似でしか出来ないけど、基礎鍛錬があるなら続けたほうがいいよ」

「それは、先輩門下生たちに言われました。ですが……」

魔体術の学生は腰の棒を握っていた。

「武器を使うんだね?」

「自分には合っている気がして。でも、使いこなせなくて……」

「ああ、とりあえず、その普通の棒では割れちゃうだろ?」

「はい」

「剣がいい?」

「はい。なんでも使ってみたいんですけど……」

「武器術か……。ちょっと一旦、鍛冶場に行かないか?」

「武器を貸してもらえますか?」

「ああ、たぶん提供してくれると思う」

「ええ!?」

一旦、彼女を鍛冶場に連れていき、ゲンローに武器を見繕ってもらう。

「お、新入生か?」

「はい。魔体術門下のウーランと申します」

「そうか。俺はゲンローで鍛冶場についてはだいたい仕切らせてもらってる。武器がほしいんだろ? 魔力で身体は覆えるか?」

「はい。丸二日程度なら」

「え!?」

ゲンローが俺を見た。

「南半球に行ってないのにそれだけ魔力を使えるってことは才能があるんだな。重いものを振りたいとか軽いほうがいいとかあるか?」

「いや……、出来れば固くて壊れないものを」

「オリハルコンとかミスリルか。難しいな。こういうのはどうだ? 軽い木剣だけど、魔力を通せば、固くなる」

「それがいいです! そんなのあるんですか?」

「ある。魔剣に特化したものを作れないかと思って、試したものだけどこれでいいなら持っていってくれ。試しで作ったから、使い心地を教えてくれると助かる」

ゲンローはウーランに木剣を渡していた。

「ありがとうございます!」

「よかったな。よし、じゃあ……」

「コウジは皆、呼んでくるから待ってろ」

「え?」

「おーい! 最強の実験体が来たぞー!」

ゲンローが鍛冶場の奥に声を掛けると、鍛冶師たちが続々と現れた。

「おう、来たか。ちょっと待ってろ」

「一旦、これ振ってもらえるか?」

学生の先輩である鍛冶師から大きなハンマーを渡された。

振ってみろと言うから振ってみるが、大丈夫だろうか。

ファンッ!

使い心地はいい。風魔法でも付与されているのか、制御しないとどこまでも飛んでいってしまいそうだ。足と腰で制御するのか。

「ああ、攻撃力はあると思うんですけど、振るのにコツが要りますね。体が持っていかれないように足腰を鍛えていない者が使うと吹っ飛んじゃうと思いますよ」

「そうか! 重心のバランスかな?」

「ええ。インパクトの瞬間にだけ、魔法を組み込めればいいんですけどね」

「じゃあ、魔力の伝導率で考えないほうがいいな。ありがとう」

「次は私の剣を振ってみてくれないか」

女性鍛冶師から剣を渡されて、振ってみると、もう一本の魔力の剣が柄から飛び出し、即席の大きなハサミになった。

「おおっ! 防御魔法破りですか!?」

「そうだ! 初見殺しくらいにはなるか?」

「なりますよ。魔力で出し入れできたらびっくりしますね」

「俺のも頼むよ。ハルバートなんだけど、どうかな?」

また鍛冶師からハルバートを渡された。

ブンッ!

使い心地がいい。握りも悪くない。先端の重さもちょうどいいから、槍、斧、両方の性質を兼ね備えているハルバートとして、文句はなし。魔力を流すと、修復するのかな。

「これ、抜群に良いです。使い心地もいいし、修復するんですか?」

「そうなんだけど、魔力時代において修復だけって弱いかな」

「いや、全くそんなことないですよ。長く使えることが道具の使命と考えるなら、素晴らしいと思いますけどね」

「じゃあ、次は俺だな」

「ゲンローさんのはラジオで見ます。とりあえず、ウーランちゃんを中級のダンジョンに案内しないと」

「おいー……、まぁ、いいか」

ゲンローはそう言って笑っていた。鍛冶師たちから「いつでもコウジに見てもらえるだろ」と言われているのだとか。

とりあえず、ずっと鍛冶師たちに付き合わされそうなので、ウーランを連れて中級者ダンジョンへ案内した。

「コウジ先輩は、武器なら何でも使えるんですか?」

「ん~、その環境にある武器をなるべく使おうと思っているね」

「なるほど」

「でも、ひとつ自分の武器を持っているといいと思うよ。ちゃんと戦うってカッコいいから、自分の誇りにもなるだろうし。俺、狩りはできるけど、戦闘はあんまり得意じゃないと思うんだよ」

