軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』61話「駅伝復路最終日、それぞれの戦い」

「準備が整った選手たちからスタートしています! 魔物がいなくなり、一気に進む。ここから先はスピード勝負か。今日のうちにゴールする選手団もありそうですね! いや、速い!」

魔族領含め、アリスフェイ、ウェイストランドの選手たちが走り始めると、向かい風も気にせず一気に坂を駆け下りて森の中を進んでいく。街道は使わずに、木々を避けながら進むのはエルフの国の選手たちだ。

「森の精霊ども、ここが勝負どころだ!」

革パンのエルフことガルポも選手として登録していたらしい。森の精霊を呼び出して目の前の藪や木々を曲げている。エルフが植物を扱うと、どうなるかがよくわかる。

その背後をぴたりと傭兵の国が追いかけていた。

アペニールも死者の国の選手たちは遅れているが、スピードを崩さずについていっていた。ルージニア連合国三班以外はかなり遅れているようだ。シャングリラ、火の国、グレートプレーンズも自分たちのペースを保ったまま走っていた。

魔法国・エディバラは未だ寝ている。空を飛んで追いかけるため、魔力を回復しているのかもしれない。後ろから飛べば邪魔もされないと思っているようだ。

「森の中を突っ切る選手たちと、街道をひた走る選手たちで分かれましたね?」

「ええ、もしかしたらここから先は魔力の勝負になるかもしれません」

「魔力の? え? どういうことですか?」

実況のウインクは、リスナーに状況を届けるためにわかりやすく聞いて来た。

「街道を進んでいる選手たちはかなり向かい風を受けているので、蓄魔器から防御魔法を出して進んでいます。一方、森の中を進んでいる選手たちは自分の魔力で森の精霊を出したり、魔力による身体強化で突き進んでいる。どちらも魔力の消費量が激しいので、軍人や元海賊たちは使わないようにしていますよね」

「つまり魔力の使いどころを戦術的に考えているということですか?」

「ええ。どこの国の選手団も今日が最終日だと思って、仕掛けていっているのかもしれません」

「目が離せなくなってきました!」

キィイエエエエ!!

迷いの森の中からマンドラゴラの叫び声が聞こえてくる。近くにあれば気絶するほどの絶叫だが、選手たちは意に介さず無視している。この程度は対処する必要がないということだろう。

「喋れる魔物がいなくなっても、迷いの森には、別の魔物が生息している! むしろ、森に棲む他の魔物からすれば好機! 選手たちはどう対応するのでしょうか!」

そう言っている間に、アグリッパが街道に出てきたアルラウネを焼き切っていた。剣術と魔法を組み合わせられるようになっている。

炎を吐き出しながら歩く花には、ゴルゴン族のステンノが対応している。マジコが速射の杖で火球を放っているが、当たってはいない。ウェイストランドのダークエルフたちもモンスタープランツと呼ばれる蔓の魔物に捕まっていた。

「如実に戦闘の実力差が出てきました! ここでルージニア連合国第三班、シャングリラ、グレートプレーンズが先頭集団に追い付いてきました。が……、アリスフェイの選手たちは魔物との戦闘を最小限にして進んでいるぅ!」

「死者の国は魔石の回収をしていますね。火の国の選手たちは討伐部位まで切り取っています。魔物との対峙の仕方は各国で違うのでしょう」

「それって……、各国の冒険者ギルドで運用法が違うということですか?」

「勇猛さが重要な国があれば、実利が重要な国もあります。何より重要なのは自分たちの命だから、討伐することではなく戦いから離れることが重要と考える国もあるかもしれません」

「ええ!? 冒険者なのに、そういうことってあるんですか?」

「討伐ではなく捕獲に重点を置けば、力を抑え込む方に向かっていきますよね」

「確かにそうかもしれません」

「あとは、同じ景色を見ているのに、見えているものが違うという場合があります。例えば、迷いの森に入ってから死者の国の選手たちのスピードが落ちていますよね?」

「はい」

「もしかしたら、霊たちの話を聞き、植物系の魔物が飛び出してくることがわかっていたのかもしれません」

「それはつまり魔力の消費量が激しくなるということを予測しているということですか?」

「わかりませんが、街道の先に大きな卵のようなものが見えてきましたね」

駅伝、最後の仕掛けだ。本当はここでレースではなく冒険者としての資質を見たかったのだけれど、邪神が出てしまったので最低限、どの国の冒険者にも民を守るという意識はあることがわかっている。基本的な資質は備わっているということだ。

用意する必要はなかったが、対魔物に対する戦闘力は測れるだろう。マルケスさんがダンジョンで育てたアルラウネの上位互換であるジャイアントアルラウネだ。植物系の魔物を配合したキメラでもある。本当かどうかはわからないが、去年、各国で駆除された『月下霊蘭』を集めて、マルケスさんが作ったらしい。本当だとしたら、エルフにとって因縁の相手だ。

「おおっ! 家と同じくらい巨大な卵が開いていきますよ! おおっと、初手は胞子です! コウジ、高く飛んで!」

ウインクが叫ぶので、俺は空飛ぶ箒を握りしめ上空へ飛んだ。

ジャイアントアルラウネは、花弁のように開きながら人型のめしべを露わにしていた。

上からだと、誰がどこにいるのかよく見えた。街道も森の抜け道もジャイアントアルラウネの近くを通っているからか、対応せざるを得なくなっていた。

アグリッパがポチと共に胞子を焼いて、アリスフェイの選手たちをすり抜けさせようとしている。グレートプレーンズの選手たちは胞子を凍らせて地面に落としていた。エルフたちは風魔法で胞子を遠くへ運んでいるし、傭兵たちは胞子を魔力で包んで返している。

ルージニア連合第二班が出てきて、土魔法の壁を作っているが、ジャイアントアルラウネを遠くから分析しているようだ。

迂回して通り過ぎようとしていたアペニールの選手が蔓に絡まったらしい。

「ダメだ! すでに周辺に根を張っているぞ!」

ダイトキが選手を背負って森の中から出てきた。蔓に襲われた選手は気絶している。

「ちょっと触手の数が多い。この森で育ってない品種だろう? 往路ではなかったもんな」

「なんだ? もしかしてこれは駅伝の運営委員の仕業か?」

シャングリラの元海賊が俺を見上げて言った。

もちろん、知らぬ存ぜぬを通す。

「気絶した選手は魔力切れを起こしたということでいいのかしら?」

後方からミストがアペニールの選手に聞いていた。

「そうだ! 触手には触れるな。魔法もたぶん効かない。誰か魔法で攻撃してみてくれ!」

エルフやルージニア連合の選手たちが魔法を放つもジャイアントアルラウネは、めしべは目をつぶったまま。まるで効いていない。

「お待たせしました。いいえ、待たせすぎたのかもしれません!」

魔法の絨毯に乗ったエディバラの選手団が飛んできた。そのまま、花瓶のような物をジャイアントアルラウネに投げつけていた。

カンッ。

ジャイアントアルラウネは花瓶を蔓で弾き返し、さらに蔓の先から棘の付いた種子を投げつけていた。

種子が絨毯にくっつくと種子が膨らみ、そのまま魔法の絨毯が勢いを失い、藪の中へと墜落した。

「魔力を吸い取るの!? 吸魔草みたいに!?」

ウインクは目を丸くして驚いていた。

「こんな魔物、レベル50程度の俺たちに対応できると思っているのか!?」

「無理だろう! こんな動く吸魔草なんて、分析にだって数日かかる!」

「災害クラスじゃないか!」

分析していたルージニア連合国の選手たちが文句を言っている。

「駅伝を続ける気があるのか!?」

「そうだぞ! これが駅伝と呼べるのか!?」

火の国の選手たちからも不満が出てきた。

「何を言っている!? ちゃんとルールを聞いていなかったのか?」

死者の国の死霊術師が野太い声を響かせた。

「蓄魔器の魔力を絶やしてはいけない。当然、魔力を大量に使う障害があることは運営側も知らせている。我々が魔物から魔石を取り出していたのはこのためだ。討伐が目的ではないので、我々は先へ進ませてもらうぞ」

「お前たち、もしかして運営側と選手の間で密約を交わしていないか!?」

「そうだ! 運営委員長と同部屋の学生もいるんだろ!? 何を教えてもらったんだ? フェアじゃないぞ!」

死者の国にはミストが、アリスフェイ王国にはグイルが選手として出ている限り、こういう批判はいずれ出ると思っていたが、ここだったか。

「まだ、そんなことを言ってくる選手がいるとは思っていなかったわ。選手も交代したのに、私もグイルもいまだに残っているものね……!」

ミストが声を張り上げながら、ジャイアントアルラウネの前に出てきた。俺もウインクも「ヤバいな」と視線を交わした。

ジャイアントアルラウネからの蔓攻撃はミストに当たらない。

「ほら、見ろ! 目の前にいるのに攻撃されないじゃないか!?」

火の国の選手が声を上げた。

「その程度の分析力で、一国の代表になれたのであれば、その国に蓄魔器など持つ資格はないわ!? 見ての通り、この魔物は目を閉じている。つまり視覚を使っていない。すべて魔力に向かって攻撃をしていることくらいわからない? 銅貨の匂いばかり嗅いでないで、魔物学者の金言も聞くべきじゃないかしら?」

「な、なんだと!?」

「花弁の数は12枚。つまり、主根を深く伸ばしている植物よね? つまり、私たちに襲い掛かっている蔓と思われる物は側根でしょ。しかも、ここまで動くということは魔力が全然足りていないということ。往路の時になかったとなれば、つい最近、ここに現れたと考えていい。本調子でもない魔物にビビり散らかして、レベルを言い訳に諦められるなら、どうぞ今すぐ国へお帰りになったらどう? 自分よりも弱い魔物を倒して、骨になるまで暮らしていればいいわ。残念だけど、砂漠の砂塵に消える話は死霊術師の耳にも届かないから、もう会うことはないと思うけれど」

ミストは全員に聞こえるようにまくし立てた。

「ああ、忘れてた! ルームメイトの話だったわね。コウジがなにか対応策を教えてくれているのであれば、いちいち、こんなに観察していないわ。ただ、一度言ったことはどんなにバカバカしいことでもやるから、蓄魔器の魔力を奪いに来ることはわかっていた。駅伝のルールならなおさらね。そうでしょ? グイル?」

「ああ。そうだな」

グイルも普通にジャイアントアルラウネの前に出てきた。やはり魔力を出していないから攻撃されない。

「俺もミストもここまで共闘はしてないし、ましてや、コウジやウインクから情報を聞き出そうともしていない。別にやりたければ、裏金も政治的な圧力も偽情報の流布だって、こっちは構わないからやっていい。ただ、アリスポートの学生たちでそんなことをする奴らはいない。断言できる」

「なんでだ? これは蓄魔器の輸出量を決める大会だろ?」

「そう思ってるのは大人たちだけさ。学生たちは嫌というほど見ているんだよ。地位も名誉も金も、コウジにとってほとんど価値はない。だから、鼻っから交渉材料になりはしないんだ。今、箒の上にいるあの男はな、面白いかどうかしか考えてねぇ! 裏金使ってこの魔物の弱点を教えてもらえるなら教えてもらうといい。きっと教えてくれるはずだ。でも、駅伝運営委員長は絶対に嘘しか言わない。本当の弱点を明かすような、そんなつまらない大会に俺たちが出ないことを知っているからだ。なにが起こるかわからないから面白いんだろ! 八百長をやりたければやってくれ! その間に俺たちがゴールまで突っ走るからよ!」

ヒュンッ! バチンッ!

最後にちょっと魔力を出したグイルの足下に、ジャイアントアルラウネの蔓が飛んできた。グイルもミストも蔓も見ずに跳んで躱している。

「ってなことを言われていますけど、実際のところ、どうなんですか? 運営委員長!」

ウインクがわざわざ俺の方を向いて聞いてきた。

「ゲゲッ! バレてらぁ! といった感じでしょうか。そうか……、嘘を言えばいいのか。目から熱光線が出るから絶対に目を狙ってはいけないとか、口から吐き出す粘液の匂いを嗅ぐと眠ってしまうし、実はピンクの羊として生まれ出るとか? ん~、いまいちだな。ちょっと、とりあえず俺がいい嘘を思いついたら、裏金持ってきてください」

「嘘って言っちゃ、ダメなんじゃないですか?」

「あ、しまったな……。実際のところ、マルケスさんに頼んだ魔物だから、本当にジャイアントアルラウネについては知らないんだよね。たぶん、レベル50でも倒せるはずだから、気を付けて戦ってください。即死はしないと思うので」

「出た! ラジオ局長の投げっぱなしです! 苦労するのはいつも参加者なので、本当に気を付けてくださいね!」

ウインクが選手たちに注意を促していた。

その間に、死霊術師たちは地中から魔物の骨を呼び覚まし、森の中を縦横無尽に駆け巡らせていた。ジャイアントアルラウネの蔓にも限りがある。周囲にある魔力を吸収しようと蔓を伸ばしている隙を見て、死者の国の死霊術師たちが走り出した。

「悪いけど、先に行かせてもらうわ!」

「おう! ゴール前で追いつく!」

ミストは駆け出し、グイルは蔓の攻撃を蓄魔器から出した防御魔法で受け止めていた。

「啖呵切ったからには何か案があるのかい?」

グレートプレーンズの輜重部隊がグイルに聞いていた。

「あるわけないじゃないですか」

そういうグイルの顔は笑っていた。

「なるべく氷魔法で攻撃を遅らせるから、その間に考えておいてくれ。学生たちにいいところ持って行かれてる場合か! 攻撃を遅く出来る奴は時間を稼げ! この程度の魔物で腰抜かしてる場合じゃないぞ! こっちは自分より強い同僚しかいないってのに……」

氷の塊がジャイアントアルラウネの根元にぶつかり、粘液が飛び散った。グイルはその粘液を観察してから、蔓攻撃を転がりながら躱していた。

「順番にやっていきましょう! 攻撃は当てずに、周囲を温めて燃やしてください! 油でもなんでもいいので可燃性の高い物を持っている人は準備をしておいてください!」

グイルの作戦は単純だ。乾燥させて燃やしてしまおうということだ。誰もが思いつくが、生木は燃えにくいと誰もやらない。

「手数が勝負です! 攻撃は当たらないこと、当てないことが大事です! 動ける人は、蔓の誘導を!」

作戦が決まればと、尻もちをついていたエディバラの選手も魔族領の選手たちも火球を放っていた。

「他になかったのか?」

傭兵の国のドーゴエは文句を言いながらも、蔓攻撃を受け流していた。

「魔体術を使える者はちゃんと受け流せよ。僅かな間にも魔力を吸い取られるから!」

傭兵たちも周囲の選手たちに声をかけている。日頃、即席の傭兵団を作っているからか、声掛けの重要性を知っているのだろう。

「風を回すよ! つむじ風にならないように、乾燥させて!」

エルフたちが息を合わせて風魔法を放っている。

「油だ! 油! 布に浸み込ませて流れ落ちないようにしよう!」

ルージニア連合国第三班のフリューデンが準備をしている。

ゆっくりと、ただ確実にジャイアントアルラウネは萎み始め、若々しいめしべの身体に皺ができ始めていた。

「蔓の動きが遅くなった! 魔法は使うなよ!」

「動きが遅くなったら、蔓は切れるぞ!」

「なるべく細かく切ろう!」

「粘液に毒があるから、手袋必須だぞ!」

選手たちが観察して得た情報を叫んで共有している。

ついにジャイアントアルラウネは目を開けることなく、細切れにされて燃やされた。

「よし! 俺たちはもう行くぞ!」

「魔石は回収しなくていいのかよ!」

「欲しければ貰っておけ!」

「部位は貰っておく。いくらになるかわからん!」

「バカ言ってないで走るぞぉ!」

選手たちは全速力で森の中を走り始めた。

「悪い。俺たちは魔力切れだ。先へ行ってくれ」

「ダメ。脚に力が入らない」

火魔法を使っていたシャングリラやエルフの国の選手たちは魔力切れで脱落していった。

「ああ! くそっ! 蓄魔器の魔力がなくなった……!」

「うわぁ! うちもだ!」

火の国とウェイストランドも迷いの森の途中で脱落。さらに集団戦をしたからか、体力の差ができ始めていた。

グレートプレーンズやルージニア連合国が集団から一歩リード。アリスフェイやアペニールなど学生の多い国の選手団は、徐々に先頭集団から落ちていく。

「白熱した戦いも終盤戦になってまいりました! 現在、死者の国がトップ独走! グレートプレーンズが集団を率いています。続いてルージニア連合国第三班! 森を抜けた街道沿いには、観客たちも応援にやってきています!」

「頑張れー!」

「行けー!」

「走れー!」

エディバラの選手たちが、箒を取り出して空を飛んだ。

魔族領の選手はそれに呼応するように、箒の端に縄をかけて一緒に飛んでいる。強引な共闘だ。

グレートプレーンズの選手たちは、氷魔法で飛んでいる選手たちを打ち落としていく。

「悪く思うなよ」

正確に氷魔法を使うのは兵士だからか。

自分も落ちそうになったマジコは箒に周辺のシンメモリーを集めていた。前に見た時よりも格段に精度が上がっている。

ヒヒーン!

フィーホースのように嘶いた箒が柄を曲げながら、跳び上がる。

「掴んで!」

マジコの声で箒の穂先が勢いよく伸びて、魔族領の選手たちが掴んだ。そのままフィーホースと同じスピードで、街道の低いところを飛んでいく。

「そりゃあ、聞いてねぇよ」

「なんだ。ありゃ」

グレートプレーンズの選手たちは、呆気にとられたようにその場に立ち尽くしていた。箒を盗られたエディバラの選手たちは、またしても尻もちをついていて、飛んでいくマジコたちを見ていた。