軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『遥か彼方の声を聞きながら……、2年目』33話「月夜の下に花が咲く」

ロケ用のラジオセットの使い方はウタさんに教えてあるし、ボリビアーノさんたちも来た。いつ『月下霊蘭』が咲いても準備は万端だった。

ラジオは大森林にも大草原にも放送され、試験放送も上手くいっていた。竜たちも朝からずっとアンテナ設置のため各々が各地へ飛び立った。

計画通りに進み、俺たちは驕っていたのかもしれない。いや想像力が足りていなかった。むしろ、あれほど自分たちが警戒するのだから、よほどの効果があるのだろうと。

見誤っていたのはエルフと言う種族に対する思い込みだった。

満月の夜。月光が地上へと差し『月下霊蘭』の大輪を咲かせる。大人が両手を広げてもまだ足りないほどの白い花が咲く。それはエルフたちの大森林だけでなく、大草原にあるものも、海を渡って南半球にあるものも、一斉に咲き始める。シンクロニシティと呼ばれる現象だ。

花に見惚れて、香りを嗅いだエルフたちは確かに気分が高揚していた。

「ガルポ、どうだ?」

「ん? ああ、いや、確かにずっとこの香りを嗅いでいれば、そりゃあ興奮もするのはわかる。でも、普通にあんまり嗅がないようにはするんじゃないかな……」

ガルポは洗濯ばさみで自分の鼻をつまんでいた。

「むしろ、これで酩酊したエルフを攫ったり、連れ込んだりするエルフがいたら、絶対に許さないかな」

「正義感が溢れ出てくる感じ?」

「そうだね。『月下霊蘭』が咲いていたから仕方がないなどと言うバカがいたら、たぶん全力で叩きのめすと思う」

「それはヤバいのでござるよ」

ダイトキは血の気が引いていた。

「私がエルフの闇を暴く前に……」

ウタさんがそうつぶやいた時には、精霊の里には怒号のような声が聞こえてきた。

「正義の名のもとに!」

「二度とハイエルフが現れないように!」

「エルフを守るのはエルフだけだ! 同胞を守れ!」

「私腹を肥やすバカな爺どもを許すな!」

エルフたちの声がラジオに乗ってしまう。俺は急いで静かな民族音楽に切り替えたが、精霊の里にいるエルフたちの声は放送されてしまっただろう。止められるのか。

「くそっ! これ、闇を暴く戦いじゃなくて、闇を守る戦いになるんじゃない?」

「予定変更しましょう」

「ちょっと待てよ。『月下霊蘭』に加えてドデカピタンの実を食べたエルフたちはホルモンバランスが壊れているかもしれないんだぞ」

ドーゴエも事態の緊急性に気づき始めていた。

「エルフを興奮させて勢いに乗らせたら、誰にも止められないぞ」

ベン爺さんが立ち上がった。

「エルフの頭を冷やさないと! ウッドエルフの歴史は繰り返してはいけないわ!」

アリアナさんが雲一つない精霊の里に雨を降らせた。

「コウジ!」

「よし来た! ウインク、ラジオは任せたぞ!」

「了解!」

俺はラジオ局から跳び地面に着地。降り続ける雨を雪へと変える。

ポロン!

コリーさんのギターがラジオから響いた。

「エルフたちよ。立ち止まれ。祭りは始まったばかりじゃないか……」

コリーさんの言葉のあとに、セイレーンの歌声が大森林に響き渡る。

エルフたちがその歌声に耳を奪われた。

ザッ。

先輩と留学生が次々と地面に下りてくる。

「今のうちでござる!」

「行くぞ!」

ダイトキたちの声で俺は大森林の北部へ移動を開始。目指すのは、演奏の里と考古学者がいる里だ。

ドドドドド……。

遠くから大きな鳥の足音が聞こえてきた。おそらく精霊の里のエルフと同じように正義感にかられたエルフたちが利権を持つ同胞を襲おうとしている。

『月下霊蘭』によって酩酊状態になると注意喚起をし過ぎた結果、こうも人を動かしてしまうのか。俺は初めてラジオが怖いと思った。

実際に火の国で選挙を行った際、ラジオ放送によって立候補もしていない親父に投票されたケースがあるそうだ。自分たちがいいと思うこと、面白いことを放送し続けることで、すべて鵜呑みにしてしまう人たちがいる。

特に『月下霊蘭』の開花時期など正しい判断よりも、雰囲気にのまれてしまう。理性では冷静にならなければならないとわかっていながら、行動は過激になっていってしまう。これが『月下霊蘭』の本当の怖さだ。

当然だが、現場に直行する俺たちや、利権を貪る同胞を懲らしめようとするエルフよりも、現地にいる若いエルフたちの方が、当事者であり最も影響を受けていた。

「くそジジイども! なぜ我らがハイエルフを崇めなければならないのだ!?」

「家族を貶め、資産を貪り、自分の欲望のまま生きてきたのだろう!? いい加減、未練などないだろう!?」

演奏の里では、エルフの老人たちが、大樹に張り付けにされて、今にも足元の焚火に火を点けられそうになっている。

「緊急事態に付き、時魔法を使わせてもらう。コウジ、ウタさん、その間に止めてくれ!」

「了解!」

「うん!」

「ドーゴエ! ガルポ!」

「おう!」

「行けるぜ!」

ドーゴエとガルポは、大きな鳥に乗って走ってくるエルフたちを対応する。ダイトキの指示する声が心地よかった。統率スキルか。アペニールの貴族の才能か。

ダイトキが腰の刀を抜いた。

ふわりと風が吹いた。風が時の流れを鈍くしていく。葉が舞い、松明に集まった虫の羽ばたきが見える。

俺とウタさんは、松明を持つエルフの足を払って、魔力で火を消した。エルフの老人たちに刺さった杭を抜き、回復薬をかける。最短最速で3人の老人たちを大樹から引き離した。

時が正常に動き出す。

「人族よ! なぜその老人たちを保護する!?」

「その者たちがエルフの闇そのもの! この世から消し去るべきだ!」

「他種族だからわからんのだ! その者たちは再びハイエルフの政権を作ろうとしている! 我々は断固として拒否する!」

エルフの若者たちは立ち上がり、振り返り、「老人を殺させろ」と叫んだ。

パチッ!

ウタさんが腰にぶら下げているラジオのスイッチが振り返った瞬間に入った。

「同時代を共に生きる者として、この文明を享受する者として、これだけは言うわ。怒りに駆られて、闇を潰せば消えるなどと思ってはいけない。恨みは新たな恨みを生み、同胞によるむしり合いが始まってしまう! そこに闇があるなら正義感で覆い隠そうとせず、しっかり見定めて法で裁くべきだわ! 自分の罪が何なのかもわからないうちに殺せば、必ず子があなた方に刃を向ける! そうしてあなた方の罪悪感まで子孫に継承されていく。元水の勇者を輩出してきた家系の者として、それだけは許すわけにはいかない!」

ヒュッ。

夏の暑い夜に、冷たい風が吹きつけた。

バラバラバラ……。

空に満月が上り、雲などないというのに大粒の雨が降ってきた。

見る間に雨に打たれたエルフたちが落ち着きを取り戻していく。

「少し雨に打たれて冷静さを取り戻してはいかがかな」

ボリビアーノさんが笑みを浮かべながら、里へ入ってきた。

「水の精霊の呪いから逃げた俺が言うのもなんだが、どれだけ自由になっても自分の中にある罪悪感からはなかなか逃れられないもんでね。それでも、この死にかけの老人たちを殺すかい?」

ボリビアーノさんの問いかけに、若いエルフたちはたじろぎ、言葉を失っていた。ただ、こちらの戦力を測りかねていただけかもしれないが時間は稼げた。

ドドドド……。

大きな鳥の魔物に乗って衛兵の部隊が到着。衛兵たちは皆、鼻栓をしている。ドーゴエとガルポも演奏の里に入ってきた。

「すまぬ! こちらにドデカピタンの実が流れてきていると聞いた! 『月下霊蘭』の開花と組み合わせると凶暴性を増すことが知られている。この里にいる者は、その場にとどまり、動かぬよう願いたい!」

衛兵の隊長が大声を張り上げた。

「また、そちらが担いでいるエルフの老人たちだが、脱税、誘拐、詐欺などですでに逮捕状が出ていた。対応に手間取って申し訳ない。完全に我々、大森林の治安を守る衛兵のミスだ。引き渡してもらえないか?」

「どうぞ」

俺とウタさんは担いでいたエルフの老人3人を衛兵に引き渡した。

「……ゆめゆめ衛兵の里に寄付金を積んでいたことを忘れたわけではないだろうな……」

エルフの老人の小声がラジオに乗っていた。

「残念ながら、裏金を送った衛兵隊長は全員牢の中だよ。すまないが、罪を犯したことは確定している。奴隷印を押させてもらうぞ」

老人たちはその場で焼き鏝を押されていた。

「すまないが、君たちにも事情を聞いておきたいのだが……」

「すみません! もう一件あるんです!」

ウタさんが叫んだ。

「学者の里! お爺ちゃん、箒持ってきてない?」

「あ、ある!」

ボリビアーノさんが空飛ぶ箒をウタさんに渡した。

「ごめん! ちょっとコウジを借りてくわ!」

俺は首根っこを掴まれて、大樹の樹上へと飛ばされていた。いやぁ、無茶するなぁ。

樹上から見ると、大森林のそこかしこに炎の明かりが見えた。全員、『月下霊蘭』の開花で興奮したエルフたちだろうか。各所で下剋上が行われていると思うと、広範囲な種族革命なんじゃないだろうか

箒を持ちながら、空を飛んでいると学者の里が見えてきた。

「え? どういうこと?」

箒の上でウタさんが呆然としていた。

学者の里の真ん中には祭りの台があり、その上で裸の老人がアルラウネと踊っている。エルフの若い学者たちはそれを真面目な表情で見上げていた。

俺たちは急いで地面に下りてエルフの学者たちに問い質した。

「何をしたんです?」

「特に何も……。里の長が飲むお茶と私たちの茶をずっと入れ替えていただけです。私たちはあくまでも学者です。生まれてから50年、知性を求めて生活をしていました。ウッドエルフの歴史もすべて解明したわけではありませんが伝え聞いている」

「繰り返してはならない歴史があることは存じてます。時には理性を捨てて酒に溺れる者たちもいますが、利権を集中させて研究がおろそかになるようなことは特に戒めてきました」

「なるほど、名声を求め続け、他者の研究も自分の研究と称するようになると、どこか観察力が鈍るようです。自分の足と手で確かめなくなった者は研究者から外れていく。過去の栄光にすがっていると、晩節を汚す。いい学びでした」

「あのアルラウネは?」

「ああ、実験用に使っていた魔物です。何も考えず、悩みもなくなって幸せそうに踊ってますね。記録を取っておきましょう」

学者たちはペンを片手に写実し、羊皮紙に文章を書き続けていた。

「月下霊蘭の影響はありませんか?」

エルフの学者たちは思い切り空気を吸い込んでいた。

「多少、興奮はしていますが我を忘れるほどではありません。ずっと嗅いでいたら、酩酊するかもしれませんが……」

「いや、血流に変化があるかもしれません」

「脈拍も速くなっているような……」

「記録を取っておきましょう」

若い学者たちは各々の研究所がある大樹の家へと入っていった。

残されたのは裸で踊っているエルフの老人だけ。このまま踊り狂って死ぬのだろうか。と思っていたら、普通に倒れた。

「運動もしてこなかったエルフが急に踊るから。当たり前だ」

大きな鳥に乗った薬師のカミーラさんが、いつの間にか学者の里に到着していた。薬学の里から大森林の各所へ薬師たちが回っているという。

「今のところ、演奏の里以外は暴力的な革命が起きたという報告は受けていない。『月下霊蘭』の効能を広く知らせたから、皆強く自制心を持てたのだと思う。それでもこれが続くと、どこかで爆発してしまうかもしれない。音楽の力でどうにか解消してあげてほしい」

「音楽? あ、ラジオでってことですか」

「そうだ。一日に一度でも、二度でもいいから、ほんの数刻、盛り上がる曲を頼む」

「わかりました」

肩透かしを食らったような気がして、しばし呆然と立ち尽くしてから、俺とウタさんは精霊の里へ帰った。

「私たちがやろうとしていたことはなんだったんだろうね」

「俺はラジオの怖い一面もいい一面も見た気がして、なんだか耳鳴りがしてます」

「どうしたの? 二人とも……」

ウインクは心配そうに俺たちを見てきた。

「いや、一日のスケジュールを決めよう。月下霊蘭の開花中は、なるべく優しい音楽をかけて、一日二回、コリーさんとセイレーンの皆さんの音楽を流しましょう」

「わかった」

「何事もないのが一番だよ」

「そう。ウタちゃんの演説はよかったよ。ちゃんと法に基づいて裁いてもらうって、現代人のあるべき姿だと思うわ」

ベン爺さんとアリアナさんも褒めてくれたが、俺とウタさんは拳を振り上げたものの落としどころが見つからないような気分がしていた。

「ウェイストランドはどうなってるのかな?」

「ブロウさんに聞いてみますか?」

通信袋でブロウさんに連絡をしてみると、レヴンさんが出た。

『おおっ! 月下霊蘭が咲いただろ!? 皆、今は競馬に夢中だ! やっぱり遊牧民のダークエルフにはフィーホースのレースしか見えてないのよ。性欲だの権力欲だのは大森林の爺どもに任せたらいい! こっちはバカバカしくてやってられない。この大草原じゃ、一番速い奴が一番カッコいいんだ。ブロウが飛ばしてる!』

競馬はラジオと同じタイミングで一日二回開催されることが決まった。移動距離も長く、開花中に大草原を一周するらしい。国を挙げての大興行となった。

「じゃあ、本当にどこも大丈夫なのかな?」

「一応、親父たちにも連絡を取ってみますか?」

「そうね」

俺は通信袋に思い切り魔力を込めてコムロカンパニーに連絡を取ってみた。

『ああ? どうした? 大森林も革命の真っただ中か?』

「いや、一部だけで下剋上があったけど、ウタさんがきっちり締めてそれも終わったところ。ほとんどエルフが自分たちで解決していたよ」

『嘘だろ!? じゃあ、南半球に問題のあるエルフたちが集まったんだな。こっちは国家転覆だ。国家元首たちがセーラの保護を受けて砂漠に逃げてる。ドデカピタンって果実が興奮剤になっていて気を付けろよ』

「ああ、それも自分たちで自制していた。ラジオで注意も促していたし……」

『マジか……。コウジ、悪いんだけど1日、2日かけていいから竜の学校のラジオ局でもそれをやってくれないか。ものすごく聞き取りにくいんだ』

俺は世界樹でバイトをしている時を思い出した。

「わかった……」

通信袋を切ると、大森林のラジオ局にいる全員が俺を見ていた。

「行くのか?」

ベン爺さんが不遇な男を見る目で見てきた。

「大変そうなんで……」

「ちょっとコムロ家の男はいろんなことに巻き込まれ過ぎだと思うわ」

アリアナさんもそう言いながら、お弁当を作ってくれた。

「ウインク、悪い。頼めるか?」

「うん。いや、ここにいるラジオ局員は私しかいないからね。仕方ないけど……。今から南半球に行ったら、帰ってくるのは新学期でしょ?」

「そうなるなぁ」

「もうちょっと遊んだ方がいいんじゃない? 学生なんだし」

「俺もそう思う。後期はもうちょっとイベントごとを減らして遊ぶか」

「その方がいい。落とし穴、掘っておくよ」

「わかった」

俺がコリーさんたちの音楽を録音しているうちにダイトキたちも帰ってきた。

「演奏の里は落ち着きましたか?」

「ああ、ボリビアーノさんのお陰でござる。学者の里はどうだった?」

「若いエルフたちが、しっかり自分たちのやり方で下剋上をしていました。権力が集中していると思っていたのはエルフの老人たちだけだったのかもしれません」

「いや、何事もなくよかったんだけどな……。なんで、こうなったんだ?」

ドーゴエもなにがなんだかわからないと思っているようだ。

「皆がエルフたちにちゃんと説明してくれたからだろう。『月下霊蘭』が開花したら、どういう危険性があるのかをラジオでも広めてくれたし、アリスフェイでも食事会やパレードの時に、こんなにエルフのことを考えてくれているのかと思ったんだ」

ガルポは真面目に語りだした。

「たぶん、それは大森林のエルフたちにも伝わっているよ。ずっとラジオで落ち着く音楽をかけてくれていただろう? 同胞でもない人間がこれほど自分たちのことを考えてくれているというのに、自分たちが向き合うことを諦めるわけにはいかない。だからと言って権力を追い落とせばいいというわけでもない。ハイエルフの二の舞になってしまうから」

「そうなの?」

「あれ? コウジはダイトキが見つけた古文書の解説を聞いてなかったのか?」

「アンテナを取り付けていて詳しく聞いてなかった」

「元々ハイエルフは森の中では魔法使いの里という一部にしか存在してなかったらしいのでござるよ。ただ魔力が高かったから、ウッドエルフたちが都合よく使っていたが、世界樹への信仰が深くなるにつれ、レベルやスキルなど、まだ未発達だったこともあって立場が逆転していったのでござる。いつの間にか大森林の歴史も書き換えられ、ハイエルフこそが世界樹の管理者にふさわしいことになっていった」

「事実と主張が混同していくと、人々の認知に歪みが出てくるのよ。宗教ではよくあることだけれど、迫害を受けることで内部での問答が多くなり、独自の宗教観や倫理観が発達していくの。論争や認知戦でハイエルフと戦ったウッドエルフたちは、大森林での地位を失い、精霊使いの技術だけが残っていった」

ウタさんも説明してくれた。

「ハイエルフの都合のいい主張を聞いていればダークエルフたちから労働の搾取もできるし、いい思いができるから、よくわからないけどついていったってエルフたちもいるんじゃないか」

ドーゴエは傭兵らしい現実を見ていた。

「現代の大森林に生きるエルフたちは自分で考えることを諦めなかった。精霊の里の長として礼を言う」

振り返ると里の長が立っていた。

「わずかな期間だったがラジオによって、我々エルフは遠くにも自分の言葉が届けられることを知った。例え近しい者に理解されずとも、ラジオを聞いている誰かは理解してくれるかもしれないという希望が生まれたのだ。そして過去のウッドエルフたちの後悔や歴史の真実も聞けた。どうして精霊の里だけが精霊使いの技術を継承してきたのか過去から現在まで繋がった。我々は事実の積み重ねの上に立っている。60年を経て再び『月下霊蘭』が咲いた。現在を作るのは今を生きる我々だ。先の未来へ誇れる祭りにしよう」

里の長が語った言葉はラジオに乗って、大陸中へと広がった。

「これより未来への『夏フェス』を開催します!」

ウインクの宣言により、エルフたちが抑えていた興奮のボルテージが上がった。ラジオ局のドアを開ければ、深夜だというのに歓喜の声が聞こえてきた。

「ダークエルフたちが競馬をしているなら、エルフたちもなにかゲームで戦えばいいんじゃないですか?」

「いいな! 御輿対決でもしようか」

「いや、どうせ男たちの興奮は収まらないさ。闘技会を開いた方が手っ取り早い」

ガルポやドーゴエが案を出し合う。

「せっかくこれだけ研究者たちがいるのだから、各里の研究発表をラジオでしてもらえばいいのでござる!」

「それいいね! 私もやろう!」

ダイトキとウタさんも夏フェスの間にやるイベントを考えていた。

「コウジは頑張ってね」

「うん。どうして俺は損な役回りになるんだろうな」

「そういう星のもとに生まれたと思って諦めなさい」

アリアナさんに弁当を持たされ、俺はラジオ局を出た。

「ほんじゃ、いってきます。大森林の『夏フェス』をよろしく」

「任せとけ!」

なぜかドーゴエが胸を叩いていた。

「いってらっしゃーい!」

ウインクとウタさんに見送られ、俺は空飛ぶ箒で竜の駅へと向かった。

「コウジって本当に……」

竜の同級生には不憫な目で見られた。

「可哀そうだと思うなら、無料で乗せろよ」

「いいけど、私は竜の島までね。南半球へは黒竜さんかリュージに乗せてもらって」

俺は溜息を吐きながら、静かな『夏フェス』の音楽を聞いていた。