「え? 何を言ってるんですか?」

「人と戦うのは結構難しいんだよね」

「体育祭で二連覇しているんじゃないですか?」

「あれは、あんまり戦っているイメージはないんだよね。動いて対処して、動いて対処しての繰り返しっていうか?」

「それは戦いじゃないんですか?」

「自分が鍛えたからだと技術を使って、相手とぶつかるという点では、俺は苦手なんだと思うよ。それが知らない相手だったら、意味もわからないしな」

「すげぇ……師範たちの言うとおりだ」

「なんて言ってた?」

「コムロ家は理由のわからないことを言うから、何を言われても後で考えろと」

「そうか……、魔体術め! 今度、道場潰しに行こう」

「やめてください!」

魔体術の師範たちは真面目な人達が多いが、ウーランには冗談もちゃんと通じるようだ。

「じゃあ、ここから先は、ひとりで行ってね。植物は大事に。育てている最中だから」

「わかりました! ありがとうございます!」

ウーランは木剣を持って、中級者ダンジョンへと入っていった。

入れ替わるように、新入生を案内し終えたヒライが初心者ダンジョンから出てきた。

「おつかれ」

「お疲れ様です。先輩は助手ですか?」

「ああ、今年も助手だよ。どう? 補助魔法の授業を受けている学生たちは?」

「あんまりはっきりと魔法使いと分かる感じではないですね。冒険者をやっていてシーフから学生になった人もいるくらいで、年齢はバラバラです。でも、魔法だけじゃなくてアイテムの使い方が皆上手いです。駅伝でグイル先輩が活躍していたじゃないですか。たぶん、そういう役割が重要だって気づいたと大勢が思うんですよね」

「グイルはペースメーカーだったからな。調整役は必要なんだよ。そうか。そういう流れもあるのか。回復術は?」

「回復術師たちは優秀です。貴族連合の皆さんは、ほぼ回復魔法を使えますし、不死者系のモンスターは近づくことも出来ないと思います」

「死霊術は人気がないか……」

「人気がないわけじゃないと思うんですけど、専門職というイメージはありますよね」

俺は身近に死霊術師がいるので、それほど怖くはないが、死を扱っているだけに忌避感はあるのかもしれない。

「あ、ヒライ。中級者ダンジョンに魔体術の新入生がいるから、ちょっと話しかけてみて。話が合うかもしれない」

「本当ですか?」

「初心者ダンジョンでは荒れちゃうから、たぶん、実力的には近いと思うよ」

「わかりました。埋もれた才能ってあるんですね」

「ヒライもそうだったからな。埋もれたままにしないように」

「わかりました」

なんとなく後輩に先輩らしいことをしてあげられただろうか。

とりあえずダンジョンマスターの部屋に行き、マルケスさんに報告して授業は終了。

「コウジ、煎餅買ってきてくれ」

「売店、行ってくださいよ」

「マジコちゃんにそういうゴーレム作ってもらえないかな」

「出不精が出てますよ」

「ああ、ソニアに言うなよ!」

数百年生きているダンジョンマスターは放っておいて、俺は自分の授業へ向かう。

攻撃魔法の授業や魔道具の授業もオリエンテーションみたいなものだった。

「あ、コウジくん。防御魔法を破壊する新たな魔力操作法なんだけど、論文がエディバラの図書館に提出されたわ。どういう評価を受けるかわからないけど、楽しみにしておいて」

髪を切ったソフィー先生が教えてくれた。

「ありがとうございます。ソフィー先生、駅伝で髪を切ったんですか?」

「駅伝は、いろいろ考えさせられたわ。国との付き合い方とかね。髪は心機一転、主人と話して切ることにしたの」

「あ、旦那さんがいたんですね?」

「もちろん。司書と魔道具師を行ったり来たりしている変わり者だけどね」

「優秀じゃないですか?」

「自分の研究に没頭できないみたい。そのうち助手で連れてくるから会ってあげて。学生と会ったほうがいいのよ」

ソフィー先生はそう言って笑っていた。プライベートな話もするなんて意外だった。

魔道具の授業では、アーリム先生がなんか言っていたが聞き流しておいた。どうせ大したことではないだろう。

植物学の授業はエルフの国から、長年、国立植物園で庭師を務めていたという方が新任した。ベルベ校長は運営に回るらしい。

「植物っていうのは土の中で戦略を立てているから、なかなか地上では見えにくいことをしている。だから、よく土を見ることだ。虫キライは向いていないかもしれん」

髭面の恰幅の良いエルフの先生が軍手を泥だらけにしながら教えてくれた。

未だ修復中の植物園を出ると、森の中にドーゴエがゴーレムたちと一緒に歩いていくのが見えた。おそらく軍の演習に参加する準備だろう。

「お疲れ様です。演習の準備ですか?」

「ん? ああ、コウジ。ちょうどいいところに来た。丸太を運ぶのを手伝ってくれ」

「丸太?」

「ああ、去年も一昨年も、随分森の木々を倒しただろ? それを木材にして工房にしようと思ってな」

「お? なんの工房ですか?」

「ゴーレム専用のさ。鍛冶場の隣に作ろうと思ってよ」

「メンテナンスですか?」

「ああ、今年で俺は最後だからな。学生生活の最後に、大メンテナンスだ。蓄魔器もあるしな」

「軍の演習はいいんですか?」

「ああ、十分稼がせてもらったし、俺も強くなった。後は世界の実力を見ようかと思っていたんだけど、駅伝でそれも見れた。これから魔道具時代に突入するとして、どの環境に身を置くのか考えたんだ。俺は強さを求めるのは止めたよ」

「どうしてです? 傭兵じゃないですか?」

「傭兵家業の強さの基準で言えば、俺もゴーレムたちも、もう十分だろ? どうやっても火山の噴火を切ったり、邪神と肩を並べて追い返すなんて芸当は俺にはできん。現実で見て聞いているのに、自分がやっている想像は全くできない。別の道を探すよ」

ドーゴエは、吹っ切れた顔をしていた。

「俺の故郷に、コムロカンパニーがダンジョン村を作ってくれたんだ」

「故郷に帰るんですか?」

「ああ、こいつらの工房もあるからな。魔道具作って暮らすよ」

「そんなバカな……」

「ダメか?」

「らしくないですよ」

ドーゴエは乾燥しきっている丸太を掴んで、俺にぶん投げてきた。

「俺が静かな生活をしちゃダメだっていうのか?」

「朝からハーブティーを飲んで、仕事をして、食事して、慎ましやかにドーゴエさんが暮らすんですか? 俺にはそっちのほうが想像できませんよ。なにか狙ってませんか?」

「ああ、やっぱりバレたか。お前たちラジオ局だって、この先の時代に魔道具とは別のものを狙っているだろ?」

俺は丸太を魔力の紐で縛って担いだ。ゴーレムたちはペアを組んで運んでいくらしい。

「わかりますか?」

「わかるだろ? 蓄魔器の権利まで売ってるんだから。しかも、シェムやマジコみたいな天才もいる。覇権を取るには厳しいことくらい誰でもわかるだろ」

「俺達の今年のテーマは『問題と気づき』です」

「なんだ、そりゃあ?」

「いけませんか?」

「実体がないだろ? ああ、でもそうか。お前たちは声が商売道具か。声なき声に気づくと思えば、間違っちゃいないが……」

ドーゴエは頭が良い。良すぎるくらいだ。

「ドーゴエさんは?」

「ああ、俺は『個性と再生』かな。どうせ今年の経済会議じゃ、魔道具取引について話し合われるだろ? でも、利権をガメてる爺どもが気づいていない物があるんだ。こぼれ落ちてしまっている物がさ。それを全部、俺が戴こうと思っている」

「覇権じゃないですか?」

「ああ、でも、気づかないほうが悪い。だろ?」

傭兵らしく、にやりと笑っていた。おそらく魔道具の修理業をやりながら、エンジニアのセーフティネットや魔物化した魔道具の修繕までやろうとしているのだろう。

「全世界に顧客が出来ますよ」

「だろうな。それを狙っている。言うなよ」

「言っても誰も出来ないのでは?」

「ゴーレムはできるけど、生活の魔道具はあんまり知らないからな。いろんな人に協力してもらうと思う」

「ゲンローさんに、ドーゴエさんが工房を持つように仕向けてくれって言われてたんですけどね」

「あいつは気を遣い過ぎなんだ。前に俺が鍛冶場を仕切っていたからさ。でもゲンローほど、人間を見ているやつはいないぞ。武器ばっかり作っているように見えるけど、あいつは防具を作らせたほうが上手いんだ。素材を活かすのが天才でな。だから特待十生をやってる。どうにか俺がいる間に、没頭させてやりたかったんだけど、鍛冶師たちからの人望まであるだろ? コウジ、どうにかしてやれ」

なんなんだ、この人たちは。お互い、技術の高さを認め合っていながら、素直に本人には言えないらしい。

「わかりました。この丸太、どこで切り出すんです? 一旦、ダンジョンに持っていって、仮の工房を作ってから、切り出したほうがいいかもしれませんよ」

「そんなことできるのか?」

「ええ。マルケス先生に頼めばできると思います」

「いいか? 悪いんだけど頼む」

この学校で一番粗野で粗暴だと思っていた先輩は、最も繊細で人情に厚い人だったかもしれない。考えてみれば、ゴーレムを何体も連れていない。あれ? ゴーレムは何体いるんだ? 体育祭の時は6体いたが、今はゴーレムが8体いる。駅伝の時は、もっといたんじゃないか。もしかして、増えているのか。

「お前にはゴーレムの見分けがつかないかもしれないが、それぞれ違う。個性を特化させてやりたいんだよ」

「いや、そうじゃなくて、ドーゴエさん、ゴーレムを何体使役しているんですか? 体育祭のときより数が増えていませんか?」

ドーゴエは不敵に笑って、ゴーレムたちも体を揺らして笑っているように見えた。

「気にするんじゃねぇ」

「いや、気になりますよ。もしかして使い分けていたんですか?」

「いろいろあんだよ。傭兵だからな」

とりあえず、俺はダンジョンにつれていき、マルケスさんに上級者ダンジョンの一室を借りて、本人に工房のデザインを決めてもらう。

「これ、木材の加工もできるんですか?」

「ああ、時間はかからないから、その辺に置いておいてくれ。吸収して加工してやるよ」

「エグい……」

「一応、俺が昔ダンジョンの中に建てた家や小屋を見ておくか?」

「いいっすか!」

マルケスさんとドーゴエは職人肌同士だったのか馬が合うのかもしれない。

俺は放っておいて、ラジオ局へと向かった。

ラジオ局では、ゲンローが俺を待っていて、ナイフを渡してきた。リアクターとしても出演するのでついでだろう。

「どうせコウジは武器がなくたって強いんだから、持ち運びやすくて便利な方がいいだろ?」

「お、これはありがたいです」

魔力を通しやすい素材で、握り心地だけを追求したとか。刃渡りや切れ味は魔力で調節しろとのこと。俺のことを、よくわかっている。

「ドーゴエさんが鍛冶場の隣にゴーレム用の工房を建てるそうです」

「新しく?」

「ええ。今、ダンジョンで仮の工房をマルケス先生と試しているところです」

「なんだ、そうか……。早速、ミッション達成したか?」

「それが、ドーゴエさんから新しいミッションです。ゲンローさんに『防具を作らせろ』って」

「ドーゴエさんが!? へへっ」

ゲンローは珍しく頭を抱えながら、笑っていた。

「素材を活かす天才だから、どうにかドーゴエさんがいる間に没頭させられないかって」

「待て待て、待ってくれ! 参ったな……」

ゲンローは目に涙を浮かべ、メガネを外して、手のひらで拭っていた。

「軽い気持ちでミッション出しちまったな。ドーゴエさんは、見て分かる通り、職人として現代の職人の遙か先に行ってる。じゃないと、あれだけの高品質なゴーレムたちと一緒に戦えない。今世紀最高のゴーレムの職人と言っていい大天才だ。コウジよ、天才に天才って言われるほど嬉しいことないな」

ゲンローは涙を浮かべながら、笑みを止められないでいた。

「防具づくりやるんですか?」

「ああ、そりゃあ、やるよ。参ったな、本当に。コウジは素材の声って聞いたことあるか?」

「いや、ないです」

「自分の身体の声は?」

「悲鳴を上げるほど疲れたことはありますよ。筋肉痛が激しいときとか」

「いや、そういうんじゃなくて骨格から、声が聞こえるんだよ……」

ゲンローの言葉を聞いて、俺はラジオの準備をしているミストと目があった。おそらくこれがゲンローをとんでもない天才と認識した瞬間だった